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オスプレイのかわりに、SH-60K という(自衛隊の)対潜哨戒ヘリコプターがある。

出典:フォト蔵
これは、オスプレイよりも役立つ。軍事用途でも、災害救助でも。
軍事用途
軍事用途では、オスプレイやろくに役立たないが、対潜哨戒ヘリはとても役立つ……という話を、前項 で記した。詳しくは、そちらを参照。本項では、あらためて述べることはしない。
ただ、ちょっと思いついたことを付け足しておこう。
「日本に近づいてきた艦隊が、尖閣諸島に到達する前に、オスプレイが尖閣諸島に到着して、兵士を陸に下ろして、島嶼防衛をする」
というのが、オスプレイ支持派のシナリオだ。
しかし、これはおかしいですね。オスプレイは、航続距離の点では、問題なく到達できるのだが、とはいえ、速度が遅い。尖閣諸島まで到達するには、すごく時間がかかる。
とすれば、中国大陸から来た戦闘機に、対空ミサイルで撃墜されてしまいそうだ。
それじゃ困るから、F-15 や F-2 で敵の戦闘機を撃破するつもりだろう。しかし F-15 や F-2 を派遣するのであれば、オスプレイの出番はもともとないはずだ。特に、F-2 があれば、敵の艦隊を対艦ミサイルで撃破できるからだ。
《 シナリオ 》
「敵艦隊が尖閣諸島に近づきつつあることが判明しました。もうすぐ領海に侵入して、尖閣諸島に上陸します」
「よし、オスプレイを飛ばせ! 先に到達して、迎え撃て!」
「オスプレイが出陣しました」
「よし。到着時刻はいつだ?」
「時速 500キロで、距離は 1000キロ。出撃準備を別としても、2時間で到着します」
「2時間だと? それじゃ間に合わん! 急げ!」
「いくら急いだって、オスプレイは時速 565キロが限度なんです。装備を追加したら、その速度も出ません。時速 500キロにしかならないんですよ」
「何だと? それじゃ、尖閣諸島を奪われるのを、みすみす指をくわえているしかないのか?」
「仕方ないでしょう。オスプレイというのは、鈍足なんだから。……あ、航空自衛隊から連絡が来ました。F-15 と F-2 を飛ばしたそうです。マッハ2ぐらいの速度で、あっという間に到着するそうです。オスプレイは必要ないと言っています」
…… 20分経過 ……
「航空自衛隊から連絡が来ました。対地ミサイルと対艦ミサイルの射程内に入ったので、発射用意をしたそうです。そのとたん、向こうは方向を転じて、逃げ出したそうです。というわけで、一発も発射しないで、解決しました。……あ、中国軍から、連絡が届きました」
「何と言ってきた?」
「読み上げます。『尖閣諸島を防衛するのはオスプレイだと言っていたくせに、嘘つき。そっちがオスプレイなら、対空ミサイルで全部撃墜できたはずなのに、どうして F-15 と F-2 を寄越すんだよ。この嘘つき野郎!』です」
災害救助
軍事用途のほか、災害救助でも、オスプレイより SH-60K が役立つ。
まず、次のニュースがあった。熊本地震の際、自衛隊のヘリコプター CH-47 が整備中で飛ばなかった、という話だ。
熊本地震発生の約1週間前、CH47の点検で翼を回転させる部分近くに異常が見つかり、飛行を続けると事故が起こる恐れのあることが判明。自衛隊は全機の運用を中止して一斉点検を実施した。熊本地震後、自衛隊はCH47の出動を決めたが、多くが点検中で、被災地での救助・救援活動には、10機程度しか稼働できなかったという。
( → 読売新聞 2016年05月16日 )
CH47 はたったの10機程度しか稼働できなかった。これを聞いて、「だからオスプレイが必要だったんだ」と主張する人がたくさん出た。
→ はてなブックマーク・コメント
しかし、これは二重の意味で勘違いだ。
第1に、オスプレイが働いたのは、道路が開通した 17日の翌日である 18日の午後になってからだから、時期が遅すぎる。そのときはもはやトラックが物資を運んでいたからだ。( 18日の前日からトラックが運んでいた。)
→ オスプレイは必要だったか?
第2に、CH47 はたったの 10機程度しか稼働できなかったとしても、他の機種のヘリコプターが稼働していた。
→ ヘリコプター 270機中 65機が稼働した
10機ではなく 65機が稼働したのである。この意味で、「 CH47 がなければ、オスプレイ」という説は成立しない。
はてなブックマーク・コメントのような見解は成立しないのである。
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ここで、問題だ。
10機ではなく 65機が稼働したというが、それは何か? もちろん、CH47 ではない。また、すでに退役した CH46 でもない。では、それは何か?
もちろん、マイナーな少数の機種もいくらかは含まれるだろうが、圧倒的多数は、対潜哨戒ヘリである SH-60K であったようだ。(冒頭の写真)
Wikipedia によれば、CH47 を運用しているのは、陸上自衛隊と航空自衛隊。一方、海上自衛隊は SH-60K を運用している。機数もとてもたくさんある。そして、これが熊本地震のときに大活躍したのだ。
第1に、前震があった 14日の翌日ごろは、人員の捜索に活動したようだ。たとえば、「南阿蘇村から 90代の女性が救出された」というニュースがある。16日の正午ごろの救出。
→ 地震と通信途絶
→ 南阿蘇村で90代女性救出の映像公開(FNNニュース)
ここで担当したのは、消防庁のヘリと消防隊員だが、同時に、海上自衛隊の SH-60K も捜索に活動したはずだ。
( ※ 災害の当初は、物資輸送よりも人員救助の方を優先する、という方針があるそうだ。出典は失念したが、つい先日、そういう情報があった。)
第2に、早くも 16日には SH-60K が物資を運搬したという直接的な証拠がある。海上自衛隊が twitter で情報提供している。
【熊本県で発生した地震への災害派遣】4月16日(土)、海上自衛隊大村航空
— 防衛省 海上自衛隊 (@JMSDF_PAO) 2016年4月16日
基地から熊本県へ向け救援物資をSH-60Kにて空輸しました。
大村航空基地HP⇒ https://t.co/two6XUhypk pic.twitter.com/4JKCEk0mQN
海上自衛隊Facebook更新】熊本県で発生した地震に係る災害派遣の記録を海自Facebookに掲載しました。どうぞご覧ください。⇒ https://t.co/VgDsq3SvbY #自衛隊 #災害派遣 pic.twitter.com/SYGPGh3b4v
— 防衛省 海上自衛隊 (@JMSDF_PAO) 2016年4月16日
こういうふうに、16日には SH-60K が物資を運搬していたのだ。(陸路が開通したあとの)18日の午後になるまで来なかった、のろまなオスプレイとは雲泥の差だ。
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というわけで、軍事用途にも、災害救助でも、オスプレイよりは SH-60K の方が活躍できる(できた)わけだ。
【 補説 】
反論も予想される。
「米軍のオスプレイは、フィリピンから遠路はるばるやって来たから、遅くなっただけだ。国内にオスプレイを配備しておけば、その問題はない」
なるほど。それはまあ、そうだが、その前提として、「フィリピンから来たオスプレイは、遅すぎて、役立たずだった」という事実を認めるべきだろう。つまり、「フィリピンから来たオスプレイは、役立った」というというのは嘘だった、と認めるべきだろう。そっちが先決だ。
あと、国内にオスプレイを配備しても、たいして役立たない。
第1に、捜索が目的なら、大きなオスプレイは不要であって、もっと小さくて安価な SH-60K (中型機)をたくさん配備した方がいい。捜索で大切なのは、機数であって、積載能力ではないのだ。
第2に、SH-60K のような哨戒機は、もともと探索のための機能がいっぱい付いていて、有利だ。哨戒機としての用途が予定されていないオスプレイよりも、人員の捜索のためには、ずっと高性能だ。
第3に、物資の輸送という目的のためであっても、SH-60K は有利だ。たしかに積載量自体はあまり多くないが、コストも低いので、コストあたりの運搬量では、オスプレイと大差ないようだ。また、積載量は小さくても、(コストが低くて)機数が多いので、各地に直接物資を届けることができる。一方、オスプレイは、一箇所に大量の物資を送ることには有利だが、あちこちに少しずつ送ることには有利でない。現実には、オスプレイは小量の物資を何度かに小分けして運んだので、せっかくの積載量も宝の持ち腐れだった。これだったら、最初から小さめの SH-60K を多数使った方が、能率的だろう。
というわけで、捜索が目的でも、物資輸送が目的でも、SH-60K はオスプレイを上回る。
かくて、「オスプレイはまったくの役立たずだ」とまでは言わないが、「オスプレイよりは SH-60K の方がずっと役立つ」とは言えるだろう。
[ 付記1 ]
海上自衛隊の twitter にあるヘリコプターの機種は、何か?
1枚目は SH-60K と説明文で明記してある。
2枚目は SH-60J という旧機種だろう。ドアの枚数が違うのでわかる。(軍事マニア的知識。)
[ 付記2 ]
参考記事。中国軍が日本の対潜哨戒ヘリをひどく恐れている、という話。
→ 防衛最前線 SH60哨戒ヘリコプター - 産経ニュース
目から鱗で面白いですよ。
すんなり書いてもらえると