──
昨年の集中豪雨で氾濫した鬼怒川の堤防工事のために、600億円が投入される。
《 鬼怒川決壊、堤防改修に600億円 》
石井啓一国土交通相は4日の閣議後の記者会見で、9月の関東・東北豪雨で堤防が決壊した茨城県内の鬼怒川と支流の八間堀川について、計約600億円をかけて堤防のかさ上げ工事や河道の掘削などを集中的に行うと表明した。今年度から2020年度までの計画。
( → 日本経済新聞 )
《 鬼怒川下流域治水 堤防復旧やかさ上げ600億 》
鬼怒川決壊などによる大規模水害を受け、国土交通省は4日、堤防工事などハード対策に計600億円の事業費を見込む治水対策「鬼怒川緊急対策プロジェクト」を発表した。国と県、常総市など川沿いの7市町が連携し、栃木県境から守谷市の下流域44・3キロ区間を対象に2020年度までの5年間で集中して整備する。決壊堤防の本格的な復旧や堤防のかさ上げ工事のほか、市町村を超えた広域避難の仕組み作りなど、ハードとソフトの両対策を一体的に推進する。
( → 【茨城新聞】 )
ここからわかる国交省の該当ページは:
→ 鬼怒川緊急対策プロジェクト
→ 鬼怒川緊急対策プロジェクトの概要
ここから PDF を得る。そこには、次の文章がある。
【鬼怒川(直轄事業:国土交通省)】
□河川激甚災害対策特別緊急事業
事 業 概 要:洪水等による激甚な災害に対して、概ね5年間の緊急的な集中投資による河川改修
により再度災害防止を図る事業。
事 業 内 容:堤防整備(堤防のかさ上げ、拡幅)、漏水対策 等
全体事業費:約448億円
※1
実 施 期 間:平成27年度〜平成32年度(6年間)
※1:平成27年度災害対策等緊急事業推進費(約39億円)を含
□河川災害復旧事業
事 業 概 要:洪水等により被災した施設を原則として原形に復旧する事業。
事 業 内 容:決壊した堤防の復旧(堤防のかさ上げ、拡幅)、漏水が発生した堤防の対策
全体事業費:約66億円
実 施 期 間:平成27年度〜平成28年度(2年間)
□河川大規模災害関連事業
事 業 概 要:堤防の整備水準を大きく上回る大規模な洪水による災害が発生した河川において、
被災施設の原形復旧のみでは必要な治水安全度が得られない場合に、河道掘削
などの河川改修により再度災害防止を図る事業。
事 業 内 容:河道掘削等
全体事業費:約64億円
実 施 期 間:平成27年度〜平成32年度(6年間)
堤防かさ上げ・拡幅などの堤防工事だけで、448億円。途方もない巨額だ。
しかし、これほどの巨額の金を掛けても、洪水の防止はできない。被害は減るどころか、かえって増えてしまう。なぜか? 「頭隠して尻隠さず」だからだ。
鬼怒川流域で堤防を強固にすれば、鬼怒川流域では氾濫を防げるだろう。しかし、水が減ったわけではないから、その水は下流に送られる。下流に送られた水は、利根川本流との合流点に達して、利根川本流に流入する。

出典:国土交通省 関東地方整備局

大量の水は、利根川に入る。すると、この合流点以後の利根川で、氾濫が起こる。
結果的に、人家の少ない鬼怒川領域で氾濫するかわりに、人家の密集する利根川下流で氾濫が起こる。
※ 右図は、人家の少ない 鬼怒川の流域。
下図は、人家の多い 利根川の流域。

要するに、大金をかけて、洪水を防止したと思ったら、頭隠して尻隠さず。たしかに、鬼怒川の流域では洪水の防止に成功する。しかし、利根川の流域では洪水が起こってしまう。結果的に、洪水の有無は同じであっても、人家の量の差によって、被害額はかえって増えてしまうのだ。
──
これに対して、反論もあるかもしれない。
「鬼怒川で工事したからといって、利根川で氾濫が起こるとは限らないぞ。利根川の下流でも工事をいっぱいやれば、大丈夫だ。だから、結果的には大丈夫」
なるほど。理屈の上ではその通り。しかし、現実は違う。
利根川は堤防の決壊の危険性が大きい、ということを、国交省自身が認めている。
《 もし、利根川や江戸川で水害が起きると… 》
もし、利根川や江戸川で水害が起きると、首都圏約230万人が被害を受けます。
昭和22年(1947年)9月、カスリーン台風が関東地方に戦後最大の被害をもたらしました。もし今、カスリーン台風規模の台風に襲われ、利根川堤防が決壊すれば、首都圏では甚大な被害が発生すると想定されます。
昭和22年にカスリーン台風によって利根が氾濫し、旧河道に沿うように低平地を中心とする地域が襲われました。
広域地盤沈下により土地がさらに低くなりました。その上、人口、資産が首都圏に集中し、カスリーン台風規模の台風で利根川堤防が決壊すれば、氾濫面積も広がり過去の実績を上回る被害が予想されます。
( → 国土交通省 関東地方整備局 )
もちろん、国交省は、指をくわえてみているだけではない。きちんと対策するつもりだ。ただし、その対策というのが、スーパー堤防である。これは「超・金食い虫」なので、莫大な金を食う割には、ほとんど進行していない。必要な箇所の1割もできていないようだ。
一般に、堤防というものは、1箇所でも穴があれば、そこから氾濫するので、無効となる。なのに、利根川のスーパー堤防は、穴だらけであって、たまに少しだけ堤防があるというありさまだ。
こんなのは、「百年河清を待つ」ようなもので、まったく無効だ。(百年どころか 400年らしいが。下記。)
→ 「400年かかる公共事業」の現場をみる
あまりにも馬鹿馬鹿しいので、民主党は、事業仕分けで、このスーパー堤防の建設を廃止した。
ところが、鬼怒川で堤防の決壊が起こったものだから、「鬼怒川の堤防の決壊は民主党のせいだ!」という批判が山のように押し寄せた。
→ 【仕分け】堤防仕分けの蓮舫議員に殺到する国民の批難の声
この批判の声を受けたらしく、自民党は、スーパー堤防の建設を再開した。
→ 国交省 秘密保護法案紛糾の陰で「スーパー堤防」事業を再開
→ スーパー堤防が復活 : Open ブログ
かくて、「超巨額の税金を投入するくせに、穴だらけでまったく無効なスーパー堤防」という工事が再開した。
その一方で、鬼怒川流域では、工事がどんどん進んでいるので、鬼怒川流域に降った雨による大量の水は、今後は利根川下流で氾濫することになる。
何たる愚かさ! 大金を払って、被害を拡大する!
──
では、どうすればいいか?
そのことは、昨年中に、シリーズで書いた。いろいろと書いたが、重要な点だけを言えば、こうだ。
・ 越流堤によって、被害の少ない農地部で氾濫させる。
→ 洪水対策の越流堤
・ そこには遊水池を作るといい。自然保護にもなる。
→ 堤防よりも遊水池
中流域に遊水池を作り、常に貯水するようにすると、ここは水ガメとして、渇水対策となる。この件は、前々項で述べた。
→ 渇水と洪水にダム(利根川)
( ※ これは利根川の話だが、鬼怒川など、他の川に援用できる。)
中流域に遊水池を作るかわりに、下流域に遊水地を造ることももできる。その一例が、新横浜の遊水地だ。これについては、前項で述べた。
→ 新横浜の遊水地
【 関連項目 】
→ 鬼怒川の堤防整備 600億円
本項とはよく似たタイトルだが、内容はかなり異なる。
「低コストの洪水対策と、被害者への補償をする」
という趣旨で述べている。つまり、目的は、コストダウン。
一方、本項は、「低コストの洪水対策」という対策は同じだが、
「現状は高コストで被害拡大」という矛盾点の指摘が目的だ。
【 追記 】
その後の調べで、利根川には巨大な遊水池があることが判明した。これについて、別項で記した。
→ 利根川の遊水地
あまり知られていないものなので、気づかなかったが、この巨大な遊水池があるのなら、鬼怒川の堤防は、まるきりの無駄ではなかったことになる。
とはいえ、まるきりの無駄ではないからといって、600億円の工事が妥当だということにはならない。本項の本文に戻るが、堤防より遊水池の方が好ましいからである。
遊水池を作るとしたら、どこに作るか?
鬼怒川の氾濫防止のためには、下流に遊水池があっても意味がないので、鬼怒川の上流や中流に遊水池があることが好ましい。
鬼怒川の上流には、すでにダムがたくさんある。そこで、鬼怒川の中流に遊水池を作るといいだろう。……これが、新たな結論となる。(利根川の巨大遊水池があると知ったあとでは。)
- 遊水池を作るための場所は、たっぷりとある。本文中の、鬼怒川の画像を参照。
縦に細長い画像があるが、川の両岸には、たっぷりと農地がありあまっている。そのどこであっても、遊水池を作れる。
特に、遊水池を貯水池として、水がめにできる。渇水対策になる。
→ 渇水と洪水にダム(利根川)