2017年01月17日

◆ 宅配の再配達

 宅配の再配達が問題になっている。そこで政府が補助金を出そうとする。おかしなことだ。

 ──

  ※ 本項は最後に重要な話があります。
    最後までお読み下さい。(ITの話。)


 宅配の再配達が問題になっている。留守で配達できないことが多いので、再配達の比率が上がり、配達する労働者の負担が増えているそうだ。
  → 宅配業者は「過重労働の矛盾」に直面している
  → 宅配便の"再配達増加"で浮き彫りになった環境問題

 ストレスで荷物をぶん投げる労働者まで出てきた。(ネットで大騒動。)




 この問題への対策として、駅などに、受け取り用のボックスを配置する動きも出てきた。
  → 再配達を減らせ──ヤマト運輸、「オープン型宅配ロッカー」

 これを政府が援助して、補助金を出す(税金を投入する)という方針が出た。
 インターネット通販の拡大で深刻化する物流業者の人手不足や交通渋滞を解消するため、官民が受取人の不在時にも荷物を預けられる宅配ボックスの普及に取り組む。政府は4月から設置費用の半額を補助する制度を新設し、業者が駅やコンビニに宅配ボックスを設置するのを後押しする。再配達を少なくして配送効率を高め、ネット通販の拡大に欠かせない物流網の維持をめざす。
( → 日本経済新聞 2017-01-17

 しかし、「税金を投入する」というのは、いくら何でもおかしいだろう。特定の業務だけに税金を投入するというのもおかしいが、これで最大の利益を得るのが誰かを考えれば、よくわかる。
 これで利益を得るのは、誰か? ヤマト運輸や佐川か? 違う。それは、「本来の対策」と対比すればわかる。
 本来の対策とは? もちろん、「宅配ボックスの設置や、労働者の賃金に、金を払うこと」である。その金を払うのは、宅配便の業者だ。そして、宅配便の業者は、その分、赤字を引っかぶるのではなく、料金を値上げする。……これが、本来の対策だ。
 とすれば、政府の補助金投入によって得をするのが誰かは、明らかだろう。「料金の値上げ」を免れる客だ。
 では、その客は、誰か? 普通の客は、関係ない。もともとまともな料金を払っているからだ。一方、ろくに料金を払わずに(きわめて低料金しか払わずに)、やたらと大量発注している客がある。それは(もちろん)Amazon だ。
 《 アマゾンの配送を引き受け「正直しんどい」 過酷すぎるヤマト運輸の実態》
 取材から見えてきたのは、「送料無料」を掲げるネット通販と二人三脚で取扱個数を伸ばしながら、”砂上の楼閣”のもろさを抱えた宅配便ネットワークの惨状だった。「安さ」と「早さ」を両手にぶら下げたやじろべえのように、きわどいバランスの上に成り立っていた。
 中国地方で働くヤマトのセールスドライバー、高志さん(仮名)は過酷なサービス残業のため、うつ病にかかった。 朝は6時過ぎに宅急便センターに出勤して荷物を積み込み、8時には出発する。出勤時刻は8時と決められているので、それまではサービス残業となる。昼食の休憩時間は1時間だが、実際には車を止めて食べる時間がないため、運転席で食べられるせんべい、バナナ、チョコレートなどで済ませる。夜は9時過ぎに営業所に戻って退勤のスタンプを押した後も、代引き料金の精算や伝票整理などで1時間ほどのサービス残業を余儀なくされる。
 「法律違反のサービス残業がまかり通っていることに、僕は腹を立てていたんです。おかしい、許せないという気持ちが高じて不眠に陥り、それがうつ病につながったと思っています」
 「多い月には90〜100時間のサービス残業をしています。サービス残業ありきの会社だと割り切っています」
( → ライブドアニュース

 「サービス残業」つまり「賃金不払い」を前提としたシステムになってる。それほどまでにして Amazon の低料金の仕事を引き受ける。
 こんな不当な仕事はさっさとカットしてしまうべきだろう。なのに、この状態を放置し、違法行為を是認するために、政府は多額の税金を投入する。それも、国庫による5割負担という大盤振る舞いだ。
 呆れる。しかも、これで補助金をもらう Amazon は、日本に税金を払っていない。日本の商品販売で得た利益はすべて米国に持って行かれるので、日本では税金を払わない。
 《 アマゾンが日本で税金を払わない仕組み 》
 この図にある通り、僕たち消費者がアマゾンを使って商品を購入した場合、法形式上は日本法人とではなく、アメリカにあるアマゾン本社と取引をしていることになっているんです。
 日本法人については、あくまでも本社に対して販売や物流などのサポート業務を提供しているにすぎません。こうなると、日本法人の売上は広告関係や、アマゾンに出品した人から受け取る販売手数料などに限られ、かなり少なくなってしまいます。
 ちなみに、2016年3月日付で官報に掲載された2014年度決算公告によると、日本法人における売上高は約90億円(※)です。一方で、アマゾン全体の2014年度年次報告書によれば、日本事業の売上高は日本円に換算して約8,300億円です。
 アマゾンの日本事業のほとんどが、日本の税金にはつながっていっていないことが分かると思います。
( → アマゾン日本事業の売上はほぼアメリカへ 〜自国の税金をどう確保していくか〜 | マネーの達人

 これだけでも呆れた状態だが、こういう会社から税金を取り立てる代わりに、多額の税金をプレゼントする問いのだから、まさしく「盗人に追銭」だろう。…… Amazon が税金を払わない税金泥棒であることからしても、この比喩は適切だ。

 ──

 ついでだが、どこかの税理士が馬鹿げたことを言っている。
 《 Amazonは日本では税金を払っていないというのは間違い 》
 amazonは日本で消費税は払っているが法人税は払っていないが正解
( → 税理士が提案する野生的健康ライフ

 何をボケたことを言っているんだか。企業が「税金を払わない」というのは、法人税を払わないことを言う。固定資産税や消費税は関係ない。
 そもそも、Amazon が消費税を払っているわけじゃない。消費税を払うのは、消費者だろう。消費者が商品価格に8%を加えて払う。……こんなことも知らない税理士がいるんだから、呆れるね。

 ──

 ともあれ、政府のやっていることは滅茶苦茶だ。「盗人に追銭」という狂気の沙汰だ。呆れるばかり。そのことを指摘しておく。
( ※ 安倍首相というのは、日本のトランプみたいなものだから、その意味では、狂気的な企業優遇策も、例によって平常運転なのかもしれないが。みんな、慣れっこになって、鈍感になったのかも。)



 [ 付記1 ]
 冒頭の記事では「駅やコンビニに宅配ボックスを設置する」という話があるが、コンビニに宅配ボックスというのは、わけがわからんね。コンビニならば、すでに人手による「コンビニ受け取り」というのがある。
 セブン・イレブンではやっていないが、ファミマなどでは、機械に番号を打ち込むと、レシートみたいなのが出てきて、それを店員に渡すと、店員が奥から品物をもってくる。
 こういうシステムがあるのだから、税金をかけて、「コンビニに宅配ボックスを設置する」何て言うのは、まったくの無駄だ。税金をドブに捨てるようなものだ。……じゃなかった、税金を Amazon にプレゼントしているだけだ。

 [ 付記2 ]
 宅配便を自宅で受け取る場合、いつ来るかわからないのが困る。時間をあらかじめ通知してほしいものだ。できれば、届く1時間ぐらい前に、「あと 20〜40分ぐらいで届きます」というふうに、スマホに連絡してほしいものだ。
 とにかく、来る時間がほとんどわからないのが困る。クロネコメンバーズというのがあって、これだと、一応、通知のメールは来るが、通知時間には2時間ぐらいの幅がある。たとえば、「12時〜14時」というふうに。これでは、おおざっぱすぎる。
 しかも、メールの通知が、品物が届いたあとに来ることもある。ひどいものだ。IT時代なのだから、もうちょっと、何とかならないものか。GPS と連動させたりして、AI による予測機能を使えば、もっと何とかなるはずだが。

 実を言うと、これをすでに実現した会社がある。それは、アスクルだ。アスクルの LOHACO というサービスには、
 「商品が届く10分前にスマホに通知される」
 というサービスがあるのだ。下記の通り。
 8月末からは東京や大阪の都市部で、1時間単位で配達時間を指定できるサービスも開始した。商品が届く10分前に利用者のスマートフォンに通知される。自社のオフィス用品用の物流網を活用し、利用者の配達の待ち時間を抑えられるようにした。
( → ネット通販、日用品・食品を強化 需要は「第2世代」へ:朝日新聞デジタル

 アスクルというと、文房具だけかと思ったら、今では日用品の宅配にまで拡大しているそうだ。(記事を参照。)
 そして、上記の方法で、再配達の問題を解決しているのだ。

 とすれば、政府が推進するべきは、こういう方法だろう。つまり、「宅配ボックスの代わりに、IT技術によって問題を解決する」という方法だ。これはほとんどコストがかからない。
 政府のやっていることが、いかに馬鹿げているか、このことからもわかる。
 


 【 後日記 】

 宅配荷物の追跡や再配達を依頼できるアプリ「ウケトル」というのがあるそうだ。
  → 再配達を1割削減した「ウケトル」はパンク寸前の宅配業界を救うか
  • 「ウケトル」の主な機能
    • 荷物状況通知(すぐそこ通知、不在通知、発送通知)
    • ワンクリック再配達
    • 荷物追跡(配送リスト)
    • 履歴管理(配達完了、再購入、Googleアカウント等と連動した履歴保存)
    • 再配達依頼
    • Amazon、楽天の商品再購入


posted by 管理人 at 22:27 | Comment(8) | コンピュータ_04 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>IT技術によって問題を解決する

手書きの伝票を全廃にして、すべて端末からの入力のみにすれば
あるいは可能かもしれませんが、現時点では難しいでしょうね。

宅急便の荷物の形状・梱包状態・重量は本当に様々で、どこかで
人の作業を介入させないと円滑な搬送は実現しません。

意外に思われるかもしれませんが、TV等で報道される最新鋭の
機械が担当している仕分け作業は全体のごく一部で、7割方は
実質手作業です。当然IT技術活用の起点になる情報番号入力も
手作業が相当量ありますので、純粋のリアルタイムでの情報管理は
夢のまた夢ですね。

例えばゴルフクラブ。あの形状では機械で読み取れるような一律の
場所に伝票を添付する事は不可能ですし、性質上汚れからの読み取
りエラーも頻繁に起きますので、あれの管理は実質手作業・手入力
です(あくまで一例です)。

なにより、注文された商品を一律に送る通販業 と、

個人 対 個人 の不定型な荷物を

同等に扱わなければならない宅配業で一律な情報管理は実質不可能です。

宅急便の業務自体をすべて規格化して、条件を外れた荷物に対しては
高くした別料金を取るようにすれば解決するかもしれませんが、それは
宅配便の利便性を大きく削ることになりますし、たぶんそこに付け込んだ
別の「ブラックな」サービスが出てきて市場を食い荒らすでしょうね。

amazonがドローンで配送するサービスを実験、なんて出ていますけど
強風にあおられたりして操縦不能になったドローンが民家に突っ込んだら
等と考えたら、住宅密集地の多い日本では怖い事例ですね。
Posted by ss at 2017年01月18日 07:23
 行政指導の形で、配達料の値上げを図るのはどうだろうか?
 バス会社の場合は安全運行のため、料金の規制(○○以上)がつくられていますが、労働者の健康のために必要な規制もあると思います。
Posted by ishi at 2017年01月18日 07:45
> 手書きの伝票

本項は主として Amazon を話題にしています。手書きの伝票を使う個人配達の分は話題になっていません。

Amazonの部分を何とかしろ、という話。低料金で大量発注する分を IT 化すればいい、というわけ。これは当然すべて機械で記入されています。

> 個人 対 個人 の不定型な荷物

 それは話の対象外。そもそも、ちゃんとした高料金を取っているので、何も問題ない。
 また、集荷のときに電話番号を電子的に記入すれば、それで済む問題。集荷の時には人手不足は生じていない。

> 行政指導の形で、配達料の値上げを図る

 行政がやるのは、サービス残業の禁止だけで十分。
 そのあと、赤字解消のためにAmazon向けに値上げをするか、自社が赤字を被って倒産するかは、ヤマト運輸が決めればいい。
 ただし、違法な賃金不払いだけは、政府が禁止するべきだ。行政指導なんて、生ぬるい。営業停止か、高額罰金にするべき。
Posted by 管理人 at 2017年01月18日 12:27
クロネコメンバーズに登録しておけば、配達予定日のメールが前日に届きます。この通知メールから予定日に不在であれば、コンビニやヤマトの営業所に受け取り場所を変更したり、配達日の繰延ができます。

注文後、荷物をとにかく速やかに発送配達するよりも、受取人の希望に合わせて確実に受け取れる日時を注文時に申告してもらうシステムに変更した方が効率は上がると考えます。
ラストワンマイルの非効率性を改善するには、宅配便会社が受取人の都合をできるだけ早く掴むことに尽きます。それには受取人からの連絡が不可欠です。インセンティブを与えてでも受取人から希望受け取り日時を申告してもらえば、不在による再配達は低減できるような気がします。
Posted by 作業員 at 2017年01月18日 23:47
> クロネコメンバーズに登録しておけば、

 それは私もやっているけど、情報が雑すぎて、全然足りないんです。本文中で示した通り。
  ・ 指定する時間帯の幅が広すぎる。
  ・ 配達予定の事前通知のメールの到着が、配達後になる。

 ほとんど役立たず。せいぜい、日単位での変更ができる程度。しかしそれは、早めることはできず、遅くする(翌日にする)ことができるだけ。あまり意味がない。
 まあ、ないよりはマシという程度。

 ま、一番役立つのは、「追跡サービス」かな。これで到着時刻を、おおよそ予測できる。これの時間がもっと正確になれば、利便性は大幅に高まる。それが本項の趣旨。 LOHACO はそれを実現している。やればできる。
Posted by 管理人 at 2017年01月19日 05:58
>手書きの伝票を使う個人配達の分は話題になっていません。

冒頭にamazonの荷物を扱っていない佐川急便の例も出ていましたので
(当然こちらの方は個人配達の件でしょうから)
話題にしているのかと思っておりました。

>集荷のときに電話番号を電子的に記入すれば、それで済む問題

そうは簡単にいかないと思います。電話番号を電子的に入力するのなら
それを情報システム内に保持しないといけないですけど、宅配便のメイ
ンシステムは(検索の起点になっている問い合わせ番号が数か月経つと
検索不能になることからも)伝票コードをキー番号にした個人を特定し
ないシステムになっているはずです。そこに顧客を特定しうるマスター
データになりうる電話番号を(顧客管理システムによる一元管理なしに)
使い捨てのデータとして保持するのは情報システムの構築上非常にまず
いでしょう。

電話番号の情報システムへの入力自体は、現業部門担当のシステムエ
ンジニアならたいがいの人が考えると思いますけど、それがヤマト運輸
の情報システム部門ほどレベルの高い所で実現していないのは、情報シ
ステムそのものが顧客データをベースにしたものではなく、手書き伝票
のデータを原型にした流通データを基幹にしている可能性が高いからで
はないかと思います(だからクロネコメンバーズのような顧客管理型の
サービスを立ち上げ、将来をにらんだ普及を図っているのではないで
すかね)。

ですのでからプライム会員へのサービスをベースにしたamazonのIT化
がいくら進んでも(システムの根幹が違いますから)簡単にはデータの
摺合せや統合はできないでしょうし、結局荷物を手書き伝票の荷と同じ
処理のラインに流して作業するしかないでしょう。今以上の合理化には
莫大なシステム開発費用と、それを現場に導入する機器の開発・導入費
用が掛かると思います。

私は安倍首相の方針よりも、これだけ現場が疲弊しているのに業界シェア
(取扱個数)欲しさに不利な条件で仕事を受託し続けるヤマト運輸の経営
陣の方針が一番ひどいと思います。その結果としてamazonに利益がいく構
造になっている訳ですし。

この経営方針のまま、アスクルのような時間短縮・通知サービスを始めたら
いったいどんなしわ寄せが現場に行くのか、考えただけでもぞっとします。

ヤマト運輸が敢然とamazonの受託を拒否すれば日本でのamazonのビジネス
モデルは完全に崩壊するんですけどね。業界3位とはいえ、シェアでは
ヤマトの半分にも満たない日本郵便にamazonの全部の荷物を引き受ける
キャパシティはありませんから。
Posted by ss at 2017年01月19日 15:40
> (検索の起点になっている問い合わせ番号が数か月経つと検索不能になることからも)伝票コードをキー番号にした個人を特定しないシステムになっているはずです。

 そんなことはないでしょう。「検索不能」は、ユーザーによる検索の場合だけです。社内的には、検索可能になっているはずです。そうでないと、後で困るはず。
 だいたい、伝票番号と電話番号の結びつきぐらい、どうってことはない。メンバーズカードなら、住所氏名やメールアドレスだって結びついているんだし。

 ──

 だけど、よく考えたら、個人用途では電話番号は不要ですね。電話だと、電話代がかかるから、電話はあり得ない。メールなら無料だから、メール通知はあるけど。( Amazon などの通販の場合。)

 (通販でない)個人用途は、本項では対象外ということにしておきます。
Posted by 管理人 at 2017年01月19日 18:06
>(通販でない)個人用途は、本項では対象外ということにしておきます。
了解いたしました。

Posted by ss at 2017年01月20日 12:31
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