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タンクローリーの横転事故の裁判の判決が出た。
東京都板橋区の首都高速5号線で2008年8月、タンクローリーが横転し炎上した事故で、首都高速道路(東京都)が……賠償を求めた訴訟の判決が14日、東京地裁であった。青木晋裁判長は、事故の原因は運転手らにあるとして、約32億8900万円の支払いを男性と運送会社に命じた。
事故の原因について判決は「運転手がカーブに20〜30キロの速度オーバーで進入した」と認定。男性に重大な過失があると認めた。
( → 朝日新聞 2016-07-15 )
判決は、男性運転手が制限速度(時速50キロ・メートル)を約20〜30キロ・メートル超えるスピードで運転し事故を起こしたとして「過失は重大だ」と指摘。運送会社についても、使用者責任に基づく賠償責任があるとした。運送会社側は「控訴するつもりはないが、廃業し賠償金を払うのは難しい」としている。
( → 読売新聞 2016-07-15 )
運転手の速度違反による危険運転のせいで、首都高が破壊されてしまった。首都高の修復の費用もかかる。また、長らく通行止めになったせいで、社会的に大迷惑。それでいて、賠償金の支払いを求められたら、「廃業したので、金がありません。払いたくても、払うものがありません」で、おしまい。
保険は? 入っていなかったようだ。そもそも、労働者保護のために義務づけられている社会保険にすら未加入であったようだ。(違法)
→ 探偵ファイル/ニュースウォッチ
で、どうしてこうなったか? 現場は急カーブで、まともな運転手ならば高速で突っ走るはずがないのに、未熟な運転手であるせいで、急カーブを重たいタンクローリーが高速で突っ走ったからだ。タンクローリーみたいに重心の高い運搬車が、高速で急カーブを曲がれば、横転するのは当り前だ。
※ 見ればわかるように、バンクの付いている急カーブだ。
つまり、内側が低く、外側が高い。
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さて。ではなぜ、この運転手はこんなことをしたのか? もちろん、熟練運転手でなく、未熟な運転手だからだ。
ではなぜ、熟練運転手でなく、未熟な運転手が危険なタンクローリーを運転したのか? ……ここが本質だ。
その答えは「規制緩和のせいだろう」と思った。そこで調べたら、案の定だった。当時の記事から引用しよう。
○燃料運搬用タンクローリーの規制緩和
燃料運搬用タンクローリーの事業者や免許は、10数年前までは石油精製販売業者の系列にのみ与えられるもので、運転手は灯油や石油の運搬を経てからガソリンの運搬が行えるようになったそうです。
運送業界ではエリート中のエリートの仕事であって、給料も極端に良く退職金も高額が支払われていました。
ところがこの業務も規制緩和の対象となり、低練な事業者や運転手がその仕事を安く行うようになり、報酬の価格破壊が進展していたようです。
( → 首都高でトレーラー炎上 )
規制緩和のせいで、コスト競争が進んで、粗悪な事業者が流入した。そこでは、「安かろう、悪かろう」の未熟な運転手が大量に雇用された。
そして、コストを下げたのはいいが、いざ事故が起こると、費用の負担ができずに、倒産する(廃業する)。そして、肝心の莫大な費用負担は、社会に押しつけて、自分はトンズラする。……それが原理だ。
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そして、この原理は、別のところでも見られた。(2016年1月の)スキーバス事故がそうだ。あのときとまったく同じことが、ここでもなされていたとわかる。
「小泉行革によって、規制緩和の一環として、バス運行の分野には多大な小規模業者が参入した。これによって市場原理における競争が進んで状況が改善される、と目論んだ。しかしながら、実際に起こったのは、労働ダンピングによる粗悪業者の横行だった。粗悪な業者が、粗悪な運転手を使って、粗悪な保険金のまま、安さだけを取り柄にして、シェアを伸ばした。その結果、粗悪さゆえに事故がおり、粗悪さゆえに保険金も払えないことになった。その一方で、粗悪な業者は、賠償金を払う前に会社を倒産させて、トンズラした」
( → スキーバス事故の賠償金は? )
これと同じことが、タンクローリー事故でも起こったのだ。しかも、2008年の時点で。
スキーバス事故は、いきなり起こったのではなく、その予兆とも言うべきことは、2008年にタンクローリー事故として生じていたのである。
[ 付記 ]
労働条件が悪いという点も、共通する。
スキーバス事故のときは、65歳の高齢者に、慣れない深夜勤務を無理にやらせていた。
タンクローリー事故の方は、年齢は 45歳で無理はなかったが、労働時間が超ブラックだった。
《 首都高で炎上 少ない睡眠 過酷労働 》
運転手が事故直前に少ない睡眠時間で過酷な労働をしていた実態が、国土交通省の調査で分かった。
三日間で自宅で眠ったのは一日平均三時間半。車内での仮眠を加えても睡眠時間は同五時間程度だった。事故前一カ月間の運転時間は一日平均七時間以上、運転を含む拘束時間は同十三時間に達した。
国交省は事故の要因について「過労で運転手の集中力が低下し、カーブで速度超過となった。会社が安全指導せず、運転手は積載物を満載にした車両の横転しやすさを理解していなかった」などの可能性を指摘している。
( → 奈労連・一般労組支援 )
ブラック労働で、頭は朦朧(もうろう)状態。おまけに安月給の素人で、車両の横転しやすさを理解していなかった。
もう、呆れるほかない。これまで事故を起こさなかったことの方が不思議だ。
で、こういうデタラメをもたらしたのが、(スキーバス事故と同じで)小泉の規制緩和だ。
【 関連項目 】
→ スキーバス事故の賠償金は?
→ 粗悪業者を減らせ(スキーバス)