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前々項 では、ヤマトの宅配の価格について、「個人向けが Amazon 向けの3倍ぐらいだ」と示した。
おおざっぱに見れば、1000円前後だと言える。Amazon 向けの料金の3倍ぐらいという高価格だ。
この比率自体は、それでいいだろう。(根拠はすでに示した。)
問題は、この比率が適正であるかどうかだ。
おおざっぱな計算
私はこの3倍という比率を、「適正ではない」と判断した。その理由は、すでに示したように、次のことだ。
法人客向けの 556円という数値と、Amazon向けの 280円という数値を比較すればいい。Amazonがいくら大口割引を受けるとしても、500円ぐらいが妥当だとわかるはずだ。280円というのは極端な安値だと推測が付くはずだ。
ここでは、法人客向けの 556円という数値と、Amazon 向けの 280円という数値を比較して、Amazon 向けの安値がわかる。個人客向けとの比較は必要ない。
アマゾン向けの価格が適正であるかどうかを知るには、個人向けの価格と比較するのではなく、大口向けの価格と比較すればいい。
一般に、大口向けは、500円ぐらいだと推測される。これで1日に 100個を発送するとしよう。この 100個が千個や1万個に増えると、料金は激減するか? いや、そんなことはない。いくら個数が増えようと、トラック1台に載せる荷物量は同じだし、トラック1台に必要な運転手の数も同じだ。せいぜい、「端数の無駄がなくなる」とか、「稼働が平均化する」とか、そういう程度の効率向上があるだけであって、劇的にコストダウンするわけではない。とすれば、1個あたりのコストは、500円から 400円に下がる程度だろう。(若干のズレはあるとしても。)もちろん、1個あたり 280円というのでは、原価割れの赤字になりそうだ。そう推測ができる。
以上は、おおざっぱな推測だ。( 100円単位ぐらいのおおざっぱさ。それでも、おおざっぱには傾向がわかる。)
詳細な計算
もう少し厳密に( 10円単位ぐらいで)厳密にコスト計算することもできる。それは、(以前の)佐川の料金との比較だ。前述の話を再掲しよう。
佐川は、「送料無料」を維持するため運賃の切り下げを迫るアマゾンとの取引を自ら打ち切ったのだ。12年に行われた運賃見直しの際、当時270円前後だった運賃を20円ほど上げようとの腹積もりで交渉に臨んだと、佐川の営業マンは語る。( → 出典 )
( → 宅配便と Amazon )
佐川が 270円で引き受けていたのを断って、そのあとヤマトが引き受けたということなのだから、ヤマトは 270円〜280円で引き受けたことになる。これがヤマトが Amazon に設定した料金だ。
そして、この 270円〜280円という価格が不適切であることは、佐川の会長が指摘していた。前述の話 を再掲しよう。
───(再掲)───
佐川の会長が予告していた。
「結果としてライバルは、集配品質の低下と固定費が増加した/必ずこれまでの体制を見直すはずである」
( → 佐川急便 Amazonと取引停止で「ライバルに100億円のエサ」 )
佐川は、ライバル(=ヤマト)の状況が破綻することを予言していた。自社では成立しない安値受注をヤマトが引き受ければ、破綻するしかないのだ。
そして、そうなる理由は、安値をゴリ押しした Amazon と、無理な安値を引き受けたヤマト経営陣との、双方にある。この両者が根源的な責任者なのだ。
──(ここまで)──
佐川が断った安値受注をヤマトは引き受けたが、そんなことをすれば赤字になるので、まともに継続できるはずがない。いつかは破綻する。そのことを、佐川の会長は予告していた。
とすれば、 270円〜280円という価格が不適切であることは、もはや業界内で当然の事実であったわけだ。つまり、Amazon向けの価格は、明らかに不適切な安値だったのである。個人向けの価格が適正であるかどうかに関係なく、Amazon向けの価格は不適切な安値だった。
荷物の急増
ヤマトの宅配の荷物量は、近年、急増している。これは、通販の取扱量が増えたからだ。前述の話を再掲しよう。
───(再掲)───
クロネコヤマトと Amazon の関係が話題になっている。Amazon の荷物が多すぎて、クロネコヤマトはパンク状態だ。
《 アマゾン宅配急増、ヤマトに集中 「今の荷物量、無理」 》
ヤマトは宅配市場の5割近くを握る最大手。2016年度の荷物量は前年度比8%増の18億7千万個になる見通し。ネット通販の普及で荷物量は右肩上がりに増えていて、5年前と比べると3割増。スマートフォンの普及を背景にネット通販はさらに拡大しそうで、伸びは収まりそうにない。
「扱う荷物の4割ぐらいをアマゾンの段ボールが占めている感じ。ほかにもゾゾタウンやアスクルなどネット通販の荷物が目立って増えているが、今一番困らされているのはアマゾン」。都内を担当する30代のドライバーは打ち明ける。
業界2位の佐川急便が数年前、利幅の薄い荷物は引き受けない戦略に切り替え、ネット通販大手アマゾンの荷物がヤマトに流れてきた。佐川の親しいドライバーから「配達する数が少なくなって楽になった」と聞いた。結果として、ヤマトの現場にしわ寄せが来ているようだ。
( → 朝日新聞 2017-02-24 )
──(ここまで)──
荷物量はこれほどにも急増している。すると、どうなるか? 「思惑違い」が発生するのだ。つまり、次のようになる。
最初は、こう思った。
「ヤマトの配達体制には、もともと余裕が少しあった。その余裕の分で Amazon の荷物を引き受ければ、特に新規に追加コストが発生することもなく、受注の料金だけが増える。労働者の労働コストはいくらか増えるだろうが、それだけだ。だから、安値で引き受けても、十分にペイする」
ところが、その後、荷物量が急増するにつれて、こうなった。
「余裕がある分については、問題なかった。しかし、荷物量が急増すると、余裕はすっかり使い果たした。空き時間では配達しきれなくなり、夜間や昼休みや早朝に配達せざるをえなくなった。また、もともと原価割れの料金だったので、余裕を越えた分で超過勤務で働くと、残業の料金が追加で発生した」
つまり、もともとは「残業なし」で済むはずだったので、追加コストなしで引き受けられるはずだった。ところが実際には、荷物量の急増にともなって、残業が発生した。当然、その分の労賃を払わなければならなくなった。かくて、赤字発生となる。……これが、思惑違いだ。
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こうして、思惑違いで原価割れの赤字料金となった。このとき、ヤマトはどうしたか? 赤字のままにしたか? いや、そうではない。「賃金を払わない」という暴挙に出たのだ。要するに、労働者に対する泥棒である。(犯罪行為)
これが、ヤマトの取った道だ。
さすがに、これではまずいということで、「不払い賃金を払います」というふうに方向転換した。すると、当然ながら、原価割れの赤字料金から赤字が発生する。(賃金不払いで赤字の穴埋めができない。)
というわけで、「荷物量の急増」が、「思惑違い」という形で、「原価割れ」から「赤字」を発現させたわけだ。
( ※ このことからも、もとの Amazon 向けの価格が不適正であったことがわかる。)
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おまけで一言。
「思惑違い」が生じた理由は、何か? ヤマトの経営陣の経営能力が劣っていたからか? いや、「通販の荷物が急増する」という見通しができなかったことだ。
そして、このような見通しができなかったことは、(物流分野における)経営能力の問題というよりは、IT分野の判断力が劣っていたことによる。まったく畑違いの分野についての見通しができなかったから、こういう思惑違いが発生したのだ。
強いて経営面での問題があったとすれば、こうだ。
「荷物量が急増したときには、急増した分については高額料金を設定する、というふうにしなかったこと」
こういう設定ができれば、問題はなかったはずだ。逸れができなかったところには、経営面での失敗があった。……とはいえ、これはちょっと厳しいかもね。「経営者が甘すぎた」とは一概には言えない。「優秀ではなかった」とは言えるが。
昔との比較
Amazon向けの価格は別として、個人向けの料金はどうか? 「 27年間もずっと料金を据え置いてきたということだから、個人向けの料金ももともとコスト割れだったのではないか?」という疑問もある。
この件については、前々項 ですでに説明済みだ。
(1) Amazon 以前
ヤマトが Amazon 向けの荷物を超低価格で引き受けるまでは、ずっと料金を据え置いてきたが、それで黒字が続いていた。ヤマトは料金を値上げしなくても、何十年も優良企業だったのである。赤字は発生していなかった。
(2) ゆうパックとの比較
日本郵政の ゆうパックは、大赤字のペリカン便を引き受けたことで赤字が出ていたが、それも解消して、来年からは黒字になる見込み。しかも、料金は、ヤマトに比べて9%ぐらい安い。
ヤマトは、黒字すれすれの ゆうパックに比べて、9%ぐらいる料金が高いのだから、赤字になっているはずがないのだ。ここでも、「値上げは不要」とわかる。
(3) 赤字の理由
そもそも、ヤマトが赤字体質になった根本的な理由は、高コストな Amazon向けの荷物を引き受けたからだ。コストアップや赤字の理由は、Amazonなのであって、個人向けの荷物ではないのだ。たとえ今は赤字あとしても、Amazonの荷物を大幅に減らして、量的に縮小すれば、赤字は解消できる。理由は、下記だ。
・ 大量の荷物による残業が減る。(残業手当の減少)
・ 再配達の量が減る。
後者の「再配達の量が減る」という件については、前項で述べた。
→ ヤマトの値上げ決定
再掲しよう。
ところで、一般に、個人客(の発注)ほど、再配達・夜間配達が少ない(つまりコストがかからない)と言えるのだ。なぜか? 一般に、次のことが成立するからだ。
「大口の法人客は、たいていが通販だ。通販を利用するのは、昼間は買い物に出られないような人々(独身または共稼ぎ)が多い。こういう人ほど、昼間は自宅にいないので、再配達や夜間配達が多くなり、コスト高になる」
というわけで、Amazonのような大手の通販の客ほど、コストが高くなる。一方、個人客では、専業主婦や家族持ちなど、自宅にいる人の割合が多くなるので、昼間の受け取りが可能となり、再配達や夜間配達が少なくなるので、コスト安になる。
通販の荷物は、必然的に、再配達や夜間配達が多くなり、コスト高になる。
この意味でも、(コストアップ要因となるので)値上げするべきは、大口の通販業者なのである。一方、個人客は、コストアップ要因となっていないので、値上げの必要はないのだ。
ヤマトは、このようなコスト分析ができていない。だから、「赤字だから、個人客も通販業者も、一律に値上げしよう」と結論する。「現実にはコストアップ要因(赤字要因)となっているのは通販業者だ」ということを無視する。かくて、通販業者で生じた赤字を、個人客に転嫁する。
そして、そのことに気づかない人々は、「個人客の値上げも妥当だ」と思い込んで、せっせと値上げを受け入れる。
カモネギとは、このことだ。
【 関連サイト 】
「 27年間も値上げしないのは立派だ」
と思う人もいるようだが、それは昔のインフレ時代の頭に染まっている老化脳だろう。
デフレ時代の人ならば、近年はずっとデフレであって、物価下落と賃金減少の連続だった、とわかるはずだ。
ちなみに、平均年収は、こうだ。
出典:サラリーマン平均年収の推移(平成26年)-年収ラボ
統計元:平成26年 国税庁 民間給与実態統計調査結果
こういうデフレ時代には、「値上げしないのが立派だ」というような話は成立しない。むしろ、「値下げしなかったのでけしからん」と評価したい。
( ※ 個人客はそっちのけで、法人向けばかり値下げしていたようだ。)
ヤマトの正社員数は東洋経済データによると
ランキング8位で売上高は1兆5千弱、他社は従業員数がその半分ぐらいで売上高が3倍以上がほとんどと考えると社員数に対しての売上高が少なすぎる、そして正社員数が多すぎる。
少子高齢化、男女雇用機会均等法により
賃金上昇率はここ30年ほとんどあがってないから27年間値上げをしないですんだんだろうが燃料コストが上がった分を価格に転嫁出来てない。
ヤマトが値上げを行わない事の方がおかしい。
物流全体の値上げが妥当だと判断する。
日本郵便は、信書を配達する企業として価格を下げるために非正規を増やすのではなく正社員数を増やすべき。
法人税等を適正に払っているヤマトの値上げより
Amazonの法人税未払や、3000億の利益があるのに600万しか払っていない実効税負担率が低い日本企業の方が気になるが。
それについての値上げは「駄目だ」なんて言っていませんよ。むしろ「値上げすべき」と言っています。
私が言っているのは、全体の1割の分だけです。