2017年09月25日

◆ 幼児教育の無償化?

 衆院解散にあたって、自民党が「幼児教育の無償化」を公約しようとしている。しかしこれは方向性が逆だ。

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 衆院解散にあたって、自民党が「幼児教育の無償化」を公約しようとしている。財源は消費税の増税。
 《 3〜5歳児の教育無償化 首相表明、消費税収を活用》
 安倍晋三首相は25日の経済財政諮問会議で、3〜5歳のすべての子どもの幼児教育・保育の費用を無償化する方針を示した。こうした教育無償化などの施策について「2兆円規模の大規模な政策を実行する」と述べた。
 財源として2019年10月に予定する消費税率の8%から10%への引き上げによる税収増を充てる考えを示した。
 0〜2歳の子どもも所得が低い家庭に限って無償化する方針を示した。首相は同日夕に記者会見して衆院を解散する意向を表明し、消費税収の使い道の変更などについて国民に信を問う考えだ。
 8%から10%への消費税の引き上げによる増収分のうち赤字の削減に充てることになっていた4兆円のうち、半分を幼児教育無償化や高等教育の負担軽減の財源に回す。2020年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化する財政健全化目標は一段と難しくなることは避けられないが、首相は諮問会議で「実現していく」と述べるにとどめた。
( → 日本経済新聞

 これに対して、批判もある。
 「保育園不足という状況があるのだから、保育園不足を解消する方が先決だ」
 という批判もある。これはごもっともだ。

 理由はこうだ。
 「恵まれている人(入園できた人)の費用負担を軽減するより、恵まれない人(入園できなかった人)の状況を改善することの方が大切だ」
 
 このことから、
 「どうせ金を使うのなら、保育園の建設に金を使うべきだ」
 という結論になる。
 これが常識的だろう。


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 ただし私としては別の観点から、「本末転倒だぞ」ということを指摘したい。

 (1) 誰に払うか? 

 上に述べたことを再掲しよう。
 「恵まれている人(入園できた人)の費用負担を軽減するより、恵まれない人(入園できなかった人)の状況を改善することの方が大切だ」
 ここでは、救うべき対象が逆になっている、ということが重要だ。自民党は、困っている人を救うのではなく、困っていない人を救おうとしている。本末転倒。
 では、困っている人を救うには、どうするべきか? 
 「保育園建設に金を使う」
 というのが、普通の発想だ。しかし、「保育園建設に金を使う」という方針は、すでに政府や自治体も大々的に推進しており、少なくとも金銭面では十分になされているようだ。現状で保育園不足が解消しないのは、資金面で不足しているというより、「適した土地がなかなか見つからない」というような、他の要因によっている。ボトルネックは別にある。ここで、金だけを多く出しても、ボトルネックのせいで効果は出ないのだ。
 では、どうするべきか? 
 代案として、私はこう考える。
 「保育園に落ちた人に、補助金を与える」

 そもそも、保育園に入園できた家庭では、すでに公的支援が(零歳児で)月額 30万円ほど出費されている。このあと、親が保育園料として、毎月数万円の金を払っている。(所得によって差がある。)
  → 保育料は月平均2万〜3万円!年収・市区町村・年齢で差
  → 年収によって変わる保育園の費用!ズバリ平均おいくら?
 この数万円の金を全額免除にしよう、というのが、今回の自民党の方針だ。平均的には月2〜3万円ぐらいらしいから、既存の補助金に上乗せする分は、たいした額ではない、とわかる。
 一方で、保育園に入園できなかった家庭では、保育園の補助金は(もちろん)まったくもらえない。ゼロである。これでは、あまりにも不利だろう。
 つまり、現状はこうだ。
  ・ 保育園に入れた …… 月額 30万円以上の補助金(零歳児)
  ・ 保育園に落ちた …… 補助金なし


 そこで、これを改めよう、というのが私の提案だ。たとえば、こうだ。
  ・ 保育園に入れた …… 月額 25万円の補助金(零歳児)
  ・ 保育園に落ちた …… 月額 15万円の給付(零歳児)

 後者は、「保育園に入園できなかったので、自宅保育をするが、その分、親は給付金を月額 15万円もらえる」ということだ。
 実は、この提案は、前にも述べた。(人気記事)
  → 保育園への補助金を廃止せよ: Open ブログ
  → はてなブックマーク(上記記事の)

 この提案は、ネットで話題になり、広く賛同を得た。十分に納得できる提案だと言える。
 それに比べて、自民党の提案は、問題を解決するどころか、問題の歪みをいっそう拡大するだけだ。これでは、
 「保育園落ちた、日本死ね」
 という歪んだ状況について、政権は何も対処をしないのと同様だ。幼児の親は「同情するなら金をくれ」と言っているのではない。「同情するなら保育園に入れてくれ」と言っているのだ。なのに、「金を与えればいいだろ」(保育園料を無料化すればいいだろ)と思っている。
 まったく、民意を理解できない政府というというのは、困ったものだ。

 (2) 公約のペテン

 本末転倒という点は、もう一つある。
 まず、自民の公約は、こうだ。
 「幼児教育を無償化するので、消費税増税を認めてください」
 しかしこれは方向が逆だ。真相はこうだ。
 「消費税増税を実行するので、その金の一部で、幼児教育を無償化します」
 これは要するに、「バラマキ政策で人気取りをします。だから、増税をやっても文句を言わないで」ということだ。

 これはまた、朝三暮四と同様である。
 ただし、猿ならば、朝三暮四でも、朝四暮三でも、合計量(=7)は変わらないから、損得では差異がない。
 一方、「消費税増税で4兆円、幼児教育無償化で 1.2兆円」ならば、差し引きで3兆円ぐらいの損となる。それでも支持するとしたら、国民は猿よりはるかにバカだということになるね。
 まあ、猿よりバカだから、安倍自民なんかを支持したんだろうけど。



 [ 付記 ]
 幼児教育無償化には 1.2兆円が必要だ、という記事がある。
 内閣府は24日、自民党の特命委員会で、0〜5歳の幼児教育と保育の完全無償化に約1.2兆円の公費が必要だとする試算を示した。
 政府はすでに生活保護や低所得のひとり親世帯、子どもの多い世帯の幼児教育や保育を無償にしている。国と地方自治体が追加で約1.2兆円の運営費を幼稚園や保育所、認定こども園に投じれば、高所得世帯なども含めて保育料の自己負担がなくなるとはじいた。
( → 幼児教育・保育の無償化、公費1.2兆円必要 内閣府試算 :日本経済新聞

 高所得世帯の話がある。そこで、実際の保険料を調べるといい。高所得者ほど保険料が高い、とわかる。
 そこから結論されるのは、次のことだ。
 「幼児教育の無償化で得をするのは、保育園料が高い家庭だ。つまり、現状では高い保険料を払っている高所得の家庭だ。最高では月 7.6万円も得をする。一方、低所得の家庭では、月 3000円しか得をしない。このように、高所得者ばかりを圧倒的に優遇する、逆累進制の制度が、今回の自民党の方針だ」
 まったく、「高所得者ばかりを優遇する」という自民党の方針が、露骨に出ているね。
 にもかかわらず、「これを支持する」という低所得者が多い。まったく、だまされているというか、何というか。これを「猿知恵」と言ったら、猿に失礼だな。

 [ 付記2 ]
 上記の記事には、次の話もある。
 小泉進次郎氏らが提唱する「こども保険」で財源を賄う場合、働く人に報酬の0.3〜0.4%の保険料を払ってもらう計算だ。
 小泉氏は0.5%の保険料で約1.7兆円を集める考えを示しており、財源規模で比べると内閣府の試算を上回る。だが、小泉氏は所得にかかわらず子どものいる世帯に一律で月2万5千円を給付する構想を描く。

 「一律で月2万5千円を給付する」というのは、私の提案する方式に近いようだが、実は、まったく異なる。私の提案では、こうなる。
  ・ 保育園に入れた家庭は、多額の補助金をもらうので、給付はゼロである。
  ・ もし一律給付をするのであれば、同時に、保育料を同額だけ引き上げるべきだ。

 後者の場合、「一律で月2万5千円を給付する」というふうにしてもいいが、その場合、同時に、「一律で月2万5千円の保育料値上げをする」というふうにするべきだ。これなら、差し引きして、損得なしだ。
 とにかく、救済するべきは、「保育園落ちた」という恵まれない家庭だ。政府は、困っていない家庭ばかりを救おうとするが、むしろ、困っている家庭を救うべきなのだ。
 この意味で、今回の自民党の方針は、まったく方向性が狂っている。


( ※ 本項は、「頭の論理の方向性が狂っている」という話。やるべきことを根本的に間違えているわけだ。なのに、そのことに気づかない人が多い。政府も、マスコミも、国民も。そこにひそむ根本的な問題を、本項では論理的に指摘している。)

posted by 管理人 at 23:23| Comment(5) | 一般(雑学)4 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「保育園に落ちた人に、補助金を与える」だと本当に必要ない人も補助金目当てで保育園応募して、ますます待機児童が増えるのでは?管理人さんが前に唱えていた「保育園補助金撤廃=保育料値上げ&無条件児童手当増額」の方が筋がいい気がします。いずれにしろ、2年も先の増税なんかとくっつけずに、今すぐどうにかしてほしいですね。

自民党の公約の論理が狂ってるのはその通りなんだけど、でもこれって民進党の案のパクリであって、もともと狂っているのはそっち。選挙の争点潰し&自民党内増税派&財務省を敵に回さないためだけのリップサービスにしか見えないので、2年先の話だし今回もし選挙勝ったらまたどうせ消費税増税をひっくり返すんじゃないですか?その前に消費税凍結公約にして希望が勝つのか?
Posted by dawn at 2017年09月28日 02:30

> 管理人さんが前に唱えていた「保育園補助金撤廃=保育料値上げ&無条件児童手当増額」の方が筋がいい

 そうです。その意味です。「落ちた人」というのは表現が良くなかった。「入らなかった人」という意味です。「受験して落ちること」は要件となっていません。
 集合で言えば、
    落ちた人 ⊂ 入らなかった人
 だから、論理的には間違いではないが、表現が不正確でした。

 ※ 集合で考えるなら、「入った人/入らなかった人」で二分するべきだが、「保育園落ちた、日本死ね」と話をあわせるために、「落ちた」という語を使いました。そのせいで、論理が不正確になってしまった。

Posted by 管理人 at 2017年09月28日 06:20
> 管理人さんが前に唱えていた「保育園補助金撤廃=保育料値上げ&無条件児童手当増額」の方が筋がいい
その通りでありますが、幼児教育のスッタフの充実(主に給料)も重要です。
米国では、学校教員とほぼ同額の給料を支払っています。
Posted by yomoyamapage at 2017年09月28日 09:49
> 幼児教育のスッタフの充実(主に給料)

 私の案をとれば、そのことは自動的に実現します。なぜか? 需要不足ならば、市場原理により、価格が上昇するから。
 現状では市場原理が働いていないから、価格が上昇せず、供給不足の状態が続く。これが根源。だから、根源対策で、「市場原理を働かす」というのが私の方針。

 詳細はリンク先を見てください。
  → 保育園への補助金を廃止せよ
    http://openblog.seesaa.net/article/435851702.html

Posted by 管理人 at 2017年09月28日 12:11
>需要不足ならば、市場原理により、価格が上昇するから。
供給不足

>入らなかった人に補助金を与える
入る入らず関係なく全員に補助金、保育料値上げ

>米国では、学校教員とほぼ同額の給料を支払っています。
米国在住です。保育士も色々で、修士号持ってる教師並みの給料とる本当の教師から、教師資格なし給料もそれなりの保育士まで、組み合わせて、質と数を確保してますね。補助金漬けじゃないので保育料も日本に比べりゃバカ高いですし、児童手当もない。みんな共働きで一生懸命保育料払ってる感じです。ただ単純に米国良い日本悪いとは到底思えません。日本でも田舎に行くと待機児童ゼロだし保育料も安いし質は良いしスゴイです。保育士さんは給料低くてかわいそうですけど。
Posted by dawn at 2017年09月29日 03:33
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