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事件は昨年にあった。それについての調査報告書が、このたび出た。
報告書は、国交省のサイトにある。文書は PDF が二つ。
→ 国交省・運輸安全委員会・報告書
内容は専門的で、わかりにくいが、初心者向けの解説ページがある。
→ ピーチの事故、那覇でうっかり墜落寸前まで行ってしまったホントのところ
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事件の概要は、こうだ。(私の要約)
「視界不良のなかで、着陸しようとしたが、予定よりもずっと手前の地点で、いつのまにか降下用のボタンを押してしまったせいで、飛行機がどんどん降下して、水面に衝突しそうになった。その後、警報装置が鳴って、衝突の危険が警報された。その知らせを受けて、あわてて上昇したので、衝突事故は避けられた。とはいえ、水面に衝突する寸前にまで行った。対応があと数秒遅れていれば、飛行機は水面に衝突して、海の藻屑になっていたところだった」
以下は、公式文書の図。

出典:説明資料(PDF)
原因はヒューマン・エラーだ、とわかる。
・ 飛行機側の問題(機長のミス・副操縦士の注意不足)
・ 管制官の注意不足
上の初心者向けの解説ページでは、飛行機側の問題ばかりが列挙されていて、管制官の側の問題はあまり重視されていない。だが、報告書(公表)の「5 再発防止策」(74頁以降)を読むと、管制官の側にも対処するべきことがいろいろとあったとわかる。管制官の側が十分に対処していれば、問題は起こらなかった可能性が高いのだ。
ともあれ、以上の話を読むと、ヒューマンエラーが原因であった、とわかる。それが報告書の内容だ。
そして、対策は、「ヒューマンエラーが起こらないように、着陸時の過程を注意深くする」ということになる。
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では、それで話は片付くか? 「片付かない」というのが、私の立場だ。
私の立場は一般に、こうだ。
「ヒューマンエラーが起こるときには、ヒューマンエラーが起こる構造的な問題がある。だから、人の側が注意すればいいのではなくて、ヒューマンエラーが起こる構造的な問題を解決する必要がある」
要するに、根源対策だ。
では、今回の事例では、構造的な問題はどういうものであったか? 以下で列挙しよう。
(1) PARアプローチ
PARアプローチとは何か? 次の解説がある。
着陸誘導管制(GCA)は、航空交通管制において、主に夜間や視程不良などの悪天候時において、滑走路直前まで精密進入レーダー(Precision Approach Radar PAR)、空港監視レーダー(Airport Surveillance Rader ASR)を用い、誘導管制官が航空機を音声により誘導するものである。
GCAは管制官が音声により航空機を滑走路まで誘導する管制席である。管制官はPAR(精測レーダー)を用いて、航空機に対して、一方的かつ連続的に機首方位などを指示し、航空機を誘導限界点まで誘導する。おもにILSを備えていない航空機、戦闘機などに対して行われる。
日本ではほとんどの民間航空用の空港では、計器着陸装置 (ILS) が使われ、GCAはほとんど行われなくなっている。那覇空港では国土交通省の航空管制官が行っている。
( → 着陸誘導管制 - Wikipedia )
パイロットが目視で着陸するのが普通だが、悪天候時には視界が不良なので、管制官が音声で誘導するわけだ。
ただし悪天候時にも、普通は計器で誘導する ILS を使う。日本では那覇空港だけが例外的に ILS のかわりに GCA(PARアプローチ)を使う。
ではなぜ、那覇空港では ILS を使わないのか? 下記に説明がある。
Q 那覇空港のILSはなぜ滑走路からずれているのでしょうか。
A 滑走路の北側にローカライザー用地が確保出来なかったからです。
一見浅瀬が広がっているように見える那覇空港周辺ですが、滑走路の北側は急激に深くなっています。ここにローカライザー用地を造成するには相当大がかりな埋立が必要であり、費用対効果の面からオフセット配置となったものです。
( → 知恵袋 )
那覇空港にも ILS の装置はある。ただしそれは、ズレたところにある。だから那覇空港に限っては、悪天候時には ILS を使えないので、やむなく GCA(PARアプローチ)を使う。
ここで、地図を見よう。
那覇空港の北側は海ばかりだとわかる。飛行機は、那覇空港の北側から接近して、着陸しようとした。(風は南風だったので、北側から接近した。)
このとき、北側の位置で、予想より早めに降下したので、北側の水面にぶつかりそうになった。そうならないためには、北側に ILS の装置があればいいのだが、ここは海なので、ILS の装置を置くことができない。だから、悪天候時には、ILS なしで着陸するしかない。
( ※ 悪天工事以外では、オフセットされた位置にある ILS の装置を使って、ILS で計器着陸できる。……どうしてかというと、たぶん、途中で進路を少し曲げるのだろう。視界が優良であれば、進路を途中で曲げることは可能だ。視界が不良ならば、無理だ。)
ともあれ、ILS の装置を置くことができなかった、という構造的な問題があったことになる。
(2) 欠陥空港と代替空港
上記の意味で、那覇空港は、日本でも珍しい欠陥空港であることになる。まともに ILS 着陸ができないなんて、ひどすぎる。
では、どうすればいいか? 通常なら、別の場所に空港を作ればいい。ところが沖縄は狭い土地に多大な人口が密集している。もともと場所が狭いところへ、基地ができたら、誘蛾灯に誘われるかのように、多くの人々が基地のそばに押し寄せて、何と百万人以上もの人々が密集した。かくて、沖縄は土地がなくなった。空港を作りたくでも、そのための場所がない。これは日本でも沖縄に特有の事情だ。
では、なすすべはないのか? いや、ある。現在の普天間基地を移設すればいい。そうすれば、普天間空港を民間空港として利用できる。仮に騒音の問題があるとしたら、普段は那覇空港を使って、悪天候時だけ普天間空港を使えばいい。これなら、特に問題ないはずだ。しかも、普天間空港ならば、ILS はちゃんと使える。
普天間基地は、将来的には移設の予定なので、普天間空港は日本に返還される。そのときには、状況は改善されているだろう。
(3) 訓練不足
普天間基地の移設には、時間がかかりすぎる。それまでの間、当面、何とか手を打てないのか? 報告書には、いろいろと対策が書いてあるが、他にもっとうまい方法はないのか?
私としては、とりあえず、次のことを提案したい。
「 PARアプローチについて、普段から訓練をする」
なぜかというと、今回はもともと訓練不足であったのが理由だからだ。
詳しく言おう。今回の機長は、PARアプローチを使うのが5年ぶりであり、不慣れだった。つまり、訓練不足だった。そこで、こういう問題を回避するために、悪天候時以外でも、ときどき PARアプローチを使う訓練(練習)をするといい。そして、良天候時における PARアプローチの経験がろくにない機長に対しては、悪天候時における PARアプローチの利用を禁じる。(つまり、着陸拒否して、別の空港に送り出す。)
今回の機長は、5年ぶりだったので、「経験不足」と判定して、空港は着陸拒否をすればよかったのだ。そうすれば、機長は別の空港に行っただろう。たとえば、奄美大島の奄美空港なら、ILS もあるし、滑走路は 2000メートルあるので、適切だ。
そして、そういうふうに空港を変える面倒をなくすために、那覇空港を利用する機長に対しては、普段から PARアプローチの訓練をしておけばいいのだ。良天候時に。
良天候時に訓練をしないで、悪天候時にいきなりやる(5年ぶりにやる)なんて、無茶すぎる。こういう制度的な問題があったと言えるだろう。
(4) 自動ブレーキ
最後に、あらゆるヒューマンエラーがあった場合の最後の砦として、機械による自動的な回避措置があるといい。
自動車には、最終的に危険を回避するための最後の砦として、自動ブレーキがある。それと同様に、飛行機にも自動ブレーキのようなものを付けるといいだろう。それによって、水面や地面との衝突を回避するわけだ。
詳しくは、前項を参照。
→ 飛行機にも自動ブレーキ (前項)