2017年04月09日

◆ 共謀罪のペテン

 「共謀罪」の法案を、「テロ等準備罪」の法案と称して、政府は立法化しようとしているが、これはペテンである。

 ──

 この法案の成立の是非は、政党間で議論がなされているようなので、私としては特に一方の肩を持つことはしないでおこう。
 とはいえ、この法案を実際とは異なる形で示して、国民をペテンにかけること(国民をだますこと)は許されない。そこで、ペテンの箇所を指摘しておこう。

 だます側は、もちろん、政府自民党だ。現実の法案とは違う形で提示している。
 そのことは、法案の名称からもわかる。もともとの法案は「共謀罪」であったのに、「テロ等準備罪」という名前に名称を変更している。このことで、この法案が「テロ対策」であるかのように見せかけている。
 しかしながら、この法案の趣旨は「テロ対策」ではない。「テロ等」と示している箇所の「等」の箇所だけが正しい。テロ対策は、もともと念頭にないのだ。

 ──

 この件は、すでに何度も指摘されてきた。次の形で。
 「この法案は、実行行為ではなく予備行為を処罰するものだが、殺人などの重罪については、すでに殺人予備罪などがあり、既存の法律だけで足りる。(それによって条約を批准することもできる)」


 このことは、法務省の解説ページにも記してある。
 《 現行法のままでも条約を締結できるのではないかとの指摘について 》
○  条約第5条は、多種多様な組織犯罪を一層効果的に防止するために、すべての重大な犯罪の共謀又は重大な犯罪を行うことを目的とする組織的な犯罪集団の活動への参加の少なくとも一方を犯罪化することを義務付けています。
 また、この義務を履行するための犯罪を設けるに当たっては、「犯罪行為の未遂又は既遂に係る犯罪とは別個の犯罪とする。」ものとし、未遂罪や既遂罪とは独立に、犯罪の実行の着手以前の段階で処罰することが可能な犯罪を設けることを義務付けています。

○  この点、我が国の現行法には、実行の着手以前の段階の行為を処罰する規定として、例えば、殺人予備罪、強盗予備罪などの予備罪や、内乱陰謀罪、爆発物使用の共謀罪などの共謀罪等が設けられており、また、一定の場合に殺人等の犯罪の実行の着手以前の段階の行為に適用されることがある特別法の規定として、公衆等脅迫目的の犯罪行為(テロ行為)の実行を容易にする目的で資金を提供する行為を処罰する規定や、けん銃等の所持を処罰する規定なども設けられています。
 しかし、組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪には多種多様な犯罪があり、現行法上、予備罪、共謀罪等が設けられているのはその中の一部のみに過ぎません。
※  例えば、犯罪組織が行うことが容易に想定できる詐欺罪や人身売買に関する犯罪等については、現行法上、予備罪も共謀罪も設けられておらず、犯罪組織が振り込め詐欺を行うことを計画したり、売春組織が人身売買を計画している場合にも、予備罪や共謀罪で処罰することはできませんし、上記のような特別法により処罰できるわけでもありません。
 さらに、いわゆる共謀共同正犯は、犯罪行為の実行の着手を前提とするものであり、実行の着手以前の行為を処罰するものではありません。

○  このように、我が国の現行法は、条約第5条の義務を充たしていませんので、この義務を充たすためには、「組織的な犯罪の共謀罪」を新たに設けることが必要であり、これがなければ、国際組織犯罪防止条約を締結することはできないと考えています。
( → 法務省

 法務省では、法案の必要性を訴えているつもりのようだが、実際には、「これでは理屈にならない」と判断するしかない。
 上記にあるように、
 「殺人予備罪、強盗予備罪などの予備罪や、内乱陰謀罪、爆発物使用の共謀罪」
 などが適用可能である。さらには、
 「殺人等の犯罪の実行の着手以前の段階の行為に適用されることがある特別法の規定として、公衆等脅迫目的の犯罪行為(テロ行為)の実行を容易にする目的で資金を提供する行為を処罰する規定や、けん銃等の所持を処罰する規定なども設けられています」
 とのことだから、テロの予備行為は、十分に取り締まることができる。
 法務省が「現状ではできない」と述べているのは、
 「詐欺罪や人身売買に関する犯罪等については、現行法上、予備罪も共謀罪も設けられておらず、犯罪組織が振り込め詐欺を行うことを計画したり、売春組織が人身売買を計画している場合にも、予備罪や共謀罪で処罰することはできません」
 ということぐらいだ。つまり、
 「詐欺・振り込め詐欺・人身売買・売春」
 というものを(組織的にやるのを)を処罰するだけだ。しかし、詐欺・振り込め詐欺・人身売買・売春なんてものを「テロだあ」と騒ぎ立てるなんて、ペテンに等しい。振り込め詐欺も、売春も、たしかに悪質ではあるが、これらを「テロ」と呼ぶのはとんでもないインチキだ。
 こういう犯罪を取り締まりたいのであれば、それはそれでいいが、だとすれば、「詐欺の予備罪」「売春の予備罪」というふうに、正確に表現するべきだ。そういうふうに正確に表現した上で、立法化の是非を問うのであれば、それはそれでいい。私としては特に是非は述べないでおこう。
 しかるに、「詐欺の予備罪」「売春の予備罪」というに示すべきものを「テロの予備罪」もしくは「テロ等の予備罪」と称するのは、まったく不当であろう。これは、政府自身によるペテンであるから、政府の詐欺だ。こんな詐欺行為を是認するのであれば、立法化に携わった国会議員を全員逮捕してしまえそうだ。
 それどころではない。「詐欺の予備罪」「売春の予備罪」を「テロ等の予備行為」と見なして、重罰で処罰するのであれば、「法律の条文外の適用」も同然だから、あらゆる犯罪が「テロ等の予備行為」と見なされる。たとえば、万引きとか、駐車違反とか、交通信号無視とか、歩道で自転車がベルをチャリンと鳴らしたとか、道端で立ち小便をしたとか、そのくらいの軽微な違法行為で、どれもこれも「テロ等の予備行為」ということでみんな逮捕されてしまう。

 要するに、テロでもないものについて、「等」を付けた法案によって過剰に処罰しようということは、「テロでもないものをテロ等と見なして処罰する」という過剰適用であるから、あらゆる軽微な違法行為が処罰の対象になってしまうのだ。

 ──

 これは杞憂ではない。そのことは、政府の説明を見ればわかる。
 この法案によって処罰される具体的な例は、何か? テロの準備行為か? いや、テロの準備行為ならば、既存の殺人予備罪や破防法で十分に処罰できる。だから、政府の例示は、テロではないものとなった。ハイジャックだ。
 首相は26日の予算委では、ハイジャックグループを例示し、犯行の合意に加え準備行為をして初めて罪になると説明した上で、こう答弁している。
 「(航空券を)予約をする人、資金調達する人、実際にハイジャックする人などがいる。その中で(メンバーの一人が)予約すれば準備行為とみなし、他の人も含めて一網打尽にでき、テロを未然に防げる」
( → 産経ニュース 2017.4.8

 まったくメチャクチャな論理だ。
 (1) ハイジャックの予備罪だというのであれば、それはハイジャックを阻止するのであって、テロを阻止するのではない。「テロ以外のもので危険なものを一つ例示しよう」と思ったのだろうが、ハイジャックを阻止したければ、ハイジャック予備罪を立法化すればいいのだ。それ以外のすべてについて一網打尽にする必要はない。こんな一網打尽の法案だと、駐車違反でさえ「テロ等準備行為」で逮捕されかねない。
 (2) ハイジャック行為がテロの一部分になるのであれば、現状でも「テロの準備」ということで、殺人予備罪や破防法で処罰できる。繰り返すが、テロそのものについては、現行法で予備行為を処罰できるのだ。テロの予備については、議論にはならない。
 (3) なのに首相は、「他の人も含めて一網打尽にでき、テロを未然に防げる」と論理を飛躍させている。これはペテンだ。テロを防ぐのであれば、現行法で足りるのであって、新法は必要ないからだ。新法で意味があるのは、「テロにはならないハイジャック」だけだ。
 (4) 結局、新法は「テロ以外の部分を阻止する」のが目的であるのに、政府・与党は「テロを阻止する」というふうに、偽っている。

 というわけで、政府・与党は、ゴマ化しており、だましている。一種の詐欺だ。こういうやつらこそ、新法で逮捕されるべきなのだが、権力を握っているのは自分たちだから、逮捕されないと思っているようだ。ひどいものだ。
 犯罪者が自分たちに都合のいい法律を作るのも同然だ。



 [ 余談 ]
 政府・与党は、詐欺師も同然なのだから、テロ等準備罪で逮捕されても当然だ。
 としたら、民進党か何かが、何かの拍子で政権を握ったら、あとで自民党や公明党の国会議員を、すべて「テロ等準備罪」で逮捕できてしまう。

 これは、冗談のようだが、あながち冗談とも言い切れない。歴史上、似た例はあった。それは、ヒトラーの憲法停止だ。
 ヒトラー以前のワイマール憲法では、国家の非常時の対処として、大統領に「憲法停止の非常大権」を与える規定があった。これはあくまで非常時のための対処であった。
 ところがヒトラーはこれを悪用した。この既定によって憲法を停止させ、独裁政権を打ち立てた。
 1933年1月、ヒトラーは首相に就任にすると、翌月には大統領のヒンデンブルクに対して「民族および国家の保障のためのライヒ大統領令」を布告させヴァイマル憲法48条2項に基づく非常措置権限を発動させた。これにより憲法に定める基本権の停止が図られた。さらに1933年3月には非常措置権限をもとに「民族および国家の危難を除去するための法律」いわゆる全権委任法が制定され、その2条は「ライヒ政府が議決したライヒ法律は、ライヒ議会およびライヒ参議院の制度それ自体を対象としない限り、ライヒ憲法に違反することができる。ライヒ大統領の権利は、これにより影響を受けない。」という内容となっており、この法律により議会による立法権のほとんどが政府による立法にとってかわられる結果となった。
( → 国家緊急権 - Wikipedia

 こういう倒錯が起こるのだから、似たことが日本でも起こっても不思議ではない。つまり、「テロ等準備罪」を適用することで、自民等の議員を全部逮捕してしまうことができるのだ。あるいは、逆に、安倍首相が、野党議員をすべて逮捕してしまうかもしれない。
 こうなると、日本は、韓国みたいになるな。朴正煕のクーデターみたいなものだ。
 5月16日午前3時を期してクーデターは決行され、朴正煕少将を最高指揮官とする革命軍は、漢江大橋付近で憲兵隊50余名と銃撃戦を行った以外は、大きな抵抗も無しに中央庁や国会議事堂などソウル市内の主要部分を制圧した。こうして首都を制圧した革命軍は午前5時、中央放送局の放送を通じて軍事革命が行われたことを全国民に宣布した。
 クーデターに成功した革命軍は軍事革命委員会を設置し、陸軍参謀総長である張都暎を説得して議長に就任させ、クーデターを指揮した朴正煕は副議長に就任した。
 現政権(張勉政権)の解任と国会及び地方議会の解散、政党や社会団体の活動禁止、張政権の全閣僚と政務委員の逮捕、国家機構の一切の機能を軍事革命委員会が代行することが宣言された。
( → 5・16軍事クーデター - Wikipedia

 とんでもないことのようだが、テロ等準備罪というインチキ法案が成立したら、似たことは日本でも可能となる。気に食わない奴は、みんな逮捕してしまえばいいのだ。
 「そんな馬鹿な!」
 と思うかもしれないが、国会を無視して、嘘をつきまくっている安倍首相を見れば、もはや杞憂ではないことは明らかだろう。
 特に、「テロ等準備罪」というインチキ法案を通そうとしていることからして、ペテン行為は明らかだ。
 彼が独裁政権の樹立を狙っているかどうかははっきりとしないが、次のことは明らかだ。
  ・ 国民をだまして、名分とは違う法案を通そうとしている。
  ・ その法案では、過剰適用が可能で、誰をも逮捕できてしまう。
   (テロ以外の犯罪をすべて「テロ等」とひとくくりにする。)

 
 「日本死ね」ではなく、「日本死んだ」となりそうだ。「日本オワタ」か。


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 【 追記 】
 あとで思い直したが、共謀罪の処罰の対象は、「懲役4年以上の罪」となっているので、立ち小便や信号無視ぐらいで逮捕されることはない。
 とはいえ、「懲役4年以上」という除外規定がなければ、もともとは立ち小便や信号無視ぐらいで逮捕されるような、曖昧な規定であったわけだ。
 この曖昧さこそが、この法案のデタラメ具合を示している。
 そもそも「懲役4年以上」という除外規定からして、あまりにも漠然とした範囲の決め方だ。
 この法案の駄目なところは、こういう曖昧さだ。
 逆に言えば、たとえ立ち小便や信号無視ぐらいであっても、あとで「立ち小便は懲役4年」とか「信号無視は懲役5年」とかの法律改正によって、いくらでも「テロ等準備罪違反」で重罰を科すことができてしまう。
 ひどいデタラメさだ。
 
 《 加筆 》

 「懲役4年以上」というだけでなく、もうちょっと具体的に、個別に規定されている。
 対象とするとみられる二百七十七の犯罪を「テロの実行」「薬物」など五つに分類。政府はテロ対策を強調しているが、「テロの実行」関連は百十で四割だった。
 「テロの実行」に分類されているのは、組織的な殺人やハイジャックなどに関する犯罪。そのほか、覚醒剤や大麻の輸出入・譲渡などの「薬物」関連が二十九▽臓器売買や集団密航者を不法入国させる行為など「人身に関する搾取」二十八▽マネーロンダリング(資金洗浄)や組織的詐欺などの「その他資金源」が百一▽偽証や逃走援助などの「司法妨害」が九−となっている。
( → 東京新聞 2017年2月26日

 とのことだ。(さすがに立ち小便や信号無視は含まれないようだ。すみません。)

 ただし、文中にもあるように、
 “ 政府はテロ対策を強調しているが、「テロの実行」関連は百十で四割だった。”

 とのことだ。「テロ等」の「テロ」よりも「等」の方が多くなっている。やっぱり、ペテンだ。
posted by 管理人 at 18:06| Comment(10) | 一般(雑学)4 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
安倍首相は戦前が大好きですからね。治安維持法も復活させたいんでしょう
Posted by RFT at 2017年04月09日 20:08
行き着く先は中国・北朝鮮ですね。

あれ?右寄りの人たちはこれらの国々は嫌いの筈では?
Posted by 反財務省 at 2017年04月09日 20:51
管理人様、貴ブログいつも興味深く拝見しています。
微罪も含め「テロ等」に含められてしまう、とのご指摘もっともと思います。
しかしテロそのものの定義も危ないです。
国会で集団的自衛権の議論がされていた際、国会議事堂前で行われていた反対デモに対し、自民党のお偉いさんが「あんなに騒々しいのはテロじゃないか」と言い放ちました。政権批判やその報道は政権の信頼性を失墜し、社会不安を招くことで公共の福祉に反するのでテロであるとする定義が一連の国会議論や法案に紛れ込まされないかを心配しています。そうなるとこのブログもテロですかね。
(反財務省様)>右寄りの人たちはこれらの国が嫌いなのでは
これらの国が自分たちを非難するから嫌いなので、自分たちが上層にいる限り体制は嫌っていないのではないかと思っています。

Posted by アラ還のオヤジ at 2017年04月10日 06:17
これってそんなしょぼい法案なのかな?

もしかして現行法ではクーデターは共謀罪に問えないのではないか? 例えば放送設備の占拠や大臣の軟禁、もっというと政権交代を叫ぶ扇動行為
クーデター禁止法案が正しいと思う
Posted by かーくん at 2017年04月10日 06:45
> クーデター禁止法案

 そのものズバリの規定があります。内乱罪です。予備罪もあります。法律は刑法。

  http://j.mp/2oTQoLU
Posted by 管理人 at 2017年04月10日 06:56
民主党の時代に共謀罪の法案がなくても
国際組織犯罪防止条約を締結できると言っていたけど
結局出来ませんでしたね
Posted by 田舎者 at 2017年04月10日 09:17
元々現行法の改正程度で条約締結ができるはずだったのに、いつのまにか変わったんですよね
で、この件のまともな説明はされてないはずです
変わったの民主党政権ができる前です(「共謀罪」が出てきたのは小泉内閣だったかな)
Posted by nuvolari at 2017年04月10日 12:37
 最後に 《 加筆 》 を付け足しておきました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2017年04月10日 12:54
先のコメントの一部修正です。
自分達を非難する者をこれらの国の回し者にしたいので嫌っている、の方が妥当かと思います
シリア攻撃では早速アメリカへの「理解」を示した阿部首相は、米国イラク侵略時の反省(理由とされた大量破壊兵器ははでっちあげだった)もなくトランプへのシッポ振りに大忙しですね。司法、憲法の軽視、無視や都合が悪いマスコミへの罵倒、圧力などよく見習っているものです
Posted by アラ還のオヤジ at 2017年04月10日 15:32
アメリカもそうですがテロ対策と名前がつけば反対できない雰囲気を作っていますね。
Posted by アラ還のオヤジ at 2017年04月10日 15:36
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