2017年07月13日

◆ 電通の略式起訴取り消し

 女性社員を過労死させた電通が、略式起訴になっていたが、簡裁がその方針をくつがえした。

 ──

 東大卒の女性社員を過労死させた電通が、略式起訴になっていた。検察の方針で。
 《 電通を略式起訴=労基法違反、幹部は起訴猶予−違法残業事件・東京地検 》
 大手広告代理店電通(東京都)の違法残業事件で、東京地検が労働基準法違反の罪で法人としての同社を略式起訴したことが6日、関係者への取材で分かった。同法違反容疑で書類送検された幹部は起訴猶予処分とした。
( → 時事ドットコム 2017/07/06

 ところがこの方針を簡裁がひっくり返した。
 《 電通違法残業事件、正式裁判に 東京簡裁「略式不相当」 》
 大手広告会社の電通(東京)が社員に違法な残業をさせていた事件で、東京簡裁は12日、労働基準法違反罪で電通を罰金刑とする略式命令を不相当と判断し、正式な裁判を開くことを決めた。簡裁が検察側の略式起訴を退けるのは珍しい。新入社員の過労自殺に端を発した事件は公開の法廷で審理されることになった。
 略式起訴と略式命令は、簡単な事件について非公開の書面審理だけで罰金刑などを言い渡す手続き。より重い罰金刑や、事実の解明・明確化などの理由で略式命令を出すことがふさわしくないと簡裁が判断すれば、通常の公判が開かれる。
( → 産経ニュース 2017.7.12

 では、どうして検察は正式に起訴しなかったのか? その裏事情がわかりにくいが、朝日新聞の記事を読むと、事情がわかる。「悪質性が認められない」ということだ。
 東京地検は7日に略式起訴を発表した際、「上司が違法残業と認識して働かせていたのは4人で、時間は1カ月で最大19時間だった」と述べ、悪質性は認められないと説明。同種の事例を検討して判断した、としていた。
( → 電通の違法残業、公判へ 大企業や経営者に警鐘:朝日新聞

  東京地検は半年間の捜査で、社員の出退社記録やパソコンの使用記録などの物的証拠をもとに、社員の違法残業に対する管理職の認識を調べた。その結果、管理職らが強制的に働かせたり、出退社記録の改ざんを指示したりといった悪質性は確認できなかったという。
( → 電通違法残業、法廷へ 検察反発「特別な事件でない」:朝日新聞

 管理職らが強制的に働かせたり、出退社記録の改ざんを指示したりといった悪質性は確認できなかったという。 電通では残業時間について労使が結ぶ「36(サブロク)協定」が組合の加入率の低下で、一時無効になっていた。送検された内容に含まれた人以外も法の制限を超えて残業していたことが捜査で判明したが、検察は「上司に違法行為をさせた認識はなかった」と判断。
( → 電通の違法残業、公判へ 大企業や経営者に警鐘:朝日新聞

 しかし、検察の言い分(悪質性がないこと)は、まったくおかしな理屈だ。メチャクチャ論理である。では、なぜか? 

 そもそも、犯罪ないし違法行為では、「ことさら悪質であること」は要件ではない。
 たとえば、人殺しや泥棒などは、単にその犯罪があったということだけで処罰される。ことさら悪質性があることは要件とされない。
 今回の件では、「強制的に働かせたり、出退社記録の改ざんを指示したり」ということがなかった、ということで、「悪質さがない」と判断された。しかし、そのような悪質さは、もともと要件となっていない。
 なのに、「特別な悪質さがない」ということで免責されるのであれば、たいていの犯罪が免責されてしまう。

 たとえば、殺人犯はこう言う。
 「私はピストル一発で殺したんです。ことさら苦しめるような殺し方ではなく、被害者に優しい殺し方です。また、証拠湮滅もしていません。ですから、この殺人は、悪質性がありません」
 
 たとえば、泥棒はこう言う。
 「私は本人が知らないうちにこっそり盗んだんです。本人を刃物で傷つけたりはしていません。とても優しい盗み方です。また、証拠湮滅もしていません。ですから、この泥棒行為は、悪質性がありません」

 たとえば、交通事故で歩行者を死なせた運転手はこう言う。
 「私は自分でも知らないうちに事故を起こしたんです。事故を起こそうとして起こしたのではありません。ただの過失です。また、証拠湮滅もしていません。ですから、この過失致死は、悪質性がありません」

 以上のようにして、上記のような犯罪は「悪質性がない」ということで、略式起訴で罰金刑となっていいはずだ。(検察のメチャクチャ論理に従うなら。)

 ──

 結論。

 悪質性がないとか悪意がないとかいうのは、犯罪の構成要件には影響しない。せいぜい情状酌量の要素となるだけだ。
 なのに、「特別な悪質性がない」ということで、組織的な違法行為(それも人を死なせたこと = 会社の責任で自殺をもたらしたこと)について、ただの略式起訴と罰金刑で済ませるような検察の方針は、まったくおかしい。狂っている。

 ※ この女子社員には「労災認定」がなされている。つまり、死の原因は会社の側にあることが、はっきりと公式に認定されている。ただの偶然による事故なんかではないのだ。死は明白に、会社のせいなのだ。



 [ 付記 ]
 ただし、注意。本項の趣旨は、単なる政府批判ではない。
 なぜなら、政府そのものは、ちゃんと調査をしたからだ。つまり、「かとく」(東京労働局監督課・過重労働撲滅特別対策班)による強制捜査である。
  → 電通「屈辱の強制捜査」の大打撃!
 政府自体は、徹底的に調査した。
 しかるに、検察は、大甘な処分をした。

 なぜか? もちろん、最高権力者による指示があったからだ。たかが森友学園や加計学園のような小さな問題にすら、いちいち介入する首相なのだから、経済界全体の労働の違法行為については、介入しないはずがない。
 かくて、最高権力者の介入により、検察は「略式命令」をするしかなくなった。
 検察としては、とてつもない「権力の介入」を受けて、屈辱の極みだったろう。
 私としては、検察を批判する気にはなれない。悔しさのあまりに歯を食いしばっている検察に、大いに同情する。なぜなら、「正義の味方」を自認していた検察が、とうとう「悪の隠蔽」に加担する犯罪者の側に立ったからだ。
 検察はもはや「正義の味方」ではなくなった。「権力者の指示を受けて、悪の隠蔽に加担する」という、悪の組織に成り下がってしまったのである。自己の存在を否定されたとも言える。
 かわいそうに。私だったら、腹を切って死にたくなるところだ。それほどの屈辱だよ。

( ※ とはいえ、「長いものには巻かれろ」というふうな、小賢しい検察の上級幹部が多いのだろう。「検察や警察は腐っている」というふうに描かれる刑事ドラマも多いしね。よくある話。)



 【 関連サイト 】

 簡裁が介入して、方針をくつがえしたことについては、本サイトではいちいち論評しない。下記のサイトでも見て、人々の感想を知るといいだろう。
  → はてなブックマーク

 特に、次のコメントが秀逸だ。
shufuo 最高裁の御威光も簡裁までは届かないかもな。そもそも出世コースじゃないもんな。/所長が定年間近なのね。

posted by 管理人 at 22:05| Comment(3) | 一般(雑学)4 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
過去にも違法な残業による自殺者が出ていて、改善されることなく二人目ですから十分悪質では?
権力者の指示というより忖度の色合いが強いような気がします。
Posted by 作業員 at 2017年07月13日 22:31
 刑事ドラマや警察小説を見ていると、「政府や国会議員の圧力で、警察や検察の方針が歪められる(不起訴になる)」というような話は、しょっちゅうありますよ。日常茶飯なんじゃないかな。

 忖度というのは、下級の現場職員ならばやりそうだが、「組織のトップ部門から強力な圧力がかかって、現場の方針を正反対にひっくり返して、黒を白にする」(抵抗した現場職員は左遷する)というあからさまなのは、忖度じゃ済まないでしょう。

 事例は、フィクションだけでなく、現実にもある。
 米国大統領に逆らってクビになったのが、FBI 長官。
 安倍首相を擁護して偽証することで昇進したのが、国税庁長官。
Posted by 管理人 at 2017年07月13日 22:38
その最たるものが法相による指揮権発動ですが、明確な指示が露見することはなかなかないのでは。裁判になったとき、”そんなつもりで言ったんじゃない”という言い逃れができるような指示じゃないでしょうか。暗黙の指示と忖度の組み合わせとか。

ここの所、”検察は不起訴の理由を明らかにしていません”という報道をやたらと見聞します。
Posted by 作業員 at 2017年07月13日 23:12
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