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ネアンデルタール人との混血があった、という説は前からあった。この件については、本サイトで何度も否定してきた。あちこちの項目がある。
→ サイト内検索
どれか一つを読むなら、最初は次の項目を読むといい。
→ ネアンデルタール人との混血はなかった
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さて。つい最近、新たに「混血説」を補強する新説が出た。ある種の遺伝子調査に基づく新説だ。
原文は下記。
→ Nature Communications (英文)
→ その機械翻訳
簡単な解説は下記。
→ Nature 日本語版
わかりやすい記事解説は下記。
→ http://sicambre.at.webry.info/201707/article_6.html
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上の最後のページを読むといい。これによると、原論文は、次の趣旨だ。
ネアンデルタール人は、
(1) 核DNAで見ると、現生人類と共通して、デニソワ人とは別。
(2) ミトコンドリアDNAで見ると、前期はデニソワ人と共通し、後期は現生人類と共通する。
この (2) のことから、ネアンデルタール人ではミトコンドリアDNAの移行があったことになる。だからネアンデルタール人は、現生人類からミトコンドリアを受け取ったことになるので、ネアンデルタール人と現生人類は混血したのだろう……という推定が成立する。
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ここで、肝心の箇所は、原文の冒頭部にある。
「Neanderthal mitochondrial DNA (mtDNA) to modern humans than Denisovans has recently been suggested as the result of gene flow from an African source into Neanderthals before 100,000 years ago. 」
https://www.nature.com/articles/ncomms16046
機械翻訳はこうだ。
「デニソワ人よりもネアンデルタール人のミトコンドリアDNA(mtDNA)が現代人に近い親和性を示しているのは、10万年前にアフリカの源からネアンデルタール人への遺伝子フローの結果であることが最近示唆されています。」
ここで大事なのは、次のことだ。
(a) 現生人類にネアンデルタール人の遺伝子が流れ込んだのではなく、その逆だ。ネアンデルタール人に現生人類の遺伝子が流れ込んだ。(後者を持って前者の証拠と見なすことはできない。)
(b)現生人類にネアンデルタール人の遺伝子が流れ込んだことをもって、「両者に混血があった」と見なすには足りない。上記でも「アフリカの源からネアンデルタール人への遺伝子フロー」と記してある通りで、「アフリカの源から」であるにすぎない。
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上のことから推定できる仮説は、「混血があった」ことだけでなく、もう一つある。こうだ。
「ネアンデルタール人には、もともと2つのタイプがあった。便宜的に、タイプAとタイプBと記そう。
・ タイプAは、ミトコンドリアDNAが、デニソワ人と共通するもの。
・ タイプBは、ミトコンドリアDNAが、現生人類 と共通するもの。
この二つの集団があったが、初期はタイプAが優勢だったのに、後期ではタイプBが優勢になった」
※ 優勢というのは、数が多い、という意味。
この仮説を(ネアンデルタール人の)「2タイプ説」と呼ぼう。
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混血説は、「現生人類とネアンデルタールが混血した」という仮説だ。
2タイプ説は、「ネアンデルタール人には、デニソワ人との共通遺伝子が多い前期型と、現生人類との共通遺伝子が多い後期型があって、前期型から後期型に変化していった」という仮説だ。
この二つの、どちらが正しいか?
この二つは、どちらも「現生人類とネアンデルタールに共通遺伝子がある」ということを説明する。その意味で、どちらも正しい可能性がある。「共通遺伝子がある」という点だけで判断する限り、どちらも問題ない。(優劣もない。)
ただし、次の点では、差が付く。
「共通遺伝子が種の全体に拡散することを説明できるか?」
混血説の場合、混血によって生じた共通遺伝子は、種の一部分にあるだけだ。それが種の全体に拡散するためには、その共通遺伝子が種において圧倒的に有利である(それなしでは致命的である)ということが必要だ。
しかしながら、それは成立しない。
(i) その遺伝子は、ネアンデルタール人から現生人類において進化する時点で、いったん捨てられたものである。それほど有利な(圧倒的に有利な)遺伝子が、いったん捨てられるというのは、矛盾だ。
(ii) その遺伝子は、圧倒的に有利であるどころか、重要性がない遺伝子(= ほとんど無意味な遺伝子 = あってもなくても差の少ない遺伝子)であることが、すでに判明している。下記項目をに記したとおり。
→ ネアンデルタール人との混血はなかった(証拠)
かくて、混血説は、矛盾に至る。
2タイプ説の場合、共通遺伝子が置き換わるのは、(種内の)遺伝子淘汰によって置き換わるのではない。種そのものが(亜種レベルで)置き換わるのだ。ここでは、個別遺伝子の優劣によって
デニソワ人との共通遺伝子 → 現生人類との共通遺伝子
という遺伝子淘汰が起こるのではない。かわりに、
デニソワ人との共通遺伝子をもつ集団 → 現生人類との共通遺伝子をもつ集団
つまり、
タイプAの集団 → タイプBの集団
という種間競合による淘汰があったのだ。
( ※ ただし、種レベルでなく亜種レベルで。)
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結論。
混血説では、「共通遺伝子が現生人類の一部から全体に拡散した」ということを説明できない。矛盾に至る。
2タイプ説では、ネアンデルタール人にタイプAからタイプBへの移行があったことが説明できる。(種間競合による淘汰という形で。)
かくて、混血説を捨てて、2タイプ説を取ることで、すべては矛盾なく説明できる。
[ 補足 ]
2タイプ説が正しいとして、2タイプのうちの「後期型」つまり「タイプB」は、いかにして出現したか?
これについては文中に述べた通り。こうだ。
「ネアンデルタール人には、もともと2つのタイプがあった」
つまり、もともとタイプAとタイプBがあったのだ。そのうち、タイプBの方からは、のちに(進化を経て)現生人類が誕生した。だから、タイプBと現生人類には、共通遺伝子がある。
両者がもともと共通遺伝子を持っていたとすれば、「両者がのちに混血した」というような仮説を必要としない。この点については、混血説の否定という形で説明した。下記。
→ ネアンデルタール人との混血はなかった
[ 付記1 ]
そもそも、発想の仕方からして、2タイプ説の方がはるかに自然だ。
タイプAは、デニソワ人との共通遺伝子をもつ古いタイプのネアンデルタールである。
タイプBは、現生人類との共通遺伝子をもつ新しいタイプのネアンデルタールである。
つまり、タイプBの方が、現生人類に近くて、いっそう進化した種なのであるから、進化的に古いタイプから新しいタイプに移行するのは、当然のことなのだ。かくて、すべては普通の認識で理解できる。
一方、混血説は、逆だ。「進化的に新しい種が、いったん捨てた古い遺伝子を取り戻す」ということだから、「進化の逆行」である。こんなことは論理的にあり得ない。
これを比喩的に言うと、次のようになる。
「人間がチンパンジーと混血すると、樹上生活で有利である。だから、人間とチンパンジーはどんどん混血して、樹上生活をするようになった」
しかし、こういう馬鹿げたことはあり得ない。それが進化の原則だ。
ネアンデルタールと現生人類との混血というのは、それくらい馬鹿げた仮説なのである。
[ 付記2 ]
nature の原論文を読むと、「混血説」が正しいように見える。しかしそれは、「2タイプ説」を知らないからだ。
「混血説」は、ある程度の妥当性があるように見えるが、一方で、大きな矛盾を含む。しかし、それしか知られていないから、人々は「混血説」を支持したがる。
しかしながら、「2タイプ説」を知れば(つまり本項を読めば)、「混血説」よりもいっそう正しい(矛盾を含まない)新たな説を知ることができる。
[ 付記3 ]
「種間競合があった」という点について、「どんな?」という疑問が生じるかもしれない。「二つの種の間で、戦いで勝敗があったのか?」と。
実は、これは「ネアンデルタールはなぜ絶滅したのか?」という話題とも共通する。これについての私の回答は、こうだ。
「病原菌への抵抗力の差で、ネアンデルタール人は絶滅した」
つまり、現生人類は病原菌への抵抗力が強く、ネアンデルタールは病原菌への抵抗力が弱かったので、後者が絶滅した、というわけだ。
この件は、サイト内検索で見つかる。
→ サイト内検索
ネアンデルタール人の、タイプAとタイプBの種間淘汰も、同様だろう。つまり、病原菌への抵抗力が理由だろう。たぶん。……私としては、そう推定する。
[ 付記4 ]
すぐ上では「種間淘汰」という言葉を用いたが、これは不正確な表現である。異なる種同士の間では、「自然淘汰」の原理は働かないからだ。正しくは「種間競合」と呼ぶべきだ。
異なる種の間で、競合関係が働くことで、一方が絶滅して他方が存続する……ということはある。このことは、下記項目で説明した。そちらを参照。
→ 種の絶滅は不適者絶滅(適者生存)?
タイムスタンプは 下記 ↓
タイムスタンプは 下記 ↓
晩期ネアンデルタール人(後期、タイプBの集団)は、現生人類との共通先祖から別れて長い年月が経過していて、長い年月進化した分ネアンデルタール人の形態的特徴が強い。
ネアンデルタール人の形態的特徴とは、「脳頭蓋は前後に長く、額は後方に向かって傾斜している」などです。
私は、以上のように理解していました。
この私の理解と管理人さんの説を合わせて考えると、以下の矛盾が生ずるように思いました。
「管理人さんの言われるタイプBのネアンデルタール人は現生人類との分岐が遅いのに、現生人類との形態的差が大きい。」
「管理人さんの言われるタイプAのネアンデルタール人は現生人類との分岐が早いのに、現生人類との形態的差が小さい。」
この矛盾が実際にはあるのかどうか、矛盾があるとすれば、その原因(どの考えが誤りか)を教えてくださるようお願いします。
タイプAとタイプBが分岐したのは、ごく初期です。
タイプAとタイプBは、早期ネアンデルタール人と後期ネアンデルタール人のことではありません。
早期ネアンデルタール人は、タイプAとタイプBの双方が含まれます。どちらもホモ・エレクトスに近い。
後期ネアンデルタール人も、タイプAとタイプBの双方が含まれます。ネアンデルタール人的形質が強い。
タイプBの一部から、初期に、ホモ・サピエンスが出現しました。その量はとても少なくて、化石としては現れない。
化石としてのタイプBには、後期ネアンデルタール人と早期ホモ・サピエンスの双方がありますが、タイプBが出現したのは、化石として現れる時期よりもずっと古くて、タイプAの出現時期とほぼ同じです。
タイプA ─ ネアン(前期・後期)
原型 <
タイプB < ネアン(前期・後期)
ホモ・サピエンス
> 早期ネアンデルタール人(前期、タイプAの集団)は、現生人類との共通先祖から別れてあまり年月が経過しておらず
この認識は誤り。 「前期 ≠ タイプA」となります。
> 晩期ネアンデルタール人(後期、タイプBの集団)は、現生人類との共通先祖から別れて長い年月が経過していて、長い年月進化した分ネアンデルタール人の形態的特徴が強い。
この認識は誤り。 「後期 ≠ タイプB」となります。
なお、タイプAとタイプBは、進化的には差はなかったと思えます。地理的な差から、人種(亜種)レベルの差があっただけ。タイプBは、アフリカにいて、そこから初期に分岐した一部が、ホモ・サピエンスにつながった。
なお、タイプAからタイプBに変化した(進化した)わけではありません。集団の交替があっただけです。
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質問としては、いい質問ですね。
私としても、考えを整理することができました。ありがとうございます。
タイプA ─→ ネアン(前期A)多い →→→→→ ネアン(後期A)少ない
原型 < 形態的にホモサピエンスに近い
→ネアン(前期B)少ない →→→→→ ネアン(後期B)多い
タイプB < ホモサピエンスに形態的に近い 形態的にホモサピエンスと違いが大きくなるように進化した
→ホモ・サピエンス少ない →→→→→ ホモ・サピエンス 多い
上の図で理解でよろしいでしょうか?
「後期ネアンBは遺伝的にはホモサピエンスに近いが、急速に進化して形態的には差が大きい」と考えればよいわけですね、
早期ネアンデルタール人と晩期ネアンデルタール人のDNAを比較して差が多いという結果が明らかになってくれば、早期ネアンデルタール人がその集団のまま晩期ネアンデルタール人に進化したわけではなく、集団の交替があったということが証明されますね。