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この話題は、ずっと前に、2013-11-20 の朝日新聞・夕刊で、病理医の向井万起男が書いたコラムがきっかけだ。(古い話で済みません。メモしたままになっていた。)
そのコラムで、 向井万起男は「クリス・デービス」というホームランバッターの「覚醒」を予言していて、見事に当てたという。
で、どうしてうまく当てたかというと、記事を読んでみたが、「体の回転の仕方が、私には見えたのだ」というようなことを簡単に書いただけで、どうも要領を得ない。自分だけにはわかったと言われても、読者は納得できないよね。
ただ、そのことは頭に引っかかっていた。「彼はいったい何を見抜いたのだ?」というわけだ。
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その後、いろいろとホームランバッターの話を読んだりするうちに、「ホームランを打つコツ」というのは、おおよそ見当が付いた。そこで、以下で記す。
「ホームランを打つコツ」というと、全身の力でバットをフルスイングすることだ、と思い込んでいる人が多いだろう。実際、松井秀喜の打法は、そうだ。バットをフルスイングして、そのフルスイングしたバットの力をボールに伝えることで、ボールを飛ばそうとする。まあ、テニスのラケットや、卓球のラケットで、全力で打つようなものだ。
しかし、クリス・デービスのフォームは、そういうフォームではない。体を軽く回転させている感じだ。それでいて、松井よりも圧倒的にボールを飛ばす。軽くちょこんと当てている感じにも見えるのに、なぜか遠くへ飛ばす。
これと似たことは、落合や王貞治も言っている。
王貞治
「僕らは歯を食いしばって打ってホームランになっているけど、田淵は軽くチョットはねるだけで同じ飛距離のホームランを打っていた」
「本数の上では僕だが、ボールを遠くへ飛ばすという点では田淵が本当のホームラン王だった」
https://youtu.be/hjvdmI-9lFY?t=312
( → 落合「俺と王さんは真のHR打者ではない」 )
ここで、「田淵は軽くチョットはねるだけ」と言っているが、田淵自身はどう言っているか。こうだ。
その軽く振って力を入れずにインパクトするのがホームランを打つコツでそれが一番難しいと、この間ラジオで田淵が言ってたぞ。
( → 同上 )
田淵 「球場が広くなったとはいえ、打つコツや飛ばすコツさえ習得すれば、ホームランを打つことは不可能ではないはずです。力を入れて振るのは誰にだってできる。ムダな力を抜きながらインパクトの瞬間だけ100%集中させる」
( → 田淵幸一さん(野球解説者)<後編>「ONという高い山」 )
ここで、「インパクトの瞬間だけ100%集中させる」という言葉が出てくる。
このことは、実は、小久保も言っている。ホームランを打つためには、斧を振り下ろして薪を割るように、バットでボールをたたきつぶすつもりで振る。そのためには、インパクトの瞬間だけ、全力を込める。
また、同様のことは、野球の打法で、筋肉の使い方でも知られている。ボールを打つとき、バットを構えるが、このとき、筋肉に力を入れてはいけない。バットを構えているときは、なるべく筋肉を弛緩させているといい。それからスイングを始めて、インパクトの瞬間だけ、筋肉に全力を入れる。こういうふうに力を入れるといい。
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以上のすべてで、話は共通する。
「インパクトの瞬間だけ100%集中させる」
ということだ。それは、どの(天性の)ホームラン打者にも共通する。
そして、こういう打法では、スイングの途中では力を抜いているように見える。だから、「ちょこんと当てただけ」というふうに見える。「大きなスイングではなく、体の回転だけで打っている」というふうにも見える。
以上が、ホームランを打つコツだ、と結論しておく。
[ 付記 ]
もう一つ、重要なことがある。
「体重を、後ろ側の足に乗せる」
ということだ。(右打者ならば右足に。)
一本足打法だと、自動的にそうなるが、ちょっとバランスが崩れる。一本足打法にしないまま、後ろ側の足に体重を乗せることが大切だ。
以上のことは、松井秀喜が、坂本勇人に教えた。そのことで、2016年は、坂本が打撃開眼したのだ。
→ 首位打者の陰に松井秀喜のアドバイス「右足に体重を残せ」
ではなぜ、そうするのか? 私が解説しよう。
インパクトのときには、体を回転させるので、前側の足(右打者ならば左足)に、ものすごく体重がかかる。このとき、もともと前側の足に体重がかかっていると、体重を支えきれなくなる。だから、それを避けるために、もともとは後ろ側の足に体重をかけておく。
逆に言えば、そうすることで、インパクトのときには前側の足に体重をかけることができる。その分、インパクトのときに力を 100% 出せるわけだ。
[ 余談1 ]
松井秀喜は、最後の年、筋トレをして、ものすごい筋肉を身に付けた。そのせいで、「バットが当たればものすごく飛ぶ」というぐらい、飛距離が伸びた。パワーで飛ばそうとしたわけですね。
その結果は? まさしく、「バットが当たればものすごく飛ぶ」というふうになったが、力任せで振り回すばかりで、バットが当たらなくなってしまった。かくて、打率は急降下。そのせいで、契約先がなくなり、引退を強いられた。
松井秀喜は最後の年、筋トレをするべきではなかった。パワーよりも打率を求めるべきだった。そうしていれば、あの年で引退することはなかったはずだ。
松井が筋トレしすぎて引退する羽目になったのは、やたらと筋肉を求めたせいだ。それは、筋トレのしすぎで、筋肉を付けたものの、肘を壊したダルビッシュと、いくらか似ている。
[ 余談2 ]
ついでだが、本項の打法とは正反対のことをやっているのが、イチローだ。
・ スイングの初動のスピードがすごく速い。
(最初から力を入れる。)
・ スイング中、前側の足に体重を入れる。
これでは、ホームランを打てない。そのかわり、打率は良くなるだろう。
( ※ スイングの初動が早ければ、スイングの開始時期を遅らせることができるので、ボールを長く見ることができる。)
これはつまり、「ホームランよりも打率を狙う打法」だ。
【 関連サイト 】
「インパクトの瞬間だけ100%集中させる」というのは、換言すれば、「初めは力を抜いている」ということだ。これは、「上半身の回転を遅らせる」という意味でとらえると、「うねり打法」に相当する。
(うねり打法をコーチとして教えた)田淵幸一は…… 2割4分9厘に低迷するチーム打率(平均)を、就任後2年間で2割8分7厘に押し上げた。
( → うねり打法 - Wikipedia )
左足のうねりから膝、腰、脊柱と順番に回転が起こっている。
この動きによってバットが体に巻きつくように出てくる。
( → 映像で見るうねり打法: 野球上達への道 )
http://amzn.to/2kl1B63
もし可能だとして、インパクトの直前にグリップに力を入れて、グリップの速度を急減することで、角運動量保存の法則を使って、バットのヘッドを加速するのであれば、意味があると思われますが。
またヘッドスピードを最大化するためには、その反作用としてインパクトの瞬間までは、後ろの足に体重が乗っている必要があると思います。
打つ瞬間にバットを離したらどうなると思う?
ヒットにはなるかもしれないけど
支点がブレないように全力で支える必要があると思う
等速直線運動ならばそうだけど、加速度が付いているときにはそうじゃないんだ。インパクトのときに手に巨大な力がかかるから、それに抗することで、ボールにはいっそう大きな力が乗り移る。
まあ、素人にはわかりにくいから、わからなくても仕方ない。頭だけで考えていると、理解しにくい。
実はボクシングでも同様だ。素人は手を高速で出せばいいと思っている。上級者は違う。パンチに体重を込める。パンチの速度ではなく、パンチに体重が乗っているかどうかを重視する。単なる「手打ち」では、いくら高速でも、衝撃がない。体重の乗ったパンチだと、すごい衝撃で、相手が吹っ飛ぶ。
バットとボールでも、事情は同様だ。素人には理解しにくいが。
ボールが最終的に得られるエネルギーは
質量×速度×時間(縦軸:力、横軸:時間として積分して得られる値)
とした方が現実的かな。
バットとボール、人とグローブの接触する時間は変形を伴った時間軸の中での出来事だから・・・
もちろん、一瞬々々のボールに加えられる力を求めれば
質量×速度
でもあっていると思うけど(変形によるロスとかは横に置いとくとしてだけどね)
この F(t) を一定値だと仮定しているのが、素人のミス。
ただ、バットを通じてボールにエネルギーを与える野球を、素手で打つボクシングに例えるのはちょっと無理があるのでは。
私は素人のへっぽこゴルファーですが、ゴルフの上級者の身体感覚からでる言葉と、物理法則が全くかみ合わないことを、いやというほど味わってきました。あまり玄人の言う身体感覚は信用できません、というよりは、素人がその道の玄人の身体感覚を理解するのは困難だと思っています。
あと、へっぽこゴルファーのナイスショットでは、インパクトの時の手応えが極めて希薄なのですが、これは物理法則にかなっていると思います。これも上級者がどのように感じているかは?ですね。
>この F(t) を一定値だと仮定しているのが、素人のミス。
だからわざわざ「積分して得られる値」と書いたんだが、判ってくれなかったか〜
ある意味そうかもね
Posted by しろうと at 2017年01月24日 09:49
さんも書かれてるけど
@打った瞬間にバットを話した場合
どうなるか、
これが、純粋にバットの運動エネルギーが極めて短時間の衝突でボールを打った時の結果でしょう。
実際にはそれ以上ボールは飛ぶわけで
その差は何かというと、ボールとバットの接触状態を人がコントロールした結果でしょうかね〜
但し、この部分は「接触の時間内」に人が「新たにエネルギーをボールに加える」のみでなく、
『バットが持っているエネルギーを如何に多くボールへ与えるか』
というテクニック(”技術”エネルギー)の部分も重要だけどね。
〜〜〜『”技術”エネルギーなんてエネルギーがあるか』という突っ込みはしないでね〜〜〜
どら猫 さんへの批判じゃなくて、他の人への批判。
どら猫 の話を参照にして、わかりやすく書き換えたんです。
>ゴルフの上級者の身体感覚からでる言葉
ゴルフの場合は、下記の本を参照。うねり打法のゴルフ版。
http://amzn.to/2km5YtK
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これは「脇を締めて腰で打て」という内容であり、打撃系格闘技と同じ概念です。
一方、上半身を鍛えるとスイング速度が上がりますので、大リーグの様な手元で変化するボールを見極めてから降り出す追随性はよくなります。
加齢による反射速度の低下を補うために筋力増強でスイング速度向上を狙ったということも裏にはあるかもしれません。
あと、力むと反応が鈍くなるのであまり良くないですね。
「インパクトの瞬間に力を込めると、手首、肘、肩の関節が固定」説に賛成します。
インパクトの瞬間には上半身の筋肉だけでなく体幹(足腰)の筋肉にも力が入っ、下半身だけでなく上半身も地球に固定された状態になるのでしょう。
上半身が地球に固定されていない状態だと、インパクトの瞬間に上半身が後に動いて球に伝わるエネルギーが減少するのでしょう。ボールとバットが接触している時間も減るはずです。