2016年09月28日

◆ 日産ノートのハイブリッド

 近く発売予定の、日産ノートのハイブリッドが、とても高性能だという。その理由は何か?

 ──

 まずは記事から。
 《 日産、小型車で最高燃費 1リットル40キロに迫る 》
 日産自動車は11月にも燃費性能がガソリン1リットル当たり40キロメートルに迫るハイブリッド車(HV)を発売する。発電用ガソリンエンジンを搭載し、バッテリーに自動で充電する仕組みを国内で初めて採用。小型車で国内最高の燃費性能を達成し、価格はガソリン車並みの200万円前後に抑える。HVで断トツのシェアを握るトヨタ自動車に対抗し、国内販売をてこ入れする。
 エンジンとモーターを使い分ける従来のHVとは異なり、日産の新しい仕組みは走行中に最も発電効率の良い条件でエンジンを回し続けることで燃費効率を高める。現行のガソリン車より4割向上する燃費性能はトヨタのHV「プリウス」の国内最高車種には及ばないものの、小型車としてはトヨタのHV「アクア」の37キロメートルを上回る見込みだ。
 ノートのHV仕様は車載電池を世界シェア首位のパナソニックから購入し、車両価格を抑える。
( → 日本経済新聞 2016/9/4

 ちょっと古い記事だが、同趣旨の話は、雑誌のベストカーの最新号にも出ている。(それで思い出した。)


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 これの背景を窺う記事もある。「日産はハイブリッドで出遅れて、トヨタやホンダには追いつけないので、電気自動車のリーフの技術を使って、新方式のハイブリッドを出したのだ」という趣旨。
  → 日産の秘策、新ハイブリッドシステム「e-Power」を年内にも投入!リーフで培ったEV技術を活用

 まあ、経営的にはもっともらしい話だが、肝心の点はそこにはないだろう。経営ではなく、技術が重要だ。「何をしたいか」ではなく、「何ができるか」が重要だ。
 では、技術とは?

 ──

 ここで、私見を述べよう。
 日産ノートのハイブリッドは、シリーズ方式というものだ。ここが核心だ。
( ※ 他のハイブリッドは、たいていはパラレル方式だ。トヨタはその折衷方式。なお、シリーズ方式とパラレル方式の違いは、面倒なので、ここでは説明しない。勝手に調べてほしい。)
   → ハイブリッドカー - Wikipedia

 さて。私は 10年以上前から、ハイブリッドについては「シリーズ方式(シリアル方式)」が理想的だ、と思っていた。最も単純な構造で、無駄がないからだ。
 ただし現実には、シリーズ方式は普及しなかった。なぜか? 主として、エネルギーの変換ロスが大きかったからだ。エンジンで発生したパワーを、いったん電気に変えてからモーター駆動するよりは、直接的にエンジンからギアボックスを経て車輪を動かす方が、伝達効率が高い。つまり、ロスが少ない。……この問題ゆえに、シリーズ方式は普及しなかった。

 ではなぜ、今回、ノートはその壁を破ったのか? どうやら、次のことによるらしい。
 「エンジンから直接駆動すると、エンジンの回転数がいろいろと変動するので、(特に高回転域で)燃費が悪くなる。一方、エンジンを発電専用にすると、最も熱効率の高い回転数( 2000rpm ぐらい)だけを使えるので、おいしいところだけ使う形で、熱効率を高めることができる。このことで、電気的な伝達ロスの分を補う」

 なるほど。これはもっともらしい。
 しかし、これだったら、最初からわかっているはずだ。何も今回、急に出てきた技術ではあるまい。では、どうしてか? 

 ──

 私の私見の想像を言えば、こうだ。
 「半導体技術が向上したので、電気の伝達ロスが減少した」

 つまり、半導体技術の向上が理由だ。

 こう言うと、
 「おまえ、勝手に半導体技術を向上させたことにするなよ」
 という文句が来そうだが、これは私の勝手な話ではない。下記に根拠となる情報がある。
  → トヨタ自動車、新素材SiCによる高効率パワー半導体を開発

 シリコン半導体に変わって、シリコンカーバイド半導体を使うことで、効率を 10%も向上させることができる。このことで、車体の大きい新型プリウスは、車体の小さなアクアよりも、燃費が良くなる。
( ※ アクアのハイブリッドは、旧型プリウスのものを「お下がり」で使っているだけだ。古い世代の装置なので、性能・効率は下がるが、装置のコストが大幅に下がる。大衆車にはうってつけだ。)

 新型プリウスでは、シリコンカーバイド半導体を使うことで、効率を大幅に向上させた。トヨタはこれを、「当社とデンソーの独自技術」みたいなことを言っているが、別に、トヨタに限った話ではない。世界中で開発されている。たとえば、ロームだ。
  → 次世代パワー半導体のインパクト
 他社もある。
  → パワー半導体この1年――買収や協業が相次ぐ、SiCやGaNも浸透

 ここでは、トヨタの話も紹介されているが、(日産に近い)日立の話もある。下記だ。
 日立製作所と日立オートモティブシステムズがフルSiCの車載向けインバーターを開発(図4)。2015年10月に開催された「第44回東京モーターショー2015」に出展した。日立の従来品と比べ、電力損失を60%削減し、同体積での電力容量を約2倍に拡大したのが特徴だ。

 このへんの技術が決定的になったのだろう。

 以上が、私の推測だ。(シリーズ方式のハイブリッドが実用化された理由。)

 ※ たぶん当たっていると思うが、絶対確実とまでは言いません。
   あくまで推測です。
 ※ 日産の人は、「どうしてバレたの?」と思うかもね。
   (別に、産業スパイをしたわけじゃないです。)
 ※ トヨタやホンダの人は、「それじゃ真似しよう」と思うかも。
 ※ 自動車雑誌の人は、「それいただき。記事にしよう」と思うかも。



 [ 余談 ]
 ノート・ハイブリッドの燃費は 40km/L ぐらいだ、と噂されているが、あまり信じない方がいい。
 プリウスや、プリウスハイブリッドもそうだが、この手の車のカタログ燃費は、実燃費とは大きく懸け離れている。カタログ値は、電力で走った分も、「ガソリンで走った」というふうに記録されるので、実際の燃費よりもずっと優れた数値になる。
 ノート・ハイブリッドも同様だろう。カタログ値は 40km/L ぐらいだとしても、実燃費はたぶん 23km/L ぐらいになりそうだ。(ニッサンだから、というダジャレも含めて。)
 ま、実燃費のいい車がほしければ、スズキ・アルトがいいんじゃないですかね。何しろ、実燃費よりも悪くなるように、カタログ値を偽装しているんだから。 (^^);
 
posted by 管理人 at 19:45 | Comment(6) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
日本の半導体は、衰退傾向と思っていたが、電力用では頑張っているとわかりました。。ロームにも驚いた。京都企業はしぶといな。パナソニックが、車載電池で世界シェア首位もしらなかった。ハイブリッドの、シリーズ方式も知らなかった。随分と知識が増えました。
Posted by senjyu at 2016年09月28日 22:30
過渡期がアコードだったのかもしれませんね。
小型高効率となれば次はガスタービンになるでしょう。トルク変動とか考えなくていいですから。
ハイブリッド車の燃費計算を実燃費に近づけるためにはバッテリーが完全にゼロの状態から搭載ガソリンの全量を使い切りかつバッテリーがゼロになるまでの走破道のり、つまり満タン法でやるべきでしょう。実際は1Lほどのガソリンでやるのでしょうけど(そうでないと実燃費30km/Lでタンク容量が50Lだと1500kmも走り続けなければならなない)。
Posted by 京都の人 at 2016年09月28日 23:56
> 小型高効率となれば次はガスタービンになるでしょう。

ガスタービンはあんまり効率が良くないんです。ディーゼル並みの効率にするには、温度を非常に高くしないといけない。そのためにはコストが上昇する。(耐熱セラミック。)

安価に高効率を求めるなら、ディーゼルが今のところ最強です。ガソリンも最近ではディーゼル並みの方法が出現している。(ミラーサイクルとか。)

(小型)ガスタービンよりもディーゼルの方が効率が高い……という話は、本サイトでも過去に何度か示しました。
 → http://j.mp/2dm8Hjr

効率は、小型ガスタービン 25%、ディーゼル 40%、最新の大型ガスタービン 61% です。
ガスタービンは、小さいと、熱が逃げちゃうんでしょうね。
Posted by 管理人 at 2016年09月29日 00:36
 試乗報告が出た。下記。
  http://www.jiji.com/jc/car?id=nissan-201611note02

 ──

 記事によると……
 エンジンは 1.2L直列3気筒 ミラーサイクル。
 エンジンブレーキみたいなのが強力なので、悪背るペダルを引くだけでブレーキがかかるという「ワン・ペダル」の操作ができる。( Ecoモードのと気に限るが。)
 この方式は、私が前に提案した方式と、よく似ている。
  http://openblog.seesaa.net/article/435851387.html
Posted by 管理人 at 2016年11月07日 23:11
島根大学の客員教授である久保田邦親博士らが境界潤滑の原理をついに解明。名称は炭素結晶の競合モデル/CCSCモデル「通称、ナノダイヤモンド理論」は開発合金Xの高面圧摺動特性を説明できるだけでなく、その他の境界潤滑現象にかかわる広い説明が可能な本質的理論で、更なる機械の高性能化に展望が開かれたとする識者もある。幅広い分野に応用でき今後48Vハイブリッドエンジンのコンパクト化の開発指針となってゆくことも期待されている。
Posted by 低フリクションマルテンサイト at 2017年07月09日 18:00
CCSCモデル最強です。
Posted by メタルケンイチ at 2020年01月17日 23:32
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