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鳩山邦夫議員の死後の補選で、自民党が争っている。個人の次男と、対立側の候補者。
鳩山邦夫氏の死去にともなう10月の衆院福岡6区補選で、麻生太郎副総理兼財務相と古賀誠元自民党幹事長が18日、福岡県久留米市などで街頭演説し、自民県連が推す蔵内謙氏(35)への支援を訴えた。一方、蔵内氏と党本部の公認を争う邦夫氏の次男の鳩山二郎氏(37)も支持固めに動いた。
麻生氏と古賀氏は長らく党内のライバルとしてしのぎを削った間柄。
( → 麻生・古賀氏、県連申請候補支援にタッグ 福岡6区補選:朝日新聞 2016-09-18 )
麻生氏と古賀氏は長らく党内のライバルだが、どちらも鳩山邦夫の対立者だ。そこで、鳩山邦夫の選挙区では手を組んで、鳩山邦夫の次男をつぶそうとしているわけ。
麻生氏と邦夫氏は盟友関係にあったが、麻生内閣で総務相を務めた邦夫氏が日本郵政の社長人事をめぐり首相である麻生氏と対立、総務相を辞任。対応が響き、内閣支持率は急落。「麻生氏はいまだに邦夫氏を許していない」(側近)という。
( → (衆院補選まで1カ月:下)福岡6区 分裂選、避けられぬ自民:朝日新聞 2016-09-25 )
「麻生氏はいまだに邦夫氏を許していない」のは、どうしてか? 邦夫が麻生内閣で逆らったせいで、麻生内閣の支持率が急低下して、麻生内閣は崩壊したからだ。
日本郵政の西川善文社長の進退に関しては「辞任するべきだ」が75.5%で、「社長を続けるべきだ」の17.2%を大幅に上回った。
西川氏の再任に反対した鳩山邦夫前総務相を事実上更迭した麻生首相の対応を「評価する」は17.5%にとどまり、「評価しない」は74.8%だった。
「どちらが首相にふさわしいか」への回答では、民主党の鳩山由紀夫代表が50.4%と、麻生首相の21.5%を大きく引き離した。望ましい政権の枠組みでも「民主中心」35.9%、「政界再編による新しい枠組み」28.0%、「自民中心」14.9%、「自民、民主の大連立」14.7%の順。
( → 麻生内閣の支持率が急低下 日経調査25% (日経記事の転載) )
邦夫をクビにしたことで、国民の大批判を浴びて、麻生内閣は支持率を急低下させた。このあとで政権を失い、民主党政権ができた。
そこで麻生は今でも「邦夫のせいで政権が崩壊した」と思っているようだ。
しかしこれは逆恨みというものだろう。邦夫がクビになったことは、それ自体は、どっちに対しても有利とは言えない。ただし、邦夫の主張が支持されて、麻生の主張は支持されなかった。そこには、国民による支持・不支持という違いがある。
つまり、麻生は「邦夫更迭」によって国民の信を失ったのだ。それは麻生の政策自身に責任がある。邦夫を恨むのは逆恨みというものだろう。
当時の雰囲気を伝える記事がある。
オリックスというリース会社は、この小泉構造改革を協力にサポートし、宮内社長は小泉の諮問機関のまとめ役でした。
そのオリックス社に対し、日本郵政の西川社長(元三井住友銀行頭取)が、「かんぽの宿」という宿泊施設を破格の安値で売却しようとした。つまりは、日本国民の資産を、米国やその手先のような民間企業が、食い尽くそうとしている。それに「待った」をかけたのが、郵政を管轄する鳩山邦夫総務大臣です。
「かんぽの宿」売却問題の責任を負い、西川社長が6月の任期満了で退任していれば問題なかった。ところが、西川は側近で固めた「指名委員会」で自らの続投を決定したため、鳩山総務大臣と対立。
理屈の上では、麻生首相は鳩山と同じ反構造改革派。ところが、麻生は鳩山を官邸に呼び、「西川続投を受け入れろ」と説得。
鳩山邦夫総務相は12日午前の記者会見で、日本郵政の西川善文社長の進退問題について「私の主張が受け入れられず、麻生太郎首相が西川氏続投を決めたら、罷免や辞任は十二分にあり得る」と述べ、首相が辞任を求めれば応じる考えを明らかにした。「首相に罷免されることが分かっていても主張は変えないか」との質問には、「そうだ。そんなことで自分の信念を曲げたら男ではない。首相は(鳩山氏の主張を)分かってくださると信じている」と述べた。
また、「かんぽの宿」譲渡問題に関し「国民共有の財産が棄損されることを絶対許してはならない」と述べ、西川氏の続投反対を重ねて主張した。
そして、鳩山辞任。麻生は、自分が首相になったときの党内最大の功労者を切り捨て、一民間企業の社長のクビを守りました。
( → 麻生太郎、郵政問題で鳩山邦夫を切る )
ではどうしてこうなったか? 話は簡単である。「かんぽの宿」では、1000億円にもなる国民財産を、タダ同然でオリックスに売却しようとした。オリックスはそのためにあれこれと画策して、オリックス以外が応募できないように状況を設定して、いつのまにか「オリックス1社だけが単独応募」という形にした。(民営化ならば競争入札にするところだが、実質的には随意契約みたいに官製払い下げにしようというのだから、「民営化」という名分が呆れるよね。ま、政権の側を見れば「汚職」です。オリックスの袖の下をもらったわけ。)

出典:かんぽの宿(箱根)
この汚職を正当化するために、「(少なくとも形の上では)民営化だから、民営化の推進だ。これに反対する鳩山は、民営化に逆行する」というインチキ・キャンペーンがなされた。(政敵をつぶすプーチンみたいな方法。)このキャンペーンの片棒を担いだのが、日経(社説)だ。一方、他の新聞社(社説)は、邦夫支持だった。意外なことに、読売も。
→ 木走日記
なお、上記のリンク先(ブログ)もそうだが、この当時、多くの経済系の識者は、麻生支持だったようだ。世間は、「国民財産を捨て値で売却するな」と大見得を切った邦夫を支持したが、経済系の識者は、「民営化こそ重要だ」と思って、邦夫を批判した。特に、市場原理主義である右派の論客はそうだった。ちなみに、池田信夫もそうだ。
→ 池田信夫 blog : 鳩山邦夫氏の暴走
→ 池田信夫 blog : 暴走を続ける鳩山邦夫氏
で、「池田信夫は常に間違っている。彼の主張の反対が正しい」
という経験則に従えばいいわけだが、今回もその経験則は正しい。
つまり、この件では、邦夫が正しくて、麻生が間違っていた。国民が正しくて、首相が間違っていた。
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では、池田信夫が間違えただけでなく、経済系の識者の多くが間違えたのは、どうしてか? その話は、私が前に詳しく説明した。そちらを参照。
→ かんぽの宿の真相 (2015年01月29日)
2009年の事件から5年あまりたった時点で、宮内会長のインタビュー記事によって、事実が判明する。あの払い下げは、やはり、とんでもない暴利をもたらすものだった。つまり、国民財産を盗むことに等しい。そのことを、会長自身が(実質的に)告白している。語るに落ちた、とはこのことか。
詳しくは、上記記事を読んでもらえばいい。そのことが、本項の趣旨だ。(そっちを読め、という話。)
なお、そこを読めば、経済系の識者の多くが間違えた理由もわかる。彼らは、なまじ経済系の知識があるがゆえに、経済学系の理屈を並べられると、それを信じてしまうのだ。
そして、その背後にある本当の魂胆(国民財産を盗み取ること)には気づかないのだ。

本項の核心を言えば、
「詐欺師にだまされるな」
ということだ。
小利口な学者・識者は、表面にあるうまい弁舌だけを信じて、隠された内心については気づかない。……無知ゆえに。
これは、学者の欠点とも言える。実務や現場に疎いので、物事の奥を詳しく知る知識・情報がないのだ。かんぽの宿の売却というと、その経済効果ばかりを考えて、その資産が市場の相場でどのくらいの価値があるかということには考えが及ばないのだ。また、入札のライバルを排除するために、汚い手練手管で政治家を根回ししていることにも気づかないのだ。
こうして、理屈ばかりに強くて、実務には弱い学者・識者が、詐欺師の手練手管と弁舌にコロリとだまされる。
それが、「かんぽの宿」騒動の教訓だ。
【 関連項目 】
→ かんぽの宿の真相 (2015年01月29日)
※ すぐ上でリンクしたページ。1000億円を国家から盗む詐欺師の話。
これに気づかないでだまされた人が、けっこう多い。
(鳩山邦夫は、ちゃんと見抜いた。)