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シリアへのミサイル攻撃があった。アサド大統領の側が、化学兵器を使用したことに対して、トランプ大統領が、巡航ミサイルで空軍基地を攻撃した。
その後、ロシアが米国を非難して、西側諸国はおおざっぱに(消極的に?)支持。
一方で、各地では、「一方的な攻撃は国際法違反」というような批判も生じた。たとえば、下記。
《 米のシリア攻撃、問われる正当性 法的根拠を安保理議論 》
7日に開かれた国連安全保障理事会の緊急会合では、攻撃の正当性やシリアが化学兵器を使ったという証拠などに疑問も投げかけられた。
緊急会合が始まると、トランプ氏が単独で踏み切った攻撃の正当性、つまり法的な根拠に疑問が出た。
ボリビア「武力行使は、国連憲章51条の自衛権の行使か、安保理の承認がある場合のみ合法だ」
スウェーデン「国際法との整合性で疑問視される」
ウルグアイ「単独行動の武力行使は常に拒絶する」
( → 朝日新聞 2017-04-09 )
法律学者による批判もある。
トランプ政権の攻撃は正義の武力行使とは、とてもいえません。人道的介入が許されるかどうかの議論の入り口にすら至ることがない、これ見よがしの誇示に近い。
人道的介入は、2005年の国連総会の特別首脳会議で「保護する責任」という形で理念が認められました。極端な迫害や虐殺が行われているのに、その国が市民を保護する能力を持っていない、あるいは政府自身が迫害を行っている場合に、他の国が武力行使をしてでも、市民を守ることができるという考え方です。武力行使は様々な方策が尽くされた後の最後の手段で、国連安全保障理事会の決議を踏まえるべきだとされています。今回の攻撃は十分な手続きがなされておらず、国際法上、違法な軍事行動といえます。
( → (耕論)米国に正義はあるのか 最上敏樹さん、青山弘之さん:朝日新聞 2017-04-09 )
「十分な手続きがなされていないから違法だ」
という指摘だ。それはそれで(法的には)正しい。
しかしながら、現実的には、安保理で決議をしようとしても、ロシアと中国が拒否権を発動した。
国連安全保障理事会は28日、シリアの化学兵器使用を巡る制裁決議案を採決したが、ロシアや中国が拒否権を行使して廃案となった。決議案はシリア政府や政府機関へのヘリコプター、化学兵器の原料や部品の供給を禁止するよう国連加盟国に求めていた。
( → 日本経済新聞 2017/3/1 )
国連安全保障理事会決議はシリアの残虐行為に説明責任を求めているが、ロシアと中国は何度も拒否権を行使している。
( → Huffington Post 2017年04月07日 )
安保理では 2011年のシリア内戦以降、欧米主導の決議案にロシアが拒否権を行使するのが常態化しており、シリア問題をめぐって分裂。だれが攻撃を実施したかをめぐって米露が真っ向から対立し、深刻な人道危機を前に結束できない安保理の限界を露呈している。
( → 産経ニュース )
十分な手続きをしようとしても、それを進めるには、当事者であるロシアの許可を得る必要があるが、それは不可能だ。
比喩的に言えば、泥棒を逮捕するには、泥棒の許可が必要だ。これでは、泥棒を逮捕することはできない。泥棒は野放しになる。かくて、その結果、化学兵器の使用を止めようがなくなる。
手続き論ばかりを重視すると、手続き( or 制度)自体に欠陥がある場合に、麻痺状態に陥って、是正が不可能になるのだ。
「法律馬鹿」の陥る典型的な施行法だろう。
( ※ 「法自体に欠陥がある」ということを理解できないわけだ。法を天下り的な絶対的なものとして受け入れるだけ。ほとんど思考停止状態である。)
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この問題では、実は、人々の見失っている重要な点がある。こうだ。
「英国の EU 脱退や、右翼政党の急成長など、欧州の制度崩壊の状況は、難民が押し寄せたことから来ているが、その難民は、シリア内戦によってもたらされた」
欧州では「難民を受け入れるべきだ」「いや、追い出せ」というような議論が生じているが、実は、その根本には、「難民の発生」という問題がある。そして、その問題は、「シリア内戦」から来ているのだ。
とすれば、逆に言えば、「シリア内戦」という問題を解決すれば、難民の発生はなくなるので、「英国の EU 脱退」という問題も生じなくなるし、フランスなどで右翼政党が急成長する問題もなくなるし、ドイツやオランダやベルギーで「難民と地元民の対立」という問題もなくなる。また、スウェーデンでは難民だらけになって 25年後には国民の過半数がイスラム系になってしまう(国を乗っ取られる)という問題もなくなるだろう。
→ 参考記事 、 はてなブックマーク
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では、どうすればいいか?
化学兵器を使い、難民を大量発生させるアサド大統領を打倒するべきか? そのためにミサイル攻撃したトランプ大統領を支援するべきか? どんどん武力行使を拡大して、大きな戦争状態を招いて、大量の戦死者を出すようにするべきか? そのあとでシリアを荒廃させるべきか? (フセイン後のイラクが荒廃したように?)
どうも、上記の方針は、うまい方針ではなさそうだ。なるほど、現時点で限定的なミサイル攻撃をしたトランプ大統領の方針は、「一時的な警告」という限定的な武力行使としても見るなら、緊急避難ふうのものとして容認してもいいかもしれない。
しかし、このままどんどん武力行使を拡大すること(子ブッシュ大統領がやったようなこと)は、好ましくあるまい。
とすれば、理想は、こうだ。
「アサド大統領については打倒(抑止)するべきだが、米国の武力行使については実施しない方がいい」
つまり、平和的に解決するのが理想だ。しかし、そんなうまい方法は、あるのか? これまでいくら政治交渉をしてもまったく実らなかったのに、何か頭を働かせるだけで、武力行使なしで解決できるような、うまい方法はあるのか?
こういうときには、みんなで叫ぼう。
「困ったときの Openブログ!」
すると、たちまち名案が出てくる。
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その名案は、以前にも述べたことがある。ロシアがアサド政権を支持する理由だ。
ではなぜ、アサド政権を支持するのか? ここを、たいていの人は見失っている。ただし、一部の人(事情通)は理解している。こうだ。
「海への出口を持たないロシアは、シリア西部(タルトゥース)に海軍基地を借りている。アサド政権は、ロシアに海軍基地を提供している。だから、この基地の権益を守るために、ロシアは反アサド派(反政府勢力)を攻撃する」
要するに、ロシアはタルトゥースの海軍基地を絶対に失うことができない。これは軍事的に譲歩の余地のない立場だ。それゆえ、アサドがいかに人非人の独裁者であるとしても、ロシアは自国の軍事的権益を守るために、その権益を与えるアサドを支持するしかないのだ。逆に言えば、その権益を脅かす反アサド派(反政府勢力)を攻撃するしかないのだ。
このことを、西側の国々は理解できていない。だから、「ロシアははアサドを政権を支持するな」という自分勝手な要求ばかりをしている。相手の気持ちがわからない馬鹿の見本か。
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ロシアはシリアにある軍事基地を絶対に失えない。だから、その権益を脅かす反アサド派(反政府勢力)を攻撃するしかない。
そして、ここまで理解すれば、西側がなすべきこともわかる。それは、ロシアを非難することではなくて、ロシアの権益について「現状維持」を打ち出すことだ。つまり、こうだ。
「アサド政権が倒れたあとでも、ロシアには現在の軍事基地を利用する権益を保証する。その権益を、反アサド派(反政府勢力)および米国などが、そろって保証する」
こうすれば、ロシアはもはやアサド政権を支持する理由がなくなる。かくて、アサド政権を打倒することができる。
( → ロシア機撃墜の根源 )
上に述べた通りだ。
アサド大統領を武力なしで倒す方法はある。それは、ロシアの支援をなくすことだ。そのためには、ロシアの地中海進出の権益(タルトゥースの海軍基地の使用権)を認めればいいのだ。これによって、ロシアはアサドを見捨てることができる。そうなれば、アサドは退陣するしかない。
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ただし、アサド退陣についても、「アメとムチ」の方法を取るといいだろう。
・ 自発的に退陣すれば、多大な利益を保証する。
・ 自発的に退陣しなければ、軍事的に死刑となる。
前者ならば、費用は格安で済む。(アサドの生活費程度だ。王様相当としても、100億円ぐらいだ。)
後者ならば、戦争の費用となるので、兆円単位の費用が必要となる。湾岸戦争並みなら、数十兆円か。(うち、日本は 135億ドル の支払い。2兆円ぐらいか。)
というわけで、戦争よりは、前者の方(自主的退陣の推進)がお薦めだ。
一般的には、戦争は常にコスト的に最悪である。頭を使って解決するのが最善だ。それが Openブログの方針だ。
「頭は帽子のためにあるんじゃない」
【 追記 】
シリアの反政府組織について言及しておこう。
反政府組織は、アサド軍に対抗しているので、民主主義勢力に見えるかもしれないが、そうではない。彼らはイスラム過激派であり、アルカーイダに近い。アルカーイダ系で、テロ組織系だ、と言っていいだろう。
だから、いくら反アサドでも、こっちを本格的に支援するわけには行かない。これが西側のジレンマだ。「アサドもまずいが、反政府組織もまずい」というわけ。
将来、安定があるとしても、アサドで安定してもまずいし、反政府組織で安定してもまずい。かといって、安定なしで対立していれば、難民が大量に発生して欧州が崩壊する。
この三つは、どれも駄目だ。
では、どうする?
私としては、「多数の自治区をたくさんつくって、将来の統合は将来の各自治区に任せる」というふうにするのがお薦めだ。ここでは、各自治区に民主主義が成立することが条件だ。このように民主主義が成立すれば、将来的には好ましい安定状態となるだろう。
国際社会としては、その方向への道付けをするべきだと言える。イラクにおける民主主義政府の成立は、その一例となる。
ただし、イスラム教と民主主義は矛盾するので、これで絶対的に安定となるわけではない。エジプトやトルコやイランでは、いったん民主主義政権ができても、イスラム教の攻勢によって民主主義は絶えず脅かされている。
この問題を原理的に安定化するには、イスラエルの問題を解決することが必要だろう。現状では、米国によるイスラエル支持が諸悪を生み出している。
また、アサドの退陣はイラクやリビア、エジプト、南スーダンのようにさらなる混乱を招くでしょう。
残念ながら強制された民主主義では混乱・混沌を平定できないと思います。いずれの周辺国もめんどくさい内政干渉と代理戦争をやめてしまえば内戦は落ち着くところに勝手に落ち着いて、平定されると思います。
民主主義を広めるために反政府組織を支援しても彼らが独裁者になれば元の木阿弥です。
北朝鮮みたいに挑発的な国も出てくるでしょうが、変な意味北朝鮮国内は粛清の恐怖で平定されていますので、難民が発生していません。
好ましくはないのですが、他の荒療治よりはいいのかな。と思う次第です。
アサド政権下では西側のコントロール外なので、ロシアが好き勝手にできます。
西側の許可・容認の下でロシアが基地を得るなら、西側のコントロール下に置かれるので、状況は安定的です。
あと、シリアにロシアの基地があっても、中東における戦力比は西側が圧倒的に上です。百倍以上、上でしょう。ロシアの脅威なんか、ほとんどない。
ロシアが怖いのは、大陸で地続きになった部分。ひるがえって、シリアの派出所なんて、ちっとも怖くない。補給を断たれれば、あっという間に孤立する。
ただし、実際にはちっとも怖くなくても、「怖い、怖い」と妄想をしているのであれば、その妄想は難点にはなる。西側の妄想が諸悪の根源かもね。
タイムスタンプは 下記 ↓
( ※ 「法自体に欠陥がある」ということを理解できないわけだ。法を天下り的な絶対的なものとして受け入れるだけ。ほとんど思考停止状態である。)
これは誤解です。法律家は違法適法の次元と適用法令の当不当の次元を厳格に峻別しているだけです。以前の安保法制の議論のときも、馬鹿なネトウヨが同じようなことを言って、辟易したものですが、管理人さんが同レベルの発言をするとは残念ですね。
誤読ですよ。ちゃんと読みましょう。法律家の話などはしていない。下記の通り。
「手続き論ばかりを重視すると、」
「法律馬鹿」
法律学者についてなら、
「それはそれで(法的には)正しい。」
と述べています。
たといアメリカがイスラエル支持をやめたとしても、あの地域に安定が来るとは思えません。
安定するとすれば、イランあたりが全アラブを統一して強力な独裁国家を築くことなのでは。
断定していらっしゃいますが、そもそもアサド政権側は化学兵器なぞ使っていないという説があります。反政府側が化学兵器を貯蔵してたのをアサド政府側が(知ってか知らずか)通常爆弾で空爆したために周辺に被害が生じたという説です。
まともに証拠すら示さず攻撃するアメリカは、イラクに大量破壊兵器があると断定して攻撃しておいて後で「やっぱり無かった」と発表した件から何も学んでいないようです。これでは中国やロシアが賛成するはずがありません。
その説はすでに検証済み。今朝の朝日新聞の1面で否定されています。
http://www.asahi.com/articles/DA3S12885285.html
http://www.asahi.com/articles/ASK4B41PZK4BUHBI00R.html
新聞ぐらい読めばいいのに。新聞も読まないで時事問題を論じるのは、情報不足。
そもそも最初から、アサドとロシアの嘘八百の弁明(屁理屈)だというのは見え見えなんだが。
毎度毎度嘘を言っている人の新しい嘘を聞いたら、すぐに「嘘だな」と勘づくぐらいの直感力は働かせましょう。
いくらなんでも(アメリカ側が「アサドがやった」という証拠を集めるにしても時間がたりないくらい)攻撃の判断が早すぎるように思うんですが。
数年後〜十数年後に「やっぱり違ってました」なんてことになるんじゃなかろうかと。アメリカはこの件で前科持ちですんで。
せめてリンク先の記事ぐらい読んでから書きましょうね。読んでいないのがバレバレですよ。
あとね。シリアの住民をアサド軍が何百回も空爆しているのは、周知の事実。その空爆の種類が、通常爆弾から化学兵器爆弾になった、というだけ。
・ アサド軍の空爆
・ その事後の化学兵器による被害
という証拠は、たっぷりと出ている。
大量破壊兵器の影さえもなかった過去の事例とはまったく異なる。
このブログは、定期的にcheckしていました。
MRJに関する、管理人殿の、見識に、感服したからです。
でも今回の、管理人殿の、マスコミ報道の鵜呑みには、すこし落胆しています。
まして、慰安婦捏造の朝日新聞報道が根拠とは。。。
++++
いまいちど、シリアに関する西側報道を、冷静に考えて見ましょう。
シリア正規政府軍と、反乱勢力が、戦車で戦闘しています。youtubeで見れます。
https://www.youtube.com/watch?v=1LQdR_nexBM
反乱勢力は正規軍と戦闘できる、武器を持っています。プロの集団です。
集団戦闘する、技術と装備があります。
その資金は何処から?
その戦闘集団は、何処で訓練したのか?
戦車の操縦技術獲得には長時間の訓練と費用がかります。
正規軍と対等に戦えるには、数年の訓練が必要です。
秘密裏にシリア国内で訓練が可能ですか?(途中で、見つかってしまいます。)
その集団の、突然の出現を不思議に思いませんか?(無理です!)
シリアに関するマスコミ報道は、すこし考えればおかしい事に気づきます。
そう、かなり前から、おかしかったです。
真実は、彼らは、シリア乗っ取りの侵略軍なのです。(いまどきそんな国家がある?!!)
賢明な管理人なら、壮大なマスコミ報道の嘘・捏造に気が付けると思っています。
> その資金は何処から?
主として麻薬資金です。だから米国は麻薬密貿易を断とうとしています。
あと、スンニ派のサウジアラビアからも資金が出ています。スンニ派支援のため。
> その集団の、突然の出現
現地の住民を強制的に徴用して、勝手に軍人に仕立て上げているんです。
> 反乱勢力は正規軍と戦闘できる、武器を持っています。プロの集団です。
それは一部だけです。たいていは、イラク政府軍のアマチュア兵士が置き捨てた米国の戦車を使っているだけです。それも数が限られている。シリアの政府軍には対抗できません。主たる戦闘方法は、住民のなかにまぎれて、住民を盾にして、ゲリラ戦法をとることです。(中国がやった便衣兵と同じ。)
以上、いずれも、朝日新聞にちゃんと書いてありますよ。
> マスコミ報道は、すこし考えればおかしい事に気づきます。
それは新聞を読まないで、ネットの断片的な情報だけを読むからです。新聞を読んで、体系的に網羅的に情報を得ましょう。
ネットの情報なんて、ほんの一部だけです。それをすべてであるかのように思い込むから、2ちゃんねらーは無知の誤解をさらけだす。
その典型が、東大教授の某氏だ。
→ http://j.mp/2og9Gql
マスコミの嘘はあります。
マスコミの嘘を見抜くには、マスコミの情報を遮断すればいいのではない。逆に、大量のマスコミの情報を網羅的に取得した上で、そこにある穴や矛盾を見出せばいいのです。( ※ )
そこを理解しないと、「朝日新聞を読まないで朝日の批判をする」という東大教授みたいになります。妄想の怪物を相手に突進するドン・キホーテそのものだ。
──
※
上の方法の件は、学術研究の場合も同じだ。
独創的な研究成果を出すには、独創的な発想をしようと考え込めばいいのではない。偶発的なヒラメキを待てばいいのではない。では、どうするか?
既存の研究をすべて網羅的に理解した上で、既存の研究にある穴や問題点を見出せばいい。(そのあとでたまたま独創的なヒラメキが浮かぶことがある。)……そうすることのできた人だけが、独創的な研究をなすことができる。
万に一つの独創的なヒラメキを出すためには、万に9999の試行錯誤(失敗例)を重ねる必要がある。その努力を厭う人には、真実は見出せない。
真実の探求とは、そういうものだ。
お返事有難うございます。すこし、感情手的になられた、反論とお見受けしました。
管理人程の知性と、教養と、洞察力が有れば、いつの日にか、マスコミの壮大な嘘に気が付ける時が訪れると信じています。
其の日が来る事を期待して、ROMに戻ります。
自動運転等に関する話は、大変参考になります。
無料で読める高品質の記事、御礼申し上げます。
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朝日新聞を含め、マスコミはお金の奴隷です。
一見、公平で正しい事も言いますが、他の見方は報道されません。
何が正しいか、立場で違う事は、同意されると思います。
マスコミの役割は大衆の情報操作です。
実態はお金を持った、強い者の味方です。