2016年10月26日

◆ 渡辺竜王の英断

 竜王戦に三浦九段が出席しなかったのは、渡辺竜王の意思だった。それは英断だったと言っていい。

 ──

    ※ 本項の本文は、情報に不正確なところがあります。
      最後の 【 追記 】 まで読むことで、完結します。



 竜王戦に三浦九段が出席しなかったのは、渡辺竜王の意思だった。
 今月3日の対局でたびたびの離席と不自然な指し手に疑惑を抱いた渡辺明竜王(32)が、「疑念がある棋士と指すつもりはない。タイトルを剥奪されても構わない」と、連盟幹部に強く対応を求めていたことを明らかにした。
( → 産経ニュース 2016.10.21

 これに先だって、10月18日には、三浦九段が「自分は潔白だ」という声明を出した。
  → 三浦九段がソフト使用疑惑否定 反論文書全文

 この三浦九段の声明を「真実だ」と思った人から、「渡辺竜王の方針は暴挙だ」という批判が出た。
 特に、一部の C級棋士は、「渡辺竜王を失格にせよ」とまで批判した。
  → 三浦擁護論者の暴走

 一方、すでに見たように、三浦九段が「クロ」であることはほぼ確実である。
  → 技巧との一致率(他の場合)

 ただし、それは別としても、「容疑が濃厚」というだけ(不確定)であっても、「三浦九段の竜王戦不出場」という方針は妥当であった、と私は考える。つまり、渡辺竜王に対する批判は不当である、と私は考える。
 その理由を示そう。

 ──

 まず、渡辺竜王の心証は「三浦九段はクロだ」というものだった。竜王としてはこれに絶対の確信を持っていたのだろう。(そしてその確信は正しかったと、のちに判明した。)

 これほど強い確信を持たせたことには、いくつかの理由があった。
  ・ 指し手の分岐(読み筋)までが「技巧」と一致していたこと。
  ・ 終盤で、自分の手番で頻繁に離席した(らしい)こと。
   ( → 三浦問題の決着方法(将棋) [ 付記2 ])


 こういう状況証拠があれば、事後的に調べた「一致率が高い」ということを別としても、あまりにも容疑は濃厚すぎる。つまり、「真っ黒」と断定できなくとも、「非常に黒に近い」と判断できる。

 とすれば、竜王としては、次の事態を予想していたはずだ。
 「三浦九段との対局が実現すれば、三浦九段が圧勝する。4局のストレート勝ちもありそうだ。内容でも圧勝しそうだ。かくて竜王の座は三浦九段に行く。そのあとで、不正がばれる。かくて、竜王は技巧であることが判明する」


 「第29期竜王戦の勝者である竜王は、ソフトの技巧であると判明する」
 これはもう、最悪の事態だろう。こんなことになったら、プロ将棋界は壊滅する。だからこそ、渡辺竜王は、身を挺しても阻止しようとしたのだ。ソフトが竜王の座につくことを。


龍 (雲龍院)


 仮に、自分がタイトルを剥奪されて、「他の誰か(丸山)と三浦との対戦の勝者が竜王の座につく」ということになったとしても、そのとき「ソフトに負けた」という不名誉を負うのは、丸山九段であるから、渡辺竜王ではない。自分が最悪の面汚しとなるとなるハメは避けられる。……そういう思惑もあったかもしれない。
 だが、それはあくまで、二の次だろう。何としても、
 「ソフトが竜王の座につく」
 ということを阻止したかったのだろう。そのために身を挺したのだ……と私は考えたい。

 ──

 このような渡辺竜王の態度を理解できない人が多い。先の C級棋士に至っては、
 「タイトル保持者が挑戦者を変更させるように動いた」
 と表現している。
 呆れる。これではまるで「自分の都合で、対局者を弱い相手に変更した」
 というようなものだろう。
 しかし、渡辺竜王が、そんな馬鹿げた私心で動くはずがない。むしろ、私心で動くのであれば、こうするはずだ。
 「三浦九段は本当はB級以下の実力しかない。だったら三浦九段をそのまま出場させればいい。その上で、スマホの使用を絶対禁止にすればいい。(金属探知機でチェックすればいい。)……こうすれば、相手はB級以下の実力だから、対戦は4戦全勝に決まっている。楽々、勝利。簡単に、竜王の座を維持できる。これが一番お得だね!」

 しかし、不正をしたとわかっている弱小棋士を相手に竜王戦七番勝負を戦っても、とんだ茶番であるにすぎない。特に、竜王戦の最中に、「三浦九段は不正をしていた」とバレたら、とんでもないことになる。( ※ 実際、途中でバレた。→ 前項。)
 こんなことになったら、もう、滅茶苦茶である。
 「第29期竜王戦は、途中中止します。対案は、別途協議します」
 ということになって、世紀の大スキャンダルだ。

 だからこそ、渡辺竜王は、「自分の都合のために、B級以下の実力である三浦九段を出場させよう」とは思わなかった。かわりに、竜王戦の挑戦者決定戦で正当に勝ち上がった挑戦者(丸山九段)と対決しようとした。
 これこそ、正々堂々たる王者の態度だと言える。

 ──

 しかし、凡庸な人々は、竜王の高潔な配慮を理解できなかった。判官びいきのせいか、疑われた三浦九段を潔白だと思うあまり、渡辺竜王の行動を「私心にまみれたもの」だと思い込んだ。しかし、その思い込みは、あまりにも自己矛盾に満ちている。なぜなら、「私心にまみれたもの」だとすれば、三浦九段をそのまま出場させた方が、渡辺竜王は有利だからだ。

 こういう論理的な判断もできずに、ただの感情論で渡辺竜王を批判する人々がいる。まったく、情けないことだ。
 竜王は高潔であるがゆえに、特に自己弁護はしない。だから私がかわりに、竜王の真意を代弁する。「それは身を捨ててまで将棋連盟を守ろうとしたのだ」と。

 渡辺竜王が自己正当化をしようとするなら、三浦九段の疑わしい点をたくさん列挙できただろう。
 「終盤に自分の手番で離席していた」
 というふうに。
 しかし、竜王は高潔であるがゆえに、相手を過度に傷つけることをしなかった。温情があるがゆえに、処分だけで済ませて、その理由をあまり過剰に述べなかった。真っ黒に近い棋士がいかにひどい状況であるかを、世間にはあまりあからさまには示さなかった。
 そのすべては、罪人に対する温情だったのだ。また、将棋連盟に対する擁護でもあった。

superman_hero.png

 渡辺竜王は、自らが世間の批判の矢玉を受ける盾となることで、身を傷つけながらも、将棋連盟と三浦九段を守ったのだ。
 その高潔な配慮を理解できない人々が多いのは、まったく残念なことだ。



 [ 付記 ]
 「おまえはどうなんだ? 三浦九段がクロであることを暴露しているじゃないか!」
 という批判が来そうだ。ま、その批判は、ある意味、妥当である。私は、三浦九段には恨みはないが、世間の野次馬と同じで、「真相を明かしたい」という気持ちはある。そして、真相を明かした結果、「三浦九段がクロだ」とバラしてしまうことがある。
 ここでは、私は、三浦九段に対する配慮を働かせていない。私自身は、ちっとも高潔ではない。高潔なのは、渡辺竜王だ。私ではない。ここを間違えてはいけない。
( ※ ただし私は、三浦九段を攻撃しているわけではない。「自殺しないように配慮すべきだ」という主張は、別項でしている。 → 続・三浦九段の不正疑惑(将棋) の後半。)



 ※ 以下は別の話題です。

 [ 余談 ]
 三浦九段は、勝利した対局では、ソフトを使っていた。敗北した対局では、ソフトを使っていない。
  → 技巧との一致率(他の場合) の 【 追記 】
 とすれば、次のようになっていると推定できる。
 「敗北した対局では、ソフトを使っていないので、離席していない」
 このことが、対局者や観戦記者などの証言から、明らかになるはずだ。つまり、次の対比ができる。(自分の手番で。)
  ・ 勝利した対局 …… 頻繁に離席した 
  ・ 敗北した対局 …… ろくに離席しない

 このような違いが判明すれば、容疑はいっそう濃厚になるだろう。そして、その違いは、きっと得られるはずだ。証言を求めるといいだろう。



 【 追記 】
 コメントと、その回答。
遅くても10月5日時点で金属探知機を使うことを渡辺・三浦双方が合意しています。
渡辺氏の訴え、三浦氏への聞き取りはその後に行われています。
このブログエントリーである竜王が三浦に奪われる。は的外れでは?

Posted by だぶ at 2016年10月26日 23:23

 そうでした。そのことも説明するつもりだったのだが、いっぱい書いているうちに忘れてしまった。さらに論理が混線してしまった。
 そこで、書き足しておきます。

 渡辺竜王がいろいろと心配した時期は、上記の時点(10月5日)以前です。
 それ以後は、「奪われる」という心配はなくなった。だが、「万一のことがあるかも」という疑心暗鬼は残った。怒りも残った。悪感情も残った。
 で、そのあとは、「不正をした棋士なんかとは対局したくない」というふうに表明した。(これは報道されたとおり。)
 10月5日時点では、まだ「疑い」があるだけで、「確証」はなかったのでしょう。特に、千田五段のデータはまだなかったのでしょう。その後、千田五段のデータや、他の情報も出て、「真っ黒だ」と確信したのでしょう。で、「こんなインチキ棋士とは対決したくない。たとえそれで勝利が確実だとしても」と思ったのでしょう。

 上記のようにまとめるのが、妥当だと思えます。
 本文中の記述は、急いで書いたせいか、ちょっと単純化しすぎていましたね。本項は、最後の 【 追記 】 まで読むことで、完結することになりそうです。

  ※ その旨、冒頭に注記しておきました。

posted by 管理人 at 21:50| Comment(16) |  将棋 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
http://mainichi.jp/articles/20161006/k00/00m/040/042000c
15日に開幕する竜王戦七番勝負は、金属探知機も使って手荷物などの検査を実施することで対局者が合意している。

遅くても10月5日時点で金属探知機を使うことを渡辺・三浦双方が合意しています。
渡辺氏の訴え、三浦氏への聞き取りはその後に行われています。
このブログエントリーである竜王が三浦に奪われる。は的外れでは?
Posted by だぶ at 2016年10月26日 23:23
↑ ご指摘ありがとうございました。
 最後の 【 追記 】 で修正を入れておきました。
 冒頭にも注記を入れておきました。
Posted by 管理人 at 2016年10月26日 23:51
スポンサーにとって不正疑惑など痛くも痒くもないはずです。
真に痛いのは、只で手に入るソフトの方が竜王よりも強い事実、を将棋に疎い人たちまで知ってしまうことです。
竜王が「オレよりフリーソフトのほうが強い」と言い、連盟もそれを認めたら、竜王戦の価値は只同然と認定されたことになり、読売の面子は丸つぶれです。
読売が何のために将棋連盟に3億円以上の契約金を支払っているのか、理事は頭を冷やしてよく考えたほうがいいです。
三浦九段がシロかクロかはどうでもいいはなしです。将棋連盟が行った三浦九段出場停止処分は大悪手であり、自殺行為です。
文春や新潮が何を書いても、@証拠不十分、A竜王戦はソフト使用できないよう万全の態勢で臨む、で何事も起きなかったはずです。スポンサーはそれで納得したはずです。
「プロ棋士の指し手に90%以上一致するほどソフトはレベルアップしたんだね。たいしたもんだ」と言えばよかったのです。それが大人の対応です。

次に、渡辺竜王は「高潔な配慮」をするような人ではないですよ。彼は超リアリストです。損得勘定に敏感です。彼はブログ記事にこんなことを書いてコメント欄を炎上させたことがあります。
>米長先生が“キセルをすると運が落ちる”という文章を書いたのを読んで僕はキセルをやめたという話をしたら、その場にいた藤井九段も“俺もそうなんだ”と。
私はまあセコいキセルくらいだが、藤井九段は"群馬−千駄ヶ谷"でやっていたということなので(笑)。
キセルは言うまでもなく犯罪ですが、彼にとっては犯罪ではなく日常のごくありふれた行為なのでしょう。金を払わずに乗車できるのなら一銭も損せずに目的地にいけるので、損得の基準のみで考えるとベストの選択ですから。

最後に、ソフト指しの常習者として疑いの目で見られてきたのは渡辺竜王自身です。
http://i.imgur.com/ycV1F4U.jpg
>「疑念がある棋士と指すつもりはない。タイトルを剥奪されても構わない」と、連盟幹部に強く対応を求めていたことを明らかにした。
自分が常習者なので、三浦九段の不正疑惑に過敏に反応したのでしょう。
Posted by 平ねぎ at 2016年10月27日 12:17
 今から15年前くらいか。出たばかりの
ボナに10局中1局しか勝てなかったのに当時、
心底驚いたぜ。

 しかもボナの考慮時間を最低の1秒にして、
(確か最低設定時間は当時1秒だったと思う)
やってたのに、それでも強かったからな。

 まあ、今回の騒動のおかげで代わりに
引退直前の田丸の棋譜が読売に載ったのが
せめてもの救いだ。

 田丸と言えば将棋世界編集長・・・と言う
よりも和服のイメージが強いかw。

 田丸は(三浦の白黒は別にして)
三浦擁護派みたいだけどな。

Posted by どら猫ホームズ at 2016年10月27日 12:50
すみません、2重投稿してしまいました。お手数ですがひとつ消してください。
せっかくなので、久保VS三浦戦について書きます。
三浦九段の6七歩成が人間には思いつかない手で、カンニングが疑われていますが、
竜王戦ブログには、
>△4二歩▲5三金の交換が入れば、そこで△6七歩成は有力です。そうなればどちらかが倒れるまでの、激しいたたき合いになる可能性があります。
と書かれており、△4二歩▲5三金の交換の後△6七歩成が指されているので、三浦九段が自力で考えたとしてもおかしくないと思います。
http://kifulog.shogi.or.jp/ryuou/2016/07/post-b3df.html
Posted by 平ねぎ at 2016年10月27日 12:50
> 6七歩成が人間には思いつかない

思いつかないとは誰も言っていません。初心者でもすぐに思いつく手です。(同歩と取るだけ。)

問題は、自王が危険な状態で、そこに踏み切る勇気や自信がないということ。ちょっと攻めが途切れれば自王が詰んでしまう状態なのに、攻める気にはなりにくい、ということ。
Posted by 管理人 at 2016年10月27日 13:00
三浦九段と連絡がつかない?
もしかして既に手遅れかもしれないな。
Posted by どら猫 at 2016年10月27日 15:21
全くの素人(しかも文系)なので書き込むのに躊躇を覚えるのですが。

どうもよくわからないのですが、将棋ソフトが人間の棋士に勝ったからといって棋士の価値が下がるということにはならんでしょう。

原チャリ(原チャリじゃ勝てないかな?)がボルトに勝ったところでボルトの価値が下がりますか?

機械の手など借りずに自分の頭だけであれだけの頭脳戦を展開できるところに棋士の価値があるのでは?


渡辺竜王は単に勝ちたいというだけなら、金属探知機も導入されているのですから、結果としてソフトの使えない三浦九段に普通に勝てたでしょう。その方が一番楽だったはずだと思いますけど。ですがそれではマズいと考えたのでしょう。
Posted by とーりすがり at 2016年10月27日 19:25
雑感です
世間は孤高の剣士とか武蔵などと盛り立てました
群馬といえば総理大臣を多く輩出する県でしたよね
地味な土地柄ですが土着色の強い県です

 なにが彼をそうさせたか

彼の心境に思いを馳せると
今回の騒動を気持ちの中で整理させる術が
見えてきました
Posted by 先生 at 2016年10月27日 20:22
> なにが彼をそうさせたか

不正に至る心理の推察。
  http://openblog.seesaa.net/article/442860312.html
Posted by 管理人 at 2016年10月27日 20:33
たびたび拝読させていただきます。
私も個人的には全く同意見です。渡辺竜王が身を挺して将棋界を守った、という件。
完ぺきに誠実な人間、というところとは違うと思いますが、将棋界にまっすぐである、という点で非常に冷静で正直な判断をしていると感じました。羽生先生が将棋の神を探しているのなら、渡辺龍王は将棋界というか将棋という勝負の神を探しているような印象。
日常的に正直に勘定を吐露し、奥様の暴言に近いブログも笑ってすます、ひつつもひたつも上の目線を持っているように思います。
どんな結末になるかはわかりませんが、普及活動にいそしみ将棋の魅力を広めていきたい方々の純粋な気持ちをそがないような結果になってほしいと思います。
Posted by やました at 2016年10月28日 07:58
自王ってなんだよ素人管理人w

自玉な??

将棋指した事あります?ww
Posted by はあ at 2016年10月29日 04:36
↑ ばれたか。私は将棋を指したことはこれまでいっぺんもないんだ。駒の動かし方も知らないんだ。間違えてごめんね。
Posted by 管理人 at 2016年10月29日 05:45
管理人さんは、これわざとか?と思えるような漢字間違いをよくします。
たいていは入力ミスだとおもいますが、「自王」はわざとでしょうね。
Posted by ishi at 2016年10月29日 08:45
> 10月5日時点では、まだ「疑い」があるだけで、「確証」はなかったのでしょう。特に、千田五段のデータはまだなかったのでしょう。その後、千田五段のデータや、他の情報も出て、「真っ黒だ」と確信したのでしょう。

>千田五段、一致率データを公開フォルダから削除 - 2ch名人
http://i2chmeijin.blog.fc2.com/blog-entry-4728.html

> で、そのあとは、「不正をした棋士なんかとは対局したくない」というふうに表明した。(これは報道されたとおり。)

>三浦九段の将棋不正疑惑に渡辺竜王が初言及…「三浦さんを処分してほしいとは言っていない」 : スポーツ報知
http://www.hochi.co.jp/topics/20161101-OHT1T50058.html
>渡辺竜王は「三浦さんを処分してほしいとは全く言っていないですし、ファンの皆さんや棋士の間にも本意とは違う形で間違って伝わってしまっています」
>「(三浦九段を処分しないなら)竜王戦は指さない(出場しない)。タイトルを剥奪されても構わない」などと発言したとされることについても、事実ではないとした。
Posted by 最新情報 at 2016年11月01日 05:01
管理人さんが、「自玉」と書かずに「自王」と書かれたことに対して、クレームを付けている将棋知らずの馬鹿野郎が二人もいるのに、驚きました。 日本で一番強いアマ六段のお方だと、拝察いたします。
Posted by 宏史 at 2016年11月11日 23:11
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