2017年09月23日

◆ 汎用の量子コンピュータ

 汎用の量子コンピュータが開発された。その解説。

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 汎用の量子コンピュータが開発された、という報道があった。
  → “究極の量子コンピューター” へ 基本原理開発に成功 東大 | NHK
  → 究極の大規模汎用量子コンピュータ実現法を発明
  → 共同発表:究極の大規模光量子コンピュータ実現法を発明 - jst

 原理の解説もある。(2014年)
  → 量子コンピュータの可能性――量子力学のパイオニア・古澤明氏に聞く

 これらを読めばわかるが、読んでもわからない人も多いようなので、初心者向けに解説する。

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 (1) 量子コンピュータというものは、従来にも存在した。当初は原理を示すだけで、非常に遅いものだったが、近年では十分に高速化した。民間企業でも研究を進めている。
  → 実用に向かう量子アニーリング--VWやグーグルが採用した新コンピュータの実像

 (2) ただしこれらの技術は、主として「量子アニーリング」という手法によるもので、検索や、(組み合わせ)最適化の問題などに、適用範囲が限られていた。加減乗除や汎用ソフトウエアが使えるノイマン型コンピュータに比べると、適用範囲はきわめて狭かった。

 (3) ところが今回、まったく異なる原理の新方式が発明された。この方式だと、加減乗除や汎用ソフトウエアが使えるようになる。つまり、今のコンピュータに取って代わることができるようになる。

 (4) 今回は、原理だけが開発された。比喩的に言えば、真空管型コンピュータで「1+1=2」という演算ができました、というような段階である。このあと、次の二点が必要になる。
  ・ 回路の微細化  (トランジスタの発明に相当)
  ・ 回路の大規模化 ( LSI の発明に相当)

 この両者ができたときに、ようやく「今のコンピュータに取って代わる」ことができるようになる。その時期は、10〜20年後ぐらいだと見込まれているが、技術的には大きな困難に直面しているわけではない。「近い将来に実現可能」と見込まれている。

 (5) 実用化は 10〜20年後ぐらいだろうが、少なくとも原理は開発された。つまり、最大の難関は突破された。「この道を進めば大丈夫」ということがはっきりとした。この意味で、汎用の量子コンピュータは、従来のように「できるかどうかわからない夢の製品」ではなくなり、「できることが確実な現実的な製品」となった。

 (6) この新しい方式では、量子は、電子でなく光量子を使う。その意味で、光コンピュータの一種である。(回路は銅線ではなく、光ファイバーを使う。光学素子やレンズや鏡も大量に使う。)

 (7) 量子コンピュータが高速なのは、「量子もつれ」を使うからである。これは、量子の状態が確定していない、ということを意味する。……超球理論の用語で言えば、「量子が粒子になっていない」または「量子の位相が回転状態である」ということを意味している。……このことは、量子が「波」の状態であることに相当する。

 (8) 「量子もつれ」がほどけることは、「量子テレポーテーション」という概念で説明される。その意味で、量子コンピュータと量子テレポーテーションとは、密接な関係がある。

 (9) 量子テレポーテーションとは、量子が瞬間移動することでもなく、情報が瞬間移動することでもない。では何かというと、「量子が瞬間移動するように見えること」である。

 (10)ある地点Aで量子が消失し、その量子の状態が、別の地点Bで再現される。これが瞬間的に生じると、量子が「地点Aから地点Bへ瞬間移動した」というふうに見える。つまり、見かけ上、瞬間移動したように見える。
 しかしこれは瞬間移動ではない。実際には、離れた地点で「量子の消滅」と「量子の発生」が同時に生じているだけだ。そして、消滅した量子と、発生した量子は、同じものではないのだ。
 このことは、次の比喩で理解される。
 「パリでは舞台上でミッキーが消えて、カリフォルニアは舞台上でミッキーが現れた。ゆえにミッキーが瞬間移動したように見える。しかし実際は、そうではない。パリではミッキーが舞台上から舞台裏に消えただけだし、カリフォルニアではミッキーが舞台裏から舞台上に登場しただけだ。別に瞬間移動したわけではない」

fig02.gif
出典:超球と超ヒモ


 (11) 量子には、「同種の量子はたがいに区別されない」という性質がある。だから、消失した量子と発生した量子は、物理学的には同等のものだと理解される。しかるに、消滅した量子と、発生した量子は、同じものではないのだ。
 また、消えた地点と発生した地点との間で、移動する経路が存在するわけでもない。そんな経路はどこにも存在しない。あくまで、地点Aでは量子が消失して、地点Bでは量子が発生しただけだ。
 それでもこれは、見かけ上は「瞬間移動」したように見えるのである。これが量子テレポーテーションの本質だ。(というより、あらゆる量子に共通することなので、量子の基本原理だとも言える。そのことは、超球理論からわかる。)

 (12) 従来のコンピュータは、半導体技術に基づくものであり、そこでは電子は「粒子」としてふるまった。それというのも、ひとつの電子ではなく、多数の電子がたくさん集まって、電荷を持つ物質としてふるまったからだ。
 一方、量子コンピュータでは、量子はひとつずつ扱われる。そこでは、一つの量子が「波」としてふるまう。この波は、確定したものではなく、不確定なものであるがゆえに、量子コンピュータに独自のふるまいをするようになる。

 (13) 量子コンピュータでは、量子は波としてふるまうので、はっきりとした正確性は期待できない。それどころか、エラーがたくさん生じる。それはおよそ実用性にならないぐらいのエラー発生率だ。(現状では 50% を少し下回るぐらいのエラー発生率だ。正解率が 50%を少し上回る程度。まるで実用にならない。)
 ところが、ここに「エラー訂正」の仕組みを導入すると、確率的に、エラーの発生を大幅に引き下げることができる。このことによって量子コンピュータというものが実現可能となった。(これを証明した人は、量子コンピュータの実用化の基盤を構築したことになる。1995年、P. W. Shor [ショア])
  → フォールトトレラント量子計算

 (14) 量子コンピュータあらゆる面で優れているように思えるかもしれないが、そんなことはない。
 第1に、量子アニーリングという従来方式では、検索や、(組み合わせ)最適化などの問題しか、扱えなかった。
 第2に、情報の瞬間移動のような、圧倒的な高速処理が可能であるように思えそうだが、そんなことはない。なるほど、このようなことは可能だが、それには、「量子もつれのある量子をあらかじめ送付しておくこと」という前提が必要となる。たとえば、量子もつれのある箱を、地点Aから地点Bへ、自動車で運んでおく。この運搬は、時速 50km ぐらいの速度となる。そして、この運搬が終えたあとで、地点Aで量子が消失し、同時に、地点Bで量子が発生する。その瞬間だけを見れば、情報の移動にかかった時間はゼロであるように見える。しかし実際には、あらかじめ時速 50km ぐらいの速度で箱を運んでおく必要があるのだ。とてつもなく遅いと言えるだろう。
 一方、有線または無線の電話機を使えば、光速度に近い速度で情報伝達が可能となる。
 というわけで、情報伝達に関する限りは、量子コンピュータは実用にならないほど遅い、と言える。量子コンピュータの量子テレポーテーションそのものには時間がかからないが、量子テレポーテーションを実現させるための条件設定(量子もつれの確保)にはメチャクチャに時間がかかるからだ。
     ※ 「箱を運ぶ」と言ったが、これは、たとえ話。現実には、真空または光ファイバーの長い空間を用意しておいて、そのなかで量子もつれを実現するから、時速 50km ということはなくて、光の速度で量子もつれを実現できる。……とはいえ、そんな面倒臭いことをするくらいなら、直接、電磁波で通信すればいいのだから、わざわざ面倒な量子もつれを構築する必要はない。

 (15) ともあれ、量子コンピュータは、実用化がすぐ先まで近づいてきた。企業もここに資金を投じて、開発に向かうべきだ。ここで成功すれば、「トランジスタの発明」に近い圧倒的な成果を独占できる。のちの IC や LSI がすべてトランジスタの派生物であることを考えると、「トランジスタの発明」に相当することを、量子コンピュータで実現すれば、とても大きなリターンを得ることができるだろう。
( ※ しかも、元の開発者が日本人であり、研究室も東京大学にある、という圧倒的に有利な状況がある。……ただし、グズグズしていると、例によってサムスンに大敗する。ちょうど、有機EL みたいだ。最初は主に日本で開発されたのに、グズグズしているうちに、サムスンに大差で追い越されてしまった。その二の舞になりそうだ。)



 【 関連項目 】

 → 量子テレポーテーションとは? : Open ブログ

  ※ 量子テレポーテーションについての、より詳しい解説。
 
posted by 管理人 at 23:59| Comment(2) | 物理・天文 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
iPS細胞も、資金がなくて身売りしなきゃいけない、職員も非正規雇用ばかりというお寒い状況なのをみればこれもサムスンにやられるでしょう。
というか、優秀な研究者なら莫大な給料を払ってくれるアップルとかグーグル、サムスンに行けば良いような気がしますね。日本はみんなの努力の成果であって、そんなもの払わなくていいと政府が法律でお墨付きだしてますので
Posted by RFT at 2017年09月24日 06:14
 検索してみたら、「汎用の量子コンピュータ」を、IBM も開発中だとわかった。ただしその原理の詳細は不明。
 → https://www-03.ibm.com/press/jp/ja/pressrelease/52429.wss
 → http://www.afpbb.com/articles/-/3116352

 一部抜粋。

> 新手法では個々のモジュールを接続するのに、これまで提案されてきた光ファイバーではなく、電界を活用する。電荷を帯びた原子(イオン)があるモジュールから別のモジュールへ移動することを利用して接続を行う仕組みで、これによりモジュール間を実際の量子ビットが移動できるという。

 今回の東大の方式とはまったく異なるようだ。
 製品の出荷は数年後の見込み。

> 今回の発表では50 Qubit構成の量子コンピュータを数年後に出荷すると、予定を大幅に前倒しした。汎用量子コンピュータは近未来の技術と思われていたが、一挙に目の前の製品として姿を現した。
Posted by 管理人 at 2017年09月24日 06:56
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