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南スーダン PKO が終了した。
南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣されていた陸上自衛隊の最後の部隊が27日午前に帰国した。5年あまり続いた南スーダンでの施設部隊の活動が終了した。
帰国したのは、南スーダン第11次隊長の田中仁朗・1等陸佐ら40人。第11次隊は陸自第9師団(青森市)を中心に約350人で編成。昨年11〜12月にかけて派遣され、道路補修や避難民向けの施設整備を進めた。
また、安全保障関連法に基づいて「駆けつけ警護」と宿営地を守る「共同防護」の任務が初めて加えられたが、実施はされなかった。
( → 朝日新聞 2017-05-27 )
大騒ぎした「駆けつけ警護」や「共同防護」については何もしないで、銃弾を撃つこともなく、任務は終わったようだ。
それでも現地の警護や土木工事などについては、高く評価されているようだ。
南スーダンの国連平和維持活動(PKO)、国連南スーダン派遣団(UNMISS)のトップを務めるデビッド・シアラー事務総長特別代表が25日、首都ジュバで朝日新聞と会見した。
シアラー氏は25日に最後の部隊が撤収した陸上自衛隊について、「素晴らしい仕事をしてくれた」と評価。撤収後も、内戦状態に陥っている南スーダンの安定へ日本が人道支援を続けるよう希望した。
シアラー氏は、現地で5年以上PKO活動に従事した自衛隊について、「最高レベルの施設部隊だった」と称賛。そのうえで「日本は南スーダンで人道支援や(対立する部族の)和解の取り組みに積極的に貢献してきた。続けない理由はない」と強調した。
また、UNMISSの文民要員として、軍・警察以外の任務に従事する日本人の国連職員7人にも言及。「大変素晴らしい仕事をしている」と述べ、UNMISSに参加する日本人が増えることを期待するとした。
( → 陸自撤収後も人道支援希望 国連南スーダン派遣団トップ:朝日新聞 2017-05-27 )
非常に高く評価しているように見える。これを見て、「やっぱり自衛隊の派遣は正しかったんだ!」と大喜びする人も多そうだ。
とはいえ、よく読もう。褒めた言葉のあとには、「だから続けてほしい」というふうに続く。単に称賛するというよりは、「今後も続けてもらうために褒めている」というふうに理解するのが正しい。
これは人生の世知のようなものだ。人に褒められて大喜びする人もいるが、褒める言葉のあとには「もっとお願いします」という意味があるとわきまえよう。これは要するに「ヨイショする」「おだてる」ということだ。豚もおだてりゃ木に登る。喜んでばかりいるのでは、単細胞だ。
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ここで PKO の意義を考えよう。
私としては、次のように評価したい。
・ やったこと自体は、現地にとってプラスであり、効果はあった。
・ とはいえ、その貢献内容の大部分は、土木工事である。
・ 治安関係(平和維持関係)では、ほとんど貢献しなかった。
・ コスト的には、やたらと高額のコストがかかった。
(自衛隊派遣の人件費。特別手当てを込みで。)
一言で言えば、「コスパが悪い」だ。そこで、もっとコスパのいい方法を提案したい。(代案として。)
私の提案は、こうだ。
・ 自衛隊は派遣しない。(高コストなので)
・ しかし PKO 自体は実施する。(必要なので)
この二点を同時に満たす方法は、こうだ。
・ 現地の人を治安維持部隊として雇用する
要するに、「傭兵」だ。これならば、次のメリットがある。
・ 現地の人を雇用するので、低コストである。
・ 日本人を派遣しないで済むので、日本人の危険が少ない。
・ 日本人の危険が少ないので、部隊自体は危険な活動ができる。
・ 治安維持活動も実施できる。
・ 傭兵を維持したあとは、あとで政府軍に移管できる。
以上は、軍事的なメリットだ。さらに付随して、文化的なメリットもある。
・ 兵には、軍事訓練のほか、教育を行う。(国語・英語・数学)
・ 教育を受けたうちの優秀な人は、官僚に登用する。
・ 高度に知性的な人材を得ることで、官僚組織を形成する。
このうち、最後の点が最も重要だ。まともな官僚組織を形成することこそ、国家運営において最も重要なことだからだ。また、これならば独裁者の恣意的な運用ができなくなるので、永続的な平和を実現しやすい。
その成功例は、ザンビアに見られる。
2012年に発表された世界平和度指数ランキングでは158か国中51位となり、アフリカでもっとも平和な国の一つとして評価されている。
( → ザンビア - Wikipedia )
高層ビルも乱立しているし、道路もきれい、洗練された街並み。
( → ザンビアの首都ルサカ 都会過ぎて怖気づく )
今でも最貧国の位置づけではあるものの、比較的早い段階で民主化していたこともあり、他のアフリカ諸国の様な民族紛争や権力闘争で治安悪化の「ピークは過ぎている」といえます。
観光資源としては、ユネスコの世界遺産(自然遺産)に登録されている有名なヴィクトリアの滝がある。この観光地を中心に経済発展があったのも、比較的治安がマシな理由の一つ。
( → ザンビア共和国、アフリカで最も安全な国? )
ザンビア政府は、1996年に教育の普及率の向上を約束し、教育における達成目標を掲げ、1年生から7年生までの教育の無償化を決定しました。
( → ザンビア|わたしたちの活動地域について )
ザンビアの義務教育は,7歳から始まる初等教育(小学校)7年,中等教育(中学校)5年の計12年です。ザンビアの公用語は英語であり,他に73の民族語が話されていますが,学校教育では小学4年生時に母国語から英語での授業に切り替わります。
( → 外務省: 世界の学校を見てみよう! ザンビア共和国 )
一人あたり GDP は 1,399ドルであり、貧困国ではあるのだが、比較的まともな教育制度があることもあって、知的水準の向上が見られ、平和が続いている。これはアフリカでは珍しいことだ。
とすれば、南スーダンのような「国家が破壊された国」では、まずは国家建設のための道を取るべきだろう。単に平和維持活動をするだけでは、穴のあいたバケツに水をつぎ足すようなものだ。いくら続けても、問題の解決はできない。問題の解決をするには、人材のレベルで抜本的に対処する必要がある。つまり、バケツの穴をふさぐ必要がある。その具体策が、
・ 教育による全般的な知的水準の向上
・ 優秀な人材(エリート)による官僚組織の形成
である。これができたときにようやく、国家は正常化するだろう。
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ひるがえって、日本の場合には、江戸時代に寺子屋があったし、蘭学もあった。また、江戸幕府もあった。上に述べた条件はもともと満たされていた。だからこそ日本では明治維新によって、一挙に欧米に追いつく体制ができたのだ。
アフリカもまた、同様にするべきだろう。
そして、そうとわかれば、大切なのは「自衛隊の派遣」そのものではない。もっと大切なことがある。そして、その大切なことのために、自衛隊の派遣は「全体の一部となる手段」として貢献することになる。自衛隊の派遣は、決して、それ自体が目的ではないのだ。目的は現地の平和なのだ。そしてそれは、国家建設を通じてのみ、達成される。
安倍首相はそこを理解できていない。自衛隊の派遣そのものが目的となっている。やたらと軍事マニアっぽいので、戦争することや軍事的な活動ばかりを目的とする。「自衛隊とは何のためにあるのか」「軍隊とは何のためにあるのか」を見失って、「軍事活動をすること自体が目的である」というふうになってしまっている。
これでは本末転倒だ。(本質を見失っている。)
[ 付記 ]
上に本文中で、次のように述べた。(再掲)
まともな官僚組織を形成することこそ、国家運営において最も重要なことだからだ。また、これならば独裁者の恣意的な運用ができなくなるので、永続的な平和を実現しやすい。
「独裁者の恣意的な運用」という言葉で思い出すのは、安倍首相の加計学園問題だ。ここではまさしく、「独裁者の恣意的な運用」が起こっている。
アフリカの内戦に関して、国家運営について「独裁者の恣意的な運用」が紛争の根源だ……と思っていたら、どっこい、日本地震においても、「独裁者の恣意的な運用」が起こっているわけだ。日本もいつのまにか、アフリカの途上国みたいになった。
そう言えば、米国も同様だった。トランプ大統領が、同じようなことをやっている。(入国禁止などで。)
まったく、ひとごとじゃないね。
【 関連項目 】
自衛隊の PKO については、前に述べたことがある。
→ 自衛隊の PKO は有効か?
→ http://www.asahi.com/articles/DA3S12959922.html