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記事を引用しよう。
これまでで最古となる30万年前の現生人類の化石を北アフリカのモロッコで発見したと、ドイツなどの国際チームが8日付の英科学誌ネイチャーに発表した。従来の年代を10万年近くさかのぼり、考えられていたより早い時期にアフリカで現生人類が進化したことを示す証拠だとしている。
ただどの化石を現生人類に含めるかや、年代測定の信頼性などを巡って専門家に異なる意見もあり、議論を呼びそうだ。
化石から復元した頭蓋骨は顔立ちが現代人に似ている一方、頭部の形状にネアンデルタール人に似た原始的な特徴が残っていた。チームは「アフリカ大陸での石器文化の広がりと相まって初期の現生人類が進化した」とみている。
チームは2004年からモロッコ西部のジェベル・イルード遺跡を調査し、5人の頭やあごの骨を発掘。石器も含めて分析し、35万〜28万年前のものだと結論付けた。現生人類ではエチオピアで出土した20万年前の化石がこれまでで最古。南アフリカでは現生人類の可能性がある26万年前の頭蓋骨片が出ている。
( → 化石:30万年前、最古の現生人類 モロッコで発見 - 毎日新聞 )
現生人類ホモ・サピエンスは、30万年前にアフリカに生息し、現代の人々とそう変わらない顔つきをしていたとする論文が7日、発表された。人類の起源が定説より10万年早かったことを示す研究結果だ。
ホモ・サピエンスは約20万年前にアフリカ東部に現れたというのが20年来の通説だったが、英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された2件の論文によれば、これを覆す画期的な化石がモロッコで見つかった。
この発見により人類の進化の系統図が書き換えられ、既に絶滅したホモ属の一部が人類の祖先としての候補から除外される可能性もある。
2件の論文は、古代人類5人の頭蓋骨と骨のかけらや、狩猟や食肉処理に使われていた石器に基づくもの。いずれも、現在のマラケシュ(Marrakesh)に近いジェベリルー(Jebel Irhoud)にある先史時代の野営地から見つかった。
独マックス・プランク進化人類学研究所(Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology)の古人類学者、ジャンジャック・ユブラン(Jean-Jacques Hublin)氏は「この資料は人類の起源を示すもので、アフリカを含むあらゆる場所で見つかった中で最も古いホモ・サピエンスだ」と語っている。
これまで最も古いとされてきた19万5000年前の化石は、エチオピアで見つかった。この発見は、アフリカ東部が進化上の「エデンの園」、つまり、人類がアフリカ内外へと広まった起源の地であるとの説につながった。
研究チームは、新たな発見により、いわゆる「人類のゆりかご」がアフリカ全土に広がっていたことが示されると指摘している。
モロッコで見つかったのと同じ種類の「中石器時代」の石器は、すでにアフリカ各地で見つかっていて、年代もおおむね同じとされているが、これまではホモ属内の別種の人類が作ったと考えられてきた。
だが今回の発見により、すでにアフリカ中に広まっていた現生人類がこれらの石器を作っていた可能性が高まった。
( → 人類の起源は30万年前、定説覆す化石発見:AFPBB News )
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以上の話を読んだ上で、私の見解を示そう。論点は二つある。
(1) 50万年前に分岐
30万年前の化石が見つかったということだが、驚くべきことではない。なぜなら、ホモ・サピエンスがネアンデルタール人から分岐したのは、およそ 50万年前だろう、とすでに推定されていたからだ。
→ ホモ・サピエンスの誕生: Open ブログ
ここで示したように、発見された化石の年代は、近年、
10万年前 → 16万年前 → 20万年前
というふうに、どんどん古くなっていった。ここにさらに今回、もう一つ追加されて、
10万年前 → 16万年前 → 20万年前 → 30万年前
となったわけだ。別に、驚くことではない。それどころか、もともと予想されていたとも言える。
→ 人類の進化のシナリオ: Open ブログ
ここでは、「上記の図式によれば、当然、見つかっていいはずなのだが」というふうに述べてある。つまり、20万年前よりも古い化石が見つかることが予想されている。
とすれば、今回の化石の発見は、「予想通りになった」というだけのことだ。
( ※ Openブログの予想が、また当たったわけだ。)
なお、20万年前よりも古い時期のホモ・サピエンスがどうであったかについては、上記項目を読むといいだろう。
(2) 進化の地域
ホモ・サピエンスの進化はどこで起こったか? これについては、朝日の記事を見よう。
アフリカ北部のモロッコで、約30万年前のものとみられる初期の現生人類ホモ・サピエンスの骨を、独マックス・プランク進化人類学研究所などの研究チームが発見した。ホモ・サピエンスは、約 20万年前にアフリカ東部で出現したと考えられていたが、その前からアフリカ全土で徐々に進化した可能性があるという。
( → 朝日新聞 )
アフリカ東部(エチオピア)でホモ・サピエンスの化石が多く見つかったので、ここで 20万年前にホモ・サピエンスが出現したと思われたのだが、実は、それより古い化石がアフリカの別の場所でも見つかったことになる。
・ 19.5万年前にエチオピアで
・ 26万年前に南アフリカで
・ 30万年前にモロッコで
こういうふうに、遠く離れた別々のところで、進化が別々に発生したことになるのだろうか?
つまり、上記の根元には、共通祖先としてのネアンデルタール人(みたいなもの)があって、そこからフォークふうに、上の三つが分岐したのだろうか?
もしそうだとしたら、「単一起源説」は否定されることになる。これまでは「アフリカ単一起源説」というのと、「アフリカとアジアでの複数起源説」というのがあったあとで、後者が否定された。
一方、今回は「アフリカ内での複数起源説」というのが成立するのだろうか?
もちろん、複数起源説はありそうにない。それ以前のハイデルベルク人の化石なら、アフリカの各地で見つかっているので、それらの延長上にあるものなら、アフリカの各地にあってもおかしくない。
一方、ホモ・サピエンスならば、単一起源説しかありえない。まったく同じ進化がアフリカの各地で発生することなど、あり得ないからだ。
( ※ 仮に複数の進化が同時にあったとしても、ハイデルベルク人から、ホモ・サピエンスとは別の新人類が発生するだけだ。その新人類が三つともホモ・サピエンスであることなど、確率的に言って絶対にあり得ない。)
では、真相は? たぶん、次のいずれかだ。
(i) 26万年前と 30万年前のは、ハイデルベルク人の延長上にあるもの(子孫の一種)であり、ホモ・サピエンスではない。
(ii) 20万年前と 26万年前と 30万年前のは、ともに同一起源である。複数起源(別個の起源)ではない。
報道されたように、今回の化石がまさしくホモ・サピエンスの化石であるとすれば、(i)は否定される。となると、自動的に (ii) が真相だということになる。
この場合、どういうことを意味するか?
まず、最初の起源はどこであるのかは不明だが、ともかく、ハイデルベルク人の住んでいた領域(アフリカ全土)のどこかで、ホモ・サピエンスへの進化が起こった。その進化は1箇所だけで起こった。
その後、ホモ・サピエンスの子孫が、(最初の場所から)アフリカ南部やモロッコやエチオピアに進出した。そのうち、エチオピアに進出したホモ・サピエンスだけが、特別に繁栄した。一方、アフリカ南部やモロッコに進出したホモ・サピエンスは、あまり繁栄しないまま、エチオピアにいたホモ・サピエンスに呑み込まれた。(混血も起こった。)
このように解釈できる。
[ 付記1 ]
上の解釈は、実は、重要な結論をもたらす。次のことだ。
「エチオピアにいたホモ・サピエンスと、エチオピア以外にいたホモ・サピエンスとは、遺伝子的にはいくらか異なる集団である」
ここから、次の可能性が考えられる。
「エチオピア以外にいたホモ・サピエンスでは、ほとんど不要になった遺伝子を、遺伝子プールから消失した」
このことは、次のことと等価である。
「エチオピアにいたホモ・サピエンスでは、ほとんど不要になった遺伝子を、遺伝子プールから消失しなかった」
このことは、次のことと等価である。
「エチオピアにいたホモ・サピエンスでは、ネアンデルタール人やデニソワ人と共通する遺伝子を、遺伝子プールから消失しなかった」
ここでは、「ホモ・サピエンスが、ネアンデルタールやデニソワ人と混血した」ということなしに、「ホモ・サピエンスが、ネアンデルタールやデニソワ人と共通遺伝子をもつ」ということが説明される。
このことで、「ホモ・サピエンスが、ネアンデルタールやデニソワ人と混血した」という説は否定されることになる。
( ※ 共通遺伝子があることを持って「混血した」という主張が出たが、別に、混血なしでも、共通遺伝子の存在は説明されるからだ。しかも、異種間の混血という、ありそうもない仮定を前提としないで、ごく普通の状況で、説明可能である。)
[ 付記2 ]
《 以下は取り消します。かわりに後述の 【 追記 】 をお読みください。》
上のことから、新たに結論できることがある。それは、
「ホモ・サピエンスが誕生したのは、アフリカ東部(エチオピア)であろう」
ということだ。
なぜなら、この場合には、次のことが成立するからだ。
「ホモ・サピエンスが誕生したのは、アフリカ東部(エチオピア)である。その後、一部は、アフリカの中部や西部や南部に進出したが、その途中で、不要な遺伝子を失った」
一方、
「ホモ・サピエンスが誕生したのは、アフリカ東部(エチオピア)ではない」
という場合には、次のようになるはずだ。
「ホモ・サピエンスが誕生したのは、アフリカ東部(エチオピア)以外である。それらのホモ・サピエンスは、不要な遺伝子を失った。ただし、その一部が、アフリカ東部(エチオピア)に達して、そこで、ネアンデルタール人やデニソワ人との共通遺伝子を獲得した。つまり、ネアンデルタール人やデニソワ人と混血した」
これは、理論としては考えられるが、現実的にはあり得ない。ネアンデルタール人やデニソワ人が、アフリカ東部(エチオピア)に、大量に存在したはずがないからだ。
というわけで、以上のことから、
「ホモ・サピエンスが誕生したのは、アフリカ東部(エチオピア)である。その後、一部は、アフリカの中部や西部や南部に進出したが、その途中で、不要な遺伝子を失った」
という説が正しい、と結論できる。これですべては矛盾なく説明できる。
( ※ 一方、ネアンデルタール人やデニソワ人との混血説は、さまざまな問題点[矛盾と言っていいほどの問題点]を含む。)
( ※ 「エチオピアではなく、出アフリカ後に、メソポタミアで混血した」という説も考えられる。だが、これには無理がある。「その地で大々的に混血した」、つまり、「ほとんど全員に混血遺伝子が行き渡るほど大規模に混血した」ということは、まずありえないからだ。詳しくは → サイト内検索)
【 追記 】
コメント欄にも書いたが、新たに次のように 追記・訂正 する。
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本項に加えて、
http://openblog.seesaa.net/article/435847942.html
を参照して、話をまとめれば、こうなりそうだ。
最初にホモ・サピエンスが誕生したのは、47万年ぐらい前に、地中海沿岸で。それはハイデルベルク人から進化したもの。これは小規模なので、地図上では ・ で示される。
その後、アフリカ全土の各地に拡散した。そのせいで、あちこちで化石が発見される。アフリカの西部や南部でも。それらが、本項で示したもの。
その後、特にアフリカ東部では大規模に増加した。これは地図上では ● で示される。
ここから、東部以外にひろがっていく。特に西部方向に広がったのが、ネグロイド(顔が偏平タイプ)。これらは、ネアンデルタール人やデニソワ人との共通遺伝子を失った。
以上で、すべては説明が付く。
──
これは、 [ 付記2 ] とはどう違うか?
最初に誕生したのは、東部以外(地中海沿岸)なのだが、その後東部で、実質的に誕生した。最初に誕生したのは、その種の「中核」となるもので、 ・ というふうに示される。その後、東部では、主を形成するに足るほど多く増えてので、 ● というふうに示される。
種の根源としては、東部以外で 47万年前に誕生したのだが、種という集合体としては、その後に東部で確立した。この東部の ● から、現生人類全体への流れが生じる。アフリカ西部に流出した人類(ネグロイド)もそうだ。
一方、東部以外に進出した初期の現生人類は、たぶん、滅びてしまった。というか、数が少ないので、(同種として)混血するうちに、遺伝子が拡散してしまったのだろう。遺伝子的には大差がないので、混血しながら、遺伝子の多様性をもたらしただけだっただろう。
その意味では、アフリカ各地にいる現生人類は、 47万年前の人類の遺伝子を部分的に含んでいる個体も多い、と見なせる。アフリカ人の遺伝子の多様性は、ここからも来ているのだろう。
【 関連項目 】
→ ネアンデルタール人との混血はなかった
ここで述べたことが、本項の化石的事実で、いっそう補強された、と言えるだろう。
タイムスタンプは 下記 ↓
【 追記 】ホモ・サピエンスが誕生した地は、どこか? アフリカか?
ホモ・サピエンスが誕生したのは 47万年前で、その場所は、地中海沿岸のどこかだろう。
以上の管理人さんの7年前の記述(仮説)にあう、今回の「30万年前の現生人類の化石を北アフリカのモロッコで発見」
現生人類の発祥の地を、東アフリカではなく、地中海沿岸と推測した慧眼に、感服しました。
http://openblog.seesaa.net/article/435847942.html
を参照して、話をまとめれば、こうなりそうだ。
最初にホモ・サピエンスが誕生したのは、47万年ぐらい前に、地中海沿岸で。それはハイデルベルク人から進化したもの。これは小規模なので、地図上では ・ で示される。
その後、アフリカ全土の各地に拡散した。そのせいで、あちこちで化石が発見される。アフリカの西部や南部でも。それらが、本項で示したもの。
その後、特にアフリカ東部では大規模に増加した。これは地図上では ● で示される。
ここから、東部以外にひろがっていく。特に西部方向に広がったのが、ネグロイド(顔が偏平タイプ)。これらは、ネアンデルタール人やデニソワ人との共通遺伝子を失った。
以上で、すべては説明が付く。