──
みなし仮設の現状については、下記で論じた。
→ 仮設住宅の不足を解消するには?
ここでは被災者のナマの声も含めて、いろいろと情報を記した。それとは別に、報道から新たな情報を得たので、以下で紹介する。
──
上の項目では被災者の声を記したが、同様の話がある。
《 「みなし仮設」申し込み9件…家賃負担の可能性 》
民間賃貸住宅を借り上げて無償で被災者に提供する「みなし仮設」も2100戸準備している。……が、申し込みは今月3日時点で9件にとどまる。
仮設住宅の入居対象は、自宅が全壊または大規模半壊した世帯で、罹災証明書が必要だ。しかし、証明書の発行は大幅に遅れている。
市は「発行前に入居してもらって構わない」とするが、証明書が出た段階で全壊や大規模半壊と認定されなければ、家賃はすべて自己負担となってしまう。
市役所に相談に訪れた同市の男性(46)は、認定結果がわかるまで柱が傾いた自宅で暮らし続けるか迷っているといい、「早く安全な部屋に引っ越したいが、後で家賃負担が生じるかもしれないと考えると、踏み出せない」と明かした。
( → 読売新聞 2016-05-05 )
罹災証明書は、研修を受けた職員が被害家屋を現地調査し、損害割合が50%以上の「全壊」、50%未満の「大規模半壊」、40%未満の「半壊」、20%未満の「一部破損」に区分した上で、市町村が発行。区分に応じて公営住宅の無償提供や仮設住宅への入居などの支援が適用される。民間賃貸住宅を借り上げる「みなし仮設」の場合、入居できるのは全壊と大規模半壊の被災者に限られる。
( → 時事ドットコム )
せっかく、みなし仮設の制度を整えたのに、応募者が極端に少ない。それというのも、罹災証明書が必要であるせいだ。それがまともに発行されないせいで、せっかくの制度が機能していない。何にもなっていない。
これじゃ、「仏作って魂入れず」みたいなものか。いや、ガソリンが空っぽで動けない自動車みたいなものか。せっかくの宝がゴミになっているも同然だ。
──
では、今後の見通しは?
熊本市によると、実質的な現地調査を開始したのは 22日から。震災対応で人手が足りず、調査に割けたのは当初、20人程度にとどまった。市は東京都などに職員の派遣を要請。28日から順次応援が入り、市内全家屋を対象に5月24日まで延べ 2454人態勢で調査に当たる。ただ、市の担当者は「それでも調査を終えるめどは立たない」と話す。
( → 時事ドットコム )
《 罹災証明対応に遅れ、現地調査進まず 》
熊本地震で家屋などに被害を受けた被災者が、公的な支援を受けるのに必要な「罹災証明書」の申請件数が、熊本県内の11自治体で少なくとも約3万2000件に上ることがわかった。殺到する申請に対し、各自治体では被害調査員が不足するなどして対応が遅れており、調査の終了件数は判明分で1717件(5%)にとどまる。
交付に必要な調査を終えたのは、半壊以上について、熊本市が 584件(2.3%)などと低迷。宇城市や大津町、南阿蘇村など4自治体はゼロだった。被害が大きかった益城町は5月1日から受け付けを始める予定。
( → 読売新聞 2016年04月30日 )
《 罹災証明発行「月内完了目標」 》
河野防災相は4日、内閣府で開かれた熊本地震の非常災害対策本部会議で、被災地で申請が殺到している罹災証明書の早期発行のため、調整を急ぐよう指示した。
河野氏は会議後、記者団に「5月中には罹災証明書の発行を終えられるように、スムーズに進めたい」と述べた。
( → 読売新聞 2016-05-05 )
なかなか進まないようだ。
──
ところで、全半壊の調査とは別に、実態はどうなっているのか?
1週間前の報道は、こうだった。
→ 熊本県 2万棟超える建物が全半壊 (動画あり)
その後、被害は想定以上だと判明した。
《 住宅全半壊、熊本県想定の4倍 》
熊本県は4日、熊本地震による住宅の全半壊が県内で3万1025棟になったと発表した。
県は先月末、仮設住宅を4200戸供給する計画を発表したが、算出の根拠となる全半壊棟数が、当初想定していた8000棟の4倍近くに膨らんだことになる。仮設住宅が不足する可能性が高いことから、県は必要戸数を精査し、増設を検討する。
( → 読売新聞 2016-05-05 )
被害はこれほどにも多いのに、実際に入居できる人の数は少ない。それというのも、罹災証明がなかなか出なくて、応募にためらう人が多いからだ。(前述)
なお、罹災証明書が出ないのに、どうして全半壊の戸数がわかるのかというと、被災者の申請によるからだ。
熊本県は27日、地震によって全半壊した住宅が熊本市内だけで1万902棟に上ると発表した。市はこれまで職員が確認した棟数を県に報告していたが、確認作業が遅れているため、集計ベースを罹災(りさい)証明書の申請件数に切り替えた。
( → 日本経済新聞 2016/4/28 )
《 「自宅全半壊」3割超=アンケート 》
熊本地震で被災し、熊本市内の体育館などに避難した住民に対し、市が5日までに実施したアンケートで、回答者の3割超が、自宅が全半壊し、当面帰宅できないと考えていることが分かった。
( → 時事ドットコム 2016-05-05 )
自治体は調査が追いつかないが、被災者は被害を訴えている。それが現実だ。
──
ここで、困ったときの Openブログ。罹災証明がなかなか出ない人のために、全壊かどうかを判断するための根拠を示そう。
政府がその基準を示している。下記文書だ。
→ 内閣府(防災担当) 作成資料
ここに、次の画像がある。(クリックして拡大)
これを見るとわかるように、「全壊」「大規模半壊」であることの基準は、建物の構造物(壁・柱)が破壊されたかどうかだ。これらが破壊されていれば(柱が傾いたりしていれば)、「全壊」「大規模半壊」と見なされる。一方、屋根の瓦や壁のモルタルが落ちた程度では、そうは見なされない。
この基準からすると、記事にある「柱が傾いた」という例は、たぶん「大規模半壊」と見なされるだろう。(図の D3 と D4 の中間に該当する。)
こういうふうに見込みがわかれば、費用負担のめどが付くから、費用負担については心配することなく、自発的に賃貸物件を借りることができるだろう。
[ 付記 ]
上の方法は、とりあえずは被災者がお手軽にできる判断だ。
一方、根本対策としては、自治体が制度を根本的に変える必要がある。次のようにするべきだ。
・ 全壊・大規模半壊に限らず、半壊でも半額程度の家賃を提供する。
(自宅に住めないというだけで、家賃補助の理由となる。)
・ 家賃を提供するかわり、自宅は3カ月間、居住禁止とする。
・ 家賃の提供の有無にかかわらず、罹災者には一時金を提供する。
・ 罹災の証明には、家屋の写真だけで十分。
・ 不正に対しては、懲役刑を科することで、不正を排除する。
・ 3カ月間ぐらいは容易に家賃を提供するが、以後は罹災証明が必要。
結果的に、次のようになる。
・ 軽度の罹災者は、一時金をもらうだけで、1カ月程度避難する。マンスリーマンションを借りるとか何とかすればいい。
・ 中度(半壊)の罹災者は、一時金をもらったあと、自力で借間を借りる。3カ月、半額の家賃をもらえる見込み。
・ 重度(大規模半壊以上)の被災者は、一時金をもらったあと、自力で借間を借りる。3カ月、全額の家賃をもらえる見込み。3カ月を過ぎたあとでは、罹災証明書によって、全額をもらえる見込み。
なお、一時金は、家賃の2カ月分ぐらい。これで当面は何とかなる。以後は、罹災証明書しだいとなる。ただ、その基準は、上記の図で見当が付く。
とにかく、大事なのは、早急に対策することだ。つまり、避難所や車中泊から脱出するようにさせることだ。ここではスピードが第1だ。多額の金を払うために厳密に調査するのではなく、小額の金をスピーディに払うことが大切なのだ。
自宅が全壊であれ、大規模半壊であれ、小規模半壊であれ、とにかく被災者は被害を受けた。ならば、小額の金を、さっさと払うべきだろう。
ひるがえって、仮設住宅のために 1000万円を払うことばかり考えているなんて、自治体も政府も頭がどうかしている。
→ 蒲島知事は「仮設住宅の追加建設戸数は……」
【 関連サイト 】
全壊の率は、どのくらいだろうか? それについての調査がある。
西原村では、6割以上が全半壊だ。
→ 西原村で5人死亡、6割以上の家屋が全半壊 (動画あり)
→ 村の6割以上が全半壊となる 西原村からの映像 (動画あり)
益城町では、「危険」が約 50%だ。(全半壊ではなく、簡易調査における「危険」。)
→ 【熊本地震】「補修できない全壊」と「補修できる全壊」の違い
→ 同文 (元サイト)