2017年09月14日

◆ 原発の再稼働の是非

 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働が認められたが、反対意見も多い。そこで、再稼働の是非を考える。

 ──

 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働が認められた。「決定延期」というような事前情報もあって、情報が錯綜しているが、大手の報道は次のように一致している。
 《 東電「適格」に2条件 安全姿勢明記/主体的な廃炉、担保 柏崎刈羽、規制委「適合」へ 》
 原子力規制委員会は13日、東京電力柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)の再稼働に向けた審査で、福島第一原発事故を起こした東電が原発を運転する適格性を条件付きで認めた。原発の保安規定に東電の安全に対する姿勢を明記させるなどする。
( → 朝日新聞 2017-09-14

 《 東電、条件付き「適格」…柏崎刈羽原発で規制委 》
 東京電力柏崎刈羽かしわざきかりわ原子力発電所6、7号機(新潟県)の安全審査で、原子力規制委員会は13日、東電が同原発を再稼働する「適格性」を条件付きで認めた。
 規制委は当初、13日にも安全審査に事実上合格したことを示す「審査書案」を了承する予定だったが、適格性の判断のため先送りした。規制委の田中俊一委員長は22日に退任するため、次期委員長の更田豊志ふけたとよし委員長代理のもとで審査を続け、審査書案を了承する。
 これまでの他電力の再稼働の審査では、適格性が問われたことはなかった。
( → 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

 《 東電の「適格性」了承=経産相の確約、条件に−柏崎刈羽原発「合格」へ・規制委 》
 原子力規制委員会は13日、大詰めを迎えている東京電力柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)の審査で、福島第1原発事故を起こした東電に再び原発を運転する資格(適格性)があると認めた。経営陣が示した安全性向上の取り組みなどが確実に履行されるように、経済産業相から確約を得る条件を付けて了承した。規制委は早ければ月内にも、事実上の「合格証」に当たる審査書案を取りまとめる。
 東電の原発が合格する見通しになったのは初めて。
( → 時事ドットコム

 この方針について、マスコミの社説などには反対も多い。
 《 朝日新聞 社説 》
 「経済性より安全性追求を優先する」などと東電社長が表明した決意を原発の保安規定に盛り込み、重大な違反があれば運転停止や許可の取り消しもできるようにするという。
 しかし、今後のチェック体制を整えることと、現状を評価することは全く別の話だ。適格性を十分確認したとは言えないのに、なぜ結論を急ぐのか。
 規制委はなぜ、適格性について「ないとする理由はない」と判断したのか。
 福島の事故後、日本の原発について、事業者も規制当局も設備などのハード面に関心が偏っているとの指摘が内外から相次いだ。安全文化の醸成と定着へ組織運営や職員の意識を改めていくソフト面の取り組みは、東電以外の事業者にも共通する課題であり、事故後の新規制基準でも不十分なままだ。
( → (社説)朝日新聞 2017-09-14

 《 毎日新聞 社説 》
審査経過を見ると、適格性があるとの判断は根拠が薄弱で、説得力を欠くと言わざるを得ない。
 規制委が踏み込んだ適格性の審査は、新規制基準に明確な規定がない異例の措置だった。
東電は先月、社長名で規制委に文書を提出した。「主体的に関係者に向き合い、廃炉をやり遂げる」「福島の廃炉と柏崎刈羽の安全性向上を両立する」。東電の決意は書かれていたが、具体的な汚染水対策などは示されないままだった。
 ところが田中委員長らは、これをあっさり受け入れた。事業者が順守義務を負う原発の保安規定に、決意表明の内容を書き込ませることで、実効性を確保するという。
 しかし、廃炉や安全対策に取り組む姿勢を評価する明確な基準はない。主観的な決意を保安規定に書き込んだとしても、事業者の姿勢をどれだけ縛れるのか、疑問がある。
( → 社説: - 毎日新聞

 ──

 上記で、おおよその話は、つかめるだろう。
 批判は、朝日と毎日の社説が十分に述べているので、今回の方針(再稼働容認)がボロボロでダメであることは、明らかだと言えるだろう。

 ただ、そういう批判とは別に、私としては問題の解決のために、「どうするべきか?」という対案を示そう。

 ──

 私の対案の骨格は、こうだ。
 (1) 基本方針としては、原発の再稼働を認める。つまり、「原発の全面廃止」というような、廃止論は採らない。
 (2) だからといって、「無条件で( or 大甘の条件で)再稼働を認める」という、政府の方針を肯定することもしない。
 (3) かわりに、「十分な対策を取ることで再稼働を認める」というふうにする。


 ──

 では、「十分な対策」とは何か? ここが話の核心となる。
 これについては、次のように提案する。
 「十分な対策をするには、原発の推進者と、原発の規制者を、分離する」
 「原発の規制者には、事故が起こった場合の被害補償を義務づける」


 現状では、原発の推進者も、原発の事故の補償者も、どちらも東電である。「すべては東電の責任」というわけだ。
 しかしこれを分離して、次のように分ける。
  ・ 東電は、原発の推進者である。
  ・ 新たに規制者を設立する。
  ・ この規制者は、原発の事故が起こった際、被害に補償する。


 このようにすれば、規制者は甘い規制を出すことはできず、厳しい規制を出すことになる。
 なお、規制者には、次の利得を与える。
 「十分な規制をすることで、原発の事故が起こらなかったら、それに対する成功報酬を得る」


 成功報酬とは? 実は、これはつまり、「保険」という考えと同様だ。
  ・ 被害が発生したら、損害への補償をする。
  ・ 被害が発生しなかったら、保険料を得る。


 この点では、火災保険や地震保険や交通事故保険と同様だ。客は、保険料を払った上で、被害が発生したときに補償を受ける。
 原発事故もまた同じ。巨大な保険会社のようなものを作って、事故への補償をさせればいい。

 ただし、ここでは、単に確率的に保険料が決まるのではない。
 「保険会社が規制者となって、十分な規制を強制する。そのことで、原発事故の発生確率を引き下げる」
 というふうにするのだ。保険会社は、損失をかぶりたくないので、事故が起こらないように、安全性を十分に高めるようにするだろう。

 ──

 ひるがえって、現状では、こうだ。
 「原発事故が起こらなければ、原発会社(電力会社)は、安全設備を手抜きすることで、そこそこの利益を得ることができる」(手抜きの利益……悪徳会社にはよくあることだ。)
 「原発事故が起これば、原発会社(電力会社)は、自分では補償金を払わない。国と、電力の消費者に、補償金の支払いをツケ回しする」

 実際、上記のことが、福島原発のあとでなされた。東電の株主や、社債の持主や、社員・経営者などは、ろくに損失をかぶらない。一方、国全体や、東電の管内の消費者は、「電気料金の値上げ」という形で、支払いを強いられた。東電の経営者の尻ぬぐいを、一般国民や消費者がしているわけだ。


尻ぬぐい用:濡れティッシュ



 ──

 というわけで、「保険」のシステムを利用して、「補償を義務づけることで、実効性のある規制をつくる」というアイデアを示した。
 困ったときの Openブログ。



 【 追記 】
 次の質問が来た。
 原発事故を補償できるような保険会社なんて作れるのでしょうか?

 このことについて補足しておこう。こうだ。
 (1) 補償の最大限度額(総額 2兆円程度)を設ける。それ以上は日本政府の負担。
 (2) 出資者は有限責任とする。最大の損失は出資額のみ。
 (3) 利益は高配当。年利5%程度。(20年で全額回収)
 (4) 出資者が不足する場合は、半分程度までは日本政府の負担とする。

 これだと、こうなる。
  ・ 事故が起こらなければ、年利5%が丸儲け。
  ・ 事故が起これば、元金を失うだけ。(無限責任ではない。)


 なお、2兆円で年利5%だと、年額 1000億円。これを眠らせると丸損だが、海外投資または国内で土地投資をすると、年率 2%ぐらいで運用できそうだ。差額に当たる年率 3% (600億円)が実際のコストとなる。これをまかなえれば、原発を稼働していい。まかなえなければ、原発を稼働しない。

 ※ 金額は、原発の1箇所ごとの数値。(台数不問)。国内の
   20箇所で稼働すると、上記の 20倍の規模の保険となる。

 ──

 「2兆円で足りるか」という疑問が生じるが、(足りない分については)、保険を成立させるために、ある程度の政府負担も仕方ない。
 とにかく、十分な責任負担(賠償責任)の制度があれば、事故を起こさないような仕組みがどんどん整備されていく。そこが大事。

 ──

 あと、確率的に言えば、あまり心配ない。原発のところに大地震が来る確率は、あまり多くないからだ。……中電の浜岡原発を除けば、だが。
 浜岡原発を引き受ける保険会社は、さすがに、ないでしょう。当然、浜岡原発は稼働禁止となる。

posted by 管理人 at 23:25 | Comment(10) |  放射線・原発 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
全く持って大賛成です。
保険が成立できないような事業はあってはならないでしょう。
自動車の任意保険と同じく、自分で事故の補償ができないというならば保険に加入するしかない。
実際に東電は自分で補償できないという例を見せてくれたわけだから、仕組みを変えていかないと、将来また電力会社の原発事故逃げ得を見せつけられてしまう。
Posted by しおしお at 2017年09月14日 23:39
大賛成です。保険料は当然高額になりますから、そのコストを含めて本当に原発が低コストかを考えることになりますね。
Posted by アラ還オヤジ at 2017年09月15日 08:31
理論的にはまったく正しいと思いますが、原発事故を補償できるような保険会社なんて作れるのでしょうか?
原発事故が起きたら保険会社は倒産、、、では東電と同じことになってしまいますし、そういった意味で実効性が無い気がするのですが。。。
Posted by K2 at 2017年09月15日 12:23
 ひとつ前のコメントを受けて、 【 追記 】 を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2017年09月15日 12:42
ご提案内容は素晴らしいと思いますが、
どこかの天下りさんがトップに立って
政府or経産省or電力業界のご意向を忖度して
甘々基準で保険を認めてしまいそうな気もします。
事故が起こっても、破綻しておしまい……。
それは困る気がします。
Posted by けろ at 2017年09月15日 22:54
被害が複数の自治体に及んだ場合は
再稼働に同意(=安全認定)した自治体にも補償させてはいかがでしょうか。
Posted by 横断中 at 2017年09月15日 23:03
> どこかの天下りさんがトップに立って
> 政府or経産省or電力業界のご意向を忖度して
> 甘々基準で保険を認めてしまいそうな気もします。

保険会社を複数作って、競争させればいい。
相対的にダメな保険会社は、株価が下がるので、どこかの会社に買収される。そのあと、ダメな経営者がクビになる。経営後退。

市場原理で片付く。
Posted by 管理人 at 2017年09月16日 00:49
考えとしては面白いが実際にはこの保険の出資者は電力会社になりそうな気がする…
Posted by ななし at 2017年09月16日 06:36
> 保険の出資者は電力会社になりそう

 電力会社には、そんな資金はありません。2兆円 × 20箇所 = 40兆円。国家予算の半分に近い額。
 金融市場には金がだぶついているので、その金を出せますが、電力会社は実は電力債で借金している身です。出資するどころか、される方。金なし。
Posted by 管理人 at 2017年09月16日 06:46
損保全社の共同保険にして、再保険は原子力政策に関わるアメリカの損保に引き受けてもらう。国内損保の利益は再保険で消えてしまいそうですが、再保険先からもリスク分析と保険料率に対する注文が付くはずなので、多少は適正運用に資するかと。
また、ファンド化して個人も買えるようにすれば推進派の方々は皆買ってくれるはずです。安全ですからね。
Posted by 実現して欲しい at 2017年09月16日 17:47
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