2017年06月09日

◆ 日産が自動ブレーキを改善

 日産が自動ブレーキを改善した。セレナの自動ブレーキはきわめて低品質であったが、高品質のものに改善した。

 ──

 この件は、前項のコメント欄で情報を得たので、新たに調べてみた。すると、たしかに改善があった。

 メカニズム自体は「単眼カメラだけ」であるのだが、システムの性能が向上して、時速 50km でも正常作動する(つまり衝突しない)ようになったのだ。





 他にも動画の一覧がある。下記。
  → JNCAP|予防安全性能アセスメント -

 なお、上記の試験結果が公表されたのはいつかというと、 2017.05.29 だとのことだ。
  → JNCAPトップページ
  → PDF 資料

 ──

 この情報はいつの情報か? 本日は 2017-06-09 なので、1週間ほど前に出たばかりの、ホヤホヤの情報だということになる。
 日産の自動ブレーキ自体が改善されたのは、いつか? もちろん、もっとずっと前だろうが、それがいつなのかは、ちょっとわからない。ネットを検索しても、「日産が自動ブレーキを改善した」という情報は出てこない。日産自身が発表していないようだ。

 というわけで、日産の自動ブレーキは、(単眼カメラだけの方式であるにもかかわらず)性能が著しく向上した。私が何度も批判した効果が、少しはあったのかもしれない。
 性能の向上があったことについては、称賛しておこう。

 ただ、性能の向上があったことを隠しているのは、いただけない。向上したのなら「向上しました」と告知するべきだろう。……とはいえ、「新車発売から半年もたたずに安全装備を全面刷新しました」なんて、恥ずかしくて、言えないのかもしれない。既存のユーザーからもクレームが来そうだし。「欠陥商品を売るな! 新装備に無償交換しろ!」と。(だから黙って、口を閉じて、ほおかむりしているのかもね。)


 ※ なお、性能が向上した理由は、モービルアイのシステムが新世代のシステムに改善されたからだ。下記に情報がある。
  → 国沢光宏 | 自動車評論家 6/1(木)

 ──

 とはいえ、これで手放しで称賛する、というわけではない。まだ問題は残っている。

 (1) 単眼カメラ方式の弱点

 単眼カメラ方式には原理的な弱点がある。それは「低コントラストの対象は検知しにくい」ということだ。
 たとえば、「闇夜のカラス」に似ているが、「灰色の背景のなかで灰色の自動車」というのを見ても、検知しにくい。赤い後尾灯をうまく認識できればいいが、雨や夕方などで認識しにくいときには、認識ミスが起こりやすい。
 自動運転または自動ブレーキで、単眼カメラ方式には、致命的な難点がある。それは「低コントラストの対象を認識できない」ということだ。
( → 単眼カメラ方式の欠陥(自動運転): Open ブログ

 実際、過去に生じた「自動ブレーキが不作動で衝突した」という事例では、こういう状況だった。(昨年の事故)
  → 自動ブレーキが不作動(日産セレナ)

 新しくなったシステムでは、状況はいくらか改善されているだろうが、「低コントラストの物を認識しにくい」という単眼カメラ方式の限界は、どうしようもない。
 今回の新システムの性能向上は、たぶん画像の解像度を向上させることで実現したのだろうが、システムの原理的な問題については、回避することはできない。
 「日産のセレナだけは性能が著しく低い」
 という問題は回避されたのだが、「雨や曇りに弱い」という問題が回避されたわけではない。(いくらか問題は軽減されただろうが。)

 (2) 歩行者安全性の向上

 単眼カメラ方式は、(横断中の)歩行者への安全性が高い。「広視野に強い」および「レーダー反射を必要としない」という長所を持つからだ。これは、ミリ波レーダーにはない長所である。
 実際、試験結果の一覧を見ても、日産の新システムが最も高性能であるようだ。
  → JNCAP|予防安全性能アセスメント(各社一覧)







 この試験結果をもって、「日産の対歩行者安全性は最高だ。ベンツをしのぐ」と手放しで称賛する評論家もいる。
  → 国沢光宏 | 自動車評論家 6/1(木)

 だが、私としては、これに同意しない。
 なるほど、「遮蔽物なし 時速 60km」のときの安全回避は、よくできている。
 一方、「遮蔽物あり 時速 45km」のときの安全回避は、試験そのものが無意味だ。この件は、前に述べた。
 自動ブレーキの対人衝突試験を国交省が実施しているが、これには根源的な欠陥がある。試験として、ナンセンスだ。
   (中略)
 仮に横断歩道のある状況で歩行者が横断しようとしているのであれば、事態はもっと深刻だ。なぜなら、この場合には、歩行者を認識して自動ブレーキをかける以前に、自動車は停止する必要があるからだ。
   (中略)
 正しい試験は、こうだ。(*)
 「横断歩道の前で先行車両が停止しているという状況で、試験車両はきちんと一時停止するか否か」
 「それを確認するためには、歩行者(人形)はいきなり飛び出す必要がある」
 「また、路面には、横断歩道の縞模様を塗っておく必要がある」
( → 自動ブレーキと横断歩道: Open ブログ


 最後の動画を見ればわかるように、歩行者を発見する時点で、歩行者と自動車の距離は 10メートル以上ある。しかし現実には、もっと短くするべきだ。つまり、停止車両の脇を抜ける直前に、いきなり歩行者が目の前に飛び出すようにするべきだ。そして、それでも衝突しないようなシステムこそが、安全なシステムなのである。なぜなら、そういう行動を取るべきことが、道交法で規定されているからだ。
 「横断歩道の手前で、先行車両が停止しているときには、後続車もまた、横断歩道の手前で停止する義務がある」
 というふうに。
 つまり、法規を守る限りは、「歩行者がいきなり飛び出す」という事例に十分に対処できる。
 なのに、この試験は、そういう状況を設定していない。10メートルぐらい前で検知して自動ブレーキをかける、という無意味な設定にしている。これでは「交通法規を守らないで、違法な危険運転をしても、安全です」ということを試験しているだけだ。違法行為の推奨みたいなものだ。

 こんな馬鹿げた試験はやめるべきだし、馬鹿げた試験結果を公表しても意味がない。「歩行者がいきなり飛び出す」という形の試験を実施するべきだ。

( ※ 今回のように「10メートルぐらい前に歩行者が飛び出す」という形の試験は、あってもいいが、重視するべきではない。先の国沢光宏のページでは、手放しで礼賛しており、他社の自動ブレーキを「全く役に立たない自動ブレーキ」とまで酷評しているが、とんでもないことだ。安全対策の意義を間違えている。むしろ、「法律を守って横断歩道を渡っている歩行者を、道交法無視の違法行為で轢き殺すことを許容するシステムだ」というふうに批判するべきだろ。)

posted by 管理人 at 06:49 | Comment(5) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
管理人さんの仰ることは理想ですが、そもそもこの試験は、色々出揃ってきた各社の現行のシステムが対応できる範囲で、どの程度の対応が可能か、を定量的に予防安全性能として評価しているわけです。ですから、そもそもメーカーが未対応だと言っている夜間の検知性能などは評価していないわけです。
試験方法の詳細が公開されておりますが、ご覧になられた事はありますか?
すなわち、メーカーが時速xxの時なら停止できる可能性がある、ただし視界がよければね、と言っているのを無視して、直前で飛び出すテストをしても、評価にならないわけです。
全員が赤点をとるテストをしても、このアセスメントの目的にはそぐわないわけです。どこか1社でも、至近距離の飛び出しに対応した、と言い始めれば別ですが。念の為言えば、開発側では社内の評価でやってますよ。
国沢さんが手放しで褒めているのは、私も理解できませんが。評論家なので、お金と仕事をくれるところを褒めているだけかもしれませんね。
Posted by 愛読者 at 2017年06月10日 01:04
 私が言いたいことは「直前で飛び出しをするテストをするといい」ということではなくて、「赤信号と横断歩道を検知する自動停止システムを搭載しろ」ということです。このようなシステムを搭載しれば、直前飛びだしへの対処は可能です。赤信号と横断歩道で自動停止すれば、直前飛び出しがあろうとなかろうと、自動停止する。(一部では実現済み。たとえばテスラやスバル。)

 なのに現実には、国交省がこういうシステムを搭載することを禁止している。開発済みでも搭載禁止。
 そういう馬鹿げた倒錯をやめて、まともなシステムを搭載しろ、というのが私の趣旨です。別項に書いてある通り。
  → http://openblog.seesaa.net/article/449032469.html
 そのまたリンク先
  → http://openblog.seesaa.net/article/435851664.html

 ──

 まあ、自動ブレーキの性能チェックとしてなら、現状の方式も悪くはない。特に、先行車の停止が ない 状態での歩行者安全性チェックは、現行のままでもいい。
 ただ、先行車の停止が ある 状態での歩行者安全性チェックは、現行の方式をすればいいということではなくて、「自動ブレーキとは別の方式を導入する必要があるのに、それが見失われているから、きちんと対処しろ」ということです。要するに、赤信号の自動検知システムを、国交省が勝手に搭載禁止するな、ということ。
 現状のテスト(上記の動画)は、国交省の政策ミスを隠蔽するような形のテストになっている。そこが問題。

 なお、赤信号で自動停止というシステムは、ただの「理想」ではなくて、実現済みの技術です。単に搭載が禁止されているだけ。(テスラのように搭載済みの車種では、国内販売分ではシステムを OFF にするように強制されている。)

 ──

 本文は、舌足らずでしたね。このコメントで、本来の趣旨を述べておきます。補足する形。
Posted by 管理人 at 2017年06月10日 05:05
日産車に搭載されているカメラはZF TRW社のS-Cam3です。とうぜんadasシステムもZF TRW社製です。
今回はadasシステムが改良されたという事ですね。
Posted by hakou at 2017年09月19日 13:08
> ZF TRW社のS-Cam3

 これについての参考ページ。
   http://www.furuno.com/jp/its/articles/20160923/

 以下、引用。

 ──

 日産が採用している「同一車線・自動運転」の基本技術は、イスラエルを拠点に画像認識を専門とするモービルアイ社の技術を利用する。モービルアイは、アメリカのGM、スウェーデンのボルボ、ドイツのアウディなどに画像認識に関する解析技術を提供している。
 モービルアイの技術を使う場合、ハードウエアとしては、単眼カメラを使用する。供給するサプライヤーは欧米の大手数社で、 日産の場合はアメリカのZF・TRW社製だ。
また、他の自動車メーカーの場合、単眼カメラと前方の状況を検知するミリ波レーダーを併用する場合が多いが、日産では単眼カメラのみで対応している。
Posted by 管理人 at 2017年09月19日 18:51
日産の国内仕様全て外国仕様のお下がりみたいな造りをしていて日本人を馬鹿にしてます。
新型日産リーフの欄でも述べましたインパネの向きやサイドブレーキの左に偏り過ぎた位置等も非常に問題が有ります。
Posted by RVR乗り at 2017年09月21日 16:58
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ