2017年05月13日

◆ 「チョコで若返り」のてんまつ

 「チョコレートを食べて若返り」という騒動があったが、そのてんまつについて、私の見解を示す。意外な真相は……

 ──

 「チョコレートを食べて若返り」という騒動があった。しかしこれは、「チョコを食べた人だけを調べて、チョコを食べなかった人を調べなかった」という問題点があった。
 ただのゴミ研究ではあったが、政府の特別支援と製菓会社の明治の支援を得たことで、問題視された。


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 発端は、日経の記事だった。
 山川PMらは1月には、製菓大手の明治と高カカオチョコレートの脳活動への影響を発表。発表文には「脳の若返り効果の可能性がみえた」とする文言が並んだが、実際には科学的な効果を探るのはこれからという段階だった。
 そもそもこのコンテストには問題がある。実際の測定方法が科学的な常識に沿っていないことだ。例えば薬の効果を示す際は、飲んだ人と飲まなかった人の効果を比較する。飲まない人のような比較対照群がいるわけだ。コンテストにはこれがなく、飲んだ人の前後の変化だけをみている。これでは効果を科学的に示したことにはならない。
 参加企業からは比較対照群を設ける要求もあったが「予算の関係でPMに断られた」(参加者)。コンテストで1チームに与えられる予算は3000万円。30人で実験する分しかない。仮に比較対照群を置いて15人ずつで実験すると、脳の活動の変化はほとんど見えない可能性が高い。コンテストが成り立たなくなるわけだ。
 山川PMは「できるだけ多くの企業に参加してもらうことを優先し、比較対照群をおかなかった。医療系の研究者から批判はあった。だが開発した脳の指標が役に立つことを早く示さなければ世界に後れを取る。自分の責任のもと進めた」と説明する。
( → 内閣府チーム、仮説段階の研究を表彰:日本経済新聞 2017/4/12

 早くしないと後れを取るから、急いで不完全な報告を出した、というわけ。
 
 その後、後追い記事ふうの批判が、はてなブックマークで注目を集めた。
 対照群のある試験ではない。継続摂取する前後で、大脳皮質の量を測定し「増えた」としているだけだ。
 さらに、グラフがひどい。変化が大きく見えるように作ってある。そして、大脳皮質の量、この研究ではGM-BHQという尺度が使われているが、これがどうして脳の健康度の指標になるのか、その量が増えたらなぜ、新しいことを学べる能力が高まると言えるのか、妥当性を示す根拠、論文が示されていない。
 もちろん、予備的試験としてこうした研究をするのは結構だが、これで「脳の若返り効果」とまで言いますか?

 重要なのはここから先。明治は1月18日に発表した直後の21日、新聞に全面広告を出しているのだ。写真が、読売新聞に出された広告だ。
 つまり、明治はこの発表を宣伝に利用している。
 結局のところ、プログラム・マネージャーがなんと説明しようとも、予備的研究で効果などと言えるようなレベルではないのにそれが宣伝に利用されているのが実態だ。……インターネットを検索すると、情報が山ほど出てくるようになっている。あなた、欺されてチョコレートを買いませんでしたか?

( → 日本の科学はここまで墜ちた!? 明治のチョコ若返り宣伝に見る “お墨付き”効果 | FOOCOM.NET

 このサイトのリンク先に、BHQという尺度の妥当性の可否が示されている。
 「これは年齢による脳の衰えを反映していると考えられ、BHQが脳の状態のよさを表す指標として適切であることを示していると考えています」とあるがそのような結論は導けない。加齢とともに下がるのはBHQの測定値や脳の機能以外にもいくらでもある。
( → 内閣府チームによる研究開発プログラムの一つがニセ科学だった - NATROMの日記

 というわけで、研究は無意味なものである、と結論して良さそうだ。また、「無意味な研究を企業の宣伝に利用されたという問題点がある」とも言える。
 明治の宣伝は、下記に見られる。
  → プレスリリース|企業情報|株式会社 明治

 そして昨日(2017-05-12)になって、朝日が追っかけ記事を書いた。本人に取材して、不足性を自認させた。
 科学的なデータが不十分なまま「カカオ成分の多いチョコレートを食べると脳が若返る可能性がある」と発表していたことがわかった。
 明治は1月、山川PMのチームとの共同研究の成果として、「カカオ成分の多いチョコを4週間食べると、大脳皮質の量を増やし、学習機能を高める可能性があることを確認した」と発表。
 取材に対し、山川PMは、発表文で「(チョコを食べたことで)脳が若返る可能性がある」と表記したことについて「行き過ぎた部分があった」と認めた上で、「今後もっと大規模で長期的な実証研究をするなかで確証の高いデータが得られるだろう。今回は中間発表の位置づけだった」と話した。食べなかったグループの検査費については予算上、確保できなかったという。
( → 「カカオで脳若返り」乏しいデータで発表 国支援の研究:朝日新聞 2017-05-12

 ──

 さて。以上は報道だが、これを見て、どう評価するか?
 「この研究は不備だ」」
 という指摘が多い。それはそうだ。多くの人が指摘しているとおり。
 しかし、それによって「これは虚偽だ」ということは判明したが、「これが真実だ」ということは判明していない。では、真実とは何なのか? それを示そう。

 (1) 対比試験

 先の話を再掲しよう。
 仮に比較対照群を置いて15人ずつで実験すると、脳の活動の変化はほとんど見えない可能性が高い。コンテストが成り立たなくなるわけだ。
 山川PMは「……早く示さなければ世界に後れを取る。自分の責任のもと進めた」

 早く示しても、無意味な研究を示したのでは何にもならない。どうせなら、精度は低くても、15人と15人でやるべきだった。それが常識的な判断だろう。
 その意味で、山川PMの弁明は成立しない。

 (2) 対比試験は不要

 ところが、である。実は、今回の実験では、対比試験は不要なのだ!
 そもそも、普通の人は、「チョコを食べないと、普通の状態だ」とわかっている。つまり、「チョコを食べないと、脳の増加はない」とわかっている。これはもともと結果がわかっていることなのだから、いちいち実験する必要はないのだ。
 それでも、批判者の多くは、「対比試験が必要だ」と言っている。しかし、今回の試験に限り、対比試験は不要だ。なぜなら、薬のプラセボではなくて、ただの食品だからだ。ここでは「プラセボ効果」なんてものは存在しない。
 批判者は、「二重盲検法が必要だ」と述べているが、それは、「プラセボ効果をなくす」という趣旨だ。薬の場合には、それが有効だ。プラセボ効果はすごく大きいからだ。
 一方、チョコの実験の場合には、プラセボ効果などは存在しない。ゆえに、二重盲検法は必要ないのだ。つまり、ここでは、批判者の方が間違っている!

 (3) 今回の実験

 本質的に考えよう。今回の実験の意義は、何か? 医療効果を見ることか? 症状や機能の改善効果を見ることか?
 違う。「大脳皮質の量が増えたかどうか」を見ることだ。
 ■結果
 高カカオチョコレート摂取前後での介入効果の検定としてGM-BHQ(Gray Matter-BHQ・大脳皮質の量)を測定したところ、摂取前に比べて、摂取後の方が有意にGM-BHQの値が増加しました。高カカオチョコレート摂取前の平均値が94.7ポイントでしたが、4週間摂取後には95.8ポイントに増加しました。(平均で1.1ポイントの増加。)
 なお、GM-BHQの値は、平均が100になるように設定していて、大脳皮質の量を意味し、この値が増加することで、新しいことが学べる能力が高まる可能性が期待されます。また、過去の研究から認知症によって大脳皮質の量が減少することなどもいくつか報告されていることから、今後これらの関係も調べることができると考えられます。
( → プレスリリース|企業情報|株式会社 明治

 要点は、次の二つだ。
  ・ 大脳皮質の量が増えた。
  ・ だから、脳の能力が向上すると期待される。


 前者は、事実である。(実験的事実)
 後者は、期待である。(根拠なし)

 実は、後者は、「期待」というより「妄想」という方が正しい。現実的には、その期待は間違いであると判明するからだ。( 先の検証記事 を参照。)

 ──

 ここで私が決定的な点を指摘しよう。次のことだ。
 「チョコを食べると大脳皮質の量が増えるということはあるだろう。なぜなら、大脳皮質の主成分は脂肪であるからだ。ただし、その脂肪は、ニューロンの膜部分にある。ニューロンのうちの脂肪量がいくら増えたとしても、ニューロンの数が増えるわけではない」


 比喩的に言うと、脂肪を摂取すると、ニューロンの数が増えるのでなく、ニューロンが太るだけだ。これが「大脳皮質の量が増える」ことの意味だ。
 
 下記に話を引用しよう。(NHKの番組) からの転載。)
 そもそも脳の大半は脂肪で出来ている。
脳の構成成分は、脂質約60%、タンパク質約40% 脳の構成成分は、脂質約60%、タンパク質約40%です。
 番組でも「動物性脂肪の摂取」が重要だと(いう)情報があった。
・リン脂質は、ニューロン(脳細胞を取り巻く膜)をつくる物質。
・他のニューロンと繋がるために伸ばす樹状突起(シナプス)を伸ばしたり維持したりするのにも必要。
・リン脂質は、記憶力を高めるアセチルコリンという伝達物質の原料になる。
( → カラダのヒミツ「脳のヒミツ」脂質と脳の関係をしる

 チョコレートとリン脂質の関係は、ググれば情報を得られる。リン脂質というより、脂質そのものが重要であるようだ。
  → リン脂質 チョコレート - Google 検索

 ──

 以上をまとめると、次のようになる。
  ・ チョコレートを食べると、大脳皮質が増える、というのは正しい。
  ・ ただしそれは、ニューロンが増えるからではなく、脂質が増えるから。
  ・ 脂質が増えると、脂質不足による機能低下を防げる。脳には脂質は大事。
  ・ チョコレートには、そのための効果が少しある。
  ・ チョコレートに特別な成分があるわけではない。脂質があるだけだ。
  ・ その脂質は、ラードなどよりは、健康にいい。(動脈など)


 ここから、研究への批判点をまとめると、こうなる。
  ・ チョコレートに脳機能改善の効果があるという結論は正しい。
  ・ ただしそれは、ニューロンが増えたからではなく脂質が増えたからだ。
  ・ チョコの脂肪は、脳そのものを改造するのではなく、機能の低下を抑える程度だ。
  ・ その改善効果はたしかにあるが、一時的なものにすぎないだろう。幅も小幅だ。
  ・ なのに、ニューロンが増えた(脳が改造された)かのように思わせる研究結果は、誤誘導だ。
  ・ 「チョコで若返り」なんていう方向自体が、方向違いだ。(間違い)

 一方、研究の批判者も、間違った点がある。
  ・ チョコレートに脳機能改善の効果はある。他の報告でも実証されている。
  ・ ただしそれは、脂肪の不足が解消されることの効果だけだ。小さな効果だ。
  ・ この小さな効果までも否定するのは、既存の研究を否定することになる。誤り。


 明治については、こう言える。
  ・ カカオバターやポリフェノールが脳に有益だというのは事実だ。
  ・ ただしそれは一時的な機能改善にすぎない。
  ・ なのに脳そのものが根源的に改造されるように見せかける宣伝は、誇大宣伝だ。


 まとめとして言えば、次のようになる。
 「チョコレートの効果は、ビタミン剤やカフェインみたいなものだ。それを摂取すると、一時的に脳の状態が良くなり、機能の向上を果たせる。特に、ダイエットなどで脂肪不足であるような痩せ型の人には、効果が大きいだろう。とはいえ、それはあくまで一時的な機能改善効果だ。脳そのものが大型化するわけではない。ニューロンの数が増えるわけではない。ニューロンがちょっと太るだけだ」

 
 以上が真相だろう。これが私の見解だ。



 【 関連サイト 】
 この研究者は、「宣伝に使われた」のではなく、「自分から進んで宣伝に協力している」状態だ。
 → http://j.mp/2p25vDg 、 http://j.mp/2ossd4o  http://j.mp/2p2ePH8  http://j.mp/2oaOlzv

 cf. 参考ページもある。
  → 高カカオチョコ 腸内の善玉菌増やし、便通改善
 これは科学的な比較調査だ。




 上の便秘改善という意味では、チョコレートはお薦めだ。前にもお薦めした。
  → 高カカオチョコで便秘改善

 上記記事から転載すると、こうだ。

 ──

 「でもお高いんでしょう?」
 という疑問が生じそうだが、調べてみたところ、アマゾンでは格安で売っている。下記だ。


   
http://amzn.to/2kSwXk6             


 現時点の価格は ¥ 2,345 だ。高そうに見えるが、重さは 1kg もある。しかも、カカオ分70% という高濃度だ。
 ここに、大量の砂糖とミルクを混ぜると、普通のミルクチョコレートになる。(分量が3倍ぐらいになりそうだ。)
 同様の量を市販のチョコレートでまかなうと、6000円以上になると思える。その分、お買い得だ。

 ──

 ポリフェノールの効果もあるしね。そこそこの健康効果はありそうだ。また、たとえ健康効果がゼロでも、おいしいという意義はある。
posted by 管理人 at 10:33| Comment(3) | 科学トピック | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
> ただの食品だからだ。ここでは「プラセボ効果」なんてものは存在しない。
とありますが、プラセボ効果はあるでしょう。
実験の説明を受けた段階でチョコの効果を期待する可能性はあるでしょう。
Posted by 理系 at 2017年05月14日 11:41
> チョコの効果を期待する

 (1) 期待することはあるけれど、期待したからといって脳細胞が肥満することはあり得ない。心理状態が神経の状態に影響することはあるかもしれないが、心理状態が細胞組織を肥満させる効果があるわけがない。「霞を食って生きる」「期待を栄養素にする」みたいなもの。そんなことを言い出したら、トンデモだ。

 (2) チョコを食べるかどうかは、対比実験にならない。他の食物(脂肪分)を摂取しているんだから。他の食物(脂肪分)を同等にしないと、肥満についての対比実験にならない。つまり、実験として尻抜け。

 ──

心理状態の違いばかりを考えていて、栄養状態の違いを無視して、(脳細胞の)肥満の有無を調べるのでは、ほとんどトンデモだ。 
Posted by 管理人 at 2017年05月14日 12:01
バイオの研究はそんなもの
Posted by 片柳 at 2017年05月18日 06:59
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