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スポーツ庁は「高校生の冬山登山禁止」と言っていたそうだが、今回はそれに反する形で事故が起こった。
ここで関係者は「春山だから冬山じゃない」と弁解しているようだが、雪山で有る限りは、春であっても冬山と同様だろう。むしろ、溶けて雪崩が起こりやすくなっている分、冬山よりも春山の方が危険だとさえ言えそうだ。(雪崩に関しては。)
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ここで、登山家の野口健がだいたい同趣旨のことを言っているようだ。「冬山か春山か、ということより、雪山であることが大事だ」という趣旨。
ツイートもある。
コメンテーターの方が「高校山岳部は冬山登山は禁止しているはず」と。しかし「冬山」に焦点をあてる意味があるだろうか。「雪山」かどうかなら分かりやすい。しかし「冬」と限定するならば「日本の冬山はダメだけれど春のエベレスト登山OK」という事になる。そして今回の遭難は春山登山。
— 野口健 (アルピニスト) (@kennoguchi0821) 2017年3月27日
つづく
「冬」よりも「春」の方が絶対的に 安全というものではない。特に雪崩のリスクは冬よりも春の方が高い。日本の山に限らずヒマラヤでも同じこと。4月?9月の間に雪崩が多発する。確かに日本の高校山岳部では冬山登山を禁止している学校か多いとも聞きますが、季節で区切るのは意味があるのだろうか。
— 野口健 (アルピニスト) (@kennoguchi0821) 2017年3月27日
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野口健の話は、参考意見として傾聴するに値するが、これは本項の主題ではない。本項の主題は、「雪崩事故の教訓」だ。
そして、(読者の予想には反するだろうが)、ここでは「今回の雪崩事故を教訓とする」という話はしない。逆に、「過去の雪崩事故を教訓とするべきだった」という話をする。
過去の雪崩事故は、Wikipedia によれば、春に限っても、下記の例がある。
( → 雪崩 - Wikipedia )
- 1957年4月12日 - 新潟県中魚沼郡津南町の石炭採掘場の飯場が雪崩に襲われ2棟が全壊、2棟が半壊した。この雪崩により20名が生き埋めとなり19名が死亡した。
- 1965年(昭和40年)3月14日 - 北海道の日高山脈を登山中の北海道大学山岳部員6名が雪崩に遭遇。6名全員が死亡した。(札内川十の沢北海道大学山岳部遭難事件)
- 1983年(昭和58年)3月21日 - 長野県の八ヶ岳連峰・阿弥陀岳(2807m)で兵庫県の山岳会の11名と長野の登山客1名の合計12名が表層雪崩に巻き込まれ死亡した。
- 2000年(平成12年)3月27日 - 岐阜県吉城郡上宝村(現在の高山市奥飛騨温泉郷)左俣谷で雪崩が発生。建設現場で除雪作業をしていた作業員が巻き込まれる。死者2名。
- 2016年(平成28年)3月25日、長野県の八ケ岳連峰・阿弥陀岳で雪崩が起こり、登山者が1人死亡・2人重軽傷となった。表層雪崩と見られる。
春の雪崩の事故はけっこうある、とわかる。特に、「雪が積もりすぎて起こる雪崩」ではなくて、「雨などで雪が溶けたあとに新たに積もった雪だけで起こる雪崩」(表層雪崩)が多いとわかる。
しかも、この手の雪崩は、比較的予想が付きやすい。「雨のあとの降雪」という形で起こるからだ。そして、今回の場合は、どんぴしゃりだった。気象庁がまさしく那須に雪崩注意報を出していた。
《 雪崩で高校生ら8人死亡 注意報発令の中で山岳訓練 》
那須町付近は二十七日朝から雪が多く降り、雪崩注意報などが継続していた。専門家は表層雪崩の可能性を指摘している。県警は、こうした悪天候の中で訓練をなぜ実施したのか、業務上過失致死傷容疑で捜査している。
( → 東京新聞: 2017-03-28 )
雪崩注意報を無視するというのもひどいが、基本的には「春山の雪崩の危険性をまったく考えていない」という点が問題だろう。特に、高校山岳部となると、「冬山対策」「凍死対策」ということばかりを念頭に置く。
また、「何とか対策しよう」ということばかりに思いが向きやすい。根性主義の指導者ほどそうだ。一方で、雪崩というのは、どれほど人間が努力しても、対抗することはできない。あっという間に固い雪に閉じ込められて、身動き不可能となる。自力で脱出することは不可能で、他人に掘ってもらうことでしか生き延びることはできない。
要するに、春山の雪崩対策は、「雪崩の起きそうな春山には行かない」ということだけだ。それ以外の対策はすべて無効だ。そして、それを理解しない指導者が、根本原因なのだと思う。
《 強豪の山岳部、生徒ら動揺 恒例の「春山講習会」 》
大田原高校……は男子校で、県内有数の進学校。山岳部は県内屈指の実力で知られる。夏や冬は山で合宿を行い、県予選1位のみが進出できる高校総体に8年連続で出場しているという。
( → 朝日新聞 2017-03-28 )
これほどの強豪校だから、訓練も猛烈になる。そういう猛烈主義が、山岳訓練で無理をやらせた。
他のスポーツと違って、冬山の山岳部は命を賭ける。そのことを理解していないから、こういう事故が起こる。
スポーツ庁や関連団体が、冬山や春山の危険性(特に雪崩の危険性)を軽視したことが、今回の事故を引き起こした、と言える。
その意味では、津波の被害に似ている。大被害が起こるまで、その危険があることを忘れている。そして、その危険は、過去を見れば明らかに存在しているとわかるのだ。
人々は過去の教訓を忘れがちなのである。
【 関連サイト 】
過去の雪崩事故(海外)。
今回の雪崩事故。
同時期に起こった別の雪崩事故。(動画あり)
→ 福島・安達太良山の雪崩で男性2人遭難 TBS NEWS
山岳部連盟の人たちが事前調査を綿密にしたのだろうか
3日間ならお願いして帯同してもらえなかったのか
ベテランの教師が引率と言ってましたけど
先頭の組の教師は29歳、教職について7年
どのくらいの春山の経験をされていたのか
この先生も訓練の犠牲者にされたんじゃないか
ベースキャンプの責任者はどこにいたのか
山の頂上まで登らなきゃ登山じゃないのか
いろいろ疑問はある
事の重大さがわかっていないようか、終始保身の言い訳しか行わなかった責任者の教員の会見は、責任という言葉の重みをどう捉えていたのか疑問に思うものでした。
そして、その責任者の判断のもとで、大切なお子さんを失った親御さんにとって、あのような無責任な会見ではその心中いかばかりか察するに余りあるものがありました、
幸い、警察が立件に動いていることは、真相を究明され関係者がその責任を負う可能性があるという点では救いがあるのではないでしょうか。
しかし、いじめ問題が起こるたびに垣間見られる、教育委員会の身内擁護と隠蔽体質により、それもどこまでできることやら。
すでに商品化されていますね。かなり有効みたいです。でも高価。
スプレー缶ぐらいの大きさで使い捨てなら安価にできそうな気がします
http://outdoor.gifu.jp/outdoorgear/150315avalancheairbag/
このI教諭の発言は、現場責任者なのに、当事者意識がまったくなく、異様に感じる。しかし、教師の人間関係から見ると、ふつうの態度なので、とくに驚てはいない。教師の人間関係とは、対等の教師が集まってつくっており、他の教師のすることにいちいち口を出さないものなのだ。
I教諭は、今日で終る講習会の残務整理をして、ラッセル訓練をしている教師から連絡があったら、それに対応するのが自分の仕事だと思っている。つまり、彼が、この講習会の主宰者で、何か問題が起きたら、全責任が自分にかかってくるとは思っていないのだ。
ラッセル訓練では、生徒を班に分け、それぞれの班に教師がつく。そうなると、現場で何か起きても、いちいちI教諭に連絡して、その指示に従うことではなく、現場の教師が自分で判断することになる。これが「職員室の流儀」だ。
しかし、これは登山家からしたら、異常なことである。登山でパーティーを組んだら、リーダーを選び、何か起きたらリーダーに報告して、その指示に従うのはアタリマエのことだからだ。それができないこともある。その場合、個々人の判断で行動するが、個々人の判断を優先することはない。リーダーがベースキャンプに残り、他の者がアタックする場合も、リーダーが、ものを運ぶからと、無線機から離れることは絶対にない。
今回、「職員室の流儀」を山に持ち込んでしまったから、こんなオカシナことになってしまった。
会見の途中、雪崩に巻き込まれたときの教師の対応が語られている。その教師は、雪崩に巻き込まれたとき、まず自分の班の生徒が無事かどうか調べ、誰も被害を受けていないことで安心している。そして、他の教師から、1班が雪崩に巻き込まれてたいへんなことになっているのを知らされるまで、他の班を心配していないのだ。山では、関係ないパーティーが遭難しても、助ける能力があるのなら、助けに行くのがアタリマエだからだ。
これは、まさに「職員室の流儀」であって、「山の流儀」ではない。
完全に埋まった場合、ほぼ助からない
15分以内に戻すと、たいていは助かるが、30分以上だと、たいていは助からないそうです。
そこで、ビーコンがあれば、15分以内に救出できる……というわけ。
今回は、どこに埋まっているかわからないので、手当たり次第に捜して、うまくすぐに見つかった生徒は助かり、時間がかかった生徒は残念になった。