2017年12月06日

◆ PEGY の不正問題の本質

 スパコン開発ベンチャー PEZY Computing の社長が逮捕された。この問題の本質を探る。

 ──

 報道によると、助成金を不正に詐取したとのことだ。
  → PEZY社長がNEDO助成金詐欺で逮捕の報道、独自プロセッサ開発で支援受ける:ITpro
  → スパコン「暁光」のPEZY社長らが助成金約4億3千万円詐取の疑いで逮捕の報道
  → 「スパコン」ベンチャー企業社長を逮捕 助成金詐欺の疑い | NHK
  → 「詐欺容疑」IT業界に衝撃、スパコン開発会社PEZY齋藤元章社長の素顔
  → スパコン開発PEZY社長ら逮捕…なぜ「東京地検特捜部」が動いたのか?

 助成金の不正な取得があったということは事実のようだ。このあと、その内容が問題となる。次のいずれかだ。
  ・ その金で、私腹を肥やした。(横領ふう)
  ・ その金で、スパコンを開発した。(金の目的外使用)

 この二つに分けて考えよう。

 その金で、私腹を肥やした


 私腹を肥やしたのだとすれば、もはや論外である。横領みたいなものだし、国の金を盗んだのに等しい。大悪人として糾弾されて当然だろう。
 で、どのくらいの悪党かというと、次のものと同程度だ。
  ・ 国の金を頂戴しようとした森友学園の経営者
  ・ 国や自治体の金をまさしく頂戴した加計学園の経営者
  ・ 国政調査費を私的用途に流用する議員
  ・ 東京都の金を私的な趣味に使った舛添都知事

 どれもこれも、すごい悪党ですね。で、どのくらい処罰されたかというと、刑事罰を受けた人は一人もいない。(森友学園の経営者だけは、似た別件で逮捕されたが。)

 今回の社長が、私腹を肥やしたとすれば、これらと同程度の悪人だということになる。ただし、処罰ははるかに厳しくなる。理由は、首相のお友達でないから。(お友達ならば、首相が擁護してくれる。あとは、忖度。)
 とはいえ、現実には、「私腹を肥やした」という可能性は非常に低い。莫大な金を私腹に費やしたなら、スパコンを開発する金がなくなってしまうからだ。というわけで、「私腹を肥やした」という可能性は、あるにはあるが、ほとんど無視して良さそうだ。

 その金で、スパコンを開発した


 不正に得た金は、スパコン開発のために費やした、と見なしていいだろう。なぜなら、現実にスパコンを開発したからだ。
  → 世界4位に躍進、国内ベンチャーPEZY製スパコンが存在感:ITpro  

 この意味では、得た金はまさしく研究開発のために使ったのであり、泥棒をしたというのとは違う。では、何処が問題だったのか? 次の二点だ。
  ・ 助成金は、費用の3分の2までという上限があるのに、それを越えた。
  ・ 得た助成金を、本来の目的とは別の目的に流用した。

 具体的には、こうだ。
 「高性能メモリの開発のため、という名目で得た助成金を、スパコン開発のために流用した。スパコン開発には、莫大な開発費が必要だったが、助成金で得た3分の2だけでは、足りなくなった。スパコンを開発するために必要な費用は、高性能メモリの開発のための助成金を、流用した」
 つまり、助成金の「目的外流用」である。これが、今回の府政の革新だろう。

 ──

 では、これは、不正か? もちろん、不正である。法律や規則で決まっていることを逸脱しているからだ。形式論で言う限りは、真っ黒だと言える。
 その意味で、法律的な白黒では、疑問の余地はない。法律論で言う限りは、黒である。

 ──

 では、かわりに、どうすればよかったか? ここが問題となる。

 金が必要なのに、金がない。となれば、現実的な結論はただ一つ。こうだ。
 「 PEZY はスパコン開発をやめるべきだった」
 
 とはいえ、これは、最悪の選択肢である。日本では NEC も富士通もスパコン開発では敗れてしまった。残るのは PEZY しかない。ここで PEZY がなくなれば、日本はスパコン開発から撤退するしかなくなる。(富士通の次期スパコンというのも、ちょっとはあるのだが、どうも先行きは見通しが暗いようだ。)

 かわりに、次の道もある。
 「金がないなら、金を出してもらえるように、出資者を求める」
 しかし、出資者を求めるには、実績を出すしかない。その実績を出すためには、製品を完成させるしかない。そのためには、当面は政府の金を流用するしかない。……これが社長らの発想だったのだろう。

 そもそも、「有望なベンチャーに出資する」というのは、ベンチャーキャピタルの豊富な資金が必要なのだが、今の日本は「貧すれば鈍する」であって、「有望なベンチャーに出資する」という状況にない。国家的な経済貧困が、先端技術の開発資金の枯渇を招いている。行為状況が根源としてある。

 日本には、ベンチャーへ出資する金がない。とすれば、これへの対策は、次の二つだ。
  ・ 米国の出資者に金を出してもらう。
  ・ 中国の出資者に金を出してもらう。


 前者は、できれば好ましいが、現実には無理だ。それができるくらいなら、とっくに実現させていただろう。米国には米国の投資先がある。シリコンバレーに有望な企業がいっぱいある。日本のベンチャーなんかに投資する人はろくにいないだろう。
 後者は、十分に可能だ。仮に PEZY が「当社を中国政府に売却します」もしくは「出資を大幅に受け入れて、株式の 90%を渡します」と言えば、豊富な資金をもつ中国は、あっさりとPEZY を買収するはずだ。数十億円ぐらいで済むのだから、安い買い物だ。(その金は、日本企業には出せなくとも、中国政府には楽々と出せる。莫大な外貨準備高があるのだから、艦隊だ。)
 とはいえ、「 PEZY を中国に売却する」というのは、PEZY の社長自身が拒むはずだ。まともな日本人ならば、売国みたいな方針を取るはずがないからだ。
 換言すれば、PEZY の社長が逮捕されてしまったのは、彼が愛国者だったからだ。仮に彼が守銭奴であったならば、PEZY を中国に売却して、大儲けができただろう。

 ──

 話の全体を展望すると、こう言える。
 PEZY の社長は、才能がある愛国者であることが悲劇となった。彼に才能がなければ、何も困らなかったのだが、才能があるせいで、最高のスパコンを開発することが可能となった。ところが、才能はあるが、金がない。金がないから、開発できない。
 ここで、「開発できないのなら、開発をやめる」というのが、凡人の発想だ。しかし彼は凡人ではなかった。「開発する金がないのなら、開発する金を強奪する」という方法を取った。「ここで強奪しても、スパコン開発に成功すれば、出資者を得て、強奪した金を返済する」というつもりだったかもしれない。
 ともあれ、彼はこうやって、強引にスパコン開発を成功させてしまった。凡人ならば諦めることを、凡人ではないがゆえに強引に成功させてしまった。
 しかるに、そのことで、逮捕されてしまったのだ。世の中は凡人のためにできているので、凡人の枠を逸脱した人は逮捕されるようになっているのだ。

 ──

 では、このあと、どうするべきか? 道は三つある。
 (1) スパコン開発をやめる。PEZY を解体する。(これは最悪の道だ。宝をゴミにするのも同然だ。)
 (2) PEZY を中国に売却する。(これは日本にとっては損失だが、人類にとっては有益だ。損するのは、馬鹿な日本だけ。一方、馬鹿な日本を嘲笑って、中国はボロ儲けできる。)
 (3) 日本政府が開発費の全額をまかなう。助成金のかわりに出資金にしてもいいが、とにかく、開発費の全額をまかなって、開発を継続させる。(これこそが最も賢明な道だ。ただしこれは、助成金の不正取得という犯罪をチャラにしてしまうことに等しい。地検特捜部のメンツは丸つぶれだ。)

 要するに、こうだ。
  ・ 最も正しい道は、破滅に至る最悪の道だ。
  ・ 最も現実的な道は、中国に宝を贈る間抜けの道だ。
  ・ 最も賢明な道は、悪を正義に転じてしまう道だ。


 どれを選んでも、「万事丸く収まる」という具合にはならない。では、どうして? 
 日本がもともと悲惨な状況にあるからだ。長年の経済不況のせいで、まともな研究に十分な出資をできなくなっている。そういう悲惨な状況が根源としてある。しかも、それを補うべき政府は、「3分の2しか出せません」というルールに縛られている。
 結局、「貧すれば鈍する」というのが、今の日本の状況だ。こういう馬鹿げた状況があるということが、この問題の本質としてある。

( ※ この馬鹿馬鹿しさは、冒頭で述べた馬鹿馬鹿しさとも照応する。スパコン開発の天才は逮捕され、森友や加計学園の悪党は忖度で許されてしまう。ひどい国。)



 【 関連動画 】







 後者では「私的流用の疑い」とあるが、飲食費への流用らしい。そんなもの、交際費程度であって、たかが知れていると思える。せいぜい、数百万円程度だろう。数億円になるはずがない。ゆえにこれは、話の本質とは関係のない、細かな話(重箱の隅みたいなもの)だろう。



 【 関連項目 】

 → 液浸スパコンのベンチャー: Open ブログ

 この会社の業績について、前に紹介した項目。



 【 追記 】
 本項の推測は確認された。私的流用はなく、別の開発費に流用した、とのこと。
 助成金について「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に採択された別の助成事業の開発資金に充てた」と話し、私的流用を否定していることも判明。
( → ICT ニュース | 日刊工業新聞 電子版 2017-12-07

 関係者によると、斉藤容疑者は特捜部の調べに「受け取った助成金の多くは別事業の開発資金に回した」と説明。「私腹を肥やすために助成金を得たわけではない」という趣旨の供述もしているという。
( → 助成金「別事業の開発資金に」 スパコン詐欺事件容疑者:朝日新聞 2017-12-08

posted by 管理人 at 23:59| Comment(8) | コンピュータ_04 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
もう日本は後進国になったというだけなんでしょう。
以前の記事で中国から優秀な人材を呼ぶとありましたが、20年後あたりには逆に、豊かになった中国人が嫌がる仕事を貧しい出稼ぎ日本人がやるようになるんじゃないですかね
Posted by RFT at 2017年12月07日 02:07
いまだに私はこのニュースに懐疑的です。

NEDO案件も何件か手がけたことがありますが請求書に加えて銀行の送金証明書が求められるので、実際に払わなければ経費として認めてもらえません。
そして異常がであれば審査で不適合となり、返還請求が行われます。
返還したらそれで終わりですし、返還を渋っても催促がきて、なんとかかんとか返済していけば社長逮捕なんて事態になるとは思えない。
だいたいこのような明らかな帳簿の不正にわざわざ特捜部が出てくるとは思えません。
根拠資料は明示され、白黒わかりやすいからです。集中的な捜査が必要になるとはとても思えません。根拠があるからこそ、不正受給で訴えたのですから。

なので、リークは囮で、このような特捜が動く場合、海外送金絡みと私は見ています。
技術または製品が不正に渡った可能性がある。または資金が海外に不正に流出したなどです。

私としては今わかってる情報だけで結論を出すには早いと思います。今後の捜査待ちです。
Posted by かーくん at 2017年12月07日 07:07
私が理想と考える解決案は、以下です。

補助金の不正使用をしたメンバーは、裁判を受けさせる。会社は、政府資本を入れて存続させるが、経営者は総入れ替えとする。

開発メンバーに、不正を働いた人物の参加が必須であるならば、懲役刑にしてスパコン開発を続けさせる方法はとれないでしょうか。

NEDOの補助金は、いろいろと歪を生んでいます。
建前上正社員の研究に限る補助金をNEDOから受け取った会社で、働いていたことがあります。補助金対象が正社員だけなので、早速外注の雇いどめが行われました。2重帳簿をつけることで、研究目的以外に社長や営業が使うパソコンも発注できました。NEDOから「研究目的のパソコンにMSオフィスは必要ないだろう」とツッコミが入ると、「研究目的に最適なパソコンを買ったら、たまたまMSオフィスがバンドルしていました」とごまかしていました。

後にこの会社の外注作業をした時、NEDO予算で購入したパソコンを開発用機材として貸与されました。「もう返さなくて良い」と言われたので、NEDOの補助金を受け取ったことのない私が、NEDOとラベルの貼ってある某社資産を持っています。
Posted by 名無しの通りすがり at 2017年12月07日 18:27
 最後に 【 追記 】 を加筆しました。続報としてのニュース。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2017年12月08日 07:40
ワタクシは本件には管理人さんと同じキャンプに属する者ですが,1円でも飲食費に使ったらおそらくアウトかなと。国益のために確信犯的に新規研究開発に流用したことを特捜にぶれずに主張したとき,国民世論が肯定的に動くことを切に期待します。

でもこういうときのマスコミって結構あてにならないんですよね。ここは日経・テレ東に頑張ってもらいたい。
Posted by なんき at 2017年12月08日 20:08
> 1円でも飲食費に使ったらおそらくアウトかなと。

 金に色は付いていないので、飲食費にあてた程度の小額の金なら、助成金が原資かどうかは不明です。億円ならともかく、少額ならね。
Posted by 管理人 at 2017年12月08日 20:27
別会社でもNEDO関係の不正があったのを思い出しました。

東京大学構内のインキュベーションセンターに常駐していた時の話です。
博士号取得者が研究成果を出して偉い人に説明するのに、デモンストレーションプログラムが間に合わないので手伝わされました。後で聞いたら、偉い人とはNEDOの職員でNEDO補助金の出た研究だったそうです。外注の私に手伝わせてはいけないケースだった気がします。
Posted by 名無しの通りすがり at 2017年12月09日 08:00
なんきさま
>こういうときのマスコミって結構あてにならないんですよね

ならないですよ。私の個人的な見方ですが、マスコミは国民を映す鏡だと思っています。考える力を失っている大半の日本人が変わらない限り、マスコミは頼りになりゃしません。
Posted by 反財務省 at 2017年12月09日 18:46
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