2017年11月17日

◆ 液浸スパコンのベンチャー

 最新のスパコンランキングで、液浸スパコンのベンチャーが大躍進した。

 ──

 スパコンというと、古くはクレイ社が有名だった。その後、日立や富士通や NEC や IBM が活躍した。近年では、日本の「京」や中国製スパコンが話題になってきた。(欧州企業はとっくの昔に没落した。)
 最新のランキングが発表されたが、そこでは、日本の企業が大躍進した。ただし、大手企業ではなく、ベンチャーだ。たいていの人は名前を聞いたこともない企業。
 《 世界4位に躍進、国内ベンチャーPEZY製スパコンが存在感 》
 全世界で稼働中のスーパーコンピュータ(スパコン)の演算性能を集計するTOP500プロジェクトは2017年11月13日、最新の演算性能ランキングを発表した。日本のスパコンベンチャー PEZY Computing のグループ企業 ExaScaler が開発し、海洋研究開発機構(JAMSTEC)に設置したスパコン「暁光」が4位に浮上した。
( → ニュース解説 - ITpro

 《 日本の液浸スパコン「暁光」が世界性能ランキングで4位 〜省電力性能ではトップ3すべてが日本に 》
 ランキングは、中国 無錫国立スーパーコンピューティングセンターの「Sunway TaihuLight (神威太湖之光)」が、Rmax(実効性能値)93PFLOPS(ペタフロップス)で1位、広州同センターの「Tianhe-2 (天河二号、MilkyWay-2)」が同33.9PFLOPSで2位、スイス国立スーパーコンピューティングセンターの「Piz Daint」が同19.6PFLOPSで3位、日本 海洋研究開発機構(JAMSTEC)の「Gyoukou (暁光)」が同19.1PFLOPSで4位、米オークリッジ国立研究所の「Titan」が同17.6PFLOPSで5位となった。
 ハードウェアの面では、TOP500の94.2%(471システム)がIntel製プロセッサを採用。2番手のIBMのPowerプロセッサのシェアは、14システムとなった。
 TOP500で4位となったJAMSTECの暁光は、ExaScalerとPEZY Computingが共同開発したスーパーコンピュータで、Xeonプロセッサと「PEZY-SC2」アクセラレータを搭載する。計1,986万コアという超並列設計になっており、TOP500によれば、集計以来最高の並行性を記録しているという。
( → PC Watch

 「PEZY-SC2」アクセラレータとは、どういうものか? 調べたら、こうだ。
 Gyoukou(暁光)と名付けられたシステムは、Green500のトップ10システムの中で唯一、NVIDIAのP100 GPUを使わないシステムで、自社で新開発したPEZY-SC2をアクセラレータとして使っている。
 しかし、Gyoukouについても、PEZY-SC2についても正式な発表は行われておらず、中身は謎に包まれている。
( → Green500の舞台裏 - 何がエネルギー効率の差を生んだのか?| マイナビニュース

 詳細は不明だが、独自のアクセラレータ( GPU のかわり)であるようだ。
 この詳細を調べると、次の記事が見つかる。
 《 サーバを丸ごと液浸して消費電力を30%削減! 斬新な冷却技術でデータセンターに革命を 》
 富士通は、ExaScaler社が開発したスーパーコンピューター向けの液浸冷却技術と富士通が持つ汎用コンピュータのノウハウを融合し、クラウド仕様のサーバ設備と、センターファシリティを含めた新しいデータセンターの形を提案します。これは、サーバ、ストレージ、ネットワークなどのIT機器をまるごと液体の冷媒に浸し、冷媒を循環させることで冷却する「液浸冷却技術」を使用したものです。
 この一番の特徴は、冷却能力の高さです。空冷式に比べて、約1000倍の熱輸送効率を持っています。それは、エネルギー消費を抑えて、かつ広大なスペースを使わずに、効率の良い冷却が可能になることを意味します。
( → FUJITSU JOURNAL(富士通ジャーナル)

 富士通がやっているが、「 ExaScaler社が開発したスーパーコンピューター向けの液浸冷却技術」というのがポイントだ。これはどういうものか? 本人へのインタビュー記事がある。
 《 HPC業界の起業家 PEZY Computing齊藤社長に聞く 》
 株式会社ExaScalerと株式会社PEZY Computingを率いる齊藤元章氏は日本における初のスーパーコンピュータを開発するベンチャー起業家だ。また彼はこのスーパーコンピュータ分野では珍しい経歴の持ち主だ。元々、計算機科学者ではなかった。齊藤氏は元々放射線科の医師だ。彼は東京大学医学部付属病院に勤務した後、仲間と共にシリコンバレーで医療系先進画像処理システムの研究開発会社を設立している。同社は独自技術、特に独自ハードウェアを半導体レベルから開発することによって世界初のリアルタイムCT再構成システムや4次元立体動画表示システムなどを開発し、その革新的な技術で各種の賞を受賞している。
 齊藤氏は2011年の震災後にシリコンバレーから日本に拠点を戻して、PEZY Computingで独自大規模プロセッサに特化した開発を始めた。そして2014年に入ってから、本格的にスーパーコンピュータの開発プロジェクトを立ち上げたのだという。
( → hpcwire

 直接のインタビュー記事がある。この人がどういう人か、よくわかる。
 PEZY Computing創業者・齊藤元章。学生時代から日米で10社もの会社を立ち上げてきた異色のシリアルアントレプレナーの齊藤。

「地元の新潟大学医学部を卒業して、医局に入る段階で東京大学の放射線科に入りました。

 放射線科の学会発表で海外に行くことがあったのですが、そこで海外の有名な先生方にお会いすることができました。そのときに「お前みたいに変わったことをやっている人間は、日本にいるよりこっちに来てやったほうがいいぞ」と言われたんです。実は、先ほど述べた東大にあった超高速CT装置を開発したのは、スタンフォード大学の教授でかつ起業家の方なのですが、その方から「おれが面倒を見てやるからアメリカに来ないか」と誘われました。

 個人的にもシリコンヴァレーに行きたかった、ということはありました。
 起業から7、8年経ったころには、売上げ60億円、社員数350人くらいになりました。

 現在KEKと理研で稼働している3台のスパコンはすべて、共同研究契約を結ばせてもらって、わたしたちの費用で開発したものを設置させてもらい、研究目的で使用していただいているというかたちです。

 (スパコン開発は) 去年の4月から始めて、7カ月でできました」

──

松田 1EXAのスパコンで、どれくらいの大きさになるんですか。

齊藤 タワーサーヴァーラックで60?70台くらいでいけるだろうと考えています。

松田 京コンピューターに比べると圧倒的に小さいですね。

齊藤 わたしたちの場合は、最初のスタート段階で、とても優秀な人が来てくれたことが大きいですね。優秀な人がいると、人づてで優秀な人が集まってくる。少数精鋭のチームをつくることができたのは、その結果だと思います。

松田 天才がいれば、天才が集まるというのはわかりますね。天才がひとりいても、ただの「よく切れるハサミ」ですが、集まれば世界を変えられる。会社を儲けさせる程度ではつまらない。世界をひっくり返さないと。
 それにしても10人で、わずか7カ月でスパコンをつくり上げたというのはすごい。一般的な製品開発だと、少なくとも1?2年以上はかかります。このスピード感はいったいどこからくるんでしょうか?

齊藤 わたしはある意味で素人なんですね。素人だからこういう発想ができるのだと思います。
 「7カ月でできたのは奇跡で、奇跡は二度と起こらない」、と言う人もいますが、今回再び4カ月で2世代目の独自開発にも成功したので、そろそろ素人の力も評価してほしいです(笑)。

( → あと10年で、6リットルに73億人の脳が収まる:PEZY Computing齊藤元章が描く「プレ・シンギュラリティ」の衝撃 #wiredai|WIRED.jp

 上の記事は 2015.08.25 のもの。それから2年を経て、現在の実績を結んだ。しかしまだ開発途上だという。
 EZY Computingの齊藤元章社長は、今回の成果に満足していない。「世界第3位も狙えたところ、全面稼働には至らず悔しい」。
  チップの歩留まりや電力系の問題から、2017年11月の段階でも想定のフル稼働には至らなかったという。完成すればノード数を約1.3倍、アクセラレータの動作周波数を700MHzから1GHzに高めることで、今回3位だったスイスの「Piz Daint」を超える演算性能を実現できる見通しだ。
( → ニュース解説 - 世界4位に躍進、国内ベンチャーPEZY製スパコンが存在感:ITpro

 背景や将来については、同じ記事に説明がある。
 国内スタートアップ企業が開発したスパコンが日本で演算性能トップになるのはこれが初めて。Oakforest-PACSや京は富士通が、地球シミュレータシリーズはNECが開発するなど、これまで日本のスパコン開発といえば大手ITベンダーの独壇場だった。
 今後PEZYグループは、独自の液浸冷却槽やシステムボード、これらを使ったスパコンの販売を通じて収益を得る考え。「暁光にかけた製造費は一種のマーケティング費であり、先行投資」(齊藤社長)と大胆にリスクを取る。
 今度同社は、約4000コアを備える次期プロセッサ「PEZY-SC3」の製造を2018年初頭に始める考えで、2018年11月のTOP500向けに200〜300ペタFLOPSのスパコンを製造することを目指す。

 世界第4位にランクインした暁光は、16コアのXeon Dプロセッサと、1984コア搭載の独自アクセラレータチップ「PEZY-SC2」、PEZYグループのExaScalerが設計したシステムボード「ZettaScaler-2.2」、冷却効率の高い液浸冷却槽を組み合わせたスパコンである。
 Xeon Dが1個、PEZY-SC2が8個で構成するノードを計1025個備える。総コア数は1986万個で、同時実行コア数としてTOP500中最多。理論演算性能は28.19ペタFLOPSで、実行効率は67.9%である。

 TOP500にランクインしたシステムの保有数は中国が200システム強と4割を占め、米国の145システムを抜いて首位に立った。2017年6月段階では米国が169システム、中国が160システムだったが、わずか6カ月で大幅に上積みしたことになる。3位は日本の35、4位はドイツの20、5位はフランスの18、6位は英国の15と続く。
( → ニュース解説 - 世界4位に躍進、国内ベンチャーPEZY製スパコンが存在感:ITpro

 この企業がけっこう頑張っているわけだが、最後に記されているように、スパコンの量では中国と米国が圧倒的だ。技術開発はともかく、スパコンによる研究では、日本は大幅に負けてしまっている。



 [ 付記 ]
 スパコンの「京」はどうなったんだ? という質問が来そうだ。答えると、こうだ。
  ・ 「京」は、TOP500 のランキングでは 10位である。
  ・ 「京」は、HPCG のランキングでは1位である。

 《 スパコン京が3期連続でHPCG世界ランキングの1位を防衛 》
 理化学研究所と富士通株式会社は15日、国産スーパーコンピュータの京が、共役勾配法の処理速度を競う世界ランキング「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」において、3期連続で1位を獲得したことを発表した。
 HPCGは、連立一次方程式の処理速度を競うLINPACKや、グラフ解析を競うGraph500とは異なる指標で性能を評価するベンチマークで、2014年から実施されている。
( → PC Watch

 この HPCG というのは何かというと、TOP500 の従来の計測方法が古臭くて実情に合わなくなってきたので、より正確にスパコンの性能を調べるための指標だという。
  → ≫ 新ベンチマーク、TOP500ランキングを揺るがす可能性

 これは TOP500 に代わるものではなくて、TOP500 の内部で、従来方式とは異なる方式が採用されたわけだ。併用する形で。

 どうしてこういう違いが生じるかというと、次のことだろう。
 TSUBAME というのが有名だったが、これらは GPU を主体としたもの。本項の液浸スパコンも同様だろう。いずれも、並列計算に特化したもので、低コストで高性能ということが、並列計算では実現できる。CPU そのものは、市販品の Xeon を使っている。( → 上記)
 一方、「京」は、GPU でなく CPU を高性能化した。SPARC64 VIIIfx というものだ。前に述べたとおり。
  → 池田信夫のスパコン論 1: Open ブログ
  → スパコン開発の是非: Open ブログ

 「京」は、 CPU を高性能化したので、並列計算以外の汎用の分野で高速化ができる。スパコンの用途は、並列計算も多いが、そうでないものも多いので、一般的には「京」の優位が目立つことも多いのだろう。コスト的には、かなり高コストになるが。(マシンも高額だし、電力消費も膨大だ。)

 ま、両者は一長一短なので、住み分けするのがいいのだろう。



 【 関連サイト 】

 → PEZY Computing (公式サイト)



 【 関連動画 】






posted by 管理人 at 07:05| Comment(4) | コンピュータ_04 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
http://ascii.jp/elem/000/001/440/1440337/

アスキーの人が何回か遊んでますね。
Posted by 通りすがりの at 2017年11月19日 09:19
スパコン開発社長ら逮捕=「PEZY」社、助成金4億円詐取容疑―東京地検

まだ詳細不明ですが、スパコンの性能そのものの優位性は揺るがないのでしょうか。助成金の使途が新たな研究開発向けと認められなかっただけなのか。
Posted by 作業員 at 2017年12月05日 12:22
逮捕されてしまうと仕事できなくなるからどうなんでしょうね?
少数精鋭の企業らしいから複数人逮捕されたら実質終わりでは?
Posted by かーくん at 2017年12月06日 06:44
数年後には、莫大な資金をよこす中国で働いてそうですね。
人類のためにはそっちの方が良いかもね
Posted by RFT at 2017年12月07日 20:54
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