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4月28日になって、ヤマトが値上げの方針を決めて、告知した。要点は、下記。
・ 個人向けは、140〜180円の値上げ。
・ ヤマト運輸の営業所で受け取れば、50円割引き。
・ 大口向け料金は、個別でなく一律にして、Amazonも対象。
詳しくは、下記に部分引用しよう。
宅配便最大手ヤマトホールディングス(HD)は28日、個人客向けの基本運賃を140〜180円値上げすると発表した。9月中にも実施し、平均15%程度の値上げになる。
縦・横・高さの3辺の合計が80センチまでの荷物を送る場合は一律140円、80センチ超〜120センチは一律160円、120センチ超〜160センチは一律180円(いずれも税別)を、それぞれ上乗せする。
一方、配達先をヤマトの全国の直営店に指定すれば50円安くする割引を新設する。将来的には、再配達を利用しない場合の割引の導入も検討している。
( → 朝日新聞 )
個人向けの小口の荷物はことし9月末までに、今の料金より平均15%、1個当たり大きさに応じて税抜きで140円から180円値上げします。
例えば、縦、横、高さの合計が60センチ以内の小さなサイズの荷物を関東の地域内で送る場合の料金は、税込みで現在の756円から907円となり、この場合、20%程度の値上げとなります。
値上げの一方で、会社では、荷物をヤマト運輸の営業所まで取りに来てくれる場合には1個当たり50円割り引きするサービスを新たに始めます。また、メンバー登録した会員に対する割り引きを増やすなどとしていて、会社はこうした新たなサービスを活用すれば、平均で10%程度の値上げになると説明しています。
およそ1000社を対象に値上げなどの取引条件の見直しを協議しているとしたうえで、ネット通販大手のアマゾンについては「現在も交渉しているさなか」と述べるにとどまりました。
( → NHKニュース )
基本運賃は発着地ごとに定めているが、今回は一律で実施。小型は140円、中型は160円、大型は180円を現行料金に上乗せする。値上げ率は距離が近く、荷物が小さいほど高くなる。関東から関西に荷物を送る場合、小型は現行の800円から940円となる。
一方で、発送時に直営店に持ち込んだ場合の割引制度などを拡充する。値上げ幅は平均15%程度だが、割引を適用すると平均10%程度という。
法人向けでは、ネット通販など割引率の高い大口顧客ほど採算が悪化しているのを踏まえ、これまで荷物量に応じ、事業所ごとに定めていた運賃を一律化し、値上げを要請。年末など繁忙期の出荷調整なども要請する。アマゾンジャパン(東京)など大口顧客約1000社と優先的に交渉を進め、9月末までの合意を目指す。
( → 時事ドットコム )
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以上について、評価しよう。
(1) 個人向けは、140〜180円の値上げ
この点は、不当である。個人向けは赤字ではないからだ。この件は、前項でも述べたが、別の理由もあるので、後述の [ 付記1 ] で詳しく述べる。
(2) ヤマト運輸の営業所で受け取れば、50円割引き
これは妥当である。ただし、不十分だ。
これは、「再配達をなくす」ということが目的だが、そうであれば、「コンビニ受け取り」や「自宅で1回で受け取り」の場合も、「再配達なし」なのだから、割引にするべきだ。
また、集荷のときには「持ち込みで 100円割引」なのだから、営業所で受け取りの場合にも、100円程度割り引くべきだ。いや、営業所なら、もっと好都合なのだから、150円引きでもいいぐらいだ。また、「コンビニ受け取り」や「自宅で1回で受け取り」の場合にも 50〜100円引きぐらいにするべきだ。(値上げと組み合わせるならば。)
結局、値上げ後であっても、「コンビニ受け取り」や「自宅で1回で受け取り」ならば、「たいして値上げにならない」というぐらいの料金設定が妥当だ。
ヤマトは、再配達のコストがかかるといいながら、再配達しないで済む場合の割引率が低い。これでは本気で再配達を減らす気になっているのか、疑わしい。もっと割引率を上げるべきだし、「コンビニ受け取り」や「自宅で1回で受け取り」を割引対象に加えるべきだ。この件は、前にも別項で述べた。
→ 宅配の再配達の解消には?
※ 割引額は、少額でもいい。(値上げしないのならば。)
(3) 大口向け料金は、個別でなく一律にして、Amazonも対象
これは意外だった。Amazon は今回の値上げの対象とはなっていないのだとばかり思っていた。Amazonも対象にしていたのだとすれば、けっこうヤマトも根性があったことになるな。ヤマト魂か。(ダジャレ (^^); )
とはいえ、ヤマト向けにきちんと料金を値上げするのであれば、個人向けや大口向けの料金を大幅に値上げする必要はなかったはずだ。Amazonだけに大幅値上げをして、個人向けは小幅値上げで済ませることもできたはずだ。
なのに、今回の(個人向けの)値上げ幅は、あまりにも大きすぎる。どさくさまぎれ の 便乗値上げ というしかない。(前項で述べたとおり。)
従って、前項のように批判するのが妥当だということになる。
[ 付記1 ]
個人向けの値上げの幅が大きすぎる、と本文中で述べた。その理由を詳しく述べよう。
(i)集荷コスト
個人向けでは集荷コストがかかるが、その点は、「拠点まで持ち込めば 100円引き」という制度があるので、考慮済みだ。
つまり、拠点まで持ち込めば、100円引きになるかわり、集荷コストが大幅減となる。
逆に言えば、個人向けの集荷には、100円高くすることで、きちんとコスト負担の高料金となっている。これで差し引きの帳尻があるようになっているはずだ。(そのつもりで料金設定している。)
だから、集荷コストについては、特に問題視する必要はない。この件は、前項の最後の [ 補足 ] でも述べた。
(ii)再配達・夜間配達
宅配便のコストアップ要因は、再配達と夜間配達だ。ここのコストを負担することが大切だろう。(それがない場合には割引をする、というのも一案だ。前述の通り。)
ところで、一般に、個人客(の発注)ほど、再配達・夜間配達が少ない(つまりコストがかからない)と言えるのだ。なぜか? 一般に、次のことが成立するからだ。
「大口の法人客は、たいていが通販だ。通販を利用するのは、昼間は買い物に出られないような人々(独身または共稼ぎ)が多い。こういう人ほど、昼間は自宅にいないので、再配達や夜間配達が多くなり、コスト高になる」
というわけで、Amazonのような大手の通販の客ほど、コストが高くなる。一方、個人客では、専業主婦や家族持ちなど、自宅にいる人の割合が多くなるので、昼間の受け取りが可能となり、再配達や夜間配達が少なくなるので、コスト安になる。
要するに、集荷の点では、大口客ほど集荷コストは低いのだが、配達の点では、個人客ほど集荷コストは低くなるのだ。なぜなら、再配達・夜間配達の割合が低くなるからだ。
このように、配達のコストを厳密に分析すれば、個人客の値上げ幅は少なくて済む、とわかる。一方で、通販業者の配達は、コスト高になるので、値上げ幅は大きくするべきだ、とわかる。
ヤマトは、配達のコスト分析をもっときちんとやるべきだろう。そうすれば、どこを値上げすればいいか、わかるはずだ。
[ 付記2 ]
再配達を減らすには、「配達の直前にメールする」という方法が有効だ。この方式を採用するべきだろう。
実際に採用して、再配達率を減らしているのが、アスクルの LOHACO というサービスだ。この件は、前に述べた。
アスクルの LOHACO というサービスには、
「商品が届く10分前にスマホに通知される」
というサービスがあるのだ。下記の通り。
( → 宅配の再配達 )
また、パナソニックでも、もっと高度なシステムが開発されているようだ。
パナソニックが今年発売した「外でもドアホン」は、自宅のインターホンを、ネット経由でスマートフォンなどモバイル機器に接続することで、外出中でもリアルタイムで来訪者に対応できる。宅配便が届いた時に家の外にいても、配達スタッフと直接会話ができ、コミュニケーションが容易になるというわけだ。例えば、「あと2分で家に戻るので待っていてもらえますか」と相談してみることも可能になる。
( → Yahoo!ニュース )
また、別案だが、次の方式を提案したい。
「いつ配達するかを自動的に通知するソフトウェアを開発する」
具体的には、次のようにする。
・ 配達の順番を、あらかじめ入力しておく。
・ 配達が完了するたびに、「配達済み」をスマホで入力する。
・ すると自動的に、次の配達先に通知が送られる。
たとえば、5件目の家で「配達完了」というチェックを入れると、自動的に、6件目の家には「あと5分ぐらいで着きます」という通知が送られ、7件目の家には「あと 10分ぐらいで着きます」という通知が送られる。8件目や9件目も同様だ。
こういう通知を受ければ、届け先でも対応ができるので、再配達になる割合はかなり減少するだろう。
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この件については、前に次のように述べた。再掲しよう。
[ 付記2 ]
宅配便を自宅で受け取る場合、いつ来るかわからないのが困る。時間をあらかじめ通知してほしいものだ。できれば、届く1時間ぐらい前に、「あと 20〜40分ぐらいで届きます」というふうに、スマホに連絡してほしいものだ。
とにかく、来る時間がほとんどわからないのが困る。クロネコメンバーズというのがあって、これだと、一応、通知のメールは来るが、通知時間には2時間ぐらいの幅がある。たとえば、「12時〜14時」というふうに。これでは、おおざっぱすぎる。
しかも、メールの通知が、品物が届いたあとに来ることもある。ひどいものだ。IT時代なのだから、もうちょっと、何とかならないものか。GPS と連動させたりして、AI による予測機能を使えば、もっと何とかなるはずだが。
( → 宅配の再配達 )
[ 付記3 ]
「コンビニ受け取り」や「自宅で1回で受け取り」を割引対象に加えるべきだ。……と上で述べたが、それがいくらか実現しつつあるようだ。
(1) 値引きの検討
ヤマトは自宅1回での受け取りに、値引きを検討しているという。
1回目で受け取ってもらうと割引することも検討している。
( → J-CASTテレビウォッチ )
検討だけで、決定ではないが、まあ、方向性だけはいいようだ。
(2) ニッセンのコンビニ受け取り
コンビニ受け取りについては、ニッセンが無料化するという。コンビニに個別配達するのではなく、コンビニにたくさん商品納入するついでに、いっしょに荷物も配達するらしい。
通販大手のニッセンは、スマートフォンかパソコンで注文した商品を注文金額にかかわらず、送料無料でセブン―イレブンで受け取れるサービスを始めた。
ニッセンの商品配送は、コンビニへはセブングループの運送会社が担い、自宅などへはヤマト運輸が担う。配送契約をめぐってヤマトから値上げを求められており、コンビニでの受け取りを促して契約見直しの影響を少なくしたい考えだ。
( → 朝日新聞 2017年4月30日 )
ニッセンの分だけなら、数が限られているので、いっしょに配達しても、たいして手間はかからないのだろう。
【 関連項目 】
ユーザーの側でも、ある程度は、対処可能だ。それは「クロネコ・メンバーズ」を利用することだ。この件は、下記で述べた。
→ クロネコメンバーズの問題(再配達)
ここでは、さらに他項目のリンクがいろいろとある。つまり、クロネコ・メンバーズについては、これまで何度もあれこれと言及してきた。そちらも参照。
コスト=お金と考えるとそうですが、コスト=人的資源と考えるとそうも言ってられないのでは。
今料金値上げしても、労働者は急には増えない(給与を上げて募集かければ長期的には増えるにしても)。なので前項にもコメントしましたがヤマト側が今すぐやりたいのは客を減らすことではないか。(最終的に個人から完全撤退するかどうかはよく分かりませんがそれはともかく)
で、この受注価格を維持するためにヤマトのドライバーはサービス残業を強いられ、それが発覚するやいなや値上げを主張しだした、と受け止めています。
シャープ、東芝、三菱重工などは自らの経営判断の誤りにより窮地に陥り、場合によっては買収の憂き目にあっているわけです。ヤマトの場合、経営判断の誤りを個人客の値上げで埋め合わせようという意図も垣間見えます。経営判断の誤りを是正する方策として、負担を個人に押し付けるというやり方は安易過ぎ、不誠実、といった印象を抱きます。
もうちょっと詳しい話が、次項にあります。「思惑違い」です。
「コンビニ受け取り」や「自宅で1回で受け取り」を割引対象に……という話。
タイムスタンプは 下記 ↓
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現場が疲弊する最大の理由は運賃の低下にある。業界のシェア50%近くを握るヤマト運輸の2000年の1個当たりの平均運賃単価は740円台だった。それが直近の単価は570円台まで下がっている。2割以上の下落である。
運賃下落の最大の要因は、アマゾンをはじめとしたネット通販各社への大口割引にある。多くのネット通販が、送料無料を掲げるが、実際はネット通販の運賃を肩代わりして支払っている。しかし、利用者から送料を受け取らないだけに、宅配各社へ支払う運賃は低く抑えられる傾向が強くなる。
そのなかでも、アマゾンからヤマト運輸が受け取る運賃は300円前後となり業界で最安値の水準にあるといわれている。
アマゾンからの荷物は、数が多いだけではなく、荷物が各宅急便センターに届くタイミングも遅い。通常、センターには、毎日3回、センターごとに仕分けされた荷物が配達されてくる。朝が午前6時前後、昼が午後2時前後、夕方が午後5時前後。アマゾンからの荷物は、5時頃の便で大量にやってくる。40個や50個が運ばれてくることもある。
6時頃に出庫する際の残貨が80個を超えると危険水域だ。民家への配達は1時間で20個前後。そうなると最終の夜9時までに配り終えるのは難しい。
http://ironna.jp/article/6350