──
ネアンデルタール人との混血があった、という説が広く流布している。しかしこれに対して、私は異を立てた。
「共通遺伝子は、混血によって存在したのではなく、過去の共通祖先から引き継いだものだ」
一つだけ示すなら、下記だ。
→ ネアンデルタール人との混血はなかった
他にも、いっぱい書いた。列挙するなら、下記だ。
→ サイト内 検索
例示的に言えば、こうだ。
「人間と猿には共通遺伝子があるし、人間とマウスにも共通遺伝子があるが、これらは、人間が猿やマウスと交雑したことによって流入したのではなく、過去の共通祖先から引き継いだだけにすぎない」
これで話は片付く。詳細は上記項目を読めばわかる。
──
このあと、私は、自説の正しさを証明する手順を示した。詳細は後述するが簡単に書けば、こうだ。
「混血があったという説によれば、その遺伝子は、交雑のあとで、ホモ・サピエンスの大部分(アフリカ以外)に急速に拡大したのだから、とても有利な遺伝子だったということになる。したがって、その遺伝子は、現代人のなかでも必要不可欠な重要性を帯びているはずだ。
一方、混血がなかったという説によれば、その遺伝子は、ネアンデルタール人や、アフリカのホモ・サピエンスに共通して保有されたあとで、東部(エチオピア)以外のアフリカ人では消失してしまったことになる。消失してしまっても問題がないのだから、その遺伝子は現代人のなかでは重要性を持たないはずだ。つまり、あってもなくてもいい遺伝子であるはずだ。
かくて、現代人において、その共通遺伝子の重要性を調べることで、上の二つの説のどちらが正しいかが判明する」
このように提示したあとで、私は次のように予想した。
「混血はなかったはずだ。ゆえに、その共通遺伝子は現代人のなかでは重要性を持たないはずだ」
さて。このたび新たな研究報告が出た。その結論は、まさしく上記の私の予想通りである。該当箇所を引用しよう。
普通は両方の染色体の遺伝子の発現は同じレベルに保たれている。しかし片方の染色体上の遺伝子の発現調節にミスマッチがあると、その遺伝子の発現レベルがアンバランスになる。これを対立遺伝子特異的発現(ASE)と呼んでおり、私たちの遺伝子の多様性を研究する指標に利用している。このアンバランスをネアンデルタール人のSNPで標識された領域について調べ、ネアンデルタール人由来遺伝子のミスマッチ度を調べたのがこの研究だ。
研究では遺伝子型と各組織の遺伝子発現がセットになったデータベースを使って、ネアンデルタール由来遺伝子が片方の染色体だけに存在する領域について、各組織での発現にミスマッチがないか、ASEを調べている。
結果は期待通りで、多くのネアンデルタール由来遺伝子で転写のミスマッチが起こっている。特に、脳と精巣では強く発現が抑制されているネアンデルタール由来遺伝子が多いことがあきらかになった。
例を挙げると、神経細胞の増殖に関わるNTRK2受容体遺伝子は、ネアンデルタール人由来の遺伝子だけが小脳と脳幹で強く抑制されている。NRTK2遺伝子の突然変異は、うつ病、言葉の発達、肥満、アルツハイマー病、自閉症、ニコチン中毒など多くの病気と相関していることが知られており、高次脳機能にとって重要な遺伝子だ。
この遺伝子の発現にミスマッチがあるということは、脳での遺伝子発現調節機構が、脳高次機能の発達に合わせて急速に進化した結果、私たち現代人の脳内での遺伝子発現調節メカニズムが、流入してきたネアンデルタール人由来遺伝子に完全にマッチしなかったことを示している。
他にネアンデルタール人由来遺伝子が強く抑制される傾向が見られるのが精巣で、精子形成メカニズムも急速に分化したことをうかがわせる。すなわち、ネアンデルタール由来遺伝子は現代人のもつ遺伝子調節メカニズムとの相性が悪く、流入しても発現が抑えられたままになっている。
( → ネアンデルタール人との性的交流が私たちにもたらしたもの(西川伸一) - 個人 - Yahoo!ニュース )
以上では、何度も指摘されているように、共通遺伝子は「発現が抑制されている」のである。つまり、あってもなくてもいい遺伝子であり、重要性がまったくない。このことは、私が予想したとおりだ、と言える。
このことからして、「混血があった」(= 共通遺伝子は有利なので、ホモ・サピエンスのなかで急速に拡大した)という説は完全に否定され、「混血はなかった」(= 共通遺伝子は作用しないので、ホモ・サピエンスのなかでの急速な拡大などはなかった)という説が支持されることになる。
かくて、「ネアンデルタール人との混血があった」という説は、科学的に完全に否定された。
[ 補足 ]
引用記事では「ミスマッチ」という言葉が何度も出てくる。
実は、「ミスマッチ」という発想そのものが、「混血が起こった」という説を否定している。なぜなら「混血が起こった」という説は、次のことを前提としているからだ。
「混血が起こったあとで、流入した遺伝子は、有利なので急激に種全体に広まった」
ここで「ミスマッチ」という発想を持ち込めば、「有利」という概念と「不利」(ミスマッチ)という概念が両方とも成立するので、矛盾してしまう。かくて、混血説は破綻する。
- ( ※ なお、「ミスマッチは最初から含まれていたのではなく、混血後にしばらくたってから起こった」という弁明は、成立しない。もしそうだとすれば、「そのような経時的変化は偶発的にランダムに起こった」ということになるが、それはありえないからだ。というのは、共通遺伝子の多くが「ミスマッチ」になっているからだ。つまり、「共通遺伝子に限って、ミスマッチがたくさん起こった。しかも、偶発的にランダムに」ということは、確率的にありえない。これは確率論で証明される。)
[ 付記1 ]
ただし、この意味を理解できる生物学者や進化論学者は、数が少ないだろう。彼らには、「論理」というものが通じないからだ。「共通遺伝子があったのか。ならば交雑したのだろう」と即断するぐらいの、ごく単純な思考しかできないからだ。
物理学者や数学者には、論理というものが通じるが、生物学者や進化論学者には、「多段階の論理による演繹」というのは、ちょっと難しすぎて、認識不可能なのだ。
しかしまあ、数学の証明だって、難しい証明をきちんと理解できる人は、あまり多くはないようだ。とすれば、生物学者や進化論学者が、「混血はなかった」ということの論理をきちんと理解できないとしても、仕方ないのかもしれない。
生物学者や進化論学者の頭には、数学の証明みたいな論理的証明は、理解しがたいのだろう。
( ※ 頭の遺伝子がネアンデルタール人並みなのかも。……というのは冗談だが。)
[ 付記2 ]
証明の記事の一部で、「脳での遺伝子発現調節機構が、脳高次機能の発達に合わせて急速に進化した結果」という箇所を灰色の文字にしておいた。この部分は、正しくない。
この文章は、「混血があった」ということを前提とした上で、「ミスマッチがあった」という認識をしている。しかし、その前提そのものが狂っている。
その前提を取った上で、「共通遺伝子が発現しないこと」の理由を求めて、「ミスマッチがあった」と推測して、「遺伝子発現調節機構が……急速に進化した」と推測している。
しかし、そんなことはあるはずがない。ホモ・サピエンスにおける脳の発達というのは、大脳の量の発達のことであり、ただの量的な拡大であるにすぎない。一方、「遺伝子発現調節機構が……急速に進化した」というのは、もっと基盤的なレベルにおける根源的な進化だ。そんなことは、たかが 50万年ぐらいで生じるはずがない。
ここでも、「混血はあった」という前提を取ったあとで、つじつま合わせをすることで、学説が根本的に破綻してしまっている。このことからも、「混血はあった」という説は否定される。
[ 付記3 ]
引用記事では「発現が抑制されている」と示されている。
このことから、次のように推測が付く。
「これらの共通遺伝子は、ネアンデルタール人では普通に発現していたが、そのあとでホモ・サピエンスにまで持ち込まれた。ただしホモ・サピエンスでは、発現が抑制されていた。そのせいで、ホモ・サピエンスの一部(西側のアフリカ人)では、その遺伝子は消失した。もともと発現が抑制されている遺伝子だから、消失してしまったのだ。
一方、ホモ・サピエンスの一部(エチオピアのアフリカ人)では、その遺伝子は抑制されたまま、消失することなく、維持された。そのうちの一部の人々が、アフリカの角から海を渡ってアラビア半島に達した。彼らの子孫が、コーカソイドやモンゴロイドロイドとなって、欧州やアジアに拡散した」
ここでは、「ホモ・サピエンスの一部(西側のアフリカ人)では、その遺伝子は消失した」ことの理由が示されている。それは、「その遺伝子がもともと抑制されている遺伝子であったから」だ。だからこそ、これらの遺伝子は、西側のアフリカ人の間では消失してしまったのだ。
上記で引用した報告では、「その遺伝子が抑制されている」のは、ホモ・サピエンスに取り込まれてから、かなり時間がたってからのことだ、とされている。しかし、そうではあるまい。「その遺伝子が抑制されている」ようになったのは、ホモ・サピエンスに取り込まれた時点(約 40万年前〜 20万年前)だったはずだ。
【 関連項目 】
本文中で、「自説の正しさを証明する手順を示した」と記した。その具体的な該当箇所を、転載する形で示しておく。
ここで、混血説が正しいかどうかは、その遺伝子が圧倒的に有利であるかどうかを調べればいい。混血説においては、それらの遺伝子は急激に普及したので、圧倒的に有利な遺伝子であったということになる。では、それは、どんな形質の遺伝子なのか? そのことを公開するといいだろう。
私の予想では、いったん失われた遺伝子は、ホモ・サピエンスにおいてはほとんど働いていない不要な遺伝子だと思う。そう確認された時点で、混血説は矛盾に陥り、否定されるだろう。
( → ネアンデルタール人は私たちと交配した? )
§ 科学的な証明
分岐説と混血説は、どちらが正しいか? それを決めるための科学的な方法はあるか? ある。
それは、二つの説の極端に違う点を調べて、どちらが正しいかを確認することだ。つまり、次の比較だ。
・ 分岐説 …… 共通遺伝子は、現生人類にとって不要だ
・ 混血説 …… 共通遺伝子は、現生人類にとって有利だ
説明しよう。
分岐説では、「共通遺伝子は、現生人類にとって不要だ」とされる。だからこそ、アフリカ南部に進出した集団では、ネアンデルタール人との共通遺伝子が消失した。また、二度目の出アフリカをした集団では、デニソワ人との共通遺伝子が消滅した。いずれにせよ、それらの遺伝子は消滅した。その意味で、それらの遺伝子は不要なのである。
混血説では、「共通遺伝子は、現生人類にとって有利だ」とされる。ここで、有利というのは、ちょっと有利という意味ではなく、圧倒的に有利という意味である。だからこそ、混血した少数の個体にあった遺伝子が、急激に集団全体に拡散していった。ネアンデルタール人と混血した少数の個体の遺伝子は、アフリカ南部を除く全領域に拡散した。デニソワ人と混血した少数の個体の遺伝子は、メラネシアで広く拡散した。
だから、科学的には、次のいずれかを示せばいい。
・ 分岐説 …… 共通遺伝子は、現生人類にとって不要。
・ 混血説 …… 共通遺伝子は、現生人類にとって有利。
どちらが正しいか? 私の予想では、かなり容易に判定が付くだろう。つまり、「共通遺伝子は現生人類にとっては不要だ」ということが、かなり簡単に判明するだろう。私としてはそう予想しておく。
( → デニソワ人・ネアンデルタール人との混血 2 )
もっと詳しく知りたければ、上記の引用箇所の前後を読めばいい。
【 追記1 】
以上とは別に、原理的な面からも、混血は否定できる。
一般に、種間雑種というものは成立しにくい。例外的に成立することはあるが。
→ 種の違いを越えて。20のハイブリッドアニマル : カラパイア
→ 異種交配・交雑で誕生したハイブリッドな動物たち
→ 神への挑戦か!?異種交配で生まれたハイブリッド動物たち
ただし、こうして例外的に生じた雑種個体があっても、たいていは、その個体は生殖能力を持たない。つまり、一代限りであって、次世代の子を残さない。まれに子を残すことがあっても、その子が生殖能力を持たない(つまり孫が生じない)ことがほとんどだ。
つまり、混血の個体は、一代か二代限りであって、「混血種」という種を代々残すことはないのだ。
このことは、原理的な説明がある。それは、下記で示されている。
→ 異種間交雑が起こりにくい理由(ゲノム・インプリンティング)
ちょっと難しい話だが、興味があれば読んでほしい。異種間交雑が起こりにくい理由が、遺伝子レベルで説明されている。
このことからしても、ネアンデルタールとホモ・サピエンスの混血などは、原理的にあり得ないのである。(ゲノム・インプリンティングゆえに、交雑があっても、種間雑種は生じない。特に、生殖能力を持たない。そういう性質が、遺伝子に備わっているのだ。)
さらに、原理的な考察からも明らかだ。そもそも、種というものが分離するのは、その二つの種が交雑しえないからだ。そして、地理的に隔離されていたわけでもないネアンデルタールとホモ・サピエンスとが別々の種となったとしたら、それは、両者の間に「種間雑種ができない性質があった」としか思えない。(その性質が、ゲノム・インプリンティングだ。)
このことは、逆の面からも言える。(背理法ふう)
仮に、混血の種ができるのならば、元の A,B という種の間に混血種ができることで、A,Bという種の全体が融合してしまう。そのせいで両者は別の種とはならない。ところが現実には、 A,B という種が別々にできている。とすれば、背理法によって、「混血の種ができる」という仮定は否定される。
( ※ ちなみに、人類における人種は、たがいに混血が可能なので、もはや人種という概念が崩壊してしまう。それは境界のある種概念としては成立せず、境界不明な亜種として成立するだけだ。)
【 追記2 】
コメント欄で、新たな情報を得た。
「ネアンデルタール人との共通遺伝子は、自己免疫疾患に関して有利な性質をもつ」(*)
という趣旨。出典となるページは下記。
→ ネアンデルタール人との性的交流が私たちにもたらしたもの
→ 人種と免疫機能、そしてネアンデルタール遺伝子の役割(10月20日号Cell掲載論文)
これはとても有益な情報だと言える。
ただし、論文執筆者や一般読者は、この事実を正反対に誤認しているようだ。
この研究が示すことは、読んでわかるとおり、上の(*)のことだ。では、それは、何を意味しているか?
「共通遺伝子は人類にとってとても有益な遺伝子である。だから人類全体に急激に広まったのだ」
と主張したいようだ。しかし、それは成立しない。なぜなら、自己免疫疾患にかかる人は、非常に稀だからだ。そんな稀な病気に対する有利な遺伝子があったとしても、それは自然淘汰においてほとんど影響しないだろう。
( ※ 仮に感染症に対する有利な遺伝子であれば、それは全員にとって有利なので、種全体に急速に広まるだろう。しかしながら、ごく稀な難病に対する有利な遺伝子など、あってもなくても、ほとんど影響しないのである。なぜなら、ほとんどの人は、ごく稀な難病にはならないからだ。)
結局、「自己免疫疾患にとって有利な遺伝子」というのは、「あってももなくてもほとんど影響しない遺伝子だ」ということになるから、私の予想が的中したことになる。
ここで予想を再掲しておこう。私の予想はこうだった。
「混血はなかったはずだ。ゆえに、その共通遺伝子は現代人のなかでは重要性を持たないはずだ」
この予想で示したように、重要性を持たない遺伝子であることが判明したわけだ。それが、この新たな研究の成果だ。そして、それをもって、「ネアンデルタール人との混血はなかった」ということが結論できる。
( ※ そんな遺伝子が急激に拡散するはずがないからだ。混血説は自己矛盾に陥る。)
──
※ 下記のコラムは読まなくてもいい。
オマケで解説しておこう。 「混血はなかった」という説に従えば、「共通遺伝子は(西)アフリカ人では消失してしまった」ということになる。ではなぜ、消失してしまったのか? すぐに思いつくのは、こうだ。 「自己免疫疾患にかかる人はごく稀なので、その遺伝子があってもなくても、ほとんど影響しなかった。その遺伝子の有利・不利の度合いは小さすぎたので、他の遺伝子の影響に埋没してしまった」 この件は、「ノイズ効果」の箇所で示した通り。 もう一つの理由は、こうだ。 「自己免疫疾患である全身性エリテマトーデスには 50以上の遺伝子が関与しているが、これらの遺伝子のうちのいくつかは、免疫を強化する効果があるので、感染症の多い土地(アフリカ)では、かえって有利な遺伝子となることがある」 このことは、下記に記してある。 → 難病情報センター | 全身性エリテマトーデス(SLE) つまり、このような遺伝子は、自己免疫疾患をもたらすという意味では不利なのだが、感染症にかかりにくくする(免疫力を高める)という意味では有利なのだ。だから、アフリカ人では、そういう遺伝子があってもいい。そして、そのような遺伝子を抑制するような遺伝子(自己免疫疾患にかかりにくくする遺伝子)というのは、ヨーロッパ人にとっては有利ではあっても、アフリカ人にとっては有利ではないとも言える。病気の頻度を考えれば、圧倒的に不利だとさえ言える。 この意味でも、ネアンデルタール人との共通遺伝子(西アフリカ人では消失した遺伝子)は、人類にとって有益だとは言えないわけだ。これもまた、私の予想通り。 というわけで、私の予想通りとなるので、「ネアンデルタール人との混血はあった」という説は、いっそう否定されたことになる。 ── なお、「混血があった」という説は、「混血があった」というだけでなく、「混血のあとで、その混血集団の遺伝子がユーラシアのホモ・サピエンスの全体に急拡大した」ということを含意している。(さもなくば、現状の遺伝子分布が説明できない。) そのためには、次のいずれかが必要だ。 ・ その遺伝子は必要不可欠な重要性を持つので、その遺伝子をもたない個体はすべて淘汰されてしまった。 ・ 集団の誰もがその遺伝子をもつように、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスは、同一の性交渉集団となっていた。つまり、日常的に生活を共にするような、同一集団であった。 後者の条件は、かなり厳しい。同一種であっても、人種差があるだけでも、同一の性交渉集団にはならないからだ。 → アメリカは「人種のるつぼ」ではない | wired.jp とすれば、種の異なるネアンデルタール人とホモ・サピエンスが、日常的に同一の性交渉集団を形成していたはずがない。したがって、その遺伝子がユーラシアのホモ・サピエンスの全体に広がるはずがない。 結局、上の二つのどちらも成立しないので、やはり、「ネアンデルタール人との混血はあった」という説は否定される。 |
【 追記3 】
「ネアンデルタール人との共通遺伝子は、自己免疫疾患に関して有利な性質をもつ」(*)
という話を、すぐ前の 【 追記2 】 で示した。これに関して、さらに言及しておこう。
まず、次の引用分がある。
ネアンデルタール人から受け継いだ遺伝子がアジア・ヨーロッパ人を自己免疫病から守る遺伝子として広く維持されていることなどもわかっている。
( → Yahoo!ニュース )
つまり、ネアンデルタール人との共通遺伝子は、自己免疫疾患に関して有利な性質をもつらしい。しかし、これはおかしい。理由は二つある。
(1)
「自己免疫病から守る」というが、自己免疫病が問題であるのならば、自己免疫病の遺伝子そのものが淘汰されるのが自然だ。自己免疫病をもたらす異常遺伝子をそのまま残しておいて、自己免疫病から守るような遺伝子が新たに生じるというのは、進化論的に言ってもおかしい。そんな進化が起こった例は、ほとんどないだろう。
( ※ たとえば、血友病を起こす異常遺伝子をもつ人がいたら、その異常遺伝子そのものが淘汰されるのが自然だ。その異常遺伝子を残したまま、「異常遺伝子があっても生きられるような遺伝子」が広く普及する、というようなことはあり得ない。なぜなら、異常遺伝子をもつ人自体が少ないのだから、「異常があっても生きられるような遺伝子」が増えるはずがないのだ。)
(2)
仮に、「異常があっても生きられるような遺伝子」があったとしよう。その場合、異常があっても生きられるわけだから、異常遺伝子はかえって(淘汰されずに)増えてしまう。その種のなかで異常遺伝子がどんどん増えてしまう。
具体的に言うと、全身性エリテマトーデスとか、リウマチとか、さまざまな自己免疫疾患が種内でどんどん増えてしまう。そのような主は、種内に病気遺伝子がやたらとはびこることになる。これでは、逆効果だろう。
わかりやすく言えば、「異常があっても生きられるような遺伝子」というのは、「優勝劣敗」ないし「適者生存」という進化の原理を否定するものであり、進化を逆行させるものだ。「異常があっても生きられるような遺伝子」は、その種をどんどん進化させるのでなく、その種をどんどん悪化させる。最終的には、種内の個体に大量の以上遺伝子が蔓延するようになり、その種は自己崩壊する形で絶滅する。(自己免疫などで。)
結局、「異常があっても生きられるような遺伝子があれば有利だ」という説は、自己矛盾に陥る。正しくは、「異常があっても生きられるような遺伝子があれば、一時的には個体にとっては有利だが、最終的には種の全体が滅びてしまう」だ。
この意味で、 【 追記2 】 の主張は自己矛盾に陥っている。言いたいこととは逆のことが論理的に導き出されるわけで、論理が破綻しているのだ。こんな理屈はとうてい採用できない。
《 補注 》
自己免疫疾患に対抗する遺伝子があることは、有利であるように見えるが、そうとも言えない。なぜなら、現生人類には、その遺伝子はなくとも、その遺伝子の変異型(進化した遺伝子)という、別の遺伝子があるからだ。
その別の遺伝子がどういうものかは、はっきりとしないが、もともとの遺伝子が少しだけ改変されたものであることは間違いない。とすれば、その遺伝子もまた、免疫に関与するものだろう。大胆に推理すれば、その遺伝子は、次のようなものだ。
「免疫力を高める遺伝子」
こういう遺伝子があれば、インフルエンザその他の病気への抵抗力が高まる。一方で自己免疫は起こりやすくなる。長所と短所の双方を持つ。ただし、病気の発生率は、
インフルエンザその他の病気 >>> 自己免疫疾患
であるから、新しい遺伝子をもつ生物の方が、ずっと生存率は高くなる。つまり、進化論的に有利である。
↓ ↓
ネアンデルタール人遺伝子が私たち現代人にも受け継がれていることを証明したのはドイツ・ライプチッヒ・マックスプランク研究所のペーボさんたちだ。その結果、私たちアジア人、ヨーロッパ人、そしてアメリカやオセアニア人のゲノムにはネアンデルタール人遺伝子断片が点在していて、全ゲノムの2%程度に達する。
性的交流で子孫が残ると、その遺伝子は集団に受け継がれていくが、すべての部分が平等に受け継がれるわけではない。たとえば、生殖能力に悪い影響のある遺伝子は集団から消える。逆にネアンデルタール人から受け継いだ遺伝子がアジア・ヨーロッパ人を自己免疫病から守る遺伝子として広く維持されていることなどもわかっている。
↑ ↑
ネアンデルタール人との混血を前提に書かれた報告を、混血を否定する根拠にするとは、なかなかの冒険ですね。w
無視じゃないでしょ。
前半については、最初の 10行ぐらいでちゃんと説明してあるでしょ? 何を読んでいるの? ちゃんと読んでください。
※ この件の説明は長くなるから、リンク先を示している。とっくの昔に書いたことだから、本項では簡単に紹介するだけ。
後半の「自己免疫病から守る」は、馬鹿馬鹿しすぎる。「(外部の)病原菌から守る遺伝子」ならば意味があるが、「(内部の)自己免疫病から守る」は意味がないでしょうが。
自己免疫病は、自分の遺伝子が狂っていることから起こるのであって、外部に原因があるわけじゃない。この研究者は、何か根本的に勘違いしているね。
※ 病原菌ならば、誰もが感染する可能性があるから、遺伝子で抗体を作ることには意味がある。自己免疫疾患は、誰もがかかるわけじゃなくて、特定の異常遺伝子のある人だけがかかる。それから守る対抗遺伝子なんてものを考えるのは、どうかしているね。
全然おかしくないですよ。科学の歴史ではよく起こります。
実験や観測は、客観的な真実なので、間違いではないのが普通です。
それを見て、誤った立場から解釈することはしばしばあります。
例。星の運行を見て、天動説の証拠だ、と思い込む。
一方、星の運行を正確に見ることで、「天動説が誤っていることの証拠だ」と判断することも可能です。(例。火星の軌道。)
ある人が「天動説が正しい証拠だ」と思ったものを、後世の人が「天動説が間違っている証拠だ」と見なすことは、不思議ではありません。自分の実験や観測は正しいが、その意味を自分ではよく理解できていない、というわけ。(解釈だけ間違っている。)
こういうことは、科学の歴史を見れば、よくあることだとわかるはず。
ネアンデルタール人との混血を経験したヨーロッパ系に特異的に見られるのは、TLR1シグナルに対する反応の低下に関わるSNP(一塩基多型)で、非混血のアフリカ系にはrs573618はAAとCA型しか見られないが、ヨーロッパにはCC型が存在し、CC型ではTLR1に対して反応する多くの遺伝子の発現が低下することを示している。
TLR1は、TLR2の補助受容体として機能し、細菌由来のトリアシル化リポペプチドを識別し、炎症性サイトカインを産生する。しかし、それが暴走すると、サイトカインストームとなり、多臓器不全で死に至る。混血のヨーロッパ系ではこれが抑制されている。
だから《逆にネアンデルタール人から受け継いだ遺伝子がアジア・ヨーロッパ人を自己免疫病から守る遺伝子として広く維持されていることなどもわかっている》になる。
これを受けて、本項の最後に 【 追記2 】 を加筆しました。
タイムスタンプは 下記 ↓
> だから《逆にネアンデルタール人から受け継いだ遺伝子がアジア・ヨーロッパ人を自己免疫病から守る遺伝子として広く維持されていることなどもわかっている》になる。
ということは成立しない。正しくは、こうだ。
ネアンデルタール人との「共通祖先」から受け継いだ遺伝子が、アジア・ヨーロッパ人ではたまたま広く維持されている。だが、それは、せいぜい自己免疫疾患から守るぐらいの、ごく限定的な効果(ほとんど無意味な効果)しかもたない。したがって、その遺伝子が(一部地域の混血集団から)広範囲に急拡大したということは、あり得ない。
数で言うと 100万人近くになるらしいので、多く見えますが、率で見ると少ないです。最も多いと思えるリウマチでさえ、有病率はたったの 0.33% です。
→ http://www.articular-rheumatism.com/featurehtml.html
ここでは医学ではなく進化論で考えます。「医学的にはかなりたくさんの患者がいる」という話ではなくて、「進化論的には進化に影響しないほど少ない」という話になります。
以上とは別に、原理的な面からも、混血は否定できる。
一般に、種間雑種というものは成立しにくい。例外的に成立することはあるが。
上記の管理人さんの意見に反論します。
千葉県富津市の高宕山自然動物園のニホンザルの164頭のうち、DNA鑑定で約3分の1の57頭がアカゲザルとの交雑種であることが判明したため、殺処分されたとのことです。
ニホンザルとアカゲザルの分岐は50万〜60万年前と推定されているそうです。ニホンザルは、アカゲザルより分岐が古いカニクイザルとも交雑種をつくるようです。
ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの分岐年代も似たようなものと推定されています。
ヒトに比較的近縁のマカク属で、数十万年前に分岐した種間で子孫をのこす雑種が生じているので、現生人類とネアンデルタール人の関係もそうであったと推測しやすいのです。
生活・行動域が重なっていたら、頻繁に交雑していてもいいように思います。むしろ、生活・行動域がたまにしか重ならなかったので、大規模な交雑が起こらなかったのであろうと推測します。
時期はその通りですが、生息域を見ると、こうなります。
「アカゲザルは、東南アジアからインドにかけて広く分布する。ニホンザルは日本だけ」
交雑については、
「十分に交雑可能である」
以上の二点から得られる結論は、こうです。
「アカゲザルとニホンザルは、基本的には同一種である。ニホンザルはアカゲザルの亜種にすぎない。アカゲザルの一部が地理的隔離によって、分化して、独自の進化を取ったが、種として分岐するには至っていない」
つまり、地理的隔離による分化はあったが、ゲノム・インプリンティングによる独自種を確立してはいない。両者は亜種の関係なのだから、交雑が起こるのは当然だ、となる。
似た例に、ホッキョクグマとヒグマ(ブラウンベア、ハイイログマ)との交雑がある。これも亜種の関係にあると見なせる。
http://shinka3.exblog.jp/17851984/
ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの場合は、生息域が重なっていたのに、それぞれの骨がまったく別々で中間状態が存在しないので、両者は独自の種を確立していたと推定できる。
何より、中間状態(交雑種)の骨が見つかっていないというのが、決定的だ。
※ カニクイザルについては、子孫を作るかどうか不明なので、保留しておきます。(たぶん、子孫を作れない。ゆえに、無視していい。)
「交雑不可能になる分化が起こるかどうかは分岐年代の古さだけでは何とも言えない」と了解しました。
「2013年12月06日◆ 異種間交雑が起こりにくい理由(ゲノム・インプリンティング)」を読みました。
「2つグループ間でゲノム・インプリンティングが原因で淘汰されるような遺伝子の変異が生じていたら、交雑しても子が生まれにくくなり、種の分化が進む。」と言うことが分かりました。
ゲノム・インプリンティングが原因で交雑しても子が生まれにくくなる程度が「A種♂×B種♀→子は死ぬ、A種♀×B種♂→子は生きる」という場合、生活・行動域が長期間重なっていた場合、A種→B種またはB種→A種の遺伝子の流入が起こるように思えます。
雑種個体(子)が死ぬだけでなく、孫やひ孫が死ぬことが有ります。ゲノム・インプリンティングで死をもたらす遺伝子は、♂またはメスのどちらかを通じてしか子に伝わらないので、急速に頻度が低下します。
しかし、組換えでゲノム・インプリンティングでの死に関わらない他の遺伝子が定着した(頻度が増えるとは限らないが少なくとも淘汰されないで残った)と推定できます。
以上のようなことがネアンデルタール人とホモ・サピエンスの間に起こったかもと考えているのです。
ネアンデルタール人とアフリカ外ホモ・サピエンスが交雑して子孫を残したことを確信している訳では無いのですが、管理人さんの書かれたことだけでは、「ネアンデルタール人とアフリカ外ホモ・サピエンスが交雑して子孫を残したこと」を否定できないように、考えているのです。
たしかにね。その可能性はゼロではありません。私はそこまでは主張していない。
私が主張しているのは、「非アフリカのホモ・サピエンスのほとんど全員に、ネアンデルタール人の遺伝子が(とても有利なので)大々的に拡散した」という説を否定してすることだけです。
「そんな馬鹿げたことがあるはずがない」という主張。「事後的に大拡散することなど、あり得ない。事前にもともと保有していたはずだ。そう考える方が合理的だ」と。
一方、ごく一部に例外的に交雑遺伝子が流入した可能性までは否定していません。そもそも、そのことは、誰も話題にしていない。研究で調べられてもいない。
実際に調べられたのは、「交雑した証拠となる(?)共通遺伝子が、非アフリカのホモ・サピエンスのほとんど全員に見つかった」ということだけです。
他人の説について、その説の論理的な自己矛盾を指摘するもの。
タイムスタンプは 下記 ↓
https://www.nature.com/articles/ncomms16046
ミトコンドリアゲノムのイントログレッションの話なので、少なくとも一部地域では交雑が実際に起こり、混血腫が系統を維持していたことを示している。
> https://www.nature.com/articles/ncomms16046
ご連絡ありがとうございました。
本日分の項目で論じました。下記。
http://openblog.seesaa.net/article/451712700.html
※ 混血があった証拠、ではなくて、混血があったとすれば説明できる事実、ですね。混血は、十分条件ではあるが、必要条件ではない。
タイムスタンプは 下記 ↓
たとえば、あってもなくてもいい遺伝子が 1000個あって、そのうち 200個が消失して、残りの 800個が残っている。このうち前者についてだけ見れば、それらの遺伝子は消失した、と言える。
「なぜ消失したか」を問うのは無意味。確率的に消失したものと消失しないものがあっただけ。
残りの 800個のうちでは……
・ アフリカ人とユーラシア人の双方に残るものは、特に考慮せず。(考察不要)
・ アフリカ人になく、ユーラシア人に残るものは、「ネアンデルタール人との混血で生じた」と見なす。
・ アフリカ人に残り、ユーラシア人にないものは、「ユーラシア人になる段階で消滅した」と見なす。
というふうになる。このうち、二番目の論理だけがおかしい。
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なお、別の説明もあります。本文最後の 《 オマケ 》 というコラムの箇所に説明がある。