( HV は ハイブリッド車。PHV は プラグインハイブリッド車。)
──
トヨタの HV は世界で最も売れている。(特に日米では)台数では圧倒的で、ライバルは存在しない状態だ。かろうじて日産の e-power が最近では台頭してきたが、現時点では1車種しかないこともあって、台数は出ない。
これほどにもトヨタの HV は優秀だが、PHV はどうか? 私の評価は、こうだ。
「トヨタの PHV はダメだ。それというのも、HV の成功体験があるせいだ」
以下では具体的に述べよう。

プリウス PHV
──
トヨタの HV は、それはそれでいい。
トヨタの PHV は、トヨタの HV にリチウムイオン電池を追加したものだ……と見えるが、実は、そうではない。リチウムイオン電池を追加しただけでは、モーター出力が不足するので、モーターを大型化しているのだ。
これは当然のことだ。プリウス PHV は、発進直後はしばらくモーターだけで走行するので、エンジンはまったく働かない。その間、出力が不足すると困るので、モーターを大型化している。
しかし、よく考えると、これは無駄だ。なぜか? それは、日産の e-power と比較するとわかる。日産の e-power は、初めから十分なモーター出力がある。とすれば、これを PHV にするのは簡単だ。リチウムイオン電池を追加するだけでいい。特に新たな追加装置は必要ない。
なのに、プリウス PHV は、リチウムイオン電池を追加するだけでは足りず、モーターを大型化する必要がある。
換言すれば、モーターを大型化する前提では、プリウス PHV のエンジンは大きすぎるのだ。
──
図式的に言うと、次の3通りがある。
(1) 大エンジン + 大モーター
(2) 中エンジン + 大モーター
(3) 大エンジン + 中モーター
プリウス PHVは、(1) だ。これは、どちらも「大」なので、装置過剰であり、コストが増える。おまけに、遊星歯車も必要なので、さらにコストが増える。
ノート e-power は、(2) だ。これは、必要な分だけ装置を積んでいるので、無駄がない。また、HV と PHV で装置が共通する。(電池だけは違う。)
トヨタの普通の HV は、(3) だ。これも、必要な分だけ装置を積んでいるので、無駄がない。ただし、モーターが小さめなので、HV モード専用であり、EV モードはない。(低速時のみ限定的に EV になるが、それを続けることはできない。)また、遊星歯車も必要で、そのコストもかかる。
トヨタはもともと (3) だった。(3) から (1) に移行した。しかし、そういう経路を取ると、装置が過剰になってしまうのだ。PHV としては、(2) の方式が望ましいのに、それを取ることができないからだ。……ここでは、HV の成功体験が、PHV としての最適化を阻んでいる。
──
では、どうすればいいか? 私のアドバイスは、こうだ。
「 HV の成功体験を捨てよ。PHV では、トヨタ方式をやめて、e-power の方式(シリーズ方式)を取れ」
こうすれば、トヨタの PHV の欠点はなくなるだろう。
( ※ メンツがあって、そうはできないのかもしれないが。)
[ 付記 ]
シボレーボルト(ハイブリッド)はどうかというと、レンジエクステンダー方式の PHV だと言われるが、どうもはっきりしないらしい。特に遊星歯車があるのが怪しい。(トヨタ方式を併用しているように見えるが、違うとも言われる。)
→ シボレー・ボルト エンジンは駆動に使われていないのか?
→ シボレー・ボルトは“2つのモーター”がプリウスとの違いです
→ シボレー・ボルトの純粋なEVとも、ハイブリッド車とも異なる、独自のテクノロジーを徹底解析
シボレー・ボルトは、どうせなら日産 e-power みたいに、シリーズ方式専用にすればよかった……という気もする。だが、この車の発売当時は、まだモーターや発電機の効率が悪かったらしくて、シリーズ方式は燃費が悪かった。純粋なシリーズ方式は、取りたくても取れなかったようだ。
ただ、動力分割で遊星歯車を使うと、今度は、「高速走行時にも(動力分割で)発電してしまう」という問題が生じる。そのせいで高速性能が悪化する。……これが、トヨタの HV が売れない理由となっている。
だったら、クラッチで切り替えて、発電機を切り離し、直結の形でエンジンの力だけで走行すればいい……というのが、私の提案だった。
→ 次のハイブリッドは?: Open ブログ
これは、クラッチで切り替えるときのなめらかさが問題で、ギクシャクするのではないか……という懸念もあるが、日産の古い HV 方式(クラッチで切り替える方式)では、これをなめらかにできるように技術を開発した。
( ※ 具体的には、コンピュータでエンジン回転数を微妙に制御することで、切替時のショックを最小化した。)
こういう方式を使えば、遊星歯車を省略できる。かくて、コストを少なくして、エンジンだけの走行(モーターなし)もできるようになる。
というわけで、遊星歯車にこだわっているトヨタの方式は、将来的には消滅してしまうだろう。(特に、PHV が全盛になる時代には。)
ひるがえって、日産の e-power は、PHV 時代には大いに繁栄しそうだ。他社も真似するといいですね。別に、 e-power 方式(シリーズ方式)は、日産の特許じゃないし。
[ 補足 ]
※ 細かな話。
プリウスの方式には、美点もある。こうだ。
「エンジンとモーターを同時に稼働して、双方からパワーを得ることができる」
これによって、高速走行時には、高い加速性能を得る。エンジンとモーターを同時に稼働させることができるからだ。(出力は単純な加算とはならないが。)
この点では、ノート e-power よりも好都合だ。ノート e-power でこれをを解決しようとすると、エンジンが大型化してしまうが、そうすると、e-power 方式の美点(コスト安)が消えてしまいそうだ。……とはいえ、将来的には、もっとエンジンを大型化した、高級車バージョンの e-power も出るかもしれない。(燃費は悪くなりそうだが。)
なお、「遊星歯車を必要としない」という美点は、依然として残るので、この点ではコスト面で優位に立つ。
なお、現実の商品を見ると、プリウス PHV はガソリン車と同様だが、ノート e-power の方はガソリン車とは違って、「低速では猛烈にパワーがあり、高速ではパワー不足」というふうになっている。(つまり、プリウス PHV は、エンジンとモーターの双方を使えるからといって、ノート e-power よりもパワフルだというわけではない。)
【 関連サイト 】
プリウス PHV の試乗記は、下記。
→ プリウスPHVは、ノーマルのプリウスとはベツモノの”高級車”だった