2016年09月26日

◆ 遺伝子ドライブでマラリア撲滅?

 遺伝子ドライブの技術で、マラリアを撲滅しよう、という話が議論を呼んでいる。

 ──

 遺伝子ドライブの技術を使えば、特定の遺伝子を速やかに種の全体に組み込むことが可能となる。(特定の遺伝子がコピーされて別の染色体に組み込まれるから。)
  → 前項

 これを利用して、「マラリア原虫を媒介しない遺伝子」を組み込んだ蚊を大幅に増やして、ほとんどすべての蚊にその遺伝子を組み込むことが可能となる。こうしてマラリア原虫を絶滅させて、マラリアという病気を撲滅することができる……という構想が話題を呼んでいる。
  → 歴史上最も多くの人間を殺している「蚊」を根絶する「遺伝子組み換え蚊」問題

 同様の記事。問題点も指摘。
  → 遺伝子ドライブ:マラリアを媒介する蚊は、根絶されるか? | SciStat

 ビル・ゲイツも賛同している。
  → ビル・ゲイツがマラリア撲滅のために…… - GIGAZINE
  → マラリア退治に「遺伝子操作の蚊」 - SankeiBiz


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 ──

 では、この問題に、どう考えるか? 
 まず、メリットは、簡単だ。マラリアという非常に有害な病気を撲滅することのメリットは、きわめて大きい。これは簡単にわかるし、とても大きなメリットだ。
 問題は、デメリットだ。デメリットは、どういうことになるのか、よくわかっていない。たいていは、予想外のことが起こる。
 
 ちなみに、「外来生物によって害虫・害獣の駆除」という構想は、これまで何度もなされたが、いずれも大失敗に終わっている。
  ・ マングースをハブを駆除するために導入した → 
   マングースは沖縄の稀少生物を食って、絶滅寸前にした。
  ・ アナウサギを狩猟生物として導入した →
   増えすぎて、オーストラリアの有袋類が絶滅した。
  ・ ヤギを(豚のような)家畜のかわりに導入した →
   草木を食べ尽くして生態系を破壊した。
  ・ インドハッカを害虫駆除のために導入した →
   大量の集団となって、都市では鳴き声や糞による被害。
  ・ オオヒキガエルを害虫駆除のために導入した →
   爆発的に増えすぎて、固有昆虫種を絶滅寸前にした。

(→ 出典:世界の侵略的外来種ワースト100 - Wikipedia

 「こんな結果になるとは思ってもいなかった」
 というような例ばかりだ。人間が神のかわりに勝手に自然を操作して、うまく行った例など、ほとんどないようだ。
 では、遺伝子ドライブでマラリアを撲滅するというのは、どうか? 「何も問題ない」と思っている人が多いようだが、ちょっと考えただけでも、いくつかの問題が生じそうだ。
  ・ 遺伝子の水平移動によって、その遺伝子が他の生物種に伝播する。
  ・ 伝播した遺伝子が突然変異を起こす。
  ・ 突然変異を起こした遺伝子が、有用な生物を絶滅させる。
  ・ 酵母菌のような有用な生物が絶滅させられる。
   (酵母菌も、マラリア原虫も、単細胞の真核生物。)
  ・ 酵母菌のような有用な生物が消えて、人類の文化が大損害。
  ・ 人間が死ぬ量が減って、人口が大爆発。
  ・ 人口の大爆発のせいで、世界のバランスが崩壊。大混乱に。


 まあ、いろいろと問題が起こりそうですよね。
 私としては、「人間による自然界の生命操作」ということには、あまり賛成できない。



 [ 付記1 ]
 では、どうするか? かわりとなる案を提案しよう。
 「マラリア原虫を減らすには、蚊そのものを減らすといい。そのためには、水たまりやドブといった、蚊の生息する環境をつぶしてしまえばいい」

 実はこれは、日本でなされたことだ。下水道の整備などによってドブを減らしたり、水の溜まるところに消毒薬を撒いたりして、蚊を撲滅させていった。日本は、夏には熱帯も同然の気温となるので、以前はやたらとかが多かったが、今では都市では蚊はほとんど見られなくなった。……同様のことが、熱帯の国でも可能だろう。
 といっても、日本でも都市部以外では、まだまだ蚊はいっぱいいるんですよね。蚊の撲滅とまでは行かない。
 当然、熱帯の国でも、蚊の撲滅は難しそうだ。上記の案は、有益ではあるが、決定的と言えるほどではない。

 [ 付記2 ]
 代案として、マラリア治療薬がある。近年では、けっこう優秀な治療薬が出てきたようだ。かなり有効であるという結果が出ている。(耐性生物が出るという問題点もあるので、完璧ではないが。)
  → マラリア/治療 - Wikipedia

 [ 付記3 ]
 実は、マラリアは、エイズみたいな恐ろしい(致死率の高い)病気ではない。「全世界ではマラリアに年間1.98億人が感染し、うち58.4万人が死亡している」とのことだ。( → マラリア - Wikipedia
 また、死ぬのは主に幼児だという。
  → 死亡し、そのほとんどがアフリカの子どもでした

 別に、「子供ならば死んでも構わない」ということはないのだが、もともと幼児は死亡率が高い。マラリアで死ななくても、あれやこれやと、他の病気で死ぬ率が高い。
 とすれば、他の病気の幼児致死率も一挙に引き下げてくれるのなら別だが、マラリアの幼児致死率だけを引き下げても、ことさら意味のあることだとは思えない。


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出典:ユニセフ基礎講座:5歳未満の子どもたちが亡くなる原因を知る



 5歳未満の子どもたちが亡くなる原因のうち、マラリアはたったの7%にすぎない。たったこれだけの問題を解決するために、多大なリスクを負う必要があるとは思えない。特に、自然改造によって、取り返しの付かない自然破壊をする可能性があるというリスクがあるからには。
 どちらかと言えば、出産前後の死亡率を引き下げる努力の方が、有効だろう。5歳未満の子供が死ぬ問題よりは、母と子供がいっぺんに死ぬ問題の方が、圧倒的に大きい。途上国では、子供が死んでも、次の子供が産まれる。しかし、途上国であれ先進国であれ、母親が死んだら、そのかわりはいない。(再婚すればいい、というような問題ではない。)

 マラリア対策は、決して、最優先となる最大の問題ではない、というのが、私の見解だ。
( ※ この意味では、私の立場は、ビル・ゲイツとは真っ向から対立する。)
 


 【 関連サイト 】

 ただし、ビル・ゲイツがやっていること(財団による世界的な保健の向上)自体は、非常に素晴らしいことであり、称賛に値する。簡単に知っている人は多いだろうが、詳しいことは知らない人が多いようなので、紹介しておこう。
  → ビル・ゲイツ インタビュー -- 朝日新聞GLOBE

 ITの分野では、ゲイツよりもジョブズの方が個人的な影響力は大きかったようだが、世界への個人的な貢献という面では、ゲイツの方がずっと立派なことをしていたと言える。
 ま、「ゲイツは引退後に貢献して、ジョブズは現役の最中に倒れた」という違いはあるので、仕方ないのだが。
 それでも、上記のサイトは、一読の価値がある。
 
posted by 管理人 at 22:31| Comment(1) | 医学・薬学 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>・ アナウサギを狩猟生物として導入した →
>   増えすぎて、オーストラリアの有袋類が絶滅した。
この話には続きがあります。

オーストラリア政府は、増え過ぎたウサギを駆除すべく、細胞毒性が強く、ウサギの致死率が高い(99%?)ミキソーマウイルスを導入しました。予測通り、ウサギの数はたった1年で激減!しました。しかし、数年後、ウサギはまた増え始めてしまいました。大失敗!

何が起こったのか。生き残ったウサギはウイルス抵抗性が増していました。一方、生き残ったウサギに感染していたウイルスの毒性は低下(致死率, 50%?)していました。ウサギのウイルス抵抗性とウイルスの毒性は、安定な平衡関係になっていたのです。
おそらく、ウイルスに弱い体質のウサギは死滅し、毒性の強いウイルスはウサギの死とともに死滅したのだと思います。

まあ、これも結局は「こんな結果になるとは思ってもいなかった」話です。
Posted by Nekogu at 2016年09月27日 15:36
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