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中高一貫教育を実施する公立学校が増えている。主としてエリート教育をするもので、近年は増えている。地方では「県内の東大進学者が増えた」というような声も上がっている。
その一方で、私学からは「私学を圧迫する」という批判も上がっている。そこで、是非を考えてみよう。

(1) 非
まずは是非の非から。
「公立はまんべんなく生徒を集めて低料金で提供する。私学は特別サービスを出すかわりに高料金を徴収する。そういう分担がなされていたのに、公立で特別サービスを出すのでは、私学を圧迫する」
というものだ。
これは「民業圧迫」を教育分野で実施するのに等しい。たとえて言うと、公立図書館で無料貸出の書籍・DVD・パソコンソフトなどを提供するから、書籍・DVD・パソコンソフトなどが売れなくなる、というようなものだ。他の分野でも同様で、公営の店が無料で民間事業のサービスを提供したら、民間事業は成立しなくなる。その上、その事業に税金が投入されるとなったら、膨大な税の無駄遣いだ。
(2) 是
一方、受益者となる側からは、ありがたいという声が上がる。
「これまでは金がないので諦めて、普通の公立に通うつもりだったが、を低料金で受益できるようになったので、貧乏人の子供でも高い教育を受けられるようになった。これこそ教育の公的負担の成果だ。金持ちの子弟だけが高度な教育を受けられるというのでは、格差はどんどん拡大するばかりだ。その問題を解決するのは素晴らしい」
これはこれで、ごもっとも。そもそも、「民業圧迫」というようなことは、教育分野には当てはまらない。教育は営利事業ではないからだ。その意味で、私学の批判は当たらない。
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以上に是非の論を並べてみた。どちらも一理あるように思える。
ここで、私の体験を言おう。私は公立中学から、国立の中高一貫校に入学したが、入学した当初は、受けてきた教育のあまりにも大きな差に、愕然としたものだ。入学した当初は、とうてい追いつけないという感じさえした。
その意味は? 中学レベルでのエリート教育にはものすごい効果がある、ということだ。個人が自習しているレベルではとうてい追いつけないような圧倒的な教育効果をもたらすことができる。
比喩的に言えば、中学生というのは、与えた栄養をどんどん吸い込む植物のようなものだ。ここで、十分な栄養を与えるのと、栄養のない飢餓状態に置くのとでは、その後の成長速度に大差が付く。どれほど素晴らしい素質があっても、きちんとした教育(= 栄養)を与えるのと与えないのとでは、その後の成長に大差が付くのだ。
( ※ まあ、そのあとの高校三年間で、追いつき・追い越すことはできるのだが、そのためには、死にものぐるいの努力が必要だ。「挽回不可能」というわけではないが、「挽回困難だ」とは言える。)
以上のことから、「中学生にエリート教育をすることには、十分に効果がある」と結論できる。
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ただし、である。話はここでは終わらない。
「中学生にエリート教育をすることには、十分に効果がある」
ということは成立しても、
「そのエリート高校が公立である必要がある」
とは言えないのだ。公立でなくて、私立であってもいいのだ。
ここで、「私立では費用がかかる」という問題があるのなら、次の方法も可能だ。
「私立に通う貧乏家庭の人向けに、奨学金を与える」
したがって、エリート教育をするにしても、次の二通りの方法がある。
・ 奨学金の給付で、私学に通わせる。
・ 公立の一貫校を新規に設立する。
では、この二通りの、どちらがよいか? 私の判断では、こうだ。
「公立の一貫校を新規に設立すると、土地代や建物代に莫大な金がかかるので、コスパが悪い」
したがって、次の方がお勧めだ。
「奨学金制度を導入して、貧乏なエリート向けに資金援助して、私立に通わせる」
これだと、次のいずれかの効果が出る。
・ 生徒数が同じならば、費用を大幅に圧縮できる。
・ 費用が同じならば、生徒数を大幅に増やせる。
さらに、次の効果が出る。
「私学の経営は圧迫されない。それどころか、貧しいエリート層がやって来るので、生徒の質は大幅にアップする」
生徒の側にとっては、次の点が好ましい。
「県内に数カ所ある遠隔地の公立一貫校(中学)まで、長時間をかけて電車通学をする必要がない。県内には私立中学がたくさんあるので、あまり遠くないところにある私立中学を適当に選んでから、そこに電車通学することができる。当然、通学時間は短くて済む」
以上をまとめて言えば、こうなる。
「エリートの一貫教育を公的に援助するという方針自体は正しい。しかし、そのために、すべてを公費でまかなうという方式は、コスパが悪い。既存の私学を利用して、奨学金で補助するようにすれば、はるかにコスパがよくなる」
ここでは「コスパ」という概念が大切だ。一貫教育をすることの是非だけを論じても仕方ない。それにかかる費用を考えることが必要だ。それは、金の節約のためだけではない。「同じ金をかければ、はるかに大きな効果をもたらすことができる」という意味もあるのだ。
[ 付記1 ]
私学については、もっと補助金を増やす方がいい、と思える。なぜか? 私学に補助金を出すと、その分の支出が増えるが、逆に、その分の公立への支出が減るからだ。
たとえば、私学の授業料が 100万円で、そのうち、20万円ぐらいを新規に補助することにしたとしよう。すると、生徒1人あたり 20万円の公的出費が増える。これだけを見ると、公的出費が増えるように見える。
しかしこのとき、公立校の生徒が1人減るのだから、公立校への出費( 70万円?)がなくなる。70万円の得だ。
差し引きして、20万円の出費が増えるが、70万円の出費がなくなるのだから、トータルで 50万円も出費が減る。
だから、私学に補助金を出せば出すほど、公教育のための公的支出はかえって減るのだ……というふうになる。
( ※ 本当はそれほど単純ではないが、少なくとも、そういう面はある。)
というわけで、私学への補助金を増やすことには、十分に根拠があるのだ。ひるがえって、公立の一貫校を作るのは、ものすごく金がかかって、金が無駄になる。
( ※ それまでは私学で負担していた分を、公的に負担するようになる……と考えると、まるまるの支出増だ。)
[ 付記2 ]
中高一貫校のために、土地や建物を購入するとなると、莫大な金がかかる。どうせなら、圧倒的に不足している保育園のために、土地や建物を購入するべきだろう。
今は不足しているのは、保育園の方なのだ。こっちの方に教育の公的資金を投入するべきだ。自治体は、やることを間違えているね。
[ 付記3 ]
とにかく、まとめて言えば、「どうせ金を出すなら、効率的に金を使え」となる。「中高一貫校には意義があるかどうか」なんてことばかり論じていては駄目だ。「出す金に見合うだけの効果があるかどうか」が大事だ。あるいは、「どうせ金を出すなら、その金で効果を最大化せよ」と言える。
現状では、金の使い方が非効率的すぎる。これは、教育の問題というより、行政や経営の問題だ。
【 追記 】
公立の一貫校は、中学入学時に入学試験がないそうだ。コメント欄で教わったが、具体的な記述も見つかった。
公立中高一貫校を語るうえで忘れてならないのが、「適性検査」です。公立中高一貫校の場合、「受験」ではなく「受検」といいます。なぜかといえば、学校教育法が受験競争の低年齢化を防ぐ目的で、公立中学校は私立などで行われる「学力検査」を禁じているからです。
そこで、私立受験のような科目別テストではなく、作文などを通して考える力や表現力など、教科を超えた総合的な思考力や表現力などを見るための「適性検査」が行われます。
( → 公立中高一貫校 人気上昇の背景と受検倍率公開日経DUAL )
より正確には、学校教育法というより、それに準拠した省令であるようだ。
省令の文意を常識の範囲で読めば、現行の法令上、公立の中等教育学校および併設型中学校では、入学者選抜に当たって「学力検査」は実施できないことになっています。
( → 「学力検査」の取扱いについて(意見):文部科学省 )
入試がないのでは、選考は不適切とならざるを得ない。
まあ、学力検査のかわりに「知能テスト」を用いるのならば問題ないだろうが、これだと「抜け道」とか言われて批判されそうだ。
やはり、どうせなら入試が必要だし、それが公立でできないのであれば(公立でなく)私立にするしかないだろう。結論は同様で、「私立校への生徒に奨学金を出す方がいい」となる。
《 加筆 》
これで困った人たち(入試がないせいで弾かれてしまう人たち)からは、注文の声が出そうだ。
「困ったときの Openブログ! 法律が変であるなら、変な法律を回避するように、方法を考えろ!」
ううむ。そんなことを言われても、私は遵法がモットーであり、脱法なんかはしたくないんだが。……しかし「法律が変である」というのは事実なので、うまい方法を考えた。こうだ。
「入学試験のかわりに、奨学金試験を導入する。奨学金試験をパスした人だけが、奨学金を受けることができる。パスしない人は、私立校並みの高額の授業料を支払う」
これで、そのあとの適性試験に進む人の数を大幅に絞れる。実質的には、入学試験を課したのとほぼ同じことになる。これで解決しました。
やっぱり、困ったときの Openブログ。 (^^)v
※ なお、上の方法は、「公立校を私立校みたいにする」
ということに相当する。本項の「私立推進」と同様。
【 関連サイト 】
朝日新聞では、特集記事がいくつも掲載されている。
→ 公立一貫校、攻めの一手 高校の内容を中1秋から:朝日新聞
→ 公立中高一貫校って? 目的は「ゆとりある学校生活」:朝日新聞
→ 公立一貫校、進む前倒し学習:朝日新聞
→ 私立授業料、小中学生世帯に10万〜14万円、文科省検討:朝日新聞
日経 DUAL にも記事がある。
→ 公立中高一貫校 人気上昇の背景と受検倍率公開
そこからグラフを抜粋すると、下記のグラフがある。

出典:文部科学省「学校基本調査」の資料を基にDUAL編集部で作成
問題なのは実質、進学実績をあげることが目標なのに、それをおおっぴらにできないので入学試験を「適性試験」などと称して行い、不透明感を禁じ得ないところです。「進学実績をあげるため、優秀な生徒を選抜する」と掲げて堂々と選抜試験を行えばよいと思いますがね。
私学助成についてはいろいろと問題がありまして、憲法89条の規程をみるかぎり、憲法違反の疑義があります。私学族の政治家(自らがオーナーの政治家も多いですね)が多数いるし、実際今更違憲とはいえないのでなくなることはないのですが、増やすことはなかなか難しいのですね。増やそうとすると財務省が憲法問題をチラつかせてくるわけです。
詳しくはwikipediaをご参照ください。
挙句の果てに財務省はこの憲法違反状態回避とヒモ付き補助金撤廃の名の下に私学助成を一般財源化(現状では使途を指定して国から都道府県に国庫補助金の形で支給されているが、使途を指定しない地方交付税交付金の形で支給する)を主張しています。ちなみに都道府県もこれに原則賛成です。
なにせ土木の方が自分たちのポンポンに入るお金が増えますからね:-)
そうじゃなくて、奨学金です。学校でなく、生徒に渡します。
基本的には、「所得が制限額以下で、かつ、成績が上位の1割ぐらい」という限定的な奨学金。全員ではありません。
この政策は、Fラン大学の廃止とセットで
行うべきですね。
どんどん潰さないと、教育予算がいくらあっても足りませんからね。
タイムスタンプは 下記 ↓
地方では、公立高校の一部を公立中高一貫校に変更するメリットは大きいと思います。
奨学金の拡充あるいは教育バウチャーの制度がよいと思います。