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記憶とは「脳に蓄積される」ものではなく、脳が「記憶そのもの」である……という研究報告が出た。一部抜粋しよう。
《 脳とは「記憶そのもの」だった──「記憶のメカニズム」の詳細が明らかに 》
記憶と脳の関係、そして記憶のメカニズムの詳細を明らかにする論文が発表された。研究結果によると、記憶とは「脳に蓄積される」ものではなく、脳が「記憶そのもの」であり、脳細胞やシナプスなどが「時間を理解」しているのだという。
どんな知覚経験も、ニューロンの分子に変化を生じさせ、ニューロン同士の接続を再編する。つまり、脳は文字通り記憶でできていて、記憶はつねに脳をつくり替えているのだ。
記憶が存在できるのは、脳内の分子、細胞、シナプスが「時間を理解している」からなのだ。
こうしたつながりをネットワークにするのは、これらの特異的なつながり、すなわちシナプス(ニューロン同士の接合部)が、信号の強弱によって調整されるためだ。つまり、あらゆる経験(エラをつつかれる経験も含む)には、ニューロンのつながりの相対強度を変化させる力があるのだ。
記憶とは「システムそのもの」
だが、こうした分子や、分子が制御するシナプスが記憶である、という考えは誤りだ。「分子、イオンチャンネルの状態、酵素、転写プログラム、細胞、シナプス、それにニューロンのネットワーク全体をほじくり返してみると、記憶が蓄えられている場所など、脳内のどこにもないとわかります」と、ククシュキンは言う。
これは、記憶にかかわるニューロンの可塑性(外界の刺激などによって常に機能的・構造的な変化を起こすこと)と呼ばれる特性のためだ。言い換えると、記憶とは「システムそのもの」なのだ。
( → WIRED.jp )
これは、従来の発想とは違う。従来の発想は、「記憶は特定の部位に蓄積される」というものだった。たとえば、「短期記憶は海馬に蓄積され、長期記憶は大脳に蓄積される」というふうな。
こういう発想を「機能局在論」という。
上の研究報告は、機能局在論を否定していることになる。
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この研究報告を見て、「なるほど」「すごい」という調子で、大絶賛の声がひしめいている。
→ はてなブックマーク - 脳とは「記憶そのもの」だった

しかし、である。研究報告の趣旨は妥当だが、これは大騒ぎするほどのものではない。実は、本サイトではずっと前から、同趣旨のことを述べていた。( Openブログ:2014年05月03日)
一部抜粋しよう。
では、「機能局在論」による説明は、万能か? あらゆる機能には、それに対応する領域があるのか? 「イエス」と考えた人も多い。だが、実験結果は、それに否定的だった。
たとえば、「記憶」という機能は、特定の領域に存在しているわけではなくて、第二次感覚野の広い部分でなされている。そこでは、「記憶」と「思考」が別々の領域でなされているのではなく、同じ領域で「記憶」と「思考」がともになされている。
また、短期記憶には、「海馬」という器官が大きく関与しており、「海馬」を損傷すると短期記憶ができなくなる。では、海馬さえあれば大丈夫かというと、そんなことはない。海馬が正常でも、他の領域がおかしいと、記憶の認定そのものができなくなったりする。(たとえば統合失調症の患者や、アルツハイマー病の患者。)
結局、機能というものは、特定の領域だけでなされているというよりは、多くの領域や器官が同時に作用することでなされている……というふうに見なせる。
( → 脳科学の現在と未来: Open ブログ )
以上のように「機能局在論」を否定したあとで、次のように述べる。
脳を科学としてとらえるためには、局在論ふうの考え方をいくらやっても足りない。なぜなら、脳の神経は、広い領域で絡み合っているからだ。ある場所から伸びたニューロンが、かなり離れた場所のニューロンと結びついて、関係し合っている。(神経の興奮を伝達し合っている。)ここでは、ニューロンの存在そのものが、局所性を否定している。
ニューロンはもともと局所的なものではないのだ。
文章の表現は異なるが、基本的な立場は、冒頭の研究報告も、私の古い記事も、同様な立場だと言えるだろう。
人々が大騒ぎするようなことは、何年も前に私のブログに書いてある……ということがけっこうある。
※ 以下は面倒なので、読まなくてもいい。
[ 付記 ]
冒頭の研究報告と、私の記事とでは、異なる点もある。読めばわかることだが、簡単にまとめると、次の通り。
機能局在論でないとしたら、実際には脳は何をしているのか?(テーマ)
これに、次のように答える。
(1) 冒頭の研究報告 …… 脳内の分子、細胞、シナプスが「時間を理解している」
(2) 私の記事 …… 莫大な数のニューロンについて、マイクロセンサーで一つ一つ検出することで、ニューロン集団(= 脳)の作動の仕方が判明する。つまり、脳の働きとは、莫大な数のニューロンが独特のパターンで作動することだ。
この二つのうち、どちらが妥当か?
まず、(2) は科学的なので、誰でもわかるだろう。これは実験的に数字で示されるものだ。(ただし実験機械は、現時点では開発されていない。できるのは数十年後か。)
一方、(1) は文学的とも言える表現なので、何を言っているのかわかりにくい。少なくとも私にはわからない。《 シナプスが「時間を理解している」 》 というのは、「シナプスは、過去の記憶経験に従って、その作動状態が規定される」ということらしい。だが、《 シナプスが「時間を理解している」 》 という文学的な表現をとる理由は、さっぱりわからない。また、その具体的な内容も、どういうことなのか、数値では はっきり明示されないようだ。
【 関連項目 】
関連する話題。
→ 記憶とは何か?: Open ブログ
※ さまざまな種類の記憶を分類している。
視覚などの感覚記憶と、知識の概念記憶と、
肉体の運動記憶は、それぞれ別のもの。
わざわざ書くなら、とっとと実験して結果を出してからにしなよ
脳と記憶の本質なんていうからワクワクして開いたら分かりきったことしか書かれてなくて時間の無駄だったので、このようなことを繰り返さないように気を付けて頂きたくコメント致しました・W・
いやいや。記憶についてはいまだに「機能局在論」の方が圧倒的に多数を占めていますよ。脳科学の専門家は別として、「海馬と記憶」なんて話題を扱う人はたいてい「機能局在論」です。
> わざわざ書くなら、とっとと実験して結果を出してからにしなよ
Nature みたいな科学雑誌や専門誌の論文(高額)と、ただの無料ブログの素人記事とを、同列に比較するとはね。本サイトについて、買いかぶりしすぎです。本サイトは Nature レベルではありません。
> 分かりきったことしか書かれてなくて時間の無駄だった
私自身が「WIRED.jp を見たら、分かりきったことしか書かれてないと感じた」という趣旨の話ですよ。本項は「独自の新発見をした」という話ではなくて、「独自の新発見はなかった」という話です。
あなたが勝手に妄想して、そしてがっかりした、というだけのこと。
ま、独自見解を知りたければ、最後のリンク先を見てください。ちょっとだけだが、独自見解がある。
なお、時間の無駄とは、いちいち余計なコメントを書くこと。
多数を占めているかどうかなんて一言も言っていないのですが。
それは置いといても、そこまで断言できるならソースはあるんだよね?
それと私は学者とか現在生きてる人間とか、そんな狭い母集団の話をしてるわけではありません
>本サイトは Nature レベルではありません
それは当たり前なんだけど、そのわりには(というか「だからこそ」というべきか)、ノーベル賞受賞者のこととか偉そうに批判してるよね
まあ批判自体は理解できるしいいと思うけど、しかし匿名で一方的にやるのはアンフェアだと思うよ、いくら素人でもね
幼児レベルだとしても科学について語るなら、批判者としての礼儀を気にした方がいいと思った
>私自身が「WIRED.jp を見たら、分かりきったことしか書かれてないと感じた」という趣旨の話です
私が「分かりきったこと」と言ったのは、2014年の記事についてです
>あなたが勝手に妄想して、そしてがっかりした、というだけのこと
それはそうだけど、一方で、あなたの過失でもあるでしょ。
タイトルにそうやって初めから書けば良かったんじゃないのか、ってことです
偉そうかどうかはともかく、既存の意見への批判そのものを否定するとしたら、あなたはもう科学者じゃないね。ただの盲目的な追従者であるにすぎない。
ノーベル賞受賞者ならば、「批判は大歓迎」と言うところだが、あなたにはもう理解できないレベルだな。
そもそも、学説への批判を、個人への批判と、混同しているし。
> 匿名で一方的にやる
ちゃんとブログを持っているし、「文句があるならコメント欄に書いてくれ。返信をします」というのが、どうして「匿名で一方的」なのか。
2ちゃんねると間違えているんだね。
あなたはもう、最低限のネットリテラシーもなしに、他人を無根拠に批判しているだけ。「批判するな」と批判する、という自己矛盾。
> タイトルにそうやって初めから書けば良かったんじゃないのか、ってことです
冒頭2行に書いてあるでしょ。あなたがそれを理解できなかっただけ。自分の誤読を、書き手のせいにしているだけ。
ちょっとマウント気味に話を進めるのはこのブログの味で、
読者は「おや、南堂さん今度は的中か」とニヤニヤするところなんですよ。
正誤や賛否を抜きにして、科学や政治を横断的に語れる管理人さんのようなブロガーさんっていまでは本当に貴重です。
くだらないまとめブログなんかよりよっぽどためになる記事も多いですし、このほかの記事も色々読んでみては如何ですか?
南堂さんも相変わらず返しが真面目だなぁ(そこが好きなんですけど)