2016年10月19日

◆ 将棋連盟の逆襲!(将棋紛争)

 三浦九段へ下した処分について、渡辺竜王が根拠を示した。「三浦・渡辺戦の対局内容が真っ黒だ」という点で、トップ棋士7人の感触が一致したことだ。

 ──

 将棋連盟を代表する形になるだろうが、渡辺竜王が根拠を示した。詳細は20日(木曜日)発売の週刊文春だが、一部がネットに出ている。そのまた一部を転載しよう。
 《 将棋「スマホ不正」問題を渡辺明竜王が独占告白 》
 三浦九段による、スマホを使用した「将棋ソフトでのカンニング疑惑」の対局は4局あるとされ、そのうちの1局は10月3日に行われたA級順位戦の「三浦九段対渡辺竜王」だった。この対局を一部の棋士がネット中継をもとにリアルタイムでソフトで検証していたところ、驚くほど三浦九段の指し手がソフトと一致したという。
 それを知らされた渡辺竜王は過去の三浦九段の対局も含めて調べ、指し手の一致、離席のタイミング、感想戦での読み筋などから「間違いなく“クロ”だ」と確信したという。
 10月7日、渡辺竜王は日本将棋連盟理事の島朗九段(53)に事情を説明。それを受けて10月10日に羽生善治三冠(46)、佐藤天彦名人(28)、将棋連盟会長の谷川浩司九段(54)らトップ棋士7人が集まり“極秘会合”が開かれた。渡辺竜王から説明を受けた出席者たちからは「99.9%やってますね」という意見も出て、“シロ”を主張する棋士はいなかった。
( → スクープ速報 - 週刊文春WEB

 ──

 これは、本サイトで最初に示した項目(人気記事)と、ほぼ同趣旨だ。
  → 三浦九段の不正疑惑(将棋)
 具体的には、下記の三点だ。
  ・ 主として「三浦・渡辺戦」が根拠となった。
  ・ 対局内容(棋譜)が主たる根拠となった。(ソフトとの一致)
  ・ その点について、トップ棋士の判定が「クロ」で一致した。


 これら以外に、「離席の多さ」も疑惑を深めた。しかしそれは、新聞で報じられたとおりだ。ただしそれは、疑惑を深めただけであり、決定的な要因とはならなかった。
 決定的な要因となったのは、やはり、棋譜の内容だった。(ソフトとの一致)

 以上のことから、上記項目で示した本サイトの推理(処分の理由は、棋譜の内容であり、それがソフトと一致すること)は、「正しかった」と結論していいだろう。
 

tantei.png

 ──

 ひるがえって、コメント欄には、上記項目への批判がいっぱい来た。
 「三浦・渡辺戦の内容が、ソフトの手であって、人間の手ではない、というのはおかしいぞ」
 というような主張だ。しかしながら、判定したプロ棋士7名は、「それは三浦の手ではなくてソフトの手だ」と判定したのである。その意味で、私と同じ見解だ。
 「アマ有段者クラスの棋力があればクロだとわかるだろう」
 と私は述べたが、その通りであるかどうかはともかくして、プロならばまさしく「クロだ」と認定したのだ。この意味で、私の推測は当たっていた。

 ──

 なお、私の見解を勘違いしている人もいるので、念のために、ここでおさらいしておこう。
 私の見解は、
 「三浦九段はクロだ。(だから処分せよ)」
 ということではない。かわりに、
 「連盟が三浦九段を処分した理由は、『三浦九段はクロだ』ということだ。その理由は、棋譜だ(対局内容だ)」
 ということだ。

 ここでは、次のことは否定されている。
  ・ 休場届を出さなかったことが、主たる理由である。
  ・ 離席が多かったことが、主たる理由である。

 この程度のことでは、「竜王戦の出場資格停止」というような重大な処分にはなるはずがない。重大な処分になったのは、あくまで上記のような「クロだ」という判定によっていたのである。
 そして、その判定を下したのは、最有力の棋士7人の一致した見解だったのだ。
 氏名は、こうだ。
  渡辺・羽生・谷川・佐藤天彦、他3名。

 残る「他3名」というのが誰かは不明だが、タイトル保持者や前保持者から探すと、「丸山・郷田・糸谷」が有力である。
  → 将棋のタイトル在位者一覧 (2)
   《 加筆 》

   文春の記事によると、下記3名だという。
     佐藤康光、島理事、千田五段(専門家枠)

 これらの人々の意見が一致して「三浦はクロ」であったのだ。それが、将棋連盟が処分を下したことの理由だった。

 また、時期がこの時期であったことについては、上記の文春記事でも示されているように、「竜王戦の前だから」ということだ。この点でも、本サイトで推測したとおりだ。

 以上のことで、本サイトの最初の項目の正しさは、おおむね裏付けられたと言えるだろう。
 この項目の最後の方から引用しよう。
 というわけで、謎は解明されたことになる。
  ・ なぜこの時期に? 
  ・ なぜ証拠もなしに? 
 という謎に対しては、上記で説明されたわけだ。


ai_syougi.png

 ──

 ただし、ちょっと解説を必要とすることがある。
 本サイトでは、「これは人間の手ではない」というふうに表現した。
 一方、渡辺竜王の話では、「ソフトとの一致率が高いこと」を理由とした。
 しかしながら、「ソフトとの一致率が高いこと」というのは、実は成立しない。

 まず、三浦竜王の場合、ソフトとの一致率が高いというデータはまだないようだ。8年前に、そういう傾向があった」という情報ある。
  → 2ch名人 三浦九段と将棋ソフトとの指し手一致率
 8年前には、三浦の差し手はボナンザと一致率が高かったという。しかしボナンザはこのころは人間よりもずっと弱かった。それを真似したところで意味がないから、不正利用したことにはならない。一方で、三浦九段とボナンザとの一致率は高いという、意味のない結果が出る。

 次に、三浦・渡辺戦だが、ここでは終盤での一致率は高かった。この件は、前項でも示した通り。一致率が 85% であり、通常の 80% 程度よりも、ずっと高い。
 このことが、将棋連盟が「ソフトを不正使用したこと」の根拠とした数値なのだろう。(一致率の高さ)





 さて。以上によって、将棋連盟が「クロ」と判定したことの理由はわかった。そして、本サイトの最初の項目が推定した通りだ、と言えることもわかった。

 では、将棋連盟の判断は正しかったのか? 
 「たぶん正しい」というふうに、私は最初の項目でおおよそ示した。
 しかしながら、前項では、「たぶん正しくない」というふうに、話を一転させた。
 この新たな結論に基づけば、将棋連盟の判定は間違っていたことになる。では、これをどう受け止めるか? 

 (1) ソフトとの一致率

 将棋連盟の見た一致率は、前項の図で示したように、「終盤で 85%」という数字なのだろう。
 ところが、これは当てにならない、と私は思う。なぜか?

 そもそも、終盤では「詰みまで一本道」という感じだ。ならば、特に攻撃側では一致率が高いのは当たり前だ

meiro_irikunda.png

 ちなみに、詰め将棋で詰みまで指す場合には、「一致率が 100%」になるのが普通だ。(分岐があるので、必ずしも 100%にはならないが。) で、一致率が 100% になったからといって、詰め将棋で正解した人が「ソフトを使った」ということにはならない。三浦九段の場合、ソフトとの一致率は 85%だということだから、これは、通常の平均的な一致率 80%よりも、少し上であるというぐらいだ。終盤の詰みの直前としては、一致率は低すぎるとも言える。
 したがって、「終盤での一致率が 85% と高めである」ということは、実は、「ソフトを使っていたこと」の証拠にはならないのだ。ソフトを使っていなくても、そのくらいの数字にはなるからだ。
 結局、ここで言う「 85% 」という数字は、何の根拠にもならない。そこからは、「シロ」とも「クロ」とも言えないのだ。したがって、この数値から「クロ」と判断した連盟の認識は、間違っていると結論できる。

 (2) 妙手との一致率

 本サイト(前項)は、独自の観点で、不正を検出しようとした。
  ・ 通常の凡手は、人間でも容易に思いつくので、無視する。
  ・ 妙手は、人間では容易に思いつかないので、注目する。

 この方針で、特に次の4手に着目した。
  ▲7五歩、▲8五桂、▲5五桂、▲6三桂成
 その結果は? 
  ・ ▲7五歩、▲6三桂成 は不一致
  ・ ▲8五桂、▲5五桂 は一致


 このあとで、次のように判定した。
  ・ ▲7五歩は、指すだけなら凡手であり、妙手ではないので、無視する。
  ・ ▲8五桂は、妙手だが、人間でも高段者なら思いつく。
  ・ ▲5五桂は、妙手だが、人間でも高段者なら思いつく。
  ・ ▲6三桂成は、特別な妙手だが、ソフトにはなかった。


 特に、最後の点が決定的となった。4手のなかでも最高の妙手を生み出したのは、ソフトではなかったのだ。ここでは、ソフトを三浦九段が上回ったのである。

 こんな手を人間が思い浮かべるなんて、とうていありえないことだ、と思っていた。しかしながら、良く考えれば、三浦九段はA級棋士だ。特別に頭が冴えているならば、こういう滅茶苦茶に神がかった手を思い浮かべたとしても、不思議ではない。どんなプロ棋士にだって、「一生に一度の名手」みたいなのを打つことがある。そのときは特別に頭が冴え渡っていたのだ。三浦九段の場合には、それが本局だった、と言えるかもしれない。




 こういうことは、滅多にないことだが、それでも、まったくないとは言えないのだ。
 もちろん、滅多にないことだから、「こんなことがあるはずがない!」と渡辺竜王が思ったとしても、不思議ではない。また、他の7人がそう思ったとしても、不思議ではない。また、同じように私が思ったとしても、不思議ではない。
 しかしながら、ソフトのデータを見る限りは、「ソフトはこの手を思い浮かばなかった」というふうになる。とすれば、それを思いついたのはまさしく三浦九段であったことになる。
 どうにも信じがたいことではあるが、ソフトのデータを見る限りは、「三浦九段は不正をしていなかった」と結論するしかないのだ。
 それが私の判断だ。

( ※ この判断には、「他のソフトを使っていなければ」という条件が付く。だが、まあ、この条件は、たぶんクリアされるだろう。前項を参照。) 



 [ 付記 ]
 総評としては、今回の事件は、
 「非常に複雑で、込み入っていて、まぎらわしい事件だった」
 と言えそうだ。容疑者は、最終的にはシロになるのだが、それまでの過程では、いかにも「クロだ」という証拠ばかりが挙がっている。これらの証拠を見る限りでは、どうしても「クロ」と判定するしかなかったのだ。
 そして、関係者の誰もが「クロだ」と判定したときに、それを「シロだ」というふうにくつがえすには、名探偵の明晰な推理が必要だったのである。

 この件は、
 「将棋ソフト不正事件の謎」
 という超難解な推理小説のようなものだ。名探偵の明晰な推理なしでは、この容疑者は「クロ」と判定されても仕方がなかったのだ。
 

tantei.png



 【 追記 】
 コメント欄で指摘を受けたが、「ソフトでは、手の複数表示をすると、次善手として ▲6三桂成が指摘されていた」とのことだ。
 ううむ。そうだとすると、事情は混迷してくる。
 ソフトはその手で、「▲8五飛」や、将来の飛打まで、きちんと読んでいたのだろうか? 

( ※ 私の感想を言うと、「もしソフトを見て知っていたのなら、わざわざ ▲6三桂成という派手な手を選ばなくても、普通に ▲8五同歩 にしていたはずだ」となる。それなら、「ソフトを見た」と疑われる危険も減る。わざわざバレるような手を取ったということは、ありそうにない。)

( ※ さらに詳細を、次項の最後に加筆しました。)

posted by 管理人 at 20:32 | Comment(15) |  将棋 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
間接証拠+一流プロ数名の勘で黒と判定したんですか。。。
事を大きくしないための一手(ある意味勝負手?)を将棋連盟は放ったんですね。
将棋界にとって吉と出ることを祈るばかりです。
Posted by ほぉ at 2016年10月19日 21:59
この間、ソフトウェアのバージョンアップはあったのでしょうか?
あったのであれば、一部が変わることはあり得るような気もするのですが。
Posted by へむ at 2016年10月19日 22:22
 技巧は、もともとは Windows 版で、その Android 版が7月ごろに出たばかりです。時期的に、バージョンアップはまずなさそうです。
Posted by 管理人 at 2016年10月19日 22:28
いやいや75歩は妙手って説明してたやん。指すだけなら凡手ってのは実は妙手だけどそんな風には見えないって捉え方でいいのかな?
Posted by ぬる at 2016年10月19日 22:29
> 75歩は妙手

 短期的には、よくある凡手だが、もっとあとの 8五桂 や、 5五桂打 にまでつながるとしたら、最終的には「凡手に見える妙手だ」ということ。
 ま、他の妙手(すぐにわかる妙手)に比べると、相当、難解ですね。「結果的には妙手だった」とも言える。もしかして、見通していなかったのかも。(人間だから。機械は別だが。)

 先手が超絶的な能力を持っていた、と仮定した場合の妙手。先手が人間的であった場合には、何とも言えない。

Posted by 管理人 at 2016年10月19日 22:37
この繊細な案件に渡辺が週刊誌にコメントを出すのかな?下手するととばっちりきかねなくない?

予告見た感じだとそんな心配

発売待ちですねー、記事見ないと予告だし
ここ最近の文春砲はすごかったので楽しみ

予告以上のネタもなく、渡辺コメントも伝聞とかだと文春許さん笑
渡辺直接コメントならえらいことになりそうね竜王戦どーなっちゃうの?逆に心配笑
Posted by みす at 2016年10月19日 22:59
>短期的には、よくある凡手だが、もっとあとの 8五桂 や、 5五桂打 にまでつながるとしたら、最終的には「凡手に見える妙手だ」ということ

だったらこの手が一番妙手でしょ。普通に見える手が最後まで繋がって妙手になるならこの手を指すのが一番難しい。
Posted by ぬる at 2016年10月19日 23:20
「最後まで繋がって妙手になる」と見通していたなら、これが一番の妙手ですね。
だけど、そのときはそのつもりがなくて、単に何となく「よさそう」と思って指していただけかもしれない。
心理はわからないから、「何とも言えない」という判定になります。「わからない」という判定なんだから、いちいち文句を言わないで。「わからないのはけしからん」と言われたって、返答のしようがないでしょ。
Posted by 管理人 at 2016年10月19日 23:29
三浦-渡辺の感想戦での読み筋がソフトと一致だって。これは限りなく黒に近い灰色だよねー(ハブがそう言ったらしい)
この先どーなるかわからない感じになってきましたよ。
Posted by 通りすがり at 2016年10月19日 23:50
http://www.zassi.net/mag/Wbunshun/20161027/i/n.jpg
あんまり大きくない
でも遠隔操作の仕方を教えたなんていままでない話よね

あっちさっしてあげられなくてごめんね
それにはもう触れないね笑
Posted by みす at 2016年10月20日 00:15
個人的にはA級にとっては将棋ソフトはヒント付き継盤として使えるならそれで十分だと思うな。

数種類の手を試して先まで考察する。これが脳みそだけだと難しいけど、ソフトならしっかりと全体を俯瞰することができる。しかもリセットして試し放題。

ソフトが思いつくかどうかではなく、先の先までソフトを使用して読み切った上での、確信をもって将棋を指しているかが大事なんじゃないかな? そんなことをされたら誰も勝てないのが問題で、盤面の形成評価こそがコンピュータの一番の強みでは?
Posted by かーくん at 2016年10月20日 00:34
つまり、「この手が良いです」ではなくて、「この手はいけません」を知ることが人間側にとっては最も大切なのだと考えます。
特にプロほど。
Posted by かーくん at 2016年10月20日 00:36
▲6三桂成を超妙手と持ち上げていますが、ソフトの候補手を複数表示すると次善手としてでてきますよ。▲8五歩より評価値として100ほど低いですが、いずれにしろ+1000ほどの先手大優勢の判定です。
ソフトがこの手を読めてなかったわけでなく、▲8五歩と取るほうがより有利と読んだからそちらが最終的に選ばれただけです。
▲6三桂成を三浦九段が自力で考えだしたかどうかは定かではありませんが、次善手を選んでも大勢に影響なければわざと次善手を選んでソフトの一致率が高まるのを避ける・・・と疑った見方をすることもできなくはないですね。
Posted by ほげ at 2016年10月20日 07:40
> ソフトの候補手を複数表示すると次善手としてでてきますよ。

 情報ありがとうございました。本文の最後に、追記しておきました。
Posted by 管理人 at 2016年10月20日 07:51
> わざわざバレるような手を取ったということは、ありそうにない。

確かにそれは言えますね。棋譜コメには感想戦の三浦九段のコメントとして「▲8五歩は△6一桂▲1五歩△4四金▲1四歩△3五金で大変」とあります。▲8五歩で大優勢と示したソフトを見ていたとするとしっくりこない感じはあります。

ちなみに、この▲6三桂成は62分の長考でしたが、棋譜コメからはその間に長時間の離席があったのかどうかはわかりませんでした。もしこの間に20〜30分も離席していたとしたら、渡辺竜王に疑念を抱かせる十分な材料になっていそうですが。
Posted by ほげ at 2016年10月20日 08:43
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