2017年01月16日

◆ ヒラリーの敗因

 トランプとヒラリーの対決では、トランプばかりに注目が行ったが、ヒラリー自身にも問題があった、と見なす方がいいだろう。

 ──

 そもそもトランプというのは、相当に滅茶苦茶な候補だ。史上最低レベルだとも言える。保守系のマスコミのほとんどに嫌われたし、共和党の議員からもかなり反発を食った。前代未聞と言えるほどだ。
 これほどひどい候補なのだから、まともな対立候補が民主党から出れば、圧勝できたはずだ。さすがにサンダースという高齢議員では無理だろうが、過去のゴアとか、ケリーとか、エドワーズとか、デュカキスとか、そういう普通の候補が出ていたら、トランプには圧勝できたと思う。
 ではなぜ、ヒラリーはトランプに圧勝できなかったのか? 

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 ここで、ひるがえって、ヒラリーにとって非常に有利な点があったことを指摘しておこう。それは、夫がビル・クリントンであったことだ。ビル・クリントンは民主党最強の政治家だとも言える。憲法の三選禁止の規定がなければ、何度か大統領選に出ることもできたはずだし、圧勝することもできたはずだ。
 とすれば、ビル・クリントンの助言を得ることで、ヒラリーは大統領選で圧倒的に有利な立場に立つことができたはずだ。

 たとえば、ビル・クリントンはとても現実主義的だ。そのおかげで、保守派の人々からも「信頼できる」という評価を得た。彼の助言を得たならば、ヒラリーは路線を変更して、高い支持率を得ることができただろう。
 現実には、違った。ヒラリーは理想主義っぽくて、頭でっかちふうで、現実離れしており、信頼できないという評価を得た。「リベラルすぎる」という評価も得た。いずれにせよ、中道や保守の人々からはろくに支持を得られなかった。特に、白人の中産階級の保守的な男性からは、徹底的に嫌われた。こうして、史上最弱の共和党候補であるトランプにすら、あっさり負けてしまった。

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 ヒラリーは、ビルの手助けがあれば、確実に勝てたはずだ。なのに、ビルの手助けを得なかった。では、なぜか?
 ビルが手助けをしなかったのは、ビルにはその気がなかったからか? いや、そうではあるまい。ビルはその気があったのだろうが、ヒラリーが拒んだからだ。そうとしか思えない。それ以外、あり得ない。

 ではなぜ、ヒラリーはビルの手助けを拒んだか? それは簡単だ。「夫の助けを得た」という世評が起こるのを気にしていたからだ。
 ヒラリーがビルの手助けを受ければ、「女は男の手助けが必要だ」「自分一人では決めることのできない、傀儡のような女性大統領」という批判が生じただろう。だから、そういう批判をあらかじめ拒否したかった。
 かくて、「自立した女」というイメージを作ろうとした。「女は男の手助けをまったく得ないで、自分一人の力で大統領になれる」というふうに示したかった。それがヒラリーの方針だった。

 そのことは、私の憶測ではない。裏付けがある。それは、「ガラスの天井(女性の進展を止める上限)を打破する」ことに、あくまでこだわったからもわかる。
 「(大統領という)最高で最も困難な『ガラスの天井』は打ち破れませんでした。しかし、いつか誰かが、私たち考えているよりも早く達成することでしょう」
( → ハフィントンポスト
Now, I know we have still not shattered that highest and hardest glass ceiling, but someday someone will ─ and hopefully sooner than we might think right now.
( → vox.com

 ガラスの天井を打破することにこだわった。女権拡張にこだわった。彼女は女権拡張論者だった。…そして、ここに敗因があったと言える。
 こういう発想をする人(世界の半分だけを見る人)は、市井の活動家にはふさわしいが、一国の全体を束ねる大統領にはふさわしくないのだ。

 ──

 では、どうすればよかったか? 「夫の力を借りる」というよりは、「夫の力を利用する」というふうにすればよかった。そういう形を取ればよかった。つまり、「夫に依存する」のではなく、「夫を協力者として利用する」というわけだ。
 比喩で示そう。テニスの錦織は、マイケル・チャンというコーチの力を借りて、大いなるアドバイスを得て、自分の成長に役立てた。ここでは、アドバイスを得たからと言って、錦織がコーチの部下になったわけではない。その逆だ。錦織が上司として金を払い、コーチは部下として知識を提供しただけだ。上下関係で言えば、明らかに(金を払う)錦織が上位にある。
 ヒラリーもそうすればよかった。ビルの手助けを受けるが、あくまで「ボスは自分だ」という立場を貫き通せば良かった。そうしてビルの助言を得れば、あれほどにもまずい方針を取ることもなかっただろう。(たとえば、メール問題では、常に後手に回った。ビルのアドバイスを受けていれば、もっとうまく立ち回れただろうに。特に、ユーモアで逸らすこともできただろうに。)

 現実には、そうしなかった。ヒラリーはビルの助言を一切受けなかった。あくまで「自分一人の力で」というふうに、独力にこだわった。頭が固すぎた。……そこが敗因だろう。(私はそう思う。)
 ヒラリーは「女にも十分な力がある」ことを証明する必要はなかったのだ。むしろ、「自分は未熟な人間だから、夫の力を借りて、二人三脚で政治をする」と言えばよかったのだ。「夫の力を借りるが、最終的には、決断と責任は自分自身でやる。そこは譲れない」と言えば良かったのだ。
 そういうふうに語れば、「鉄の意思と、肝っ玉の大きさ」を示すことができただろう。しかるに、現実には、逆だった。あくまで「女の自分にも能力があることを示そう」としていた。そういう肝っ玉の小ささがあった。……これでは、「大統領としての資質に欠けている。頼りない」と思われても仕方あるまい。マッチョな白人男性の支持を受けられなくても仕方あるまい。

 トランプが大統領選に勝ったことは、まったく残念なことではあるが、その背景には、「ヒラリー自身に大統領の資質が欠けていた」という点もあったのだ。
 彼女がもうちょっと大らかな性格で、ビルの手助けを受け入れることのできる包容力があったなら、トランプが大統領選で勝つこともなかっただろう。残念だ、としか言いようがない。



 [ 付記 ]
 なお、ヒラリーがこんなふうになった原因は、ビルの浮気事件があったのかもしれない。あの事件以後、ビルは「ヒラリーのために奉仕します」というふうに、頭が上がらなくなってしまった。かくて、「元大統領として偉そうに助言する」ということの資格を喪失してしまった。
 ビルの浮気が、トランプ大統領の誕生に結びついたのだとすると、とんだ高く付いた浮気だった、ということになる。下手をすると、「浮気の代償は第三次世界大戦だ」となりかねない。

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 この件は、下記で述べた通り。
  → トランプ大統領の衝撃 2



 [ 余談 ]
 今から思えば、オバマがヒラリーと対決して勝ってしまったのは、失敗だった。あのとき、オバマが立候補しなければ、まだ比較的若かったヒラリーが勝って、大統領になれた。

Hillary 2009 Hillary 2015
2009年    2015年

 そして、ヒラリーが2期勤めて、老いたあとで、オバマが立候補すれば良かった。そうすれば、民主党政権が4期続いて、トランプの目はなかった。
 オバマが優秀すぎた・強すぎたのが、米国にとっては不運だった。
 
posted by 管理人 at 21:16| Comment(0) | 一般(雑学)4 | 更新情報をチェックする
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