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別に今さら、過去記事のまとめをする必要はないのだが、朝日にトンデモ記事が出たので、その指摘を兼ねて記述する。

きっかけは、この記事だ。
→ (我々はどこから来て、どこへ向かうのか:7)大災害、都市は耐えうるか
→ (我々はどこから来て、どこへ向かうのか:7)賢く「たたむ」都市の未来
「大震災が来たらどうするか?」というテーマで考える。それ自体はいい。しかし、その先が問題だ。
気候変動の影響があり、台風や豪雨が増える。そこで、東京の江戸川区などでは、「洪水と高潮で広範囲が浸水すれば」という想定で、大被害が生じると見込む。そこで、都市を縮小する(たたむ)ことで、都市を災害に耐えられるように改造する。いざというときには救命ボートで逃げられるようにして、「浸水」だけでなく「親水」の文化作りを進める……という趣旨。
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しかしこの記事は、滅茶苦茶の極みだ。
・ 台風災害と大地震を、意図的に混同している。
(例。台風の被害の話で、地震の死者数を出す。)
・ 都市の縮小と災害対策との関連性を示していない。
(両者は全然別の話だろう。)
・ 救命ボートは水害対策にはなっていない。新規性もない。
・ 「浸水」から「親水」へ、というのはただのダジャレ。
・ 肝心の防災対策の話が、一切、欠落している。
まとめれば、こうだ。
テーマとして、「大都市の防災対策」を掲げる。これはいい。
しかし、そのあとで、「災害対策のために都市の縮小を」という、とんでもない方向へ話を逸らす。それはまったく別の話だろうに。
で、具体的な策といえば、「救命ボート」という、既存の小さな方針を一つだけ出して、「これが素晴らしい新規のアイデアです」と言い出す。(そんなことぐらいは誰でも知っているだろうに。)
で、このつまらないアイデアを売り込むために、「浸水」から「親水」へ、というダジャレを持ち出す。
結局、大きなテーマを掲げたあげく、話を逸らして、最後はダジャレで締める。あきれるしかない。「冗談も休み休みにしろ。三が日が終わったあとまで、おとそ気分でいるんじゃない」と言ってやりたくなる。
ちなみに、これを書いた人は、佐々木英輔という編集委員。学歴はわからないが、科学的な発想が皆無で、歴史的な話に持ち込もうとするあたり、文学部系統の発想しかできないと見た方がいい。(上のリンクのページには、東大物理学部卒の記者がいて、学歴を示しているが、その人とはレベルに雲泥の差があるようだ。)
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さて。
朝日の記事に呆れるしかないが、朝日の記事の悪口を書くだけでは、意味がない。読者もうんざりだろう。そこで、正解を示す。
正解は、本サイトの過去記事にあるが、いくつかの記事にまたがっているので、その要約として、本項で「まとめ」を書いておこう。
(1) 水害対策の基本
水害対策というと、政府の方針は、こうだ。
・ スーパー堤防
・ 防災ダム (八ツ場ダムなど)
いずれも、最低でも数千億円、全部で数兆円〜数十兆円がかかる。それだけ、政治的な利権が発生するので、政府はこれを推進している。(自民党の金づるだ。税金の浪費。)
しかし、それよりはるかに低コストで有効な方法がある。それは、遊水池だ。これを本サイトでは推奨した。
→ 堤防よりも遊水池
(2) 新横浜の遊水池
遊水池というと、渡良瀬遊水池が有名だ。これは、普段は池として広大な自然環境が得られるので、環境面で有益だ。
→ 上記記事の最後
一方、新横浜にも遊水池がある。洪水のときには、ここに大量の水が流れ込み、周辺の氾濫や堤防決壊を防ぐ。その際、日産スタジアムは水没するが、もともとその前提で対策してあるので、何も問題はない。
→ 新横浜の遊水地 (水没の写真多数)
(3) 利根川の遊水池
渡良瀬遊水池と新横浜の遊水池は、有名だ。この二つのほかにも、あまり知られていない遊水池が見つかった。利根川の遊水池だ。
あまり知られていないが、この遊水池は巨大なもので、利根川の洪水対策としては、ほぼ十分となっている。鬼怒川では洪水が起こったが、鬼怒川と利根川との合流点よりも先では、(この貯水池のおかげで)洪水の心配はまずない、と考えていい。
→ 利根川の遊水地

(4) 荒川と江戸川の貯水池
さて。肝心の東京都は、どうか? ここでは、利根川よりも、荒川と江戸川が問題となる。

出典:東京建設業境界
荒川については、すでに十分な遊水池があるそうだ。
→ 東京の水害対策(荒川・江戸川) (後半の 【 追記 】 )
その詳細は、下記ブログ。
→ 荒川の横堤と遊水地
一方、江戸川については、遊水池が足りない。そこで、新たに遊水池を設置した方がいい。その場所も指定できる。
ただし、合流点付近では、もうちょっと遊水池を足した方がよさそうだ。
→ 東京の水害対策(荒川・江戸川) (後半の 【 追記 】 )
江戸川と利根川の分流点のあたりがいいと思ったのだが、そこでは不適だと指摘を受けたので、別の場所を提案した。
・ この分流点よりも上流の場所。(羽生市のあたり)
・ この分流点よりも下流の場所。(中央学院大のあたり)
分流点よりも上流だと、そこは利根川流域となり、江戸川流域ではない。とはいえ、そのあとで、利根川が「利根川と江戸川」に別れるのだから、上流域で遊水池を作れば、江戸川の上流で遊水池を作ったのと同じことになる。
分流点よりも下流だと、まさしく江戸川流域に遊水池を作ることになる。
いずれも有効だ。新横浜の遊水池と同様の効果が見込める。つまり、非常に大きな防災効果が見込める。しかも、コストは格安だ。(農地を水没させるだけだから、建設コストは低い堤防を作るだけで済む。)
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というわけで、「格安のコストで多大な効果がある方法」というのを、すぐ上に示した。これによって、都市の洪水防止は可能となる。
朝日新聞みたいに「都市の縮小」という荒唐無稽なことを言ったり、ダジャレに逃げたりするのではなく、きちんと防災対策をすれば、格安で多大な効果が出るのだ。
新聞が指摘するべきことは、そういうことだ。しかも、それは、ネットを調べるだけで簡単にわかる。
朝日はいつまでも正月気分で、夢と冗談ばかりを語っているようだが、そろそろ正月気分を脱して、正常モードに戻るべきだろう。(いくら今は連休だとしても。)
[ 付記1 ]
遊水池が格安のコストで多大な効果をもたらすことは、数学的に考えるとすぐにわかる。
一般に、堤防というものは、断面図が台形または三角形になる。(ダムの 堰(せき) も同様だ。)
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ここで、三角形の面積は、高さの2乗に比例して増える。高さが 10倍になれば、面積は 100倍になる。高さが 32倍になれば、面積は 1000倍になる。それに応じて、建設コストが上昇する。
というわけで、ダムみたいな巨大建設物(高い堰)を作れば、建設コストは膨大になるが、遊水池みたいな低い建設物(低い堤防)を作れば、コストは格安で済むわけだ。
飲料水を貯める貯水池なら、いつも大量に水を貯めておく必要があるので、高い堰が必要だ。しかし、洪水防止のための遊水池ならば、普段は田畑にしておけばいいので、高い堰は必要ない。だから、格安で済むのだ。
こういう原理を理解しておけば、防災のためのコストを大幅に削減できる。つまり、実用可能なコストで、十分な防災対策が可能となる。
そういう真実を示すことこそ、マスコミのやるべきことだ。夢物語やダジャレに話を逸らすよりも、やるべきことをやってほしいものだ。そのためには、ちょっとググるだけでも済むのだから。
[ 付記2 ]
ちなみに、ググると、こうなる。
→ 東京 水害対策 - Google 検索
その 20番目の項目に、下記項目が出る。
→ 東京の水害対策(荒川・江戸川): Openブログ
つまり、ググって 20番目の項目に、正解がきちんと見つかるのだ。(自治体やメトロの災害情報を除けば、一般サイトでは3番目だ。個人ブログではトップだ。それくらい、見つかりやすい記事だ。)
新聞記事を書く前に、せめて、このくらいのネット調査ぐらいはした方がいい。朝日の記者は、記事を書く前にググって調べる知恵さえもない、とはわかるが。
※ 上記の検索結果の調査の後で、本項を公開した。
だから現時点では、本項の方が上位に来ている
かもしれない。(上記項目ではなくて。)
[ 余談 ]
朝日のこの記事は、シリーズのひとつだ。で、このシリーズは、次のようなもの。(Google の検索結果)

どう見ても、正月気分で、おとそを飲みながら与太を書いているとしか思えない。まともな話はなく、酔っ払った頭で夢物語を書いているとしか思えない。呆れるばかり。
ただ、人命に関わることで、トンデモ記事を書くのは、願い下げにしてほしい。他の話は「朝日が与太を飛ばしている」で片付くが、本日のこの記事は、あまりにもひどい。デタラメな水害対策を書くことで、多大な人命を奪おうとしているのにも等しい。東京都民の虐殺狙いだとしか思えないね。
ま、その意図があろうとなかろうと、結果的にはそうなることに導くトンデモ記事だ。