自動車の動力について、画期的な技術が二つ開発された。そのいずれも、燃料電池車のライバルだ。
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燃料電池車は、水素をエネルギー源とするので、将来的に有望だ、と言われている。
ところが、その基盤を崩壊させるような新技術が開発された。二つあり、いずれも、燃料電池車のライバルとなる分野だ。
(1) リチウムイオン電池
リチウムイオン電池で、画期的な技術が開発された。生産状の安全性を高めるものだが、これによって大幅なコストダウンがなされると見込まれる。
→ 東大、爆発しない“水”によるリチウムイオン電池を実現可能に
→ 東大、リチウムイオン電池の電解液として機能する「常温溶融水和物」を発見
→ 東京大学工学部 プレスリリース
大幅なコストダウンが起これば、電気自動車のコストは大幅に低下する。そうなれば、次世代の自動車として、電気自動車は大いに有望となる。燃料電池車は、置いてきぼりにされてしまいそうだ。
(2) 内燃機関
内燃機関で、画期的な技術が開発された。熱効率を2倍程度に高めるもの。(オットーサイクルの理論的な熱効率に近づく。)
→ 燃費を倍に 新しい仕組みのエンジン 燃焼実験に成功
→ 早稲田大学 公式
→ エンジンの熱効率を従来の倍に向上させる新理論 | スラド
この技術は、そのままでは、現在のエンジンに代替することはできないだろう。なぜなら、効率が高い状態は、負荷が低いときに定常回転しているという状態に限られるからだ。逆に、負荷が高いときに加速すれば、たちまち熱効率は低下する。これでは、この技術を使っても、意味がない。
しかしながら、その問題は解決可能だ。ハイブリッド車という形で、エンジンを定常回転させて、加速は電池によるモーター駆動に任せればいいからだ。
特に、日産の新型ノートで採用されると噂される「シリーズ方式のハイブリッド」では、それが有効であるようだ。(詳細解説は略す。)
→ 日産 新型ノート シリーズ方式 ハイブリッド - Google 検索
というわけで、「内燃機関で効率が2倍に」ということが、まさしく実現しかけている。
そして、そうなった場合には、燃料電池車は圧倒的に不利になる。なぜなら、燃料電池車の効率は、現在の内燃機関(ハイブリッド車)と同程度であるからだ。
→ 燃料電池車を推進するな (2011年)
→ 燃料電池車は普及するか? (2014年)
※ 図の「ハイブリッド」は、旧型プリウスらしい。
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そもそも、燃料電池車には、次の問題がある。
・ 水素生産で多大な炭酸ガスを排出する。( → 別項 )
・ 水素の圧縮で莫大なエネルギーロスが発生する。
もともとこういう問題があって、なかなか解決されずにいた。
そこへもって、ライバルである内燃機関は、熱効率を倍にして、圧倒的な熱効率を誇ろうとしている。(水素生産者は、二倍の炭酸ガスを排出することになる。)
また、電気自動車は、リチウムイオン電池で圧倒的なコスト低下をもたらそうとしている。
ライバルがいずれも大革新を遂げようとしているのに、燃料電池車は置いてきぼりだ。こうなると、もはや、燃料電池車の将来は暗いというしかない。
[ 付記1 ]
「燃料電池車だって、技術の大革新があるかもしれないぞ」
という声が出そうだ。しかし、さにあらず。
燃料電池車の問題は、燃料電池の問題ではない。トヨタやホンダは、燃料電池を次々と開発しているが、燃料電池をいくら開発しても、燃料電池車の問題は解決しないのだ。なぜなら、その問題は、燃料電池とは別のところにあるからだ。
・ 水素生産の効率が低い
・ 水素の圧縮でエネルギーロスを発生する
これらの問題は、燃料電池の問題ではなく、水素の問題なのだ。だから、トヨタやホンダがいくら燃料電池を開発しても、そんなことは影響しないのだ。
燃料電池車は、すでに、燃料電池だけなら、100%近い効率に達しており、これ以上の効率アップは見込めない。となると、水素の分野の効率に、足を引っ張られて、どうにもならない。(内燃機関に比べて熱効率は半分となる。)
コストについてなら、何とかコストダウンはできそうだが、それでもリチウムイオン電池には勝てそうにない。
[ 付記2 ]
ただし、燃料電池車にも、ひょっとしたら、生きる目があるかもしれない。次の項目のグラフをよく見よう。
→ 燃料電池車は普及するか?
このグラフで、ガソリン車の数値と、燃料電池車の数値を、単純に比べると、燃料電池車の方が半分になっている。
とすると、ガソリン車が効率を2倍にしても、燃料電池車は負けていないことになる。(炭酸ガス排出量で。)
ここで、「ガソリン車」というものの数値が、どのようなモデルを採用したか、よくわからないので、はっきりとしたことは言えない。そこで、この曖昧な部分を突くことで、「燃料電池車は内燃機関に負けない」ということが成立するかもしれない。
とはいっても、(効率の面で)勝てるわけじゃないし、コスト面では圧倒的に不利だ。となると、総合的には、見通しは暗いと言うしかないようだ。
( ※ グラフでは、ガソリン車の数値が良くないが、あまり意味がない。ガソリン車には、エネルギー回生装置を付けることが可能で、そうすると、ハイブリッドの効率にまで高まる。だから、ハイブリッドの効率だけを見ればいい。どうせ将来的にはみんなハイブリッドになる。一方、燃料電池車や電気自動車は、もともとエネルギー回生装置が備わっている。)
2016年08月30日
過去ログ
下記の記事があります
まだ水素車の可能性有りでは?
日本は水素関連の補助金を出しております
さて未来は
http://president.jp/articles/-/23114