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自動ブレーキの対人衝突試験を国交省が実施している。
→ 初公表!対歩行者自動ブレーキの安全性能評価結果を発表します! - 国土交通省(平成28年11月21日)
→ 日本初!対歩行者自動ブレーキの評価を開始! 国土交通省(平成28年12月1日)
→ JNCAP|予防安全性能アセスメント - 2016年版
これできちんと試験しているつもりなのだろうが、この対人衝突試験には根本的な欠陥がある。そのせいで、対人衝突試験としてはナンセンス(無意味)なものになっている。
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試験が無意味なことは、動画を見ればわかる。(対人衝突試験)
まずは 2016年のインプレッサの動画。
最新版では、2017年の日産リーフの動画がある。
いずれの動画も、状況は同じだ。
「自動車が2台停止していて、その側方を通り抜けようとする。すると、停止していた自動車の影から、歩行者が現れる」
しかし、このような状況は無意味である。
(1) 仮に横断歩道のない状況で歩行者が横断しようとしているのであれば、歩行者は「自動車が通っていないこと」を十分に確認してから横断しているはずだ。したがって、「横断歩道がないのに自動車が2台停止している」という状況は、現実的には、まずあり得ない状況だ。ありもしない状況で試験をするのは、馬鹿げている。無意味。ナンセンス。
(2) 仮に横断歩道のある状況で歩行者が横断しようとしているのであれば、事態はもっと深刻だ。なぜなら、この場合には、歩行者を認識して自動ブレーキをかける以前に、自動車は停止する必要があるからだ。
この問題は重要なので、以下で詳しく説明しよう。
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横断歩道の前で自動車が停止している場合、その停止している自動車を追い越して進んではいけない。必ず、一時停止する必要がある。これは道交法で規定されている。
道路交通法 第三十八条 2
車両等は、横断歩道等(当該車両等が通過する際に信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等により当該横断歩道等による歩行者等の横断が禁止されているものを除く。次項において同じ。)又はその手前の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、その前方に出る前に一時停止しなければならない。
( → 道路交通法 )
つまり、横断歩道の前で先行車両が停止しているという状況では、後続車は一時停止する必要がある。「歩行者を確認してから自動ブレーキをかける」のでは遅いのだ。「歩行者を確認するまでもなく、先行車が停止している時点で、一時停止する」というのが正解だ。
なのに、試験では、そういうふうになっていない。「道交法違反をしている」ことを前提とした上で、試験をしている。これはまったくのナンセンスだ。国交省はナンセンスなテストをしていることになる。
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正しい試験は、こうだ。(*)
「横断歩道の前で先行車両が停止しているという状況で、試験車両はきちんと一時停止するか否か」
「それを確認するためには、歩行者(人形)はいきなり飛び出す必要がある」
「また、路面には、横断歩道の縞模様を塗っておく必要がある」
現実にはどうか? 衝突する 10メートルぐらい手前で車両は歩行者を認識している。まったくの大甘だ。現実にはこんなに甘い状況だけとは限らない。先行車の側方を通り抜けようとしたとき、1メートル前に子供が急に飛び出す……という状況でテストするべきだ。
なぜか? 横断歩道なら、子供が「すでに自動車が停止している」ことを確認して、さっさと横断することはあるからだ。そういう状況の方がずっと現実的だ。
横断歩道の 10メートルも前の時点で歩行者を認識する……という試験の状況設定は、あまりにも甘すぎる。
以上の意味で、国交省の試験は、根本的に間違っている。
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では、どうすればいいか?
正しい試験がどういうものかは、上で示した通りだ。
これを前提とした上で、メーカーは次のようにするべきだ。
・ 自動車が横断歩道を認識する必要がある。
・ 横断歩道の手前で先行車の停止を認識する必要がある。
・ その場合、先行車の側方を通らず、一時停止するべきだ。
ここでは、「歩行者を見つけてから自動ブレーキをかける」のではない。「横断歩道の手前で先行車が停止しているなら、自動的に一時停止する」というふうにするべきだ。それが道交法の規定だ。
だから、「道交法を守っているか」という試験をするべきだ。その方が安全性の趣旨に叶う。
なのに、現状では、国交省は、道交法の規定を無視した試験をしている。これでは、ナンセンスだ。
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おまけに、国交省は、データの隠蔽をしている。インプレッサの衝突試験でも、リーフの衝突試験でも、次のように記している。
※ 歩行者ターゲットとの衝突映像はインパクトが強いので掲載しておりません。
たかが人形との衝突試験なのに、「衝突映像はインパクトが強いので掲載しておりません」だって。馬鹿げている。こんなふうに隠蔽するべきではあるまい。
国交省の試験はナンセンスである。ナンセンスである試験をするせいで、人形は自動車に衝突してしまう。ここで隠蔽されているのは、「衝突映像の悲惨さ」ではない。「国交省の試験の無意味さ」だ。
ちゃんと動画を公開すれば、「国交省の試験は無意味である」と赤裸々に証明されるだろう。「道交法違反を前提にした試験など無意味である」と。
それを隠蔽するために、国交省は動画を非公開とする。ひどいものだ。
[ 付記1 ]
実は、国交省がこういうデタラメな試験をすることには、理由がある。国交省の利権と絡んでいるのだ。そのことは、前にも記した。
→ 自動車の自動ブレーキ
ここで記したのは「赤信号で自動ブレーキ」という技術だ。
横断歩道があるのは、交通信号のあるところが多い。そして、横断歩道を歩行者が渡っているとすれば、車両側は赤信号になっていることが多い。
だから、「赤信号で自動ブレーキ」という機能があれば、いちいち歩行者を認識するまでもなく、自動車は赤信号で自動停止するはずだ。(自動ブレーキ機能が働くから。)
ところが、国交省は、「赤信号で自動ブレーキ」という機能を否定する。このような機能を搭載している自動車がれば、その機能を強制的に解除させる。(スバル車やテスラ車がその憂き目に遭っている。)
実際、2014年に発売予定だったスバルのアイサイトは、その機能があった。
→ 赤信号を認識して自動的にブレーキ スバルから来年登場(2013年)
なのに、その機能を強引に削られたことになる。
ではなぜ、国交省はそんな馬鹿げた方針を取るのか?
それは、「『ITS』(高度道路交通システム)という巨額の投資を必要とするインフラとセットになったシステムを立ち上げたいから」だという。
→ 自動運転化に待ったを掛けている国交省。赤信号での自動ブレーキ認めず
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結局、国交省の利権を守るために、「赤信号で自動ブレーキ」という機能が削られてしまう。その一環として、「横断歩道の手前で自動ブレーキ」という機能も削られてしまう。
そうなると、「横断歩道の側方を高速で駆け抜ける」という自動車が続出する。横断歩道の手前では自動ブレーキ機能が無効であると判明する。
しかし、それでは、試験ではどの自動車も「不合格」となってしまう。(直前1メートルに急に現れた歩行者を、うまく避けられる自動車は存在しない。)
これでは「あらゆる自動車がすべて不合格」になる。試験そのものが無意味となる。そこで、その無意味さを隠蔽するために、二つの方策をとる。
第1に、「直前でなく 10メートル手前で歩行者に気づく」という大甘の条件で設定する。
第2に、「実際に衝突した動画については非公開とする」
こうやって、国交省の試験が無意味であることを隠蔽するわけだ。
呆れた試験だ。
( ※ わざと合格者が出るように、試験を安易なものに置き換えてしまっているわけだ。……カンニングとは違うが、似たようなものかも。)
[ 付記2 ]
結論としては、こうなる。
「対人の衝突回避の自動ブレーキは、2種類を行なうべきだ」
2種類とは、次の二つだ。
(i)前述の(*)の通り。
[横断歩道の手前に先行車両が停止している状態]
(ii)横断歩道のない車道を、歩行者がのんびり横断する場合。
後者の事例は、下記の動画だ。
この動画の冒頭付近では、先行車両が停止している。(ここは無視していい。)
一方、途中以後では、先行車両なしで、歩行者が単独で車道を歩いている。(ここに着目するべきだ。)
以上の (i)(ii)という2種類の形で、対人の衝突回避の試験をするといいだろう。
( ※ 現状では、そのどちらとも違う、不完全な試験となっている。)
[ 付記3 ]
本項では、「対人の衝突回避の自動ブレーキ」について、「国交省の試験は不十分だ」と指摘した。
では、対人ではなく、対自動車ではどうか? これもやはり不十分だ。衝突しそうになる先行車が次のような場合が想定されていないからだ。
・ 先行車が黒や灰色などである。
・ 周囲が薄闇や夜である。
こういう場合には、カメラでとらえた画像が低コントラストになる。すると、ステレオカメラ方式ならまだしも、単眼カメラ方式だと、対象を正確に捉えることが困難となる。そのせいで、事故が起こりやすい。……という問題が生じる。この件は、下記で指摘した。
→ 単眼カメラ方式の欠陥(自動運転)
そして、ここで指摘したとおりに、「低コントラストの状況でまさしく自動ブレーキが不作動となる」という形で、事故が発生した。それが、日産セレナの自動ブレーキ事故だ。前項で示した通り。
→ 自動ブレーキが不作動(日産セレナ)
対人の自動ブレーキの問題は、本項で示したが、対自動車の自動ブレーキの問題は、前項で示したわけだ。