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日本人の新横綱として人気のある稀勢の里が、最初の場所で、土俵を落下して、ケガをした。ケガをしたのにもかかわらず、優勝したので、「感動した」という人も出る。
これで思い出すのが、貴乃花だ。ケガを押して出場して、優勝したが、そのせいで、力士生命を損なってしまった。1回の優勝と引き替えに、その後のすべての優勝を失ってしまった。
朝日の記事がその指摘をしている。
《 稀勢の里強行出場、貴乃花を思い出す けがの悪化が心配 》
強行出場した稀勢の里から思い出したのは、2001年夏場所、けがを押して22度目の優勝を決めた貴乃花(現親方)のことだ。
決定戦は上手投げで勝利。表彰式で当時の小泉首相が、「痛みに耐えてよく頑張った。感動した」と叫んだ。
だが、代償は大きかった。けがは致命傷になり、貴乃花は翌場所から7場所連続全休。再び賜杯(しはい)を抱くことのないまま、10場所目に引退した。目の前の優勝と引き換えに、力士人生を縮めたのは間違いない。
さて、稀勢の里だ。新横綱の場所は二度とない。出場にこだわり続ける信念も素晴らしい。ただ、無理をした決断が負傷を悪化させはしないか、不安が残る。(竹園隆浩)
( → 朝日新聞 2017年3月25日 )
貴乃花の場合は、武双山がとんでもないユルフン(まわしをきつく締めないこと)だったので、武双山のせいでケガを強いられてしまった。
稀勢の里の場合は、落下によるケガである。
このような「落下によるケガ」は、これまで何度も起こっている。雪崩事故の場合には、「過去に経験がなかったから」なんていう弁解をする人もいるが、相撲の場合には、「落下によるケガ」が何度も起こっているのに、一向に対策が取られない。
対策とは? 誰でも思い浮かぶのが、「マットを敷くこと」だ。すでにあちこちで提案されている。
→ 土俵の下にマットをどうして敷かないんですか? - Yahoo!知恵袋
→ どうして 下にマットなどひかないのですか?
→ 土俵落下 ケガ マット - Google 検索
マットというのは、大相撲には興醒めな感じもする。だから、私の提案は「座布団」だ。土俵に一番近い位置には、四人の審判委員だけを置いて、その左右の空席部分には座布団だけをおけばいい。

(上のビデオから)
この場所(砂かぶり)は、昔は観客がいたようだが、今は観客はいないようだ。たぶん、観客への安全性の点から、力士とぶつかってケガをしそうな席は空席にしたのだろう。
しかし、それならそれで、そこに座布団でも置けばいいのだ。
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なお、この問題で対処が遅れている理由は、たぶん、素人判断だろう。
「土俵の下に落ちるぐらいは、たいした衝撃ではない。相撲で倒れるのと同様だろう。なのに、ケガをする力士が肥満体で軟弱なのが悪い」
しかし、これは間違いだ。
(1) 衝撃は大きい
落下の衝撃は、想像以上に大きい。というのは、土俵下は低いからだ。たいていの人は、床に倒れるのと同様だろうと思うのだろうが、土俵下まで落ちると、加速度が付いて、かなり大きな衝撃となる。
(2) 倒れるのとは違う
倒れるのと落下するのとでは、まったく違う。
倒れるのは、モデル的に、45度に傾いた棒を想像してほしい。
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このような棒が倒れるときに、力はどれだけかかるか? 物理学の問題だが、計算のできない人が多いだろうから、簡単に答えだけ示すと、下記に解説がある。
→ 鉄の棒が 地面に置いてあります。- 知恵袋
要するに、かかる力は半分であり、加速度も半分だ。
足が地面に付いた状態で倒れるのは、衝撃が半分になるわけだ。
一方、足を着かないで、空中からいきなり全体が落ちる場合には、衝撃は(足を着いて倒れる場合に比べて)2倍になるわけだ。
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結局、「土俵下が低いこと」と「足を着かないで倒れること」の2点から、非常に大きな衝撃がかかることがわかる。だから、土俵落下で大怪我をする力士がどんどん出る。
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実を言うと、このケガは、私も昨日やらかした。
非常に特殊な事情で、「自転車は倒れないが、人だけが倒れる」という状況になった。そのせいで、自転車に乗った状態で、下半身を浮かせたまま、上半身だけ地面に落下した。あわてて片手を下に出したので、片手から落下することになった。
結果的には、「上半身が1メートルほど落下して、アスファルトにぶつかった。ただし片手を地面についたので、大怪我はしなかった」という状況だ。
このくらいなら、どうってことはない……と思えそうだが、ものすごい衝撃を受けた。ケガも生じた。
(1) 肘には(軟骨損傷が起こりそうなぐらい)ひどい痛みが出た。3時間ぐらいは痛みがひどく、24時間たったあとでも痛みは完全には消えていない。
(2) 落下の衝撃がひどく、肘で全体重を受けたが、体重を
受けきれず、肘が曲がる形で、肘もアスファルトに衝突した。その際、肘にも打撲を負った。
結局、症状は、打撲傷だ。外傷はない。手袋と衣服があったので、出血も内出血も皮膚裂傷もない。外見は何も問題ない。しかし打撲の衝撃がひどくて、痛みが消えない。
仮に、これが「足を着いた状態で倒れる」のならば、どうということもないだろう。転んで倒れて地面に手をついたことなら、これまでにも、2〜3回ぐらいはあったように思うが、ケガをしたことなどはない。しかるに、「空中で1メートル落下する」というのは、たとえ手で受け身みたいなことができても、とんでもない衝撃がかかるのだ。比喩的に言えば、金属バットでぶんなぐられたぐらいの、すごい衝撃だ。
私の場合は、「手をついた」という形だったから、まだマシだった。手で衝撃を受け止めることができた。
一方、稀勢の里の場合は、肩から落下したようだ。そのせいで、ひどいケガを負ってしまったようだ。
そして、こういうケガは、これまで何度もあったのだ。それにもかかわらず、相撲協会は何の手も打たない。まったくひどいものだ。
実を言うと、土俵を落下したことでケガをした力士は、稀勢の里だけではない。今の力士には、同様のケガを負った人が何人もいるようだ。
相撲協会がこれほど馬鹿であるからには、稀勢の里は土俵落下でケガをしたまま引退してしまった方が良かったかもしれない。本人にとっては不幸極まりないだろうが、それによって「日本人横綱が1場所も持たずに引退に追い込まれた」というふうになれば、さすがの相撲協会も、重い腰を上げて、「座布団設置」に動くだろう。
相撲協会の馬鹿さ加減を直すには、「稀勢の里が力士生命を奪われる」という劇薬があった方がよかったかもしれない。
似た例はある。電通の社員が自殺したことで、長時間残業が是正されることになった。「人が死ぬまで動かない」というのが、この国の悪しき状況だ。
政府であれ、相撲協会であれ、頭がまともに働くようになるには、尊い犠牲が必要なのだろう。
ひどい国。
これを安倍首相は「美しい国」と称する。
まあ、危機管理担当ではないが意見を言えないわけではないでしょう
このことからして、骨にかかる負担は2倍以上だ、とわかる。ケガをしやすいわけだ。
それは私も考えたんだけど、土俵というのは作るのが大変なんです。国技館だけならともかく、他にも各地に必要だし、地方巡業でも土俵を作る。各地で違うものを作ると、かえってケガをしやすいかもしれないし。
それよりは、座布団を置くだけの方がずっと簡単だし、安全性も高い。コストは低く、効果は高い。圧倒的な大差が付きます。
あと、2〜3メートルも場所を取ると、一番値段の高くて価値のある席がなくなってしまう。客も協会も困る。かといって1メートルぐらいだと、ケガ防止の効果は少ない。(落下の危険は残る。)
この方法はひどくコスパが悪い。
私が前から警告していたんだが。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180120-00000000-dal-fight
https://www.daily.co.jp/general/2018/01/19/0010909835.shtml?ph=1
→ https://www.nikkansports.com/battle/sumo/news/201901160000123.html