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自動ブレーキ試験では、最高でも時速 60km までだ。
《 被害軽減ブレーキ※(前方自動車との衝突に対して) 》
試験車を時速10 〜 60km/h で模擬車両(ターゲット)に後方から接近させ、被害軽減ブレー キの作動試験をします。
( → JNCAP|予防安全性能アセスメントの概要 )
しかしこれでは、高速時の試験が抜けていることになる。現状では高速道路では時速 100km 以上になることが多いのに、それにまったく対応していない。これでは制度として欠陥があることになる。
( ※ 制度に穴があるわけだ。まるで、穴のあいたコンドームみたいなものだ。……下手な比喩でごめんなさい。)
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この問題が現れる典型的な例として、次の事故があった。
《 進学の夢、暗転…衝撃音に流血と叫び声 徳島道バス事故 》
家路に向かう高校生の旅が暗転した。将来の進路を考えようと、学校を見学した帰りに悲劇が起きた。徳島県鳴門市の徳島自動車道で25日に起きた事故。
「ドーン」「ガシャン」。事故現場の近くに住む松浦裕子さん(32)は午後5時過ぎ、自宅で大きな衝撃音を聞いた。「大変だ」と思って飛び出すと、バスが斜面に横転していた。
近づくと、生徒らがバスからはい出ていた。頭から血を流したり、大きな叫び声を上げたり。松浦さんは110番通報し、タオルなどでけが人を介抱したという。
バスは高速道路わきの斜面に転がり落ち、数メートル下の白い柵に食い込む形で倒れた。右後部が乗車席にめり込むように大破。
( → 朝日新聞 2017年8月26日 )
徳島県鳴門市の徳島自動車道で25日夕、大型トラックに追突されたマイクロバスの高校生ら2人が死亡、14人が重軽傷を負った事故で、追突したとみられる地点よりも手前の路面に、ブレーキ痕が残っていないことが捜査関係者への取材でわかった。トラックの運転手が衝突直前までブレーキを踏んでいなかった可能性があるとみて調べる。
( → 朝日新聞 2017年8月26日 )
徳島県鳴門市でバスにトラックが追突し、高校生ら16人が死傷した事故で、逮捕されたトラック運転手の男は居眠り運転だった可能性があることがわかりました
( → ABC WEBNEWS|【徳島】鳴門市のバス事故 運転手が居眠り運転か )
現場の徳島自動車道は、制限速度が 70km/h だが、見た目は高速道路そのものなので、実際には 80km/h ぐらいで走る車が多いと思える。
こういうところでこそ、自動ブレーキが有効となる。なのに、政府の自動ブレーキ試験では、その試験が抜けているのだ。間抜け。
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高速での試験をしていないのは、次の理由だろう。
「自動ブレーキ試験を始めたころには、時速 40キロぐらいまでしか有効でない車種が多くて、時速 60キロまで有効なものはなかったから、試験をする意味がなかった」
しかしながら、今では時速 60キロでも停まる車種が多い。「試験で満点」を謳う車種もかなりある。ならば、時代が変わったのだから、60キロよりも高い速度でも試験するべきなのだ。
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そもそも、時速が 100キロであろうと 200キロであろうと、試験をパスすることは、技術的には可能である。なぜか? どんなに高速を出して、制動距離がどれほど長くなろうとも、その制動距離よりも前にカメラで検出すれば、試験をパスできるからだ。
たとえば、非常に高速を出して、制動距離が 100メートルになるとしても、100メートルよりも前にカメラで検出すれば、余裕を持って自動車は停止できる。
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自動車 ◯ → 100メートル → ■ 障害物
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だから、高速道路の法定速度である 100km/h を少し上回る 120km/h ぐらいまでは、試験を実施するべきなのだ。
現時点では、それをパスする自動車はないとしても、将来的には、それをパスする自動車は出現するだろう。特に、ベンツあたりは、速やかにパスしそうだ。
今回のバスの事故を見ると、政府の自動ブレーキ試験がいかに間抜けであるかということが、認識されるわけだ。
[ 付記1 ]
「100メートルよりも前にカメラで検出する」
ということは、単眼カメラ方式では困難だろうが、ステレオカメラ方式ならば可能だろう。特に、二つのカメラの間の距離を大きくすれば、検出は容易になる。
[ 付記2 ]
単眼カメラ方式では遠距離の検出が困難だ。このことは、次のページを見るとわかりやすい。
→ 望遠レンズの圧縮効果って何?| studio9
ここで、画角を示す図を見ると、わかりやすいが、それでもちょっとわからないかもしれない。私が解説すると、こうだ。
・ 広角だと、「近景」と「中景」とで、物体の大きさに大差が付く。
・ 望遠だと、「遠景1」と「遠景2」とで、物体の大きさに差が付かない。
以上のことを、図を書いて調べるといい。
( ※ 数字で示すと、1:2 は大きな差が付くが、10:11 は差がほとんど目立たない。)
重要なのは、レンズが望遠レンズかどうかではなくて、カメラと対象との位置の比率だ。
対象1と対象2の位置が、カメラから離れているかどうかで、対象がカメラに占める角度の差が生じる。その角度の差は、近景では大きく、遠景では小さい。だから、望遠レンズでは(というより遠景では)圧縮効果が生じる。
このことは同時に、
「単眼カメラは、遠景については距離の測定が困難になる」
ということを意味する。つまり、
「単眼カメラは、高速走行では無効になる」
ということだ。
【 関連項目 】
現実の搭載車種を調べると、高速領域では、単眼カメラではなく、ミリ波レーダーに頼っている例が多い。この件は、前にも述べた。
→ 自動ブレーキの作動速度: Open ブログ
ミリ波レーダーであれ、ステレオカメラであれ、自動ブレーキは高速走行にも対応できる。ただし、単眼カメラでは対応できない。
このことを理解した上で、国交省の試験は、高速での試験を含めるべきだ。
現状のように、「あれもこれもみんな満点」というような試験では、試験としては失格だ。
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実は、本項で述べたことの核心は、すでに上の項目(リンク)で述べたこととダブっている。「単眼カメラ方式は、高速領域では作動しない」ということだ。
また、「国交省の自動ブレーキテストは、高速域でのテストを省略している。これはひどい」とも記している。(上記項目で。)
本項では、内容は似ているが、「国交省の自動ブレーキテストは、高速域でのテストを省略している。これはひどい」ということに焦点を当てて示した。
また、いっそう詳しい内容を示して、情報を補充した。
[ 余談 ]
おまけの話。徳島のバス事故の話。
「では、運転手はどうすればよかったか?」
という問題がある。
これには、こう答える。
「高速道路にバスを停める、ということ自体が、危険行為なので、事故を避けるための特別な措置を取るべきだ。具体的には、赤い 三角表示板 を現場の 50メートル手前に設置し、そばに立って手で危険を告知するべきだ」
現実には、どうだったか? こうだ。
県警によると、路肩に車両トラブルで停車していて追突されたマイクロバス周辺には、故障や停止を示す表示板が設置された痕跡は見つかっていない。
( → 産経WEST )
これは、バスの運転手の過失だろう。道交法違反だとも言える。
道路交通法施行規則 第二章の六 停止表示器材の基準
制度の概要
高速自動車国道等において故障その他の理由により自動車を運転することができなくなったときは、当該自動車等が故障その他の理由により停止しているものであることを表示するために運転者が後方から進行してくる自動車の運転者が見やすい位置に停止表示器材を置かなければならない。
( → 三角表示板 - Wikipedia )
措置としては、これで一応十分と思えるが、もっとやってもいい。居眠り運転の対策で、何か軽い障害物を置くといいかもしれない。そうすれば、後続車が衝突したとき、後続車が衝突の衝撃で目覚めるはずだ。
なお、避難する位置は、バスの前方 100メートルだ。この位置なら、たとえトラックがバスに衝突しても、乗客は事故の被害を免れるはずだ。
しかも、うまいことに、この位置には「道路から外へ抜け出すための階段」みたいなものがあるようだ。下図の中央部。
縦に走る灰色道路と、その脇にある白い縦線とを、中央で結んでいる白い細線がある。ここはたぶん、道路から外に逃げる退避路だ。(残念ながら、ストリートビューは見られない。)
この退避路を伝って、高速道路の下に降りていれば、たとえ衝突があっても大丈夫だ。
トラックとバスの停止位置は、動画でわかる。衝突後、どちらも 40メートルほど前進したらしい。したがって衝突位置は、現在地よりも 40メートル手前だ、と言える。
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なお、根本原因としては、道路設計の不味さがある。
「片側1車線の狭い道路で、路側帯も狭い」
これでは、交渉者の停車場所がない。脇道に退避可能な一般道路よりも、はるかに危険だ。
どうせなら、ところどころに停車用の場所を設定しておくべきだった。そうしていない点で、この自動車道は、欠陥道路だ。道路会社に根本責任があるな。
※ 徳島IC 〜 鳴門JCT の途中。動画の 25分48秒 付近。
(ゆるい左カーブから右カーブに転じるあたり。)
自動車の退避場所は、ところどころに少しはあるが、
乗用車向けらしく、幅狭い。だからマイクロバスの
右端に、トラックが衝突してしまったわけだ。
※ 少しふくらんだ路側帯の航空写真。
→ https://binged.it/2wAzGoC
マイクロバスはここに停車していたらしい。
【 関連サイト 】
バス事故にちょっと似た事例がある。事故ではないが。
《 高速バス運転中にスマホ、運転手を懲戒解雇 》
高速バスの運転中にスマートフォンを操作していたとして、阪急バスが、男性運転手(46)を懲戒解雇にしていたことがわかった。処分は5月2日付。運転手は「渋滞情報を確認していた」と話しているという。
( → 朝日新聞 2017年8月23日 )
満点を取ったという事実は、良い宣伝になるということです
本件では、トヨタ、マツダ、スバルは優秀で満点なので、損も得もしていない。(当り前になっているだけだ。)
日産は、優秀でないのに満点なので、得をしている。(実力以上の高評価。欠点を隠蔽できている。)
じゃあ、国交省は、日産に有利になるように取りはからっているか? まさか。こんなこと考えても意味ないです。
動画を見ると、1車線になったり2車線になったりしている。照明はなさそうだから、夜は更に怖い道路でしょう。
確かに自動ブレーキは欲しいな。
トヨタで決めようかと悩んでいるときに、パンフレットをふと見ると「評価試験で最高ランクを獲得」と書いてある
それが購入に一役買うという話です
これがもっと難関の試験で、極端に言って100点満点で5点くらいしか取れないとすると、
これは宣伝広告という意味では使えない
試験としては正確だけど、経済としては不正解
車間距離が一定の距離以上の場合は 自動ブレーキ作動させれないのは当たり前のことです
ブレーキをかけても、自動車はすぐには停まりません。仮に追突するとしても、双方とも走行中だから、衝撃も小さいし、大事故にはなりません。
そもそも、誤作動の心配をするなら、アクセルのふかしすぎという誤作動でも考えた方がいい。ブレーキと間違えてアクセルを踏んだ、という人的ミスの方が、圧倒的に多い。一方、自動ブレーキの誤作動なんて、心配することはない。天が降ってくるのを心配するようなもの。
> アクティブブレーキアシストは、約7〜250km/h(歩行者検知機能は約7〜70km/h、静止した障害物に対しては約7〜100km/h)の範囲で
→ https://www.yanase.co.jp/mercedes-benz/s-class/safety/
先行車に対しては 250km/h で、静止した障害物に対しては 100km/h だ、というわけ。(有効範囲が。)
日本のテストの上限である 60km/h を大幅に超えている。