2016年09月01日

◆ 縄文人のルーツ(本土・沖縄)

 縄文人の遺伝子が初めて解明された。結果は、昔の説には反するが、最新の説には合致する。

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 縄文人の遺伝子が初めて解明された。以前もミトコンドリア DNA の遺伝子については解明されていたが、このたび核 DNA について解明された。そのおかげで、遺伝子のハプロタイプ(ある種の一塩基多型)を知ることができるようになり、日本人のルーツをいっそうよく探ることができるようになった。
 調査の対象は、縄文人(三貫地の縄文人:約三千年前)だ。その解析の結果、次のことがわかった。
 縄文人は……
  ・ アイヌ人に近く、次いで沖縄人、ヤマト人(本土人)。
  ・ 大陸の東アジア人からは隔絶している。
  ・ 東アジア人よりは、古代のアフリカ人の系統に近い。
   (そこから古代に分岐した。)


 詳細は、下記のリンク。
  → 縄文人の核DNA初解読 東アジア人と大きく特徴異なる
  → 「本土日本人」に含まれる縄文人の遺伝情報 約12% | NHK
  → 総研大、縄文人の奥歯からDNAを抽出して核ゲノムの配列を決定
  → 【プレスリリース】『縄文人の核ゲノム配列をはじめて決定 《 リンク切れ 》
  → 【プレスリリース】『縄文人の核ゲノム配列をはじめて決定

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 上の話を読んだだけでは、全体の見通しが付きにくいだろう。全体の見通しを知るには、以前からある最新の説を知ればいい。それは、本サイトの別項にある。
  → 縄文人と弥生人 2
  → 人類の進化(総集編) 2
  → 人類の移動 (まとめ)

 1番目の項目には、次の図があるので、再掲しよう。


jomon2.gif



 上記に示した説と、今回の研究結果は、整合的である。要するに、次のように理解すればいい。

 《 認識 》

 人類のルーツは、アフリカにある。
 アフリカから出た人類は、南方ルートと北方ルートを経て、東アジアに達した。いずれもモンゴロイドだ。
 南方ルートを通ったモンゴロイドは、南インドや東南アジアを経て、オーストラリアに達した。(オーストラロイド。)……このルートは、比較的単純だ。時期的には、かなり古い。

 北方ルートを通った古モンゴロイドは、かなり複雑である。長い過程で、何度も分岐した。
 第1に、北方ルートを通った古モンゴロイドの一部は、かなり古い時期にベーリング海峡を渡って、北米・南米に達した。これらが、北米・南米の先住民となった。
 第2に、北方ルートを通った古モンゴロイドの一部は、樺太経由で、アイヌとなった。さらに、本土にも達したようだ。これは縄文人となった。
 第3に、北方ルートを通った古モンゴロイドの一部は、朝鮮半島経由で、日本本土にも達したようだ。これも縄文人となった。
 第4に、北方ルートを通った古モンゴロイドの一部は、かなり古い時期に、台湾経由で、沖縄に達した。これが沖縄の縄文人となった。当然ながら、遺伝子的には、アイヌと似ている。(同じではないが、かなり似ている。)
 沖縄の縄文人は、そこからさらに北上することはなかった。あくまで沖縄の縄文人に留まった。そのせいで、アイヌと沖縄人の遺伝子や言語が似ているのに、本土人は似ていない、という状況が生じた。結局、アイヌと沖縄縄文人は、かなり古いタイプの縄文人だと言える。本土の縄文人は、もっと新しいタイプだ。
 第5に、北方ルートを通った古モンゴロイドの一部は、かなり古い時期に、新モンゴロイドとなった。その一部は、中国南部に達してから、朝鮮半島経由と琉球半島経由の双方を経て、日本の本土に達した。特に、琉球半島経由の方は、沖縄に留まることはなく、沖縄の先の本土にまで達した。こうして、新モンゴロイドの遺伝子が本土に大量に流入した。さらに、新モンゴロイドは原住民である縄文人を駆逐していって、人口比では多数派を形成するようになった。かくて、現代の本土人では、新モンゴロイドの遺伝子が 88%で、古モンゴロイドの遺伝子が 12%という結果になった。
 《 「本土日本人」に含まれる縄文人の遺伝情報 約12% 》
 現代の「本土日本人」に含まれている縄文人からの遺伝情報は、およそ 12%だとする研究結果を、国立遺伝学研究所などの研究グループがまとめました。
( → NHKニュース

 ともあれ、上に示したように理解することで、状況はきちんと説明される。
( ※ 従来の説だけでは不足だし、今回の研究だけでも不足だが、その双方をあわせて考えると、上でいろいろと示したように、新たに統一的な説を出すことができる。上に示した説は、本項で初めて示した説だ。)

 ──

 ついでだが、昔かあるような、次の説は間違いだ。
 「北方系は新モンゴロイドで、南方系は古モンゴロイドだ。後者が縄文人となり、前者が弥生人となった」
 こんな単純な説は成立しない。
 特に、ミクロネシアやポリネシアなどのモンゴロイドは、確かに古いモンゴロイドではあるが、紀元前 3000年ごろに台湾から舟で飛び出したモンゴロイドだとわかっている。これはたぶん、南方系のモンゴロイドだ。したがって、アイヌ人や沖縄縄文人のような北方系の古モンゴロイドとは異なる。まったく別の系統だ。(日本人とは関係がない。)
 上の説でも、弥生人を新モンゴロイドだと見なす点は、妥当である。ただしそのルーツは、中国南部であったようだ。また、日本に来た経路は、朝鮮半島に限らず、琉球諸島をたどる経路もあったようだ。



 【 追記 】
 今回の報告では、次の話がある。
 三貫地縄文人が現代人の進化的多様性の中でどこに位置するのかを推定するために、系統樹を作成しました(図3)。ここでは、東ユーラシアの現代人5集団、西ユーラシアの現代人5集団、パプアニューギニア人、南米先住民、アフリカの現代人2集団のほかに、シベリアの古代人2個体とデニソワ人も加えました。その結果、東ユーラシアの現代人5集団がひとつのグループにまとまり、それらの共通祖先集団と南米の先住民がまとまったあとに、三貫地縄文人、パプアニューギニア人、シベリアの古代人1がこの順でグループに加わっていました。これらの関係は、いずれも統計的に高い信頼性(ブーツストラップ確率*)が与えられており、三貫地縄文人の祖先集団が、新大陸に人類が渡っていったとされる15000年ほど前よりも以前に分岐した、きわめて古い系統であることを物語っています。また、縄文人の系統からヤマト人(JPT)への混血があったことも推定されました。
( → 【プレスリリース】『縄文人の核ゲノム配列をはじめて決定 』


jomonjin.png

 これから、次のことが結論される。
 (1) 「東ユーラシアの現代人5集団がひとつのグループにまとまり、それらの共通祖先集団と南米の先住民がまとまった」ということから、これらの集団はいずれも北方系のモンゴロイドだと言える。古モンゴロイドも新モンゴロイドも、同一のグループに収まる。新モンゴロイドは、古モンゴロイドから古く分岐したものではなく、比較的新しく分岐したものだ。大きな差はない。(古い説とは異なる。)
 (2) 「……あとに、三貫地縄文人、パプアニューギニア人、シベリアの古代人1がこの順でグループに加わっていました」ということ、および、「三貫地縄文人の祖先集団が、新大陸に人類が渡っていったとされる15000年ほど前よりも以前に分岐した、きわめて古い系統であること」、および、冒頭の「縄文人は、現代人の祖先がアフリカから東ユーラシア(東アジアと東南アジア)に移り住んだ頃、もっとも早く分岐した古い系統であること」から、縄文人は北方系のモンゴロイドのうちの最も古い集団だとわかる。これはつまり、現代の東アジアの集団は、縄文人とは違って、比較的新しく分岐した集団だということだ。たぶん、新モンゴロイドの遺伝子がたくさん混じっているのだろう。
 なお、南米先住民(図の Karitiana)は、北方系の古モンゴロイドの仲間であって、集団のなかでは特に古くはない。15000年前にベーリング海を渡ったのだから、当然だ。一方、沖縄の縄文人は、(後述のように)3万年前に沖縄に達したので、かなり古い。アイヌも沖縄の縄文人と同類だ。この両者に類する(本土の)縄文人は、北方系の古モンゴロイドのなかでも最古の部類だ、と系統樹からわかる。
 (3)「現代の本土日本人に伝えられた縄文人ゲノムの割合は15%程度であることが明らかになりました」(冒頭の一文)ということから、現代の本土日本人の遺伝子の大部分は新モンゴロイドの遺伝子だということになる。
 (4) 「シベリアの古代人2個体とデニソワ人も加えました」ということだが、シベリアの古代人2個体とは、図の最上部の「 Ust'-Isim 」のことだろう。(ishim はロシアの地名。)これについては無視していいようだ。
 一方、図の YRI と LWK はたぶん「アフリカの現代人2集団」のことだろう。学界用語では、「YRI はヨルバ/アフリカ人 」「LWKは、ケニアのルイヤ族」のことである。( → 理化学研究所 ) これらは、他のグループから大きく懸け離れている。一方、白人の多い西ユーラシア大陸の集団と、他のモンゴロイドとは、あまり大きく懸け離れていない。
 (5) デニソワ人は、もっとずっと古いところで分岐している。ネアンデルタール人との関係は、この図では何もわからない。(ネアンデルタール人については記載されていないからだ。)
 ネアンデルタール人との関係については、今回の研究では何も言及されない。これについては、別の研究が参考となる。下記項目で示される。
  → デニソワ人の分岐は?
 この項目に、下記の図がある。

デニソワ人の分岐

 これを見れば、デニソワ人とネアンデルタール人と現代人(ホモ・サピエンス)との関係がわかるだろう。

 


 【 補説 】

 参考として、「3万年前の航海再現プロジェクト」というものを紹介する。
  → 3万年前の航海 徹底再現プロジェクト (公式)
  → 3万年前の航海「謎深まった」 草舟、どうにかゴール:朝日新聞
  → 3万年前の航海さらに挑戦を | NHKニュース
  → 草舟断念、謎深き人類の旅 3万年前の航海:朝日新聞


※ つまらないので、見なくていい。




※ こちらは、終了後。





 どうせ失敗するだろう、と思っていたら、案の定だ。
  ・ 草舟なんかは、つくりが粗雑すぎる。
  ・ 黒潮に逆らって横断するなんて、無理。

 と思っていたら、実際にそうなった。

  ・ 草舟は水を吸って、動きが鈍くなった。
  ・ 黒潮が早すぎて、北方に流されてしまった。

 私の予想したとおりの、大失敗。

 では、どうすればいいか? 私の想像では、古代人は、次のようにして台湾から渡来した。
  ・ 草舟ではなく、イカダを使った。
  ・ 手こぎではなく、帆を使った。(帆船)
  ・ 北西の風の吹く冬季に渡来した。


 特に、最後の点が重要だ。北西の風が吹くときならば、方を張った舟は南東に進む。一方、黒潮は北方に進む。両者が合わさって、舟は東に進む。こうして、舟は台湾から東の島に到達できるのだ。
  → 台湾からの草舟のルート(失敗):朝日新聞





 なお、「イカダはともかく、帆を張るのは大変だ」と思う人もいるかもしれないが、そんなことはない。下記を参照。帆船のイカダを作る方法が書いてある。
  → サバイバルヤルオ 最終回 その4
  → サバイバルヤルオ 最終回 その7
  → サバイバルヤルオ 最終回 その9
 上記で「帆」や「マスト」という語を検索すると、帆を張ったイカダというものがどういうものかわかる。

 なお、3万年ぐらい前の古代人というと、愚かな原始人だと思うかもしれないが、遺伝子的には、現代人と何ら変わらないのである。文字による学習はできなかったので、教育の効果はなかったが、脳味噌そのものは現代人と同様だったのだ。イカダや帆を作ることぐらいは、十分に可能だっただろう。(ネアンデルタール人とは違うのだ。)

 ──

 ついでの話。
 「南米から南太平洋の島に達した古代人」という説を、実証するために、イカダを使った実験もある。
  → コンティキ号 - Wikipedia

 ──

 ちょっと注釈しておくと、前にも述べたように、台湾から沖縄に来た縄文人は、沖縄で留まっている。その先の琉球諸島には達していない。
 このことは、遺伝子的にも言語的にも明らかだが、もう一つ、遺跡からも判明している。沖縄縄文人の遺跡はたくさんあるが、沖縄に留まっており、そこより北では発見されていないのだ。このことは考古学的な事実となっている。

 その一方で、弥生人の痕跡は、あちこちにあるようだ。

 なお、台湾から沖縄に縄文人が到達したのは、3万年前という古い時期だ。そのことは、遺跡などから判明している。
 そこで、その時期に本当に到達できたのかな……という疑問で、上記の航海がテストされたわけだ。
 とはいえ、それは、3万年前の古代人を馬鹿にしているからだ。3万年前の古代人を馬鹿にしなければ、「別に不思議ではない」と気づくはずだ。



 【 関連サイト 】

  → (科学の扉)日本人、いつどこから 定説の3ルート、海越えた謎も:朝日新聞

 上記の3万年前の話。
 
posted by 管理人 at 23:58 | Comment(3) | 生物・進化 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 【 追記 】 を真ん中へんに加筆しました。かなり長い話です。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2016年09月02日 07:45
 後半の (4)(5)[デニソワ人などの記述]は、昼間にちょっと書き直しました。YRI と LWK などの説明を加えました。
Posted by 管理人 at 2016年09月02日 23:16
この縄文人DNA論文の結論には2つ大きな問題があるようです。なぜ生物統計の専門家は指摘しないのでしょうか。

1.読まれたDNAは、1ヶ所につき1本だけ(1倍)、つまり信頼度が極端に低く危うい。通常のゲノムDNAデータをしっかり読むときには100倍も当たり前であるのと比較すればもっと慎重にデータを解釈すべきでは?

2.結論の根拠のひとつ主成分分析では、結論を導いた主成分の寄与率が1%にも満たない。つまり、残りの99%以上は、結論とは違う結果を示しているかもしれないのに、そのことを隠している。

結論自体は昔からある説に数字を与えただけなので驚かないが、その肝心の数字の根拠には非常に危うさがあり、果たしてNHK報道の大きさに値する研究成果だったのだろうか?
Posted by みむ at 2016年12月06日 19:30
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