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空き家を低所得者に貸与することに補助金を出そう……という方針を政府が決めた。
《 低所得者向けに空き家を活用 国交省、家賃を一部補助へ 》
国土交通省は、低所得者向けの住宅に空き家を活用し、家賃を一部補助する方針を固めた。公営住宅を十分に供給できないためで、都道府県ごとに一定の基準を満たす空き家を登録し、入居希望者に仲介する仕組みを来年度につくる。低所得者の住宅環境の改善と、空き家の減少を目指す。
国交省によると、新制度では、空き家の所有者が物件を都道府県などの窓口に申請。自治体が耐震性や断熱性を審査し、データベースに登録する。入居希望者は自治体に申請し、データベースから物件を探し、所有者と賃貸借契約を結ぶ。
将来は新制度で数十万戸の空き家の登録を目指す国交省幹部は「公営住宅を新たに作るより、空き家を活用した方が自治体の負担が軽い。空き家解消にもつながる」と話す。
こうした取り組みは自治体で先行している。茨城県ひたちなか市は10年度から空き家の入居者に家賃補助する。
( → 朝日新聞 2016-07-22 )
これを考えた役人は、「空き家対策と低所得者対策がいっぺんにできる。一石二鳥で、うまい案!」と思ったのだろう。しかし、この案は駄目だ。
(1) 空き家は減らない
人の数は一定で、それより空き家が多いのが現状だ。空き家をつぶせば、既存の(借り手のいる)部屋が空き家になるだけだ。
右手にボールがあり、左手が空っぽであるとき、右手から左手にボールを移せば、左手の空っぽ状態は解消するが、右手に空っぽ状態が発生する。総計すれば、空っぽ状態の数は何も変わっていない。なのに、左手だけを見て、「空っぽ状態が解決したぞ!」と喜ぶわけ。
右手 左手
旧 ○ −
新 − ○
既存の空き家が解消しても、すでに埋まっている部屋が空き家になるだけだから、結果として、空き家の場所が変わるだけで、総数は変わらない。何やっているんだか。……アホですね。
空き家の総数を減らしたければ、1世帯で多数の部屋(独立した部屋や家)を借りるしかない。1世帯で2世帯分の部屋を借りるわけだ。しかし、そんなぜいたくのために公費を投入するというのは、本末転倒だ。
(2) 非効率
物件の品質を担保するためらしいが、自治体の審査を必要とするそうだ。(記事による。)
しかし、自治体が審査をすれば、莫大な手間がかかる。余分の人件費の投入が必要だ。あまりにも無駄が発生するので、愚の骨頂だ。
このようなことは、市場原理で解決するのだから、市場に任せるべきだ。自治体が品質チェックするなんて、まるで社会主義みたいだ。市場経済を否定して、政府の統制による管理経済をめざすとはね。呆れてものが言えない。
(3) 家主でなく借り手に援助せよ
政府の方針は、家主に援助するものだ。しかし本来なら、茨城県ひたちなか市のように、借り手(入居者)の方に援助するべきだ。
そもそも、空き家になっているのは、家賃が高すぎるからだ。家賃を下げれば、借り手は付く。(どうしても借り手が見つからなければ、1万円以下の金額まで下げればいい。なのに、現実には、1万円以下の物件は見つからない。いくら安くても、2万円ぐらいが限度だ。)
とにかく、市場原理では、売り手と借り手は自動的に価格調整されるはずだ。売れ残りがあるとしたら、価格が高すぎるだけのことだ。
ここで、政府が家主に補助金を与えたら、高すぎる価格を肯定することになる。そのために税金を払うことになる。
何のことはない。政府は、税金を投入して、家賃を高値安定させようとしているのだ。これでは、低所得者はかえって損をするだろう。愚策。馬鹿丸出し。
どうせなら、借り手(入居者)の方に援助するべきだ。これなら、まだわかる。これだと、家賃の市場価格については、特に介入することはないから、変な悪しき効果は生じないはずだ。(一種の福祉政策になるところが、自民党の気に食わないところなのだろうが。)
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結論。
この政策は、あらゆる意味で愚策である。
かわりに、空き家の借り手に対して家賃補助をする方がマシだ。
しかし、「空き家」に限定して家賃補助をするというのもおかしい。「空き家」に限らず、あらゆる場合を含めるべきだ。
それはつまり、「低所得者の全員に給付金を出す」というのと同じだ。それがベストだろう。
ただし、もっといいのが、「国民の全員に給付金を出す」ということだ。この件は、別項でも述べた。
→ 軽減税率の無駄
→ 消費税の軽減税率とピケティ
消費税を増税するとき、軽減税率を導入するかわりに、(国民全員に)一律の給付金を出せばいい、ということ。詳しくは、上記項目を参照。
なお、低所得者の対策でなく、空き家の対策は、別途、アイデアがある。本サイトでも何度か述べた。
(1) 空き家を熊本の被災者に → サイト内検索
(2) 空き家を生活保護者に → サイト内検索
[ 付記 ]
「空き家を解消しても、別のところで空き家が発生するので、無効だ」
「左手で空っぽが解消しても、右手で空っぽが発生すれば、無効だ」
という話をした。
これと似たことは、本日別項でも述べた。
→ 鬼怒川堤防工事 600億円は無駄
鬼怒川流域で、氾濫を防いでも、利根川流域で、氾濫が生じてしまう。
中流の流域で、氾濫を防いでも、下流の流域で、氾濫が生じてしまう。
だから、こんなことをやっても無意味だ……という話。
どっちにしても、「部分を見て全体を見ない」という話だ。愚か者の頭の構造は、いつも同じようなものなのかもね。
公的な機関(大学の学生課とか)だとたまに見てたのですが>一万円以下の物件
法律上、大家がすべて損失を被ることになる。
それなら貸さないで固定資産税だけ払って捨てておいたほうがいい。
だから空き家は減らないし、賃貸市場にもでてこない。
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阪神大震災で1棟のアパートが倒壊。そしてその建物の1階に住んでいた4名が亡くなった
遺族がそのアパートの大家さんを相手取り訴訟
建物自体の強度に問題があったとして訴訟提起。
損害賠償請求額は4億円。そして裁判所も遺族からの賠償請求を認めました。判決としては遺族に対して1億2883万円の支払いを命ず
> 貸さないで固定資産税だけ払って捨てておいたほうがいい。
家主がそう思うのなら、貸さなければいいだけの話。何も問題ない。それは、空き家というより、居住不適な家です。いちいち政府が対処する必要もない。家主が勝手にすればいいだけ。
> 遺族に対して1億2883万円の支払い
耐震建築にしなかった家主が悪い。耐震建築にすればいいだけ。家賃は関係なく、耐震建築にするかどうか、というだけの問題。本項は関係ない。
> どんなボロ家でも月一万、年12万の収入で物件を維持しろ
そんなことは言っていません。「下げることもできる」と言うだけで、あくまで仮定の話。
現実の相場を見ると、ド田舎でさえ、間借りで月2万円、一戸建てで5万円です。これ以下の金額は、耐震性がない居住不適な建築だけ。
現実の相場は、それを上回っているので、月1万円にはなりません。本項では「月1万円まで下げれば空き家にならない」と言っているだけです。
空き家になっているのは、上の相場を上回っている物件だけなので、通常、「家賃を下げれば空き家にならない」と言えます。……本項が言いたいのは、そのことです。「月1万円にしろ」と言っているのではなく、「家賃は下げれば必ず借り手が出る」と言っているだけです。
極端な場合を例示しているが、極端な場合をまさしく実行せよ、と言っているわけではありません。もののたとえです。お間違えなく。
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比喩。
三菱自動車 「うちの軽自動車が売れなくて困る。値段をいくら下げても売れない」
本サイト 「いくら下げても売れない、ということはない。売値を1万円にまで下げれば売れるだろ」
三菱自動車 「1万円で売れというのか? とんでもない! そんなことをしたら大幅赤字だ。売らない方がマシだ。馬鹿なことを言うな」
本サイト 「1万円に下げろ、と言っているんじゃないよ。いくら下げても売れない、ということを否定しているだけだ。現実には、30万円引きぐらいで売れるだろう。1万円まで下げて売れ、というのは、あなたの誤読だよ。仮定形と命令形を混同している。『下げて売れば』と『下げて売れ』を混同している。馬鹿馬鹿しい。勘違いしないでくれ」
あなた
「1万円に下げろ、と言っているんじゃないよ。いくら下げても売れない、ということを否定しているだけだ。」
私
いくら家賃下げても空家は減らない。あなたもそういっている。
中古物件対策の根本的な解決策は、無制限に建て続けられてる新築(建て替えはOK)を制限すること。
上記はあなたの誤読。
あなたの主張は、「いくら家賃下げても空家は減らない」らしいが、私の主張は、「いくら家賃下げても空家は減らない」ではない。家賃を下げるのは、空き家を解消することが目的ではない。では何か? 当の大家の物件に限って、空き家を解消することです。空き家全体ではなくて、特定の1件についてのみ、「家賃を下げれば、その物件の空き家問題は解決する」と言っているだけです。
両者は別の問題なので、お間違えなく。
個別の問題は、価格調整で済む。
全体の問題は、マクロ的な政策が必要となる。
それぞれ対処法は異なります。これは、何度も言っている経済学の原理と同様。前者はミクロ、後者はマクロ。
なお、それぞれの大家が家賃を下げると、市場全体の価格水準が下がるので、そうすると、需要もいくらか増える結果になります。
現状では、家賃が高止まりしているので、全体的に家賃をもっと低くするべきだ、という意図が、私の主張では暗示されています。
これは違いますね。むしろ、空き家だらけの劣悪な物件をすべて取りつぶして、優良物件に改築する方がいい。たとえば、下町の誰も住まないようなボロ屋をどんどん取りつぶして、高級マンションに建て替えればいい。間取りを広くして、1世帯あたりの居住面積も増やすといい。
この方針を推進すれば、大幅な供給増によって、家賃の相場は引き下げとなります。都民は、現状と同程度の家賃を払って、より広くて新しい物件に転居できます。
建て替え制限なんて、劣悪な居住環境を維持するものであって、全然ダメです。社会主義的な政策が成功した試しはない。
正しいのは、きちんとした都市再生プランにしたがって、都市改造計画を実行することです。現状の劣悪な居住環境を改善するべきです。
現状がいかにひどいかは、下記を参照。
→ http://openblog.seesaa.net/article/435851177.html
→ http://openblog.seesaa.net/article/435851672.html
建て替えはOKですよ。何を読んでるの?
新築を制限するということ。ちゃんと読みましょうね。人の文章も。
ただ、新築制限って、意味あるのかしらん? 空地なんてほとんどないし。
また、住宅地にときどき少し空地があるが、それを新築制限する(建設禁止にする)ことに、何の意味があるのか? ただの私有財産権の制限となる。
となると、その分、無償で没収するか、公費で買い上げるかだ。どちらにしても、とんでもない大問題となる。あまりにも奇天烈な方針であり、こんなことを考える人がいるとは信じられない。荒唐無稽な珍案なので、ちょっと読んでも、頭を素通りしてしまったようだ。
誰が出すの?その建て替え費用?u単価いくらなの?
誰もすまないボロ家つぶす(uあたりの撤去産廃費用)のにいくらかかるかご存知ですか?
ちゃんとリンク先に書いてありますよ。区画整理して、容積率制限を高くして、高層マンションを建設すればいい。
一戸建てのままだと、とうてい建て替えは不能だが、都内でマンションに建て替えるなら、マンションの購入者の金で、大家の家を建てることは可能です。ただし、大家は、土地の権利を大幅に失う。残るのはマンション住民の区分持ち分程度。
ま、都内限定(下町限定)ですけどね。