2017年07月16日

◆ 公用車で保育所という騒動

 国会議員が子育て中に、子供を保育園に送るのに公用車を使った……ということが話題になっている。ちょっとした騒動だ。

 ──

 話のきっかけは週刊新潮で、そのあとネットで話題になった。
  → 保育園送迎に公用車を使うことは、「問題」なのか?(駒崎弘樹)
  → その はてなブックマーク

 このあと、朝日新聞でも取り上げられた。
  → 公用車で保育所「やめる」の真意は 金子恵美議員に聞く:朝日新聞 2017-07-12
  → 公用車で子ども送迎、容認?反対? 公務中:朝日新聞 2017-07-13

 最後の記事では、次の記述がある。
 衆院議員会館の地下の保育所から、総務政務官を務める金子恵美衆院議員(自民・新潟4区)が現れた。
 「一度宿舎に戻って母親にお願いし、その後はまた公務です」。赤坂の議員宿舎まで徒歩約 15分。坂道もあり、炎天下、少し歩くと汗が噴き出る。朝は、急ぐサラリーマンや車の間を縫うように歩いているという。議員宿舎に戻って子どもを預け、迎えに来た公用車で公務に戻った。

 「朝に歩いて保育園まで送り、宿舎に戻って着替え、改めて公用車で登庁することもあった」と話す。

 金子氏の公用車利用について、2人の子どもがいる民進党の蓮舫代表はフェイスブックで「議員会館まで自力で行き、そこから公用車で出勤すれば済む話。公私混同の感覚が絶対的に欠如してます」と批判。

 これらの話を読むと、おかしなことに気づく。
 「公用車を使うのは公私混同だ」
 という批判がある。それはまあ、わかる。
 しかし、である。代案として、「公用車を使わない」ということは、何を意味するか? 「公用車をまったく使わない」ということではなくて、「別のところ(議員宿舎)までは公用車を使う」ということだ。
 では、それで節約になるのか? 徒歩 15分の距離なのだから、自動車では数分間だろう。距離にして、1.5km ぐらい。これっぽっちの自動車走行を「無駄だ」と言えるのか? 

 もっとおかしいのは、公務以外に公用車を使うことの是非だ。たとえば、安倍首相は、夜の会合や料亭に行くために、公用車を使う。これらをすべて禁止するべきなのか? 
 舛添都知事は、私的な別荘への利用に公用車を使ったので、問題視されたが、通勤の途中に保育園に寄るとか、衆院議員会館の地下の保育所に寄るとか、そういうことまで禁止されるのか? これが禁止されるのなら、議員会館の食堂に寄ることさえ禁止されるが、それでいいのか? 

 ──

 もう一つ問題がある。
 国会議員が公用車を使う場合、出発点は特に指定されていないはずだ。とすれば、保育園に子供を預けたあと、その場所(衆院議員会館)から公用車に乗っても、問題ないはずだ。
 この場合、公用車は、次のように移動する。
  ( ※ 右端の ・ は、議員会館と保育園)

  (往路)
    ・──────────→・ 
  (復路)
    ・←──────────・ 


 往路では、議員会館まで公用車が行く。(空車)
 復路では、議員会館から公用車が行く。(議員が乗車)

 後者の場合、公務だから、何も差し支えない。
 前者の場合、公用車を使うと、「公用車の私的利用だ」と批判される。そこで、空車にすれば、批判されない。
 しかし、空車にしようが、子供を乗せようが、どっちにしても公用車は往路を取るのだから、ここで子供を乗せなかったからといって、何ら節約にはなっていない。

 要するに、「公用車の私的利用だ」いう批判は、「人を乗せると私的利用だが、人を乗せないで空気だけ運べば問題ない」という発想をしている。
 しかし、「人を乗せないで空気だけ運ぶ」というのは、たしかに私的利用ではないが、別の種類の無駄だろう。無駄の種類が異なるだけであって、無駄の量はまったく変わらない。つまり、「公用車の私的利用だ」いう批判によって、空気を運ぶことにしても、何ら改善になっていないのだ。

 こんな馬鹿げたことで批判するくらいなら、夜の会合への公用車の利用を禁止する方が、よほど合理的だろう。



 [ 付記1 ]
 「政治家には、乳母車を押してもらうより、きちんと政治活動をしてもらう方がいい」
 という弁護もある。(はてなブックマークなど。)
 これは、当然だ。経済学的にも説明できる。
 「国会議員に乳母車を押す労働をさせるよりは、国会議員に政務活動をしてもらう方が、効率的だ」
 ということだ。これは、比較生産費の発想からわかる。乳母車を押す労働は時給 1000円ぐらい。国会議員の政務活動は、時給 5000円以上。ならば、政務活動をしてもらう方が、効果が高い。

 もうちょっと、別の計算もできる。
  ・ 節約できるのは、運転手の待ち時間(5分間程度)
  ・ 無駄になるのは、国会議員の歩行時間。(15分程度。)
 結局、公用車を使わないと、
 「運転手の5分間を節約して、国会議員の15分間を浪費する」
 という結果になる。ひどい無駄。

 [ 付記2 ]
 実を言うと、実際にはもっとひどい無駄が生じる。なぜなら、公用車を使わないとしても、それで運転手の給料を払わなくて済むわけではないからだ。
 実際に節約できるのは、(人件費ではなく)1.5km 分のガソリン代だけだ。つまり、20円分ぐらいだけだ。
 20円分のガソリン代を節約するために、国会議員に非効率な仕事をさせれば、高額の時給を払う血税が無題になるのも同然だ。こっちの方が、はるかに無駄だ。
 「わずかばかりの出費を押されるために、莫大な手間暇をかけて、労働力を無駄にする」
 というのは、愚か者がしばしばやることだ。

 その典型は、ベルマークだろう。ベルマーク運動では、
 「300円ぐらいの点数を集めるために、数時間の労働力(時給換算で3000円分ぐらいの労働力)を投入する」
 という愚行がなされている。これで良いことをしたつもりになるのだから、呆れるしかない。

 ※ 莫大な残業をして、わずかな残業代をもらう……という愚行が日本に蔓延しているのも、同じ理由かもね。

 なお、ベルマークについては、次の記事がある。 
  → PTAの伝統 ベルマーク集め。 - Yahoo!ニュース
 


 【 関連サイト 】
 金子議員がたどった経路を実際に歩いて検証した人がいる。興味深い。(人気記事)
  → ベビーカーを押しながら、議員宿舎から議員会館まで歩いてみる【実験】
  → はてなブックマーク

 ──

 蛇足の動画。






 【 追記 】
 「そもそも公用車なんてものは、高コストだから、すべて廃止した方がいい。かわりにタクシーを使えば、低コストで済む」
 という意見があった。
   → 参議院議員 東とおる(東徹)

 なるほど。ごもっとも。公用車を廃止して、かわりに、交通費を一律で年額 100〜200万円ぐらい(加算)支給すればいいだろう。
 「保育園に公用車を使うのはけしからん」
 なんていうことにめくじらを立ているから、(彼女以外の)大多数の国会議員が公用車で無駄遣いしていることを見失うわけだ。
 木を見て森を見ず。
 
posted by 管理人 at 22:34| Comment(6) | 一般(雑学)4 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私的利用とか効率云々より、国会議員の特権に対する感情的な反感による処が大きいのではないでしょうか。”保育園落ちた。日本死ね。”が国会で論議を巻き起こした一方、当の議員は議員会館に設けられた保育園を優先的に利用できておまけに送迎は公用車という...

議員の職務を公益、国益を積み増すことと捉え、各議員がどれだけの公益、国益を稼いだか、そういった評価手法が確立されて入れば不満も噴出しなかったかも。保育園や公用車利用の特典以上の稼ぎがあることが前提です。

公益や国益に何ら資さないばかりか毀損させる議員もいますから、この辺がもう少し定量的に評価されればと。
Posted by 作業員 at 2017年07月17日 00:21
非効率・無駄であっても、私的・公的は分けるぺきだろう。ベビーシッターを雇うなど、他の人に代わってもらう事も出来る。
中小企業の社長が社用車で送り迎えは、許されても、大企業の社長が社用車で送り迎えするのも、どうかと思う。
Posted by 次元大好 at 2017年07月17日 08:45
> 私的・公的は分けるぺきだろう。

 本件は通勤途上です。そして、通勤途上であれば、業務の一環と見なされ、労災の対象となります。
  http://president.jp/articles/-/18778
 ここに記してあるように、通勤や帰宅の途上でスーパーに立ち寄ることもOKです。この程度ならば許容されます。

 本件ではさらに好都合で、保育園は議員宿舎内にあります。議員宿舎に立ち寄るのであれば「公務の一種」と見なされなくもない。
 そもそも、議員宿舎というのが、国税の支払いを受けた建物です。そこに税金を投入していることこそ、「私的利用(日常生活)への補助金投入」です。
 「私的利用(日常生活)への補助金投入」がいけないというのなら、議員宿舎そのものを廃止するべきでしょう。
 
 何でもかんでも厳しくやろうとすると、福利厚生というものが一切認められなくなり、労働者虐待となります。国会議員もまた労働者なのであり、その権利を奪うようなことをしていれば、しいては国民全体の権利が奪われることになるでしょう。

 これは次の言葉で要約できる。
 「情けは人のためならず」
 これを理解できない人が、他人を攻撃することで、回り回って自分を傷つける。
 愚者というのは、そういうものだ、という見本か。まるで子供向けの寓話だな。

> 大企業の社長が社用車で送り迎えするのも、どうかと思う。

 現状はそれどころじゃなくて、もっと圧倒的に許容されています。たとえばソフトバンクの社長は、ものすごい豪邸に住んでいるが、それへの税金を自分では一円も払っていない。社宅の扱いにして、すべての税金を会社に支払わせている。そのことで高額の所得税の支払いを免れている。
 少額の公用車なんかに目を奪われているから、富裕層の大幅な節税(≒ 脱税)には気づかない。1円をケチることに熱中して、1万円を奪われる。
 凡人というのはそういうものだ。
Posted by 管理人 at 2017年07月17日 09:07
 最後に 【 追記 】 を加筆しました。
 他の国会議員が公用車で無駄遣いをすることの方がよっぽど問題だ、という話。
 
Posted by 管理人 at 2017年07月17日 11:27
何か返答が攻撃的な感じなので、もう少し述べておきます。
国会議員なのだから、「公的か、私的かを区別すべき」という事を強調したい。

労災の場合をあげられたが、立寄ったスーパーて怪我をした場合は労災ではないそうです。立ち寄り先では認められない。あくまで、通勤経路上が、通勤途上という考え方。

議員宿舎などへの費用投入は、言って見れば、民主主義・思想の自由を担保するために必要と思うが、あまり過度であってはならないだろう。資産・収入の大小に関わらず、国会議員となって、自分の意見を持って、政治活動を行える様にするための最低限必要な制度ではなかろうか。
公用車もその一貫だろう。だが、住居である宿舎と違い、公用車は、もっぱら、政治活動のために使うべきだろう。
(本当ならば、廃止が望ましいとは思う。タクシーで充分。あるいは、橋本徹氏の言われている「文書通信交通滞在費として領収書抜きで月額100万円もらっている国会議員に公用車は不要です。」という事と思う。)

国会議員になろうとした・なったからには、公私をしっかりわきまえて欲しいと思うだけのこと。もっと、敏感でなければ良ろしくない。

自分の車や、タクシー(ここは自費で)であれば誰も何も言わないのだからそうすれば良く、歩いて通うことで、公務が疎かになるならば、ただのパフォーマンスにしかならない。
(この議員の個人攻撃が、趣旨ではない。)

大企業の社長については、公務ではないし、会社毎に取り決めがある事と思うが、それを許容するか否かは、株主に依るべきだろう。
仕事とプライベートの境界は本人しか分からないから、取り決めたルール内で運用されれば良いことだろう。(孫氏の件が望ましいとは言ってない)
孫氏は、自分で起こした会社なのだから、会社のことと自分の事の線引きは尚更、曖昧だろう。
創業者でない社長では、より厳格に運用されるべきだろう。

一国会議員が夜の会合に公用車を使う。公務の一貫ならば、良いと思うが、党の活動ならば、遠慮してほしいと思うのはおかしいだろうか?
ただし、大臣・閣僚はその線引きが難しいだろうし、警備も含めて考えるならば、逆に公用車以外での外出を禁じた方が良いのではないかとさえ思うが、いかがでしょうか?

女性議員が保育所に預けて、活動されるのが容易になる様な制度が必要という意見を読んだ。それはそれで良いと思うが、子育ては夫婦双方がするもので、片寄っている事が問題なんだろう。
女性だからと言う視点は、男女差別しているに等しいとも思うしだいです。

法的にも、運用ルール上も、問題ないからと言って、何でも許される訳じゃない。
Posted by 次元大好 at 2017年07月18日 01:20
> 公的か、私的かを区別すべき

 区別できるものに付いてなら、それもいいでしょう。
 しかし通勤途上に保育園に寄るとか、スーパーによるとかは、もともと両者が混在しています。もともと混在しているときに、あえて「区別するべきだ」というふうに唱えるのは、たいていの場合、「私的要素が少しでも含まれるのならば、公的要素があるとは認めない」という主張になります。

 世の中の多くのものは、白黒がはっきりしないものです。たとえば、「大人・子供」というのも、線引きがはっきりとしません。「男・女」というのなら、比較的はっきりするようですが、近年ではトランスジェンダーなどもあって、はっきりしなくなっています。
 白黒がはっきりしないものについて、無理にはっきりさせようとすると、子供を両側から引っ張って、子供を死なせるような結果となります。

 線引きが難しいような場合には、「一律の総額を渡して、後の配分は個人に任せる」という方が合理的です。
 最悪なのは、細かな配分に国民全体が口出しして、全体の効率を下げることです。本末転倒。1円を惜しんで、百円を失う。

Posted by 管理人 at 2017年07月18日 07:29
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