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太陽光発電の補助金は有害だ、とこれまで何度も述べてきた。
主な理由は、「補助金を出せば大量生産の効果で価格が下がる」という理屈が成立しないことだ。
→ 大量生産と価格低下(太陽光発電)
他にも、さまざまな問題がある。
・ 莫大なコストがかかる割には効果が僅少であること。
・ どうせなら技術開発に金を出す方がいい。
などだ。
一方、EV(電気自動車)に補助金を出すことは、特に問題がない。私としても批判したことはない。
ではどうして、両者に差が生じるのか? 特に、「ちょっと差がある」どころか、「正反対」とも言えるほどの差が生じるのは、なぜか?
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答えを言おう。次のことが原理だ。
「国が金を出せば温暖化ガスが減る、という問題ではない。温暖化ガスの削減のために有効なのは、技術の進展だけである。技術の進展があるかどうかで、有効かどうかが決まる」
「だから、国が金を出すことの効果は、それによって技術の進展があるかどうか、による」
この原理に従って、太陽光発電と EV とを比較しよう。
(1) 太陽光発電
太陽光発電に莫大な金を出しても、それは技術の進展に結びつかない。国の出す補助金は、太陽光パネルの設置者に渡り、そのことで、太陽光パネルの生産台数を増やす。そういう効果はある。
しかし、日本が今さら補助金を出しても、日本の太陽光パネルの市場は、世界においてごくわずかなので、補助金の効果は小さい。世界の巨大な市場のなかで、日本の補助金の効果など、ほとんどない。特に、ドイツや中国では、太陽光パネルの価格が急激に低下しており、補助金の額ももともと少ない。こういう状況では、日本がいくら莫大な補助金を出しても、その効果は(世界的には)ほとんどない。
※ 補助金の額は 2016年で 4975億円。( → 出典 PDF )
しかも、太陽光パネルというのは、20〜30年ぐらいの寿命しかない。特に、アモルファスは、劣化が激しい。
→ 劣化のグラフ
普及のために莫大な金を出しても、その金の効果は、40年後には皆無となる。この金はほとんど垂れ流しの無駄金なのである。出そうが出すまいが、せいぜい 40年間(*)の効果しかなく、将来的な温暖化の阻止には何ら役立たない。
* 40年どころか、1〜2年ぐらいの効果しかない、
とも言える。最後の 【 追記 】 を参照。
医学でいえば、病気の根治をせずに、熱だけを下げる解熱剤のようなものだ。一時的に症状が緩和されるが、病気そのものにはまったく影響しない。かくて、金は無駄金となる。
( ※ 「補助金」と述べたが、電気料金に上乗せされる形になるので、形式的には補助金とは違う。しかし実質的には、補助金そのものだ。)
(2) EV (電気自動車)
EV はどうか? 事情は同様か? いや、まったく異なる。
EV の場合は、補助金を出すと、自動車の購入者に金が渡る。ここは太陽光パネルと同様だ。ただし、それによる販売増の効果による利益は、自動車会社に行く。結局、補助金の利益は、購入者と自動車会社の双方に行く。
一方、太陽光パネルでは、そうではない。補助金の利益は、購入者と販売者に行くが、ここで、販売者と開発者とは異なる。なぜなら、太陽光パネルでは、パネルの製造者とパネルの販売者(施工を含む)とは異なるからだ。
・ 販売・施工にも多額の金が渡るので、パネル製造会社の取り分は少ない。
・ パネル製造会社は、あまりにも多すぎて、補助金が分散される。さらに、会社の倒産・撤退も多い。
こういうことから、出した補助金の大部分は無駄金となる。パネル会社の技術開発に回る分は、ごく少ない。だったら、こんなところに莫大な金を出しても、効果はほとんどないのだ。
逆に、EV に補助金を出せば、それによる EV の普及効果はとても大きい。たとえば、日産リーフには 40万円もの補助金が出るそうだが、これは十分に EV を普及させる効果が出る。しかもその金の一部は、メーカーに回って、技術開発の効果が生じる。
ここで生じた技術開発の効果は、長期的に続く。たとえば、技術が1年分早まったとすれば、その早まったことの効果は、今現在だけでなく、今後もしばらくずっと続く。たとえば、日産自動車やテスラは、EV 開発で技術的に先行しているが、この先行の度合いは、今後もしばらく続くだろう。それは決して短期的に生じる効果だけではないのだ。もっと長期的に続くものなのだ。政府が補助金を出したことの効果は、かなり長く続くのである。それは決して無駄金ではなく、有益に使われた金だ。
※ 補助金の額は 137億円。ただし PHV や FCV を含む。 ( → 出典 PDF )
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まとめ。
結局、補助金を出すことの効果は、
「それによって大量生産を促進するか」
ということで決まるのではなく、
「それによって技術の進展を促進するか」
ということによって決まる。
そして、この違いから、両者の違いが出た。
・ 太陽光では、補助金の効果が少ない。
・ EV では、補助金の効果が大きい。
とにかく、将来的な(長期的な)温暖化ガス削減に有効なのは、技術の進展だけである。だから、それをもたらす場合にのみ、補助金は有効になる。そのことを理解するべきだ。(さもないと無駄金になる。)
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ちなみに、このことを例示的に示すと、次の比較だ。
・ 旧型リーフを大量生産で安くする。
・ 新型リーフは新技術で性能アップした。
そのどちらが優れているか? もちろん、言うまでもない。旧型は新型とは比較にならない。
このことからも、技術の進展がいかに(本質的に)重要であるか、よくわかるだろう。
[ 付記 ]
無駄金の典型は、「クリーンディーゼル補助金」だろう。
これは次の二点で無駄金だ。
・ クリーンディーゼルは、環境汚染がひどい。
・ 温暖化ガスの削減効果は、もともと HV と同程度。
特に、後者が重要だ。もともと HV と同程度の効果しかないのだ。なのに、HV は補助金がゼロで、クリーンディーゼルには莫大な補助金が出る。(10〜20万円程度らしい。)
EV や FCV に補助金を出すのはわかるが、HV に比べて何ら美点のないクリーンディーゼルなんかに、莫大な補助金を出すのは、あまりにも馬鹿げている。
このことからしても、政府は環境のことなど何もわからないで補助金を出している、と判明する。
単に国民の納入した税金で「無駄金ごっこ」の遊びをしているだけなんだろう。「環境ごっこ」かな。
【 追記 】
太陽光パネルの効果は 40年ぐらいしかない、と先に述べた。これは、太陽光パネルの寿命のことだ。
一方、パネルの効果でなく、補助金の効果でいうと、はるかに短い効果しかない。1〜2年ぐらいの効果しかない。なぜか?
なるほど、補助金を出せば、その年の太陽光パネルは増える。しかし、翌年になれば、パネルは値下がりするので、どうせ同じ金を出すのなら、翌年に金を出す方がいい。同じ金を出しても、1割ぐらい多くのパネルを設置できるからだ。その意味では、出す金の時期が早ければ早いほど、設置されるパネルの総量は減ってしまう。金を出した年だけはパネルの設置数が増えるが、あとになって総計を見れば、金を出せば出すほど、パネルの設置数は減ってしまうのだ。(一種の逆説)
だから、最善の策は、金のすべてを貯金することだ。そして、パネルが大幅に値下がりしたあとで、一挙に大量のパネルを設置すればいい。これが結論だ。
ただし、である。パネルが大幅に値下がりすれば、もはや補助金を出さなくても、自立的にパネルは普及する。とすれば、貯金しておいた金は、1円も使わなくて済む。
で、その分の金は、研究開発費の補助金にでも投じればいいのだ。
といっても、5000億円もの金は巨額すぎるので、その金はそっくりそのまま減税にでも回した方がいい。少子化対策で保育園の補助金にでも回した方が、日本の経済成長には役立つだろう。
結局、「対方向のための補助金などは、何もしないのが最善だ」という結論になる。
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