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首都圏の利根川系で渇水が続いている。この問題は、私は報道された6月ごろからウォッチしているのだが、6月のころは、「そんなに悲観しなくてもいい」と思っていた。
「今は渇水が続いているが、梅雨の雨が少ないだけだ。そのうち、梅雨の雨が(例年よりも遅い時期に)降るから、渇水がひどくなることはないだろう」
と予想していた。
そも予想は、当たったか? ある意味では、当たった。実際、6月半ば以降、少しずつ雨が降ったので、状況は悪化しなかった。特に、ここ数日間は、少し雨が降っているので、状況はわずかに改善した。
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出典:東京都水道局
この意味では、予想は一応は当たっている。例年ならば貯水量が急減しているのに、今年は急減することはなかったからだ。
とはいえ、絶対値を見れば、底打ちしているだけだ。悪化はしなかったが、絶対量はいまだに不足している。最悪の状況にはならなかったが、楽観できるほどではない。
この意味では、予想はあまり当たらなかったことになる。
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さて。貯水量が少ないのは、どうしてか?
まず、貯水池(ダム)別に、水量を見る。
→ 利根川の水源の概況
ここからわかるが、下流域のダムは満杯になっているものが多い。しかるに、上流にある矢木沢ダムが問題だ。このダムは、最大貯水量をもつのに、ダムが空に近い状態になっている。同じく、上流にある下久保ダムも、貯水量が大きいのに、半分以下の貯水量だ。
要するに、貯水量の多い上流のダムが、空に近い。このことが全体の貯水量に大きく影響している。
では、どうしてそうなったか? 冬の積雪量が少なかったからだ。
利根川水系8ダムの貯水量は平年の6割程度。深刻な水不足から「列島渇水」と呼ばれた 1994年と同じ水準にある。暖冬による雪不足に加え、梅雨の降水量も平年より少ないためだ。
( → 水不足:ピンチ!「東京で降るより矢木沢で降れ」 - 毎日新聞 )
今年は少雪、小雨の影響で渇水になった。
( → 関東で渇水続く 貯水率55% (産経新聞) )
暖冬による雪不足で、利根川水系のダムの貯水率は平年の半分近くまで落ち込んでいる。
今回かなり早い段階で平年の半分以下にまで貯水率が落ち込んだのは、暖冬でダム周辺の雪が少なかったからだ。藤原ダムの累積降雪量は 342センチで、平年の4割ほど。過去 58年で最も少なかった。通常は4月までダム周辺に残る雪が3月には消えていた。
( → 暖冬と少雨、貯水率は平年の半分:朝日新聞 )
冬の雪が少なかったので、上流のダムが空に近い。これが現状だ。
そして、そうとなれば、今後は「特に上流域で雨が降る」ということが必要となる。下流域でいくら雨が降っても(ダムは満杯なので)意味がない。「上流域で」という限定条件つきで、雨が降る必要があるのだ。
では、現実は? 皮肉なことに、逆である。つまり、「下流域で」という限定条件つきで、雨が降っている。

出典:Yahoo!天気・災害
本日昼の雨雲画像だ。群馬・栃木のあたりには雨雲はほとんどない。埼玉・東京・神奈川のあたりに雨雲があるばかりだ。
まったく、残念ですね。本日は、東京近辺では雨がいっぱい降っているので、「恵みの雨になるか」と思ったら、上流域では雨が降らないので、貯水量に関する限りは、すっかり空振りだ。
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さて。以上は現状の報告と分析だ。このあと、対策を考える。
対策は、どうするべきか?
(1) ダムの設置
水不足がこういうふうに起こるのであれば、今後はダムを設置することが必要となるだろう。今すぐには間に合わないが、長期的には、ダムを設置することが必要となる。
(2) 八ツ場ダムは無意味
ダムを設置するというと、八ツ場ダムが思い浮かぶだろう。だが、八ツ場ダムは、無意味だ。なぜか? 上流域にあるからだ。
今回も、上流域では、ダムは不足していない。矢木沢ダムも、下久保ダムも、ダムの容量自体は不足していない。むしろ、余っている。この地域では、ダムを増やしても意味がないのだ。たとえ増やしても、大部分は空っぽの状態となるだけだ。
(3) 下流域の貯水池
むしろ、下流域でダム(というより貯水池)を増やすといい。それなら、今回もたっぷりと水が貯まっていたはずだ。
ここで、「渡良瀬貯水池」というものに着目しよう。この貯水池については、前にも言及したことがある。鬼怒川の洪水の話題のときだ。
→ 堤防よりも遊水池
この項目では、「巨費をかけて堤防を建設するよりも、下流域に貯水池を作る方がいい」と提言した。ここでの目的は、洪水対策だった。
そして、洪水対策となる方法が、同時に、渇水対策にもなるのだ!
これは非常に重要なことである。なぜか? 上流のダムは、渇水対策にはなっても、洪水対策にはならないからだ。たとえば、鬼怒川のような下流の流域で豪雨があった場合、上流域にダムがあっても、何の効果もない。上流のダムには、下流の水を貯めることはできないからだ。下流域に降った豪雨への対策は、下流域における貯水池でしか対処できないのだ。
そして、下流域における貯水池は、同時に、渇水対策にもなるのだ! ……これはうまい方法だ。
ひるがえって、現状は、そういう方法を取らない。
・ 渇水対策は …… 上流で八ツ場ダム(巨費だが無効)
・ 洪水対策は …… 地下神殿(巨費だが微力)
これは、二重の意味で無駄である。
渇水対策としては、八ツ場ダムを作ったが、巨費がかかる割には、効果が無効だ。(上流にダムを造っても、上流のダムは空っぽとなる。今回の例。)
洪水対策としては、地下神殿(首都圏外郭放水路)をつくったが、超巨額の建設費がかかった割には、たいして効果のあるほどの分量ではない。費用対効果は、こうだ。
・ 首都圏外郭放水路
…… 工費 2300億円 / 貯水量 67万立方メートル
・ 渡良瀬貯水池(谷中湖)
…… 工費 930億円 / 貯水量 2,640万立方メートル
( → 地下神殿(首都圏外郭放水路): Open ブログ )
費用対効果は、桁違いと言える。
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以上で、正解と不正解がわかった。
正解は、下流域に貯水池を作ることだ。このことで、洪水と渇水の双方に対策ができる。しかも、費用は格安だ。(単に池を作るだけだからだ。コンクリ堤防みたいな頑丈な構築物は不要だ。)
不正解は、上流域に巨大ダムを造ったり(八ツ場ダム)、下流域に地下神殿を造ったりすることだ。また、コンクリ堤防も、費用対効果が悪いので、好ましくない。スーパー堤防なんてのは、言語道断である。
にもかかわらず、自民党政府は、不正解のものばかりを採択する。効果は少なくて、巨額の費用がかかるものばかりを採択する。なぜか? 理由は二つ。
第1に、そうすれば、巨額の公共事業をやって税金を莫大に浪費できるので、そのうちの一部を、利権(賄賂)として、かすめ取ることができるからだ。いかにも自民党らしい。
第2に、国民が、自民党に洗脳されているからだ。「八ツ場ダムは大切です」「地下神殿は大切です」「スーパー堤防は大切です」と自民党が言えば、国民の大多数は、「ああ、そうですね」と言って、信じ込む。そのために莫大な金が浪費されるということを理解できない。それよりも圧倒的に小さな金で同等の効果を出せるということを理解できない。そのための方法として「貯水池」という代案があることを理解できない。……国民が無知で洗脳されているから、国民は虚偽を信じるのだ。ちょうど、「裸の王様」の物語みたいな感じで。
愚かな国民をだまして、自民党が巨額の金をかすめ取る。……これが、今の日本の現状だ。
[ 付記 ]
本題とは違うが、渇水問題それ自体への対策は簡単だ。
(1)
東京都に関する限りは、利根川水系の水がなくなっても、多摩川水系の水がある。こちらには、たっぷりと水がある。
→ 利根川は本当に「渇水」しているのか?
神奈川県も同様だ。神奈川県の貯水池は、水がたっぷりある。
→ かながわの水がめ - 県内の貯水状況
→ 神奈川県が水不足に強いわけ
というわけで、東京都と神奈川県に関する限りは、水不足はあまり心配しなくていい。(ただ、多摩川水系の貯水量は、あまり大きくないので、東京都民は十分に安心できるというほどでもない。神奈川県の人は安心していいが。)
(2)
実は、東京を含めて、埼玉や栃木などの人々も、あまり心配しなくていい。いざとなったら、「農業用水の採取をやめる」という手が使えるからだ。
この場合、農産物は枯れ果ててしまって、巨額の農業被害が出るだろうが、関東の農業なんて、たいした量ではないから、被害の損失補填は十分に可能だ。(全量が壊滅するわけでもない。せいぜい1〜2割程度が減るぐらいだろう。)
一方で、人間様にとって必要な水は、きちんと確保できる。
つまり、(農業に)金を払って、(人間の)水を確保できる。だから、「水不足で人間が死んでしまう」というような心配は、まったくない。風呂や炊事の生活用水が不足することもない。不足するとしたら、農業用水だけだ。たいした問題ではないのだ。
( ※ 何十年にいっぺんあるかないかの渇水における農業被害への対処として、巨額の金を投入して八ツ場ダムを建設する……というのが、政府の方針だ。100億円の損失を防ぐために、1兆円の金を投入する、というようなもの。収支の計算ができていない。愚の骨頂。……ま、本心は自民党の利権なんだから、仕方ないのかもね。国民は食い物にされるだけだ。)