2016年07月19日

◆ ソフトバンクが ARM を買収

  ソフトバンクが ARM を買収した。
 これをどう評価するか? 株価は1割以上も下落したが。

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  ソフトバンクが ARM を買収した。
  → ソフトバンクがARMを買収、約3兆円。CNBCやWSJなど主要紙が伝える
  → ソフトバンク孫氏、ARM買収「たかが3兆円」。英政府「歓迎できる」
  → ソフトバンクは何故べらぼうな値段でARMホールディングスを買収するのか?

 業界の内情をよく知っている人は、おおむね好意的であるようだ。市場の評価額よりも大幅に高値で買ったことについても、「全部買収するときにはそれが当然」という見方で、特に問題視していないようだ。

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 一方、市場の評価は、否定的だ。株価は一挙に1割以上も下落した。
  → ソフトバンク株、大幅安…財務体質悪化に懸念 : 読売新聞
  → 株価の反応は、まずはネガティブ
  → ソフトバンク株が4年ぶりの日中下落率、英半導体買収を嫌気

 つまり、業界内部の評価と、株式市場の評価は、正反対である。これを、どう解釈するか? 

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 私の見解を述べよう。(個人的な見解です。)

 根本としては、「この買収を決めたのは誰か?」ということだ。明らかに、退任したアローラ(およびその部下であるエリート連中)であろう。その大部分は、米国から来た人々だ。(あるいは今も米国に在住しているかもしれない。国籍はいろいろ。)
 孫正義の投資は、これまでは本業に密接に結びついたものだった。典型的なのが、ヤフーであり、ボーダフォンであり、米スプリントである。このうち、最後のものは、失敗しつつある。ケータイやスマホという成熟しつつある市場では、高い成長率が望めないのだ。
 一方、本業とはあまり関係のない分野では、孫正義の嗅覚が優れていない。そこで、そういう周辺的な分野で、大金を使う投資をする(ベンチャーキャピタルになる)というのが、孫正義がアローラを招いた理由だ。
 で、アローラは、そのあとずっとサボっていたわけではないから、成長率の高い企業を探して、買収しようとしていたのだろう。その結実したものが、今回の買収だ、と見ていい。

 さて。今回の買収のポイントは、「アリババの株を売った」ということだ。ここが本質なので、理解しよう。
 アリババの企業や株は、今後もかなり高い成長が見込める。米国でも大人気だ。その株を、なぜ売るか? 「もはや十分に上がったので、これから先はあまり高い成長率を見込めない」と思ったからだ。
 換言すれば、ソフトバンクは、「 ARM には、アリババよりもずっと高い成長率が望める」と評価したわけだ。だからこそ、「アリババの株を売って、ARM を買収する」という決断をしたわけだ。
 だから、ここでは「 ARM を買収したことの是非」を問うのは無意味である。「アリババの株を売って、 ARM の株を買収したことの是非」を問うべきだ。そして、その判断をしたのが、そこいらのボンクラではなくて、世界最優秀の投資能力の持主だ、ということになるのだから、その結論は、明らかだろう。彼らがそういうふうに株を買い換えることを決めたとすれば、まさしく、「 ARM には、アリババよりも高い成長率が望める」と見なしていいはずなのだ。
( ※ つまり、そういう評価をした最優秀の人々の判断を信じていい、ということだ。われわれ凡人よりも圧倒的に高い情報を得ている人々が決めたのだから。)

 さて。それではどうして、市場では、株価が暴落したのか?
 その理由は「財務体質の悪化」ということだ。これはどういうことか? 投資をすれば、「金を出して、株を得る」という形になるのだから、特に損得がないまま、財務体質が悪化するのは当然のことだ。ゆえに、「財務体質が悪化する」というのは、本来ならば理由にならないはずだ。
( ※ 仮にそれが理屈になるなら、あらゆる企業の投資活動が否定される。なるほど、投資をしなければ、財務体質は健全化する。しかしそのかわり、未来の成長を失う。……馬鹿げている。)

 結局、「財務体質が悪化する」というのは、理屈にならない。では、何が本当の理屈か? 
 それは、次のことだろう。
 「市場の評価額よりも、圧倒的に高い金額を払ったことで、帳簿上の財産価値(= 市場価格)と、現実に払った金との差額が、潜在的な損失となるから」

 これは、理屈の上ではわかる。いくら高い成長が望めるとしても、2兆円の市場価値があるものを、3兆円を払って買えば、帳簿上では、1兆円の損失が発生したことになる。これがつまりは、「財務体質が悪化する」ということの真相だ。
 
 ではなぜ、ソフトバンクは、そういうことをしたのか? それは、次のように説明される。
 市場価値というものは、通常、数年後の企業価値を意味する。もっと遠い未来における価値は、たとえ有望であるとしても、不明であるとして、勘定に入れない。株式市場というのは、そういうものだ。
 一方、ソフトバンクのような投資企業は、10年先の企業価値を見る。3年後ぐらいでは、現在の株式市場の価格で織り込まれたぐらいの価値しかないだろうが、10年も先になると、圧倒的に成長すると見込める企業があるので、そういう企業を探し出して、投資する。
 具体的な成功例は、下記だ。
  ・ ヤフー・ジャパン
  ・ ボーダフォン (のちのソフトバンクモバイル)
  ・ アリババ

 これらは、買収または出資した時点では、「高値買いだな。市場価値よりも多めに払いすぎている」というふうに見なされることもあった。しかしながら、それから 10年以上もたって、現在の評価額を見ると、そのときに買収・出資した額に比べて、何倍〜何十倍(または何百倍)もの価値を持つに至っている。
 つまり、10年以上の長期的な視野で見ると、ソフトバンクの判断は、市場の判断を圧倒的に上回ってきたのだ。
( ※ だからこそ、ただの1個人企業にすぎなかったソフトバンクが、日本でも最大級の企業グループになれたのだ。1代の男の成長例としては、日本では空前だろう。)

 まとめて言えば、市場の予想は、3年後ぐらいなのに、ソフトバンクの予想は、10年、20年先を見ている。そして、過去の例では、10年、20年先になると、ソフトバンクの圧勝というふうになってきたのだ。

 このことからすると、今回の株価暴落も理解できる。
 市場価格が暴落したのは、このあと3年ぐらいのことを考えているからだ。2兆円の価値のものを、3兆円で買えば、ソフトバンクには1兆円の損が発生する。そういうふうに、帳簿レベルで考えるので、1割ぐらいの株価下落が起こったわけだ。
 一方、10年ぐらいのスケールで見れば、ソフトバンクは今回の買収で大幅な成長株を買収したことになるのだろう。3兆円で買収しても、10年後には、悪くて 10兆円、うまく行けば 50兆円ぐらいの価値になる、と見込んでいるのだろう。(だからこそ、高成長の株であるアリババの株を売った。)
 ここでは、市場の判断と、ソフトバンクの判断が、まったく対立している。そして、どちらが正しいかと言えば、
  ・ ARM に対する専門的な評価能力では、ソフトバンクの圧勝。
  ・ これまでの投資の損得の歴史では、ソフトバンクの圧勝

 ということがあるのだから、素人集団である市場の判断よりは、専門家集団であるソフトバンクの判断の方が、信頼できる。

 そして、市場もまた、しだいにそのことを理解するだろう。したがって、ソフトバンク株が暴落したのは、本日一日だけだ。明日以降は、徐々に上昇していくだろう。落ちる前の元値を超えることも、遠くないだろう。
 私の予想では、たぶん、バフェットみたいな有能な投資家が、ソフトバンクの株を買収する。したがって、かなり速い時点で、暴落の大部分を回復するだろう。

 小金を稼ぎたい人は、今のうちにソフトバンクの株を買っておくとよさそうだ。

( ※ 株式投資はあくまで自己責任で。私は責任を負いません。儲かっても損しても、それはすべてあなたの責任。)
 


 【 追記 】
 アローラが主導した……という私の見通しは誤っていたようだ。孫正義が「アローラはほぼ無関係」と述べている。
−−(6月22日付で退任した)ニケシュ・アローラ前副社長は今回の買収に関わったのか

 「初めて、アームに買収の件でアプローチしたのは2週間前。トルコでアームの会長がヨットのセーリングしているときに僕が電話して会いたいと。近くの港に立ち寄るというので、レストランで会いました。そこで初めて要求した。その前はおぼろげながらの(買収の)議論はあったが、我々が腹を決めたのは、この2週間の間だった」
( → SankeiBiz(サンケイビズ)

 さらに、次のように述べている。
 「私はパラダイムシフト(枠組み転換)の入り口で投資をしてきた。最初に、インターネットのパラダイムシフトで投資したときも、『それまでの既存ビジネスとどれぐらいネットがシナジーがあるのか。ほとんどないじゃないか』といわれた。パソコンのネットからモバイルネットになる時代に携帯会社を買った時も、多くの人から『どういうシナジーがあるのか』と問われたが、ほとんど理解されなかった。今回も同じようにパラダイムシフトなので継続的な事業の延長ではなく、直接的なシナジーはわかりにくいかもしれないが、後で振り返ると非常に理にかなったといえる投資だ。シナジーは今すぐではなく、長期的には非常にある」
 「たとえば囲碁で勝つ人というのは、碁の石をすぐ隣に打つ人ではなくて、遠く離れた所に石を打って、それが50手、100手目に非常に大きな力を発揮する。あそこにあのとき置いておけば良かったというのが、5、10年後にわかる。私は常に7手先まで読んで石を打っている。わかる人にはわかるし、わからない人にはわからない。ほとんどの人にはわからないと思う」
( →  SankeiBiz(サンケイビズ)

 これは、本項の趣旨に合致する。
 
posted by 管理人 at 19:33| Comment(4) | コンピュータ_04 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
たしかに、数年前までだったら、孫氏の圧勝説は、高い説得力を持っていたでしょう。
一介のベンチャー企業を、日本有数の大企業に押し上げた孫氏は、まさに立志伝中の人物といってよかったと思います。
しかし、孫氏は、大企業になってからも右肩上がりの成長を求め続けました。
その結果、有利子負債12兆円という、超借金体質に陥ってしまったのです。
発展途上国が、高度成長で先進国になった場合と同じで、サイズが大きくなれば、いつか右肩上がり幻想は捨てねばならない時が来ます。
アローラ副社長の招聘は、図体の大きくなってしまったソフトバンクに、新しい経営スタイルをもたらすことを期待してのものだったはずです。
では、なぜ後継者指名までしたアローラ氏と、袂を分かつことになったのでしょうか?
それは、アローラ氏の経営再建路線が、孫氏にとってはどうしても受け入れられなかったからでしょう。
アローラ氏にとって、アリババやガンホーの株式売却は、巨額の有利子負債を減らすためであり、新規買収をするためではなかったはずです。
ARM社の時価総額が右肩上がりだったのは、2013年くらいまでで、以後は頭打ちになっています。
その理由は、同社の主力商品が、携帯電話(スマホも含めて)のプロセッサであるからで、携帯・スマホ市場が成熟してしまえば、業績も安定はしているものの(なんといっても寡占状態ですから)、頭打ちになるのは当然です。
こうした成熟期に入った企業を、アローラ氏が新たな投資対象として勧めるはずはありません。
むしろ、孫氏のさらなる巨額投資に、アローラ氏が難色を示したことが、電撃解任の真相であったと考えるべきです。
みずほ銀行から、さらに1兆円の融資を受けての買収だったそうですが、最終的にだれが勝ち組になるのかは判らないものの、発展途上期の右肩上がりの高度成長を、いつまでも追い求め続けられないというアローラ氏の判断のほうが妥当のような気がします。
Posted by とく at 2016年07月19日 21:26
> 巨額の有利子負債

金利が高いときなら問題だけど、ゼロ金利のときなら、ゼロ以上の成長を得られる限り、負債は増やす方が得です。
巨額の有利子負債が問題なのは、高い利子負担があって、本業の利益では返済できない場合のみ。現状は、利子負担がないので、巨額の有利子負債はちっとも問題ではない。むしろ、もっと巨額にするべきでしょう。それが投資会社のあり方。そもそも、巨額の有利子負債を否定したら、投資会社の意義そのものが否定されて、自己否定になる。

> いつか右肩上がり幻想は捨てねばならない時が来ます。

いやいや。ITの分野は、まだまだ激変が続きます。最近でも、VR や AR の分野でものすごい激変が起きている。ソニーの VR や、ポケモンGO だ。
また、自動運転の分野でも、激変が起こっている。
市場はまだまだ急激に伸びます。うまく分野を選べば、急激な右肩上がりを見出せます。

> 新しい経営スタイルをもたらす

 報道によれば、そうじゃないようですよ。孫正義さんの興味の分野は狭いので、もっとIT全般に強いアローラさんを招聘したようです。特に、ハードの部分。ソフトバンクはソフト専用みたいな感じだから、ハードを強化して、ハードバンクみたいな分野で投資しようとしたわけ。

> アリババやガンホーの株式売却は、巨額の有利子負債を減らすため

 それはありえないでしょう。ただの金ならば、利子率はゼロ同然です。アリババの株ならば、かなり高い成長率・利益率・利回りが見込めます。現金より劣る(マイナス成長だ)ということは、内でしょう。
 ガンホーだと、マイナス成長もあるかもね。

> 電撃解任

 方針の違いというより、他社との兼任が問題だったみたい。
  → http://news.livedoor.com/article/detail/11675838/
 それを孫正義が「おれのわがままのせいだ」と泥をかぶっただけでしょう。どう見ても、彼が本当のことを言っているとは思えない。
 ただの路線対立のはずがない。それだったら、解任するまでのことはないはず。(権限を弱めて、部下にするだけでいい。)
Posted by 管理人 at 2016年07月19日 21:58
 最後に 【 追記 】 を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2016年07月20日 12:54
ARMの技術はIoTに必須なので、携帯やスマホ、VR/AR、自動運転だけではなく小売や物流、 Industry 4.0、Wearableに及ぶことに注視すべきです。いうなれば爆発寸前の火山のようなものです。

自動運転
個々の自動車の判断や性能よりも、周囲の複数台の車との情報連携が重要です。同時に連携できない手動運転車を検知することも可能なので、予期せぬ動きへのアラートもするようになるでしょう。
渋滞情報や、ワイパー稼働情報、エアコン稼働情報、前照灯の点灯状況、ブレーキ頻度、それらと位置情報を重ねるとゲリラ豪雨や気温、特異な現象など、クルマそのものが路上センサーになるわけで、その情報共有なども同じくビッグデータとなります。

小売・物流
使い捨ての電子タグによってトレーサビリティ、在庫管理が容易になるだけではなく、そのデータを取り込めば瞬時のビッグデータとなります。それの解析はソフト屋さんのお仕事。そしてそれを製造に生かすとIndustry 4.0へ。

Wearable端末
自動歩行ってわけにはいきませんが(笑)、体温や発汗センサーを満員電車で共有して車内を最適温度にするとか(オフィスにも使えそうです)、被災時の位置情報発信手段にもなるでしょう。こっちはあまり思いつきませんが・・・。思いついた言葉を文章にしてくれると楽なんですけどね(笑)。

いずれにせよ、SNSではない情報発信・共有機能に使おうとするものなんでしょう。

夢のあるお話です。
Posted by 京都の人 at 2016年07月21日 01:29
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