2016年10月07日

◆ 日本の研究費の増額

 ノーベル賞の受賞を受けて、政府は研究費を増額するとの方針を示した。驚くべき金額だ。ケタ違いとも言える。

 ──

 大隅さんのノーベル賞の受賞のあと、大隅さんは基礎科学費の増額を訴えた。これを受けたらしく、政府はさらなるノーベル賞の受賞を目指して、研究費を増額するとの方針を示した。
 《 「挑戦的研究」に支援拡充…文科省が来年度から 》
 文部科学省は来年度から、研究者の自由な発想に基づく挑戦的な研究に対する支援を拡充することを決めた。
 今年のノーベル生理学・医学賞に決まった大隅良典・東京工業大栄誉教授(71)も活用してきた科研費の制度を一部変更し、ノーベル賞級の成果を目指す。
 挑戦的研究への助成は現在もあるが、1件あたり最長3年間で最大500万円となっている。来年度はこれを最長6年間、最大2000万円に改める。今年度の総額は、科研費全体の約2300億円のうち 120億円程度だったが、来年度は 210億円に増やす。
( → 読売新聞 2016-10-07

 数字を見た。「 120億円から 210億円に増やす」という。
 え? え? え? 見間違いかな。数字のケタを間違えたかな。

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ゴシゴシ


 あらためて、よく見たら。……本当に、「 120億円 から 210億円に増やす」と書いてある。

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唖然


 ありゃー。たったのそれっぽっちだ。
 科研費全体でさえ、2300億円でしかない。

 ちなみに、いま世間で話題になっている豊洲市場の費用は、2300億円の倍以上にあたる 5884億円である。
  → 5884億円 豊洲市場 - Google 検索
 豊洲市場では、下らないことで騒いでいるが、その下らないことにかける費用が、5884億円。それでいて、日本全体の科研費がたったの 2300億円。今回の増額分は、120億円から 210億円。
 唖然。

 ちなみに、東京五輪に至っては、当初予算の 3013億円 から3兆円まで、一挙に 10倍増となる見込みだ。
 これに比べると、今回の「研究費の増額」というのが、いかに小規模であるかわかる。で、それで何を狙うのか? 「ノーベル賞を増やすことを狙う」だって。……冗談も休み休みにしてほしい、という感じだ。

 ※ 現状の「1件あたり最長3年間で最大500万円」というのは、
   1年換算で、毎年 166万円だけでしかない! 唖然。
 ※ この補助金をもらえない場合は、年 60万円だって。げっ。
   (出典:読売新聞・朝刊 2016-10-08 )

 ──

 ちなみに、大隅さんは、強い警鐘を鳴らしている。
  → 「科研費について思うこと」大隅良典
 これを取り上げた解説記事もある。
  → ノーベル賞受賞者が科研費について述べること
  → 「役立つ」研究求める日本の風潮を危惧 ノーベル賞・大隅教授の寄稿に注目集まる
 一部抜粋しよう。
 昨今の国立大学法人等に対する運営費交付金の削減と、予算の競争的資金化によって、大学や研究所の経常的な活動のための資金が極端に乏しくなってしまった。運営費交付金はほとんど配分されないため、科研費等の競争的資金なしには研究を進めることは困難である。すなわち、補助金が補助金ではなくなり、「研究費」そのものになっている。さらに、研究科や研究所の経常的な活動の費用を捻出するためには、競争的資金の間接経費が重要な比率を持つようになった。

 競争的資金の獲得が運営に大きな影響を与えることから運営に必要な経費を得るためには、研究費を獲得している人、将来研究費を獲得しそうな人を採用しようという圧力が生まれた。その結果、はやりで研究費を獲得しやすい分野の研究者を採用する傾向が強まり、大学における研究のあるべき姿が見失われそうになっているように思える。このことは若者に対しても少なからず影響があり、今はやりの研究課題に取り組みたいという指向性が強くなり、新しい未知の課題に挑戦することが難しいという雰囲気をますます助長している。結果的に、次代の研究者はますます保守的になって新しいものを生み出せなくなってしまうのではないだろうか。

 要するに、今回の政府の方針は、てんで駄目だ。「挑戦的な研究に対する支援を拡充する」というが、そういう方針では駄目なのだ。大隅さんの研究であれ、(オプジーボの)本庶佑さんの研究であれ、初めは「何の役に立つかもわからない」というような研究から始まった。海のものとも山のものともわからないようなところから、独創的な研究は始まったのだ。それは決して、有望な分野ではなかった。
 なのに、政府は逆に、有望な分野に絞って研究資金を投入しようとする。そんなことをすれば、独創的な研究が増えるどころか、独創的な研究の目を摘むだけだ。
  → 有望な研究はやるな: Open ブログ

 本庶佑さんもまた、同様のことを言っている。
 ――初めからがんの治療をねらっていたのではないのですね。

 「その通りです。私の専門はがんではありません。むしろ素人だったことがよかったんです。免疫の力でがんを治す試みは、数多く行われてきたものの、いずれもうまくいかず、ほとんどタブーのようになっていましたが、素人はそんな『常識』にとらわれずにすみます」


 「今回は幸運にもうまくいきましたが、重要なのは、どんなに確信があったとしても、生命科学はやってみないことにはわからない、ということです。物理や工学などと大きく違うところです。生命現象にはあまりにも未知の要素が多くてよくわからない。いわばブラックボックス。とにかくやってみるしかないんです。無駄が出ることを覚悟してね。政府の科学技術政策の司令塔である総合科学技術会議の議員だったとき、基礎研究の研究費はばらまきだと批判され、むしろ、ばらまかないとだめなんだと言いました。火星にロケットを飛ばすといった実現への計画を立てられるプロジェクトとは全く違うんです」

 ――目標すらわからないと。

 「はい。ブレークスルー(飛躍的な進展)はデザインできません。つまり、ねらってできるものではないんです。とくに生命科学では、ある分野でわかったことが考えもしなかった分野とつながって重要な意味を持ってくる、ということもよくあります。どこをどうやったらいいか、だれにもわからない。『ここ掘れワンワン』というわけにはいかないんです。大切なのは、そういうチャンスをなるべく多く作ることです」
 「政府のプロジェクト施策のように、5年間で何かをやる、というのは間違っています。5年でできるとわかっていることはたいしたことない。種をいっぱいまかないと、どれが芽を出すか、わからないし、芽を出しても、枝が出るか、花が咲くか、さらには実がなるのか。基礎研究には幅広くたくさん投資することです」
( → 独創的な研究をなす方法

 政府が何をするべきかは、ここにきちんと明示されている。
 「基礎研究には幅広くたくさん投資すること」
 と。
 なのに、政府はそれとは逆の方向をめざしている。
 「小額の金を投入して、狭い分野に集中的に投入する」
 というふうに。いわば「選択と集中」である。しかし、そんなことでは駄目なのだ、ということを、ノーベル賞学者二人がきちんと指摘している。指摘しているにもかかわらず、政府は今回、指摘とは逆の方針を取ろうとしている。
 呆れる。



 【 関連項目 】

 (1)
 → 独創的な研究をなす方法

 「選択と集中では駄目だ」ということを、いちいち指摘している。
 いくら述べても、お馬鹿な役人たちには、「馬の耳に念仏」なのだろう。「少ない金を有効に使うには?」と問われて、「成功する分野にだけ投入すればいい」と思い込む。かくて、ほとんどの分野で金を切り詰めて、成功する目を摘んでしまう。
 愚か者というのは、どうしようもないものだ。

 彼らはたぶん、研究というものをやったことがないんだろうね。「研究とは 99.9%以上が失敗だ」とか、「成功のためには莫大な失敗が必要だ」とか、そういう科学的な真実を理解できない。「成功する分野にだけ金を投入すればいい」と思ったすえ、「失敗する分野には金を投入するまい」という方針を取る。
 バカというのは、度しがたいものだ。天才たちが 1000回言っても、まったく理解できない。「馬の耳に念仏」「猫に小判」みたいな状態だ。
 日本の官僚は優秀かと思ったが、いつのまにか、Fランの人ばかりになってしまったのかも。
 
 (2)
  → 直線加速器・誘致は愚行
 
 日本全体の科研費が 2300億円なのに、4000億円もかけて、直線加速器(リニアコライダー)を建設しようとしている。
 唖然。「選択と集中」も、ここまで来ると、狂気的だ。「一将功成りて万骨枯る」の見本かな。
 
 どうせやるなら、無駄金を使ってやればいいのだが。
  → リニアコライダーは復興予算でやれ

 とはいえ、これはほとんど皮肉だ。Aという無駄のかわりにBという無駄にしろ、という案。どっちも馬鹿げている。
 正しい方策は、もちろん、日本の研究費を増やすことだ。

 それにしても、東北復興に無駄金をかける一方で、日本の科学をぶっつぶすとは、日本の政治家の見識がよくわかる。


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posted by 管理人 at 22:03| Comment(9) | 科学トピック | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
管理人さんの優秀な文系の同級生(同窓生)を含め、官僚になった人が研究なんかやってるはずないと思いますが。
彼らは理系・技術系の人は(スポーツ選手に対しても)好きなことを職業にできたのだからハッピーでしょ?税金を使うだけで、還元しない様なお仕事なんだから、薄給を嘆くなんてとんでもない。立場をわきまえなさい。というのが基本なんでしょう。
ま、二番手じゃ・・・なんてほざいた議員もいるし、効率よく金を使う様に頭を使いなさい。という圧力は高いでしょうね。さらに土建屋が潤うと政治家の票につながりますが、研究機関が潤っても政治家にはメリットはありません。選挙に勝つことが大事だ。と述べている限りこの世界は消耗してなくなってしまいます。
Posted by 京都の人 at 2016年10月07日 23:44
 参考記事:
  http://www.nibb.ac.jp/pressroom/news/2016/10/07.html

 一部抜粋:
 ────

大隅君はインタビューで、基礎研究の重要性を訴え、現状を憂い、そして一億に近い賞金をあげて若手を育てるために役立てたいとコメントしています。
それに対してマスコミや首相は応用面のことにしか触れず、文科相は競争的資金の増額というような見当はずれの弁、科学技術担当相に至っては社会に役立つかどうかわからないものにまで金を出す余裕はないという始末です。なげかわしい。これでは科学・技術立国など成り立つはずがありません。
Posted by 管理人 at 2016年10月08日 10:20
科研費は競争的資金。大隅教授にしても競争的資金を増やして欲しいのではないようなので、運営交付金が増えた方が良いんでしょうね。
研究も教育もたいして機能していなさそうな下位私立大学への補助をやめて、国立大学への運営交付金の増額に回せばいいんじゃないかな。
調べてないけど、競争的資金ではない研究費が少なくなったのは、不正使用が過去にあったんじゃないのかな?
Posted by あ at 2016年10月08日 10:47
これは、大隅先生のノーベル賞受賞前から決まっていた制度改革です。記事をよく読むとわかりますが、「ノーベル賞受賞を受けて」とはどこにも書いていません。文科省が作為的に作らせた記事かもしれません。
Posted by HM at 2016年10月08日 12:15
普通に考えれば、競争的資金ではない研究費が少なくなったのは、競争的資金に限られた予算を配分するためでしょう。
Posted by かーくん at 2016年10月08日 12:17
これから日本が先進国として生き残るには種や仕掛けが必要
基礎研究は種をつくること
応用研究は仕掛けをつくること
Posted by stranger at 2016年10月08日 17:27
後進国として、生きるのだろう。後進国でも一握りの上流階級の生活は先進国並みができる
今の上級国民にとっては後進国になっても痛くもかゆくもないと思われる。研究者は他国へ行けばいいと思う
Posted by セブン at 2016年10月08日 18:43
ふるさと納税のように、特定の研究室を指定して寄付をすると、税金控除される精度はどうでしょうか。研究報告を多数に知らしめることになると思います。
Posted by senjyu at 2016年10月08日 19:57
文系役人(及び一般大衆)の頭の中は、『コスパ』しかないですよ。
科研費も原資は税金なので、『成果』を求めるんだと思います。
なので、儲かりそうな(又は、投資額に見合う)分野にしか、研究費を充てないという考えになってしまうんでしょう。


Posted by 反財務省 at 2017年02月08日 12:41
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