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東芝メモリ買収が決まったようだ。朝日新聞の記事を引用しよう。
《 東芝、WD連合と月内にも契約へ 半導体売却で大筋合意 》
東芝が半導体子会社「東芝メモリ」の売却で、協業先の米半導体大手ウエスタンデジタル(WD)などでつくる「新日米連合」と契約をむすぶ方向で大筋合意したことが26日、わかった。WDが将来的にもつ議決権を3分の1未満に抑えることで合意したという。今後、細部を詰めたうえで月内にも契約をむすぶ。
関係者によると、買収額は約2兆円。WDは普通株に換えられる社債で1500億円を出す。株式に換えた後は議決権ベースで約16%をもつ計算となる。将来にわたって議決権は3分の1未満とし、経営の重要な事項に拒否権をもたないことを契約に盛り込む。
( → 朝日新聞 2017-08-27 )
2兆円のうち 1500億円を出すだけなのに、議決権ベースで約16%をもつという。これは数字として、おかしいですね。
特に、次の記事の図と組み合わせてみると、おかしく感じられる。
新日米連合は、WDのほか、政府系ファンドの産業革新機構、日本政策投資銀行、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が参加する。革新機構とKKRがそれぞれ3千億円を出資し、政投銀は出資と融資で3千億円を拠出。日本勢で議決権の過半を確保する。WDは、普通株に転換できる社債1500億円を引き受ける案が出ている。当面は議決権のない転換社債での資金拠出で、各国の独占禁止法上の審査を通りやすくする。
ほかに三菱東京UFJや三井住友、みずほの主力3行が計7千億円を融資の形で拠出するほか、ゆうちょ銀が400億円程度出資する方向だ。東芝も1千億〜2千億円を出資し、雇用維持などに一定の影響力を確保する。
( → 東芝メモリ売却、WDなどと最終調整 1.9兆〜2兆円:朝日新聞 2017年8月25日2 )
実は、おかしいのは当然で、上の図が間違っている。正しい図は、毎日新聞の記事にある。
日米韓連合は革新機構と政投銀が各3000億円、ベインとSKハイニックスが計8500億円、残りを銀行融資で賄うことで計約2兆円を拠出。議決権ベースでは革新機構が過半数、政投銀と合わせて3分の2を握る案を軸に調整する。数年内の上場を目指している。
( → 東芝:半導体売却交渉 日本勢3分の2出資 - 毎日新聞 )
つまり、出資や融資の対象は、東芝メモリではなくて、その受け皿会社(日米韓連合)である。持株会社みたいなものだ。
銀行団などが、東芝メモリに融資するのであれば、それは単に金を貸しただけであるから、「買収」には加わっていないことになる。また、「融資」に相当する分、買収の金額は下がることになる。(2兆円で買収するのではなく、ずっと低い額で買収することになる。)
しかし実際にはそうではない。東芝メモリに融資するのではなく、東芝メモリの受け皿会社に融資するのだ。この場合には、受け皿会社が2兆円を支出するので、まさしく2兆円で買収することになる。
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毎日新聞は、この点を理解しているので、正しい記事だ。日経も「日米韓連合に融資」と報道しているので、正しい。
一方、朝日や産経は、銀行が東芝メモリに融資するという趣旨で報道しているようだ。これは誤報である。
[ 付記 ]
東芝メモリに融資する場合には、融資はただの融資であって、出資としての効果は持たない。当然、その分、買収金額は下がる。
受け皿会社に融資する場合には、融資はただの融資ではなく、出資としての効果とほぼ同等の効果を持つ。融資した銀行は、その分の債権を持つからだ。この債権は、転換社債や優先株とほぼ同等の価値がある(*)。ただし、議決権や配当はない。その分、利子を得る。
つまり、形式的には融資だが、実質的には出資とほぼ同等の効果を持つ。それが「受け皿会社に融資」ということだ。
このことをよく理解していない人が多いようだ。(ネットを見ても、誤解している人が多い。)
(*) デットエクイティスワップ を参照。
毎日新聞の図はずいぶん古い記事のようですが
>日経も「日米韓連合に融資」と報道しているので、正しい。
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ24H7I_U7A820C1MM0000/?dg=1
東芝半導体売却、WDと優先協議 日米韓連合から変更
これは8月24日の記事ですが、いつの日経ですか?