2017年09月23日

◆ ふるさと喪失の慰謝料

 原発の被災地で、「ふるさと喪失の慰謝料」というものが大盤振る舞いされている。

 ──

 原発事故の被災地では、避難した被災者に月10万円の慰謝料が支払われているが、これに上乗せして、「ふるさと喪失の慰謝料」というものに、数百万(〜1千万円)の巨額の慰謝料が追加で支払われるらしい。地裁判決が出た。
 《 国指針対象外に慰謝料 原発避難者、個別に判断 千葉地裁 》
 東京電力福島第一原発事故によって住み慣れたふるさとを奪われた避難者に対し、千葉地裁が「ふるさと喪失慰謝料」を広く認める判決を出した。
 東電が原発避難者に払う慰謝料は、2013年末に国の「原子力損害賠償紛争審査会」がまとめた指針で決められている。
 指針では、避難者に1人月10万円の慰謝料を一定期間もらう権利を認めた。そのうえで、放射線量が高い「帰還困難区域」(約2万5千人)の住民らに限り、「故郷喪失慰謝料」として1人700万円を特別に追加した。避難指示がいつ解除されるか見通しが立たないためだ。
( → 朝日新聞 2017-09-23

 以上は現状である。つまり、「月10万円」と「帰還困難区域では700万円」との、双方がすでに支払われている。
 ここで、地裁判決が出て、新たに次のものが加算されることになるらしい。
 一方、帰還困難区域以外の避難者については、避難が長期化していても、国が避難指示をいずれは解除する方針を示していたため、ふるさと喪失の慰謝料は支払われなかった。
 22日の千葉地裁判決は、原告が求めたふるさと喪失慰謝料は、月10万円の慰謝料などでは「補いきれないもの」とし、帰還困難区域にある双葉町の男性に、国の指針を超える1千万円のふるさと喪失慰謝料を認めた。さらに、帰還困難区域ではなくても、かつて避難指示が出された避難者には1人400万〜50万円を認めた。
 原告それぞれの慰謝料の金額は、住み慣れた家や地域での生活を「断念」するしかなかったことへの苦痛や、避難者がその町に住んでいた期間なども踏まえて算定した。
 一方で、判決では、福島県内でも避難指示が出なかった、いわき市などからの「自主避難者」については、ふるさと喪失慰謝料を認めなかった。
( → 朝日新聞 2017-09-23

 ここで注意しよう。避難を強いられたことに対する慰謝料は、すでに十分に支払われている。
 今回は、それとは別に、「ふるさと喪失」というわけのわからないものに対して、数百万円もの金が追加で支払われるのだ。
 ここに注目したい。

 ──

 この額はいかにも巨額である。ただし、額が高いか低いかについては、特に論じないでおこう。困った人に多額の慰謝料を払うということは、払う側にとっては困るが、もらう側にとっては嬉しいことだ。第三者の立場としては、何とも言わないでおこう。

 私が問題にしたいのは、他のケースの慰謝料との比較である。
 そもそも、日本という国では、さまざまな慰謝料が非常に低く認定されている。(裁判所の判例など。)
  ・ 不当解雇 …… 10万円( → 出典
  ・ 知的財産権の侵害 …… 数十万円( → 出典
  ・ 名誉毀損 …… 数十万円 ( → 出典
  ・ レイプ …… 300万円 ( → 出典


 レイプというのは、殺人にも近い重大な犯罪で、法定刑も非常に重い。それにもかかわらず、慰謝料は 300万円だ。
 この例からもわかるように、日本では慰謝料というものが低い水準に抑えられている。「 300万円を払えばレイプしていい」というふうになったら、金持ちはあちこちでレイプのし放題だろう。ま、懲役という刑罰はあるにはあるが、そんなことをしても、被害者はまったく救われない。懲役刑をかければいいというものではない。本来ならば数千万円の慰謝料を取ってもいいくらいだ。なのに、たったの 300万円。

 ──

 以上で示したように、
  ・ レイプ    …… 3百万円
  ・ ふるさと喪失 …… 数百万円

 というふうになる。
 つまり、ふるさと喪失なんていう、どうでもいいことが、極端に過大評価されている。

 ──

 さらに言えば、次の点もある。
 (1) ふるさと喪失というが、土地が消えたわけでもない。土地は残っている。また、建物も残っている。除染もされている。ほとんど元のまま残っている。
( ※ 津波の被災地ではない。放射線を浴びただけだ。しかも、今回は、放射線の量が少ない地域だ。放射線の量が多い地域は、すでに支払い済みだ。)
 (2) 《 住み慣れた家や地域での生活を「断念」するしかなかったことへの苦痛 》というのを、慰謝料の理由としているが、それが成立するならば、企業や政府や自治体は、従業員に「転勤」を強いるたびに、それと同額の慰謝料を支払うべきだろう。今回のことが原則となるのならば、「転勤」を強いられた労働者は、同様の金額を請求できる(もらえる)ことになる。なぜなら「転勤」の場合も、事情はまったく同様だからだ。



 [ 付記 ]
 本項では、裁判所の判決の論理がおかしい、という趣旨で指摘した。金額が多いか少ないか、ということ自体は、特に問題としない。
  ・ すべての慰謝料を今回と同様に高くする。
  ・ すべての慰謝料を現状のように低くする。

 そのいずれであってもいい。
 しかるに、
  ・ ほとんどの慰謝料を低くする。
  ・ 今回の慰謝料だけを高くする。

 というのでは、二重基準であり、論理が通らない。そのことを、本項では指摘した。



 【 関連動画 】



posted by 管理人 at 12:59| Comment(6) |  震災(東北・熊本) | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>知的財産権の侵害

確かに慰謝料という費目は少額かもしれませんが、逸失利益の補償とが損害賠償という視点からなら特許侵害訴訟で巨額な支払い例は珍しくないかと。

>ふるさと喪失なんていう、どうでもいいこと

憲法で保障された”居住移転の自由”が侵害されたと捉えるならば”どうでもいいこと”と斬って捨てられないのでは。転勤については会社を辞める自由があってこれは居住移転の自由を侵害したことになはならないような。

私が上記考えを支持しているということではありません。各々の慰謝料の額のバランスについては釈然としない印象を抱いているのは確かですから。ただ、慰謝料の根拠として憲法違反を持ちだされた場合にどういった反論があるのだろうという興味です。
Posted by 作業員 at 2017年09月23日 13:32
こんな裁判してるんだったら、佐藤栄佐久氏の収賄裁判の真実を追求してほしいものですが……。
"被害者さま"な福島県民は何してるんだか。日本の民主主義ってのは10年以上前に死んでいたのかと思わずにいられません。
ああ、佐藤氏が上げられたときの首相は今のでしたね……。
Posted by 無機銘 at 2017年09月24日 00:39
> 居住移転の自由

 ちゃんと読んでください。その分は支払い済みです。毎月 10万円。
 ふるさと喪失というのは、実際に喪失した人についてはすでに支払われています。実際には喪失していない人に支払われるのが、今回の分です。

 ちなみに、熊本地震の被災者のために費やされる金額は、東日本大震災の被災者のために費やされる金額より、はるかに少額です。
Posted by 管理人 at 2017年09月24日 06:41
直感的に原発村の思惑(司法が政治に左右されるのはよくあるので)の影響か?と思いました。
核のゴミ捨て場を、これから決めるにあたって手厚い補償は好都合でしょう。
Posted by gunts at 2017年09月24日 08:28
> 核のゴミ捨て場を、これから決めるにあたって

 核のゴミ捨て場となるのは、「帰還困難区域」なので、今回の話の対象外です。そこはもともと慰謝料が払われていたし、問題となっていません。
Posted by 管理人 at 2017年09月24日 09:09
帰還困難区域ではなくても、かつて避難指示が出された避難者には1人400万〜50万円を認めた。

主にこの部分を指しての話かと。で、その後”住み慣れた家や地域での生活を「断念」するしかなかった”とありますから帰還困難区域でなくとも本人に責任が及ばない事由による喪失に対する慰謝料なんでしょう。ただ、”避難指示が出された避難者”全員が支給対象者なんでしょうか。支給額にも巾がありますし、全員ではないようにも思えます。

月10万円の慰謝料が何に対してのものなのか明確に記されていません。理屈としてその中に”断念”分は含まれていない、ということではないでしょうか。
Posted by 作業員 at 2017年09月24日 10:59
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