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事務次官の業績なんて、たいしたことはないのが普通だが、この人は、近年では際立った業績の持主であり、紹介するに値する。読めばわかるように、口あんぐりだ。
(1) 電波オークションの阻止
民主党が電波オークションをしようとしたところ、電波利権を狙ったソフトバンクが莫大な金を投入して、これを絶対阻止しようとした。(もし実現すればソフトバンクは千億円規模の金を政府に納入しなくてはならない。)
そこでソフトバンクは政府に働きかけたほか、民主党や自民党などの政治家にも阻止を訴えた。桜井俊という超有能な官僚(電波分野に詳しい)は、ソフトバンクの意を受けて、民主党の方針を阻止した。
(桜井俊は)民主党政権時、電波オークションが提言型事業仕分けなどで議論となった際には、反対の論陣を張った。それが自民党の世耕弘成らの目に留まる。
( → 桜井俊 - Wikipedia )
さらに詳しい事情は、池田信夫が紹介している。
仕分けのあと、総務省と関係業界の動きは急だった。桜井俊総合通信基盤局長みずから与野党を回って反対運動を展開し、ソフトバンクの孫正義社長は総務省に乗り込んで反対の陳情を行ない、……
( → 政策仕分けは増税のための見世物なのか | 池田信夫 )
池田信夫は民主党ばかりを批判しているが、ここではソフトバンクが民主党と自民党の双方に圧力をかけたのだ。で、結果的には、民主党の方針は挫折した。民主党は公約をくつがえされた形で苦汁を飲み、自民党は拍手喝采となった。
なお、ここで民主党を批判している池田信夫は、敵と味方を間違えているね。彼の「電波オークション」という方針を実行しようして失敗したのが、民主党。最初から阻止しようとしていたのが、自民党とソフトバンク。なのに池田信夫は、「実現に失敗した民主党はけしからん」と怒っている。それで自民党を支持しているんだから、世話ないね。(頭のネジが……)
なお、ここで自民党の方針のために大活躍した桜井俊は、功績を認められて、次期事務次官になることが確約された。それ以前には、出世コースを外れて、「もう事務次官になる目はないな。(省内の定例に従い)もうすぐ天下り退職だな」と思っていたはずなのに、天下り退職は延期されて、事務次官候補として残ることとなった。その後、事務次官に決定した。詳しい経緯は下記。
→ 櫻井翔の父・櫻井俊氏が“次の事務次官”に大逆転昇格
(2) NOTTV
NTTドコモのスマートフォン向け動画サービス「NOTTV」が、2016年6月30日で終了した。
→ NOTTV、サービス終了へ NTTドコモ、会員数伸びず赤字膨らむ
これは巨額の赤字を発生させた。
サービス開始以来、2012年度に約215億円、2013年度に約168億円、2014年度に約503億円の損失を計上、2014年度までの累積赤字は約996億円に達し
( → NOTTV - Wikipedia )
総額では 1200億円の赤字らしい。で、この莫大な損失を出す事業を強力に推進したのが総務省であり、その担当者が桜井俊だ。
そもそも、NOTTV とは何か?
アナログ放送をやっていたVHF帯が空いたので、そこに外資が進出しようとした。それを総務省が「黒船阻止」として、徹底的に抗戦した。
詳しくは、池田信夫が解説している。
NOTTVの使っている周波数帯は、昔アナログ放送をやっていたVHF帯である。それを無理やり2011年に停波したため、電波が余ってしまった。この帯域は普通の携帯端末が使えず、特に送信ができないので、「マルチメディア放送」をやることになった。最初は60社ぐらいが参入を申請した(私もその1社のコンサルをやった)のだが、役所の「一本化工作」で民放連のISDB-Tmmという方式でまとまる方向になった。
ところが外資系のクアルコムは、本国でスタートしていたMediaFLOをこの帯域でやろうとし、「放送局だけでは全国に数百の基地局を建てるのは不可能だ」と主張した。困った電波部は通信業者を引き込もうと、ドコモに声をかけた。このとき2.5GHz帯の美人投票も行なわれており、その枠をドコモがゆずる代わりに、VHF帯をドコモに与えるというバーターを仕掛けたのだ。
ドコモの現場は乗り気ではなかったが、当時の中村社長がこの取引に乗って、「マルチメディア放送」をやることになった。これで決まり、と電波部は考えたが、クアルコムはKDDIを引っ張り込んで、最後まで一本化工作に抵抗した。民主党政権は「オークションでやれ」と言ったのだが、そんなことをしたらバーターの約束を破ることになるので、電波部は必死で抵抗した。
議員会館で公開公聴会まで開かれたが、総務省は粘り、最後は電波監理審議会で、ドコモ=民放連グループに免許を与えることを決めた。これが現在のNOTTVである。
( → 総務省 )
VHF帯の電波は、マルチメディア端末として有望と思えた。クアルコムは当初は進出したがった。NOTTV も、当初は有望だと思えたので、NTT はケータイの電波枠を譲る代わりに、VHF の周波数をもらい受けた。
しかしそれは思惑違い。クアルコムは、その後に撤退した。NTTドコモの NOTTV も、大赤字のすえに、ようやく撤退した。結果的には、2.5GHz帯をもらいうけた会社だけが得をした。
その会社は? ソフトバンクが働きかけたのだから、ソフトバンクがもらうはずだ……と思えたのだが、どういうわけか、KDDI 系列の UQ がもらいうけた。ソフトバンクは、トンビに油揚げをさらわれて、大激怒。
UQに決まったと報道され、審議会が開催されていないのに出来レースなのかと総務省へ聴きにきたら、どうもそのようだ、という感触を得た。国民の財産である周波数を、総務省内の数名の人間が主観で、サマリーシート(要約資料)だけ見て決定する、そのプロセス自体がおかしいのではないか
( → 「2.5GHz帯の追加割当はUQ」、一部報道で孫氏怒りの会見 )
総務省内の数名の人間とは、誰か? この当時、総務省総合通信基盤局の局長だったのが、桜井俊だ。次の情報がある。
人気アイドルグループ「嵐」の櫻井翔の父親が、総務省総合通信基盤局の桜井俊局長であることはよく知られている。KDDIは携帯電話auのCMに「嵐」を起用しているが、同局は通信事業を所管する部署だけに、「露骨なゴマすり」と危惧する声がある。桜井局長は「親の七光り」を否定するのに懸命だが……
投稿日:2013/07/26 02:44:56
( → 2ch )
KDDIは携帯電話auのCMに「嵐」を起用しているとのことだから、KDDIとの結びつきは強いようだ。こうなると、ソフトバンクはトンビに油揚げをさらわれても仕方ないようだ。
ともあれ、NOTTV と 2.5GHz帯 の割り当てて、桜井俊は大活躍した。その成果が、次期事務次官への就任という大抜擢。自民党が政権を取ったおかげで、これほどの大出世をしたわけだ。
※ 電波の参考記事 → NOTTVが大赤字でもドコモは困らない
(3) 国谷裕子をクビに
事務次官となってからは、どんな業績を上げたか? 安倍首相の意を受けて、徹底的に首相の意向を受けることとなった。傑出した業績は、次の二点だ。
・ NHK の会長人事。
・ 国谷裕子の人事。
まず、安倍首相の犬である籾井勝人を、NHK会長に就任させるのを許容した。こんな露骨な政治人事は、公共放送の節度を失わせるものであり、とうてい許容できないはずなのに、桜井俊は許容した。
また、NHK は、自民党に厳しい質問をした国谷裕子をクビにしたが、これも露骨な政治介入であり、咎めるべきなのに、桜井俊は許容した。ま、首相自身が介入しているわけで、事務次官としては抵抗のしようがないのも事実だ。とはいえ、自分自身がその犯罪行為みたいなことに手を染めた罪は免れない。
比喩で言うと、「主犯に命令されたので、否応なく殺人をしました。殺人をしないと、自分も殺されるので、仕方ないんです」というようなものだ。情状酌量の余地はあるが、犯罪の責任は免れない。「その場から逃げ出して殺人をやめる」という逃げ道もあったのに、その逃げ道を取らなかったからだ。(事務次官を辞任することはできたのに、しなかった。)
国谷裕子さんをクビにしたこと(それを見逃したこと)は、絶対に許せない。ぷんぷん。
( ※ 個人的感情が含まれています。)
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なお、こういう経歴があるから、自民党は桜井俊を担ごうとしたのだろう。単に櫻井翔のパパというだけではないようだ。自民党のもっとも優秀な手下という感じだ。
ついでだが、NHK という公共放送を、自分の意のままに操る独裁者であるという点で、安倍晋三は、民主主義の敵だね。中国の主席と、北朝鮮の主席(?)と並んで、極東の三大独裁者かな。
この人が「自由民主党」の党首だというのだから、笑わせる。北朝鮮や中国の主席が「民主主義を大切にしよう。憲法を守ろう」と唱えるようなものだ。すごいジョーク。
[ 余談 ]
次の都知事選には、国谷裕子が立候補すればいいのに、と思うのだが。野党統一候補にでもならないかな。
ところが、桜井俊がこれをたたきつぶした。池田信夫にとって、桜井俊は、ライフワークをつぶされた不倶戴天の敵と言えるような存在だ。
で、池田信夫は桜井俊のことをどう書いているかというと……ネットを捜したが、見つからなかった。ただし、次の文章だけは見つかった。(転載)
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31 :名無しさん@1周年:2016/06/30(木) 13:26:40.62 ID:FJyQQVFc0
【Vlog】NOTTV1000億の赤字の責任は?
https://www.youtube.com/watch?v=Brpo0q-1Wpk
桜井パパのことを
これほど無責任で薄汚い行政は見たことないって
池田信夫が吠えてる
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出典: http://daily.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1467260504
という声がネット上で散見されたが、違う。
私の知る限り、たいていの官僚は、「国の発展のために、自分は安い給料で働く」という、自己犠牲の精神を発揮している。だからこそ、すごく優秀な人々が、安い給料で政府に仕える。
ただし、出世するのは、「与党(自民党)のために奉仕する」というタイプだ。その典型が、桜井俊だろう。
彼のような官僚は、確かにいっぱいいるが、比率の上では、少数派である。大多数の官僚(東大卒)は、出世よりも、国のために奉仕している。薄給で。……だから、あまり馬鹿にしない方がいい。
ただし、彼は、意図は善良であっても、能力が足りなかった。自分は善なることをなそうとしたのだが、結果的には国に莫大な損失をもたらしただけだった。善なることをなそうとして、悪なることをなした。……この意味で、彼は自分でショックを受けているはずだ。(彼が優秀ならば。失敗を理解できたはずだ。)
しかるに、彼の大失敗は、民主党への打撃であるがゆえに、自民党にとっては非常に有利なものであった。「民主党にこれほどにも打撃を与えたとは、何という優秀な官僚か」というふうに評価された。おのれの失敗を、大きく評価された。
こうして彼は「裏切り者」としての大評価によって、事務次官の座を得た。
彼に良心があったなら、ここでその任命を拒否しただろう。しかし、彼はそうしなかった。良心よりも、出世欲を優先した。「事務次官の座」という「甘い汁」に逆らえなかった。
これが、彼の評価を決定した。