2016年05月19日

◆ オスプレイを小笠原に

 オスプレイを小笠原の急患輸送に使う、というアイデアがある。軍事用途でもなく、災害救助でもなく、急患搬送。

 ──

 小笠原の急患搬送には、現状では飛行艇が使われている。これに対する代案として、「飛行艇のかわりにオスプレイを使う」という案がある。

 飛行艇


 現状では、飛行艇が使われている。
 これでいいと思ったのだが、実は良くないそうだ。というのは、「夜間」「荒波」「前後に山がある」という悪条件があるので、自衛隊にとって非常に条件が悪くて、危険だという。命懸けなので、今すぐにもやめたい、と自衛隊は思っているそうだ。「隊員の命を危険にさらすのは勘弁してほしい」というわけ。
  → 自衛隊の急患搬送の実情- 小笠原村議会議員

 ただ、「危険であることだけが問題だ」であるなら、解決する方法はある。飛行艇を、STOL 機として使うことだ。離水滑走距離は 280m ということだから、ごく短い滑走路を建設するだけで済む。
 とはいえ、よく考えると、この案はあまりよくない。というのは、滑走路の建設費がかなり高額になるからだ。この件は、次に述べる。

 軽飛行機


 小笠原の救急搬送の件については、前にも述べた。
  → 小笠原の空港は軽飛行機に
 ここでは、次の提案をした。
  ・ セスナみたいな軽飛行機(パイパー)を使う。
  ・ 廃船となった超巨大タンカーを滑走路として使う。


 これでいいと思ったのだが、よく考えると、駄目だ。理由は二つ。

 (1) 滑走路の建設費が高すぎる。通常の滑走路のように 1000億円もかかることはないが、陸上ならば 300億円ぐらいかかりそうだ。タンカーを使う場合も、いくら安いといっても、20億円で済むはずがない。となると、オスプレイみたいなティルトローター機と比べて、滑走路の点でコスト高になる。

 (2) 滑走路を使うと、1機だけでなく、何基も跳ばすことができて、観光に役立つ……という長所もある。しかし、これも駄目だ。なぜなら、滑走路があっても、観光の役に立つとは思えないからだ。理由はいくつもある。
 第1に、距離が遠すぎるので、コスト高だ。現状、船でさえ2〜6万円だ。飛行機ならその3倍ぐらいで、6〜20万円になるだろう。この金額では、観光客は期待薄だ。1機用意して、毎日2往復するとしても、それだけの客が来るはずがない。
 第2に、そもそも観光地としても、魅力が少ない。ろくに見どころはないし、ホテル・旅館だって貧弱だ。ハワイとは比べものにならない。それでいて、ハワイに比べて、運賃は滅茶苦茶に高い。(ハワイは大型航空機を飛ばせるから、ものすごく安い。今後、エアバスが通るので、ますます激安になる。)
 
 以上の二点で、滑走路があっても、実際にその滑走路を使う飛行機は飛びそうにない。また、たとえあったとしても、1日2便程度では、島の経済にとってほとんど影響しない。どうせなら、船便の利便性を高めるために金を使う方が、圧倒的に効果があるだろう。
 というわけで、「滑走路の建設」という案は、ボツとなる。

 オスプレイ


 飛行艇は危険で駄目だ。小型機は滑走路の建設費が高すぎる。となると、「オスプレイ」という案が浮かぶ。
 とはいえ、オスプレイには、難点がある。
  ・ 非常に高価である。
  ・ 重量が大きすぎる。


 後者(重すぎること)は、特に問題だ。重すぎると、病院の屋上ヘリポートに着陸できないからだ。狭い庭も無理のようだ。つまり、広い広場が必要となる。となると、着陸できる地点は、条件的に限定される。広い公園のようなところを確保して、人を遠ざける必要がある。しかし、そういうところは、都内では見つけにくい。
 となると、(小型でいいから)飛行場に着陸するしかない。そして、飛行場に着陸してから、自動車で病院まで輸送することになる。そのために、余計な時間がかかる。(1時間ぐらい。)……となると、せっかくの「速さ」という美点が損なわれる。

 別のティルトローター機


 オスプレイに似て非なるものが民間で開発中だという。オスプレイの4分の1ぐらいの規模で、やはり同じような機能をもつティルトローター機だ。AW609という。
  → AW609 (航空機) - Wikipedia
  → 民間ティルトローター機AW609が2017年12月にデビュー
  → ティルト機AW609、価格は中型ヘリ比1.3倍




 これは、これは、オスプレイと同等の機能があって、値段は格安( 20〜30億円程度)ということだから、悪くない。引き渡し時期は 2018年からだから、十分に間に合う。オスプレイよりはずっとマシだと言えるだろう。
 これを導入するというのであれば、私としては特に反対するつもりはない。

 なお、いいことずくめかというと、そうでもない。20〜30億円という価格は、安くはない。普段、何に使うかというと、その用途も考えないといけない。
 ただし、海上自衛隊や、海上保安庁が、これを東京に配備するというのであれば、悪くない選択肢だ。

 片道ヘリコプター


 以上の案のすべては、機体を東京に置くことが前提となっている。つまり、「東京 → 小笠原 → 東京」という往復をするわけだ。
 一方、ヘリコプターを小笠原に常駐させておけば、ヘリコプターは片道飛行で東京にたどりつける。となると、距離は半分になるから、速度は半分でもいいわけだ。となると、ただのヘリコプターも、十分に候補となる。
 問題は、航続距離だ。東京と小笠原の距離は、1000km もある。途中で給油できる地点は、八丈島と青ヶ島しかない。いずれも東京にきわめて近い。中間地点というほどではない。途中給油には、あまり役立たない。だから、1200km ぐらいの航続距離が必要となる。この条件を満たすヘリコプターは、AW139と UH-60J しかない。


aw139.jpg
AW139(出典:Wikipedia


 AW139 は、どうか? これは、十分に実用に耐える。航続距離も約 1250km ある。
 問題は、普段は小笠原で遊ぶ(使われない)ことになりそうだということだが、観光に使えば、そこそこは赤字を埋めることができそうだ。
 ただ、小笠原からの救急搬送は、年間に 20〜30回ある。月に2〜3回だ。往復で2日かかることを考えると、月に 4〜6日は、救急搬送に使われていることになる。「機体が遊びっぱなし」というわけでもないようだ。
 AW139 のコストは 15億円なので、これを20年間で割れば、1億円にもならない。離島のための費用としては、十分に合理性の範囲内となる。(燃料費や人件費は別途。)

 UH-60J は、どうか? これも、十分に実用に耐える。航続距離は 航続距離 1295km だ。(時速 235km/hならば、2,200km だ。)
 難点は、コストがすごくかかることだ。ただし、これはすでに自衛隊の硫黄島に配備済みだ。だから、新規にかかるコストはゼロだ。コストの点では、硫黄島にある UH-60J を使うというのが、最も安上がりだ。
 ただし、硫黄島から父島までの 270 km を、UH-60J が飛ぶ必要がある。そのために、1時間ぐらい余計にかかる。しかしまあ、1時間ぐらいなら、許容範囲だろう。
( ※ なお、その1時間のうちに、患者搬送の準備に1時間をかけるのであれば、実際には帳消しになる。だから、1時間ぐらい余計にかかっても、余計に時間がかかるわけではない。準備の時間は、あまり考慮しなくていいのだ。)

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 以上を比較すると、どうか? コストは別として、時間を考えよう。
 現状は、飛行艇で9〜10時間。( → 出典 ) 荒天時だと、着水できないので、何日も待たされることがある。
 ティルトローター機だと、片道2時間程度。往復で4時間程度。飛行艇よりはずっと早い。 AW609 だと4時間半ぐらいらしい。オスプレイの場合には、4時間ぐらいらしいが、病院の屋上ヘリポートが使えないので、その分、時間が余計に加算される。5時間程度か。
 AW139 だと、1000キロを時速 306キロで結ぶので、3.3時間しかかからない。これが最速だろう。
 UH-60J だと、1000キロを飛ぶのに4時間弱。さらに、硫黄島との移動に1時間がかかるので、5時間弱となる。これだと、オスプレイを使う場合と、同程度だ。(ただし、準備時間だと考えれば、その1時間は無視していい。)

 以上をいろいろ見ると、現状の「飛行艇」という選択肢は、よろしくない。時間もかかりすぎるし、危険性もある。なるべく早くやめた方がいいだろう。
 代案はいろいろあるが、オスプレイはお薦めできない。時間は長くかかる割に、コストは高いからだ。残りの選択肢のなかでは最悪だ。
 他の三つは、コストと時間との関係だ。
 AW139 だと、最も速いが、普通にコストがかかる。(負担できないほどではないが。)
 UH-60J だと、1時間半ほど余計に時間がかかるが、導入コストは最小で済む。(ゼロで済む。)
 もう一つ、AW609(民間ティルトローター機)という案もある。これは、導入費用はかかるが、普段は東京で維持することにすれば、観光などの用途に使えるので、維持費が安い。また、海上自衛隊や海上保安庁で維持するのであれば、この場合も導入コストは格安となる。(格安だが、ゼロとなるわけではない。普通のヘリコプターとの差額に当たる分だけ、コストがかかる。0.3倍程度。)
 この三つのうちで選択するべきだろう。

 コストと時間との兼ね合いで言うと、民間ティルトローター機の AW609を、海上自衛隊や海上保安庁で維持する」というのが、最もコスパが高そうだ。
 ただ、「 AW609 を、海上自衛隊や海上保安庁で維持する」というのは、きわめてハードルが高い。もしそんなことをしたら、「オスプレイはただの金食い虫で、ただの金の無駄だ」ということが、青天白日の下にさらされるからだ。「オスプレイを購入する」という政治決定が、いかに馬鹿げたものであったかが、天下に知られてしまう。真実が露見してしまう。
 それはつまり、「王様は裸だ」というふうに、真実を世界に告げることだ。
 それは、とても無理だろう。政府であれ、保守派の人々であれ、軍事オタクであれ、「オスプレイはすばらしい」という嘘を信じているのである。「王様は素晴らしい服を着ている」と信じるように。
 その嘘を打破することは、まず無理だろう。ゆえに、「民間ティルトローター機を導入する」ということは、いくら正しいとしても、実現は不可能だろう。「正しいのに実現しない」のではない。「正しいからこそ実現しない」のである。人々が嘘を信じているがゆえに。

( ※ 現状では、小笠原の議員も、医療界も、「オスプレイはすばらしい。オスプレイを導入せよ」と信じている。こうしてオスプレイ支持派になっている。なのに、「 AW609 の方が、速くて、安くて、高性能」ということがバレてしまったら、オスプレイ支持派は、目も当てられない。だから何としても、その真実を隠蔽したがるだろう。「オスプレイは馬鹿には見えない服を着ているんだよ」といふうに洗脳して。)



 [ 付記1 ]
 時間短縮の必要性は、実は、あまり大きくない。理由は二つ。
 第1に、これまで、急患の搬送中に死者が出たことはない。
  → 出典 (前出:PDF )
 第2に、小笠原にはすでに立派な大病院がある。設備的には申し分ない。医療スタッフも十分に高度だ。ここで初期の処置をしてあるから、このあと 10時間ぐらいをかけて搬送しても、命には関係しないのだ。救急措置はすでにしてあるし、生命の危機に関わる問題ではない。(ドクターヘリのような事故直後の移送とは違う。) 通常、島ではできないような、特別に複雑な手術をしたいだけだ。一刻を争う問題ではないのだ。一刻を争う問題は島で解決できる。一刻を争い、かつ、島で解決できない場合には、たとえオスプレイが来ても手遅れだ。オスプレイが来ても5時間はかかる。一刻を争う場合には、どっちみち間に合わない。
 まあ、3〜5時間ぐらいはかかるというのは、仕方ないと思うしかない。

 [ 付記2 ]
 なお、それでもどうしても急ぐのなら、ヘリコプターのかわりに、垂直離着陸機を使うしかない。そのための機種は、世界で一種類しかない。F-35B だ。
 しかし、いくら何でも、これを使うのは無理筋だろう。公式価格でも1機 190億円もする。日本が導入すれば、1機 400億円になる。とうてい、無理。
 さらに、無理であるだけでなく、無効だ。というのは、F-35B は、垂直離着陸をすると、それだけで大半の燃料を食うので、ごく短距離しか飛べないのだ。( → 出典
 というわけで、垂直離着陸の飛行機という選択肢は、存在しない。(以前ならば、ハリアー2という垂直離着陸の飛行機があったが、もはや生産中止・運用中止で、退役しているので、これも無理。)

 [ 付記3 ]
 「おまえはどれがいいと思うんだ?」
 ということなら、すでに記したとおり。最後に3通りを示したので、その中のどれでもいい。お好みで、どうぞ。
 ただ、私の個人的な好みを言うなら、UH-60J だ。これなら、追加コストはゼロで済むからだ。私は「1円もかけない案」というのが大好きだ。ケチだから。 (^^);
 あと、「新規投資は何も必要ない。アイデアだけで万事解決。発想の転換だけで済む」というのも、大好きだ。「問題が解決しなかったのは、人々の発想が縛られていたからだ。発想を変えるだけで万事解決」となれば、楽しい。
     ※ 現実には UH-60J を使わないのは、何らかの理由があるのかもしれない。「狭くて患者搬送ができない」というふうな。搭乗人員は5名だから、パイロット、医師、患者だけで3人となってしまう。狭い室内に、寝ている患者を搭載するのは、困難かもしれない。その可能性はある。だから、私としては、「これが絶対にいい」とまでは言えない。


 [ 付記4 ]
 実は、「小笠原にオスプレイ」という案は、現実的には成立しそうにない。というのは、オスプレイが万一故障して、不時着したとき、そこが海だと、オスプレイが水没しかねないからだ。そうなると、100億円があっという間に海の藻屑になりそうだ。( ※ 普通のヘリコプターならば、不時着しても水面上に浮かぶが、オスプレイは重たいので、水没しそうだ。)
 となると、自衛隊は、オスプレイを小笠原の路線に投入することに、大反対するだろう。「万一のときにも着水できる飛行艇を使え」と。
 せっかくの大切な箱入り娘を、(戦争でもないのに)危険な太平洋に飛ばすということは、ありえそうにない。

 《 シナリオ 》
 「オスプレイから連絡です。非常事態です。機械に異常が発生して、速度がどんどん低下しているそうです」
 「ならば近くの平地に不時着しろと言え」
 「無理です。小笠原に行く途中で、太平洋の上です。不時着できるところはありません」
 「じゃ、しょうがない。パラシュートとゴムボートで、脱出しろ」
 「オスプレイは?」
 「捨てろ。隊員の命が優先だ」
 「あ。……連絡が間に合いませんでした。オスプレイは水面に着水しました」
 「じゃ、すぐに脱出しろ」
 「それが。隊員はオスプレイと運命をともにすると言っています。それが船長の義務だとか何とか。……あ、水没しました」



 【 関連項目 】

 人々が(裸の王様のように)嘘を信じている、という件は、下記項目を参照。

 → オスプレイは軍事的に無意味
 → オスプレイより SH-60K
 → オスプレイを尖閣諸島へ?
 → オスプレイ導入の愚
 
posted by 管理人 at 23:58| Comment(4) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
昨夏より佐賀配備で動いているようですが
木更津整備がありますしそこから佐賀代替の話もあがったようですが、基本佐賀です

急患搬送の案ありました? はじめて聞きます
Posted by 通りすがり at 2016年05月20日 01:44
もしかしてこれのこと?
3/26 小笠原村議会 オスプレイの急患搬送利用を求める決議 - 小笠原チャンネル http://www.ogasawara-channel.com/news/326-%E5%B0%8F%E7%AC%A0%E5%8E%9F%E6%9D%91%E8%AD%B0%E4%BC%9A-%E3%82%AA%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%81%AE%E6%80%A5%E6%82%A3%E6%90%AC%E9%80%81%E5%88%A9%E7%94%A8%E3%82%92%E6%B1%82%E3%82%81/

二年以上前の話ですこれ
Posted by 通りすがり at 2016年05月20日 01:56
> 急患搬送の案ありました? はじめて聞きます

わからなければググりましょう。
「小笠原 オスプレイ 急患」
で検索。

> 基本佐賀です

当面は4機。将来的には合計17機。
Posted by 管理人 at 2016年05月20日 07:37
関連見ると前もこの話題で記事にしてますね
ちょうど一年前

佐賀で終わった話です
佐賀がポシャらない限り気にする必要はないと思いますね
Posted by 通りすがり at 2016年05月20日 10:15
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