2017年09月13日

◆ 北朝鮮には、軍事力行使か対話か?

 北朝鮮には軍事力行使よりも対話で対応するべきだ、という意見があるが、妥当か? 

 ──

 北朝鮮には対話で対応するべきだ、という意見がある。

 (1) 世論調査

 世論調査では、北朝鮮への対応として、「対話」が1位を閉めた。2位が「圧力」。
 朝日新聞社は9、10日、全国世論調査(電話)をした。北朝鮮の弾道ミサイルや核実験に対して、日本政府が、対話と圧力のどちらにより重点を置く方がよいかを尋ねると、「圧力の強化」40%、「対話の努力」45%と割れた。
( → 北朝鮮対応で重点、対話45%・圧力40% 世論調査:朝日新聞 2017-09-12

 実は、他に「軍事力行使」もありそうだが、これは選択肢に入っていなかった。(選択肢は二つだけ。変な世論調査だ。)

 (2) 酒井啓子

 「制裁も攻撃も効果なし」という見解があった。酒井啓子の見解で、朝日に大きく掲載された。
 米政権は、イラクへの制裁中にもときどき限定的な攻撃を行った。全く役に立たなかった。では政権を倒す勢いで攻撃したら? その勢いに恐れをなして核開発を放棄したのは、カダフィ時代のリビア1カ国だけだ。
 制裁も軍事攻撃もダメならどうすればいいのか。過去に試した方法はどれもダメだということは、イラク戦争の失敗でわかっていたはずだ。
 だが、わかっていたにもかかわらず、誰も考えてこなかった。とりあえず何かしましたと、アリバイ作りは考えても、本当に他国からの脅威を取り除く方法を工夫してこなかった。このことは深く反省されるべきだ。
( → 他国からの脅威 制裁も攻撃も効果なし 酒井啓子:朝日新聞

 もっともらしい意見だが、妥当ではない。「制裁も軍事攻撃もダメ」という立場から、「対話で」という方針を取っても、やはりダメなのだ。そのことは悪名高き「宥和政策」として知られている。第二次大戦の前の、ヒトラーへの対応で、「制裁も軍事攻撃もしないで、対話」という路線を取ったら、怪物が巨大化して、欧州に大惨事を招いたのだ。
 そして、このことは、現在の北朝鮮情勢と酷似している。

 ──

 実際、金正恩とヒトラーとは、酷似している。
 そもそも、金日成も金正日も、核開発なんかはしなかった。そういうことをすれば米国の大反撃を招きそうだとわきまえていた。
 03年、米朝協議を嫌ったブッシュ政権の意向を踏まえて、日中韓ロを加えた6者協議が発足した。しかし、米側の強硬姿勢は変わらず、北朝鮮は06年10月に初の核実験を行った。この実験を契機に米朝は対話を再開し、6者協議は07年2月、「行動対行動」の原則の下で段階的に北朝鮮の核を廃棄することで合意した。
 これに従う形で、北朝鮮は核施設の凍結から無能力化まで行ったが、08年8月に金正日(キムジョンイル)総書記が脳卒中で倒れたことなどから、合意は最後まで履行されなかった。
 金総書記は「朝鮮半島の非核化は金日成(キムイルソン)国家主席の遺訓」と語り国際社会との対話にも積極的だったが、09年1月ごろから始まった金正恩(キムジョンウン)氏への後継作業によって路線を修正。正恩氏の権威を高めるために強硬な軍事路線が進められ、北朝鮮は09年5月に2回目の核実験を行った。
( → 北朝鮮核実験:朝日新聞 2017-09-04

 かくて、非核化の金日成や金正日とは逆に、金正恩は強硬な核路線を突っ走った。これはもはや正気を失っているとさえ言える。ヒトラーと同様だ。
 そして、こういう相手に「対話」という融和路線を取ればどうなるかは、歴史が教えているとおりだ。

 ──

 では、対話は常にダメなのか? たとえば、フセイン・イラクに対し、対話を拒否して軍事力を行使したのは、妥当だったのか? いや、そんなことはない。あそこで軍事力行使をしたのは大失敗だった、とすでに判明している。(たとえばイスラム国 IS というテロ集団を招いた。)

 ここから得られる結論は、こうだ。
 「対話か武力行使かは、常に単一の正解があるのではない。相手によって変えるべきだ」

 場合分けしよう。
 (1) 相手がまともな判断力を持つなら、対話でいい。双方にとって利益となる合理的な結論に達せる。
 (2) 一方、相手がまともな判断力を持たないなら、対話ではダメだ。相手は「自己だけの利益を狙う」というふうになる。これは、ヒトラーや金正恩に共通する方針であり、トランプ大統領とも共通する方針だ。こういう相手に対して、「対話」「妥協」という方針を取れば、一方的に屈服する以外には、合意は得られない。そして、それを避けるとすれば、軍事力行使しか解決策はないのだ」

 ──

 ただし、である。「対話」がまったく不可能なわけではない。
 国連では、「北朝鮮への石油制裁」という新たな決議が生じた。
  → 国連安保理:北朝鮮制裁決議を全会一致で採択−石油禁輸は見送り - Bloomberg
  → 北朝鮮の輸出産業、9割が制裁対象に 国連安保理決議:朝日新聞





 ここでは、うまく「対話による合意」が得られた。だから、対話という路線は、できることならば、そうした方がいい。
 ただし、注意。ここで「対話」という路線が成立したのは、わけがある。
 (1) 対話の相手は、北朝鮮という狂人ではなく、中国とロシアという正気の相手である。ゆえに、合理的な判断が可能だった。
 (2) 中国とロシアは、もともと経済制裁(石油禁輸)に反対していた。ところが、最後の最後になって、ようやく経済制裁に合意した。なぜか? 米国が「さもなくば軍事力の単独行使」というカードを切ったからである。このことは、「脅し」(ブラフ)にあたるので、国のメンツもかかるから、米国は公表していない。しかし、内密では、「さもなくば軍事力の単独行使」というカードを切ったのに違いない。(そうでなければ、中国とロシアが急に方針を変えたことの説明が付かないからだ。)

 上記のことは重要だ。
 要するに、ここで(経済制裁という)平和的路線が可能となったのは、「軍事力行使」というカードがあったからである。これをちらつかせる(宣告する)ことがなければ、平和的路線による合意などはあり得なかっただろう。
 「軍事力を行使しない平和的方法をとるための、最大の方法が、圧倒的な軍事力を見せつけることだ」
 と言える。つまり、平和のために最も有効なのは、軍事力なのである。そういう逆説が成立するのだ。

 それゆえ、私はこれまで何度も、「軍事力を行使せよ」と主張してきた。ただしそれは、全面的な戦争ではなく、限定的な武力行使だ。そういう武力行使こそが、全面的な戦争を避ける最善の手法なのである。
 一方、「対話」という路線は、当面は戦争を避けられるが、最終的には、大々的な戦争に至る可能性が高い。ちょうど、第二次世界大戦のように。

 戦争を忌み嫌う人こそ、小規模な武力行使という方針を取るべきなのだ。



 [ 付記 ]
 こういう逆説は、人々には理解しがたい。なぜなら、人々は「連続的な思考」をするからだ。
 ところが現実は、「非連続のジャンプ」という現象が発生する。あるときまでは低い値を取るが、あるときを境に、急激に高い値を取る……というふうに。
 比喩としては、風船に空気を入れる例がある。風船に少しずつ空気を入れておけば、しばらくは何も起こらない。しかしあるときになると、急激に破裂する。一方、小さな穴をあけて、最初から少しずつ空気を漏らせば、急激に破裂することはない。
 連続的な思考を取る人は、非連続の現象を理解しがたいのだ。

( ※ 参考:カタストロフィ理論 )
 
posted by 管理人 at 20:21| Comment(0) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
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